鬼と科学
日野視点
目の前には用意された台車と、その上には調理された肉と複数の野菜が乗っている。
バゴンッ!バゴンッ!
壁を殴っている音なのか、扉の向こう側から大きな鈍い音が響いてくる。聞いた話だとこの先に未知の物質で作った檻があり、そこに鬼が閉じ込められていると聞いている。
ガチャ
扉を開けた先は20m以上はあるような長方形の部屋だった。天井はかなり高く円状になっており、床は黒色の物質で出来ており、生物をとらえる専用な場所のように設計されていることだ。2階もあり体育館のような場所だった。
バゴンッ!
音が鳴る方へ顔を向けると、鬼がこちらを見ており檻を壊して今にも襲い掛かってきそうな勢いで檻を何度も何度も殴りつける。
鬼に声を掛けようにも檻を殴る音が大きすぎて届かない事はわかる。俺はさらに檻に近づく。
バゴンッィ!ガギィ!
再度強い音が鳴るが檻から違う音が鳴り始めた。壊されるのではと思い進めていた足を止めてしまう。
『大丈夫だ、この檻が壊れることはない』
アナウンスのような声が響き渡る。
そうだ、この物質は壊される事はありえないはず。
それに情けないな。死んでも親に会えるしそうでなくても社長に少しは恩返しができる。場所も用意してもらえると思い契約書に同意したにも関わらず足が震えてしまっている。
震えながらも自分の足を何度も何度も叩き、気持ちを震え上がらせて進む。
「ウオォォォ!」
ガギィィン!
あと少し近づくと檻から出ている鬼の手に掴まれるような距離まできた。鬼の叫ぶ声と檻を叩く音しか聞こえないような距離で俺は台車の上にある肉と野菜を両手で持って片方ずつ鬼の目の前に押し出していく。
ガンッ!
音が止み、鬼が床に置いた食事に意識を向ける。俺は鬼に食事を与えに来た人。安心できる人と思わせるために食べ終わる。または失敗するまでここにいて、うまくいけば会話をすることまでが契約だ。
心臓の音が止まない。少し自分を落ち着かせて鬼を見ると鬼は顔から涎を流していた。
鬼は皿を手に取る。
パリィン!
『日野君、そこから離れろ!』
鬼が皿を割って檻の中に持ち込んだ後に突然アナウンスが流れもたつきながらも鬼から目を離さずにできる限り急いで後退する。
ビィーーーーーーーー!
離れ始めてすぐに鬼の周りを囲むように床から機械は複数出てくる。
プシューという音と共にピンク色の煙が全部の機械から噴出される。
煙が立ち込め、実験室はピンク色の煙で包まれる。