白い鬼
ケン視点
白い鬼の足元には先ほどの男がうつ伏せから起き上がるような形で鬼の事を見上げている。
「はぁ?!」
「え?」
剣を構えて臨戦態勢を取る。
バゴォン!
後ろから大きな音と共にシーギャングの弟も下から穴をあけて上の階へやってきた。
その隙にガバッと音がしそうな勢いで起き上がり男は鬼から距離を取る。結果的に男と私で鬼を挟むような形が出来てしまった。
「え?あ、兄ちゃん大丈夫!?……何?この鬼。んー?中津さんからは聞いてないんだけどなー」
「チッ、お前、こいつの強さを調べろ」
「はいはいー、今視てるよー。んー……」
鬼を前にしても余裕そうな弟。嫌い。
でも今は得体のしれない鬼に気を引き締めないと。向こうの世界から来た鬼なら手が届かない強さの可能性が高い。
「お兄ちゃん、こいつ弱いかも?気が視えないよ。魔力も無いみたい」
「ハッ、見た目だけのハッタリってことかよ。ならちょうど良いなぁ!レアな鬼の素材は貰うぜ!」
「あ、もうー、鬼の素材は僕も貰うからねー」
そう言い兄の方が白い鬼へと駆ける。
え?魔力も気力も視えない?私はすかさず鹿の腰当てを使い視る。
「え?」
なにこれ?どうなってるの?視界の全てが赤色掛かっている。色付きのサングラスをしたときのような感じがするだけ。鬼を見てもシーギャングを見てもどこを見ても全てが赤色掛かっている。
腰当ての効果を切る。
これは後であの子に効果の説明をしてもらおう。
「マッテクレ!」
「待たねぇよ!!オラァ!」
男が急加速して鬼の足を捉えた。
ガチィン!
「ほお、人間の言葉が分かるんだ。もしかして知能が高い系?」
弟が後ろから感心したような声を上げる。
白い鬼はいつの間にか弟の目の前に現れていた。そしてシーギャングの弟に対して語りかけていた。
いつの間にそこに……?全く見えなかった。
それに特に血が出てるようにも見えない。当たってない……?
本当に向こう世界から来た鬼だったりする?
殺気のようなものは全く感じない。それにそんだけ早いのに人間の言葉も話す。あの鬼は何?
「アノコヲ、トメテクレナイカ?」
「なっ……」
ただ、やっぱり戦いから避けるような素振りをしているから、力が弱いとか?
鬼が戦闘を避けることにも驚きだけど、鬼から会話を持ちかけてることにもまた驚かされてしまう。
シーギャングの弟も急に目の前に現れた白い鬼に驚愕の表情を浮かべている。その後に一度咳をして笑顔を取り繕い言う。
「じゃ、じゃあ僕と、握手して友達になってくれたら良いよ」
そう言い右手を出すシーギャングの弟。
シーギャング弟の腕を覆っている服から耳のような物が出ているのに気づく。
あれは、まさか、デンキウナギ?だから触れようとしてるの……?
ただ、もしそうだとしたら生物である限り電気には弱いはず。これで鬼がどれほどの強さかもわかる……!思わぬ好機に少し気が緩みそうになるも、相手が2人いることには変わりない。気を引き締めないと。
「チッ、つまんねぇ」
殺気を感じ、白い鬼から目を離し殺気を放ってきた方向へ向き直る。シーギャングの兄だ。そのままの勢いで襲ってきそうな形相をしている。
くそ、馬鹿ぢから男。こっちに絡んでこないで。
「くそが、俺が鬼を殺したかったがもうお前でいい!殺す!」
そう言い武器を打ち鳴らしこちらへ駆けてくる。さっきと同じように緩やかな加速で近づいてくる。
やっぱり戦らないといけない。ホントに嫌い。
ふー。一息吐き落ち着いて対応する準備をする。これはさっきの技、もう見切っている。そのまま来るなら突きをして肩の腱を割く。それから──
「うわああぁぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛」
突然大きな声で戦闘は遮られる。余りの激しい叫び声に私たちは声のする方へ目を向ける。
「ナンダ?テガカッテニ」
床には血が流れていた。そして白い鬼が手から何か肉の塊のようなものを捨てる。
何?あれは?
うっ──おぷっ。吐き気がする。人の手だ。目を離している間に何があったの?
シーギャング弟の手首から先が無くなっていた。手の上から半分、親指を除いて潰されたように無くなっていた。
「何してんだオマエ!ぶっ殺してやる!」
うおおぉぉぉ!と猪突猛進の如く白い鬼へと向かっていく。
速い…さっきよりももっともっと速い。こんな時だけど、私に攻撃が向いていなくてよかったと思う。
ガチィィン!
再度攻撃を避けられ、自分のガントレットの打ち付ける音が響く。
「チッ」
あ──あのままじゃ弟に当たる。
シーギャングの兄は自分の打ち付けたガントレットの先に弟がおり、ガントレットを退けても弟に体当たりをする形になっている。シーギャング兄は怒りから弟の存在に気づくのに少し遅れ、弟にぶつかるのを避けれない状況になっている。
このまま2人が当たり弟がリタイアしてくれれば私もありがたい。
「があ”あ”ああぁぁ!くそがぁ……!離せ……」
「アブナイナ、コロシテシマウトコロダッタゾ」
白い鬼はさっきまで背中を向けていたのに気づくとこちらを向いており、兄の両腕を片手で掴んでいた。
え?──
おぷっ、また吐き気がしてきた。信じられない。腕が……。
シーギャング兄が突っ込んでいった時に鬼がシーギャング兄の両腕を掴み勢いごと強引に止めた。
そして、その腕を離したときに出てきたのは両腕の肘から先が1つになっていた。ガントレットや腕などを全て握りつぶして1つにしてしまっている。
「ブジデヨカッタナ」
「"デモンズ・エンブレイス"」
見てられない見た目の兄の腕が当たり前かのように軽い調子で言う鬼。
そして、シーギャングの弟がそう唱えた瞬間に空気が変わった。
体が何か得体の知れないものに包まれる感覚に襲われる。
怖い、嫌だ……。やだやだやだやだ。
逃げたいけど怖くて体が硬直し、膝が震え立っていられなくなる。恐怖心に体をさらに縮こまらせ震え続ける。怖い。何か恐ろしい存在が目の前にいる。殺される……。そう感じられ、心臓を鷲掴みにされているような、今にでも私が殺されるというような感覚にも襲われる。
基礎って大事ですよね