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09 応援 その1


 翌日。


 同じフレンドでも、私とコバヤカワは、別の種類であることを痛感するのであった。


 その違いとは、公然と付き合っていることを周りの人に言えることである。

 私の場合は、言えない。

 ただ、演劇部の活動が休みの時に、放課後、演劇部の部室で手を握って、時々ハグをするだけの仲である。

 それに対してコバヤカワは、一緒に昼食を食べ、部活で互いを高め合い、そして一緒に下校しているのである。


 なにより、ヒガとコバヤカワは同じクラスだし。

 きっと、クラスではカップル誕生で盛り上がっているのだろう。



◇◇◇◇◇


「まったく。先生に質問されそうになったら、私に答えを聞いてくるのやめてよね」

「なんでだよ。隣の席だし。フレンドだし」

「それだとヒガの勉強になんないでしょ」

「えー。宿題なんてよくやるよな」

「私が隣じゃなかったらどうするつもり?」

「授業前に、サツキのノート借りる」

「呆れた」


 コバヤカワが意を決して、ヒガに提案する。


「わかった。こうなったら、私がマモルに勉強を教えてあげる」

「なんで」

「マモルのために言ってるの」

「やだよ。俺、勉強したくないって言ってるじゃん」

「……私も、教えて欲しいから」

「体育以外、どの教科もできないぞ」

「そういうのじゃない。フレンドのこと」

「というと?」

「ドキドキするようなことだってば。言わせないでよ」

「だって、サツキは面倒を避けるために俺と付き合ってるフリをしてるんだろ」

「マモルは、いいの? あんな演技力のかけらもない子。私なら演技力もあるし、それにスタイルだって、ほら」


 サツキは胸元を強調する。


「本気で好きになっても知らないぞ」

「フフ。それはこっちのセリフよ」


 そして、サツキはマモルにキスをする。


「ほら、あの子じゃ恥ずかしがってできないようなことも、私ならすぐにできるんだから」

「ドキドキするな。もう、ワタナベなんかじゃ満足できない」

「でしょ。これからは、私といっぱいイチャイチャしましょうね」


◇◇◇◇◇



 みたいなことを、ラノベ席付近でしてるかもしれない。


 ……まさか、ね。

 さすがに、今みたいなところまでは発展していないとは思う。


 なぜ、そんな妄想を膨らませているかというと、不安であるからだ。

 現実問題、部活動のない放課後以外に主と話していないのである。



 ホールで演劇の練習をするヒガとコバヤカワの姿を、部室から見ることしかできない。


「何見てるのー」

「メグミ」

「ヒガ君とコバヤカワさんかな。いいよねー、今日も一緒に帰るんでしょ。うらやましいー。私も彼氏欲しいなー」

「メグミって彼氏いないの。意外」

「メグミはえり好みするからなー」


 マキが私たちの会話に参加する。

 今日も、部室にいる裏方は、三人だけである。


「そりゃ、私にだって人を選ぶ権利がありますもの。私のことを好きって言う男子って、大抵私の胸ばっかり見てくるんだもん。信じらんない」

「男はそんなもんだぞ。たいそうなもんをぶら下げてるメグミが悪いんだ」

「うるさいなー。マキはマキで恋愛をこじらせてるから、いつまでたっても妄想で作った恋愛ソングしかできないんだよ。あーあ可哀そうに」

「なんだと!」


 ギャーギャーと二人は言い合う。

 仲がいいな、二人とも。


「ユウカは私とマキ、どっちの方が正しいと思う? もちろん、私でしょ」

「いいや、私だろ」

「ええと」


 困ったものである。


 部活は、マキとメグミの二人がいるおかげで楽しく過ごせてはいるが、ヒガとコバヤカワの問題は解決しそうにない。



「活動日は週に三日だけなんだからいいだろ」

「不服です」


 翌日、いつもの演劇部部室。

 今日は演劇部の活動が休みのため、久しぶりにヒガと二人きりになっているのである。


「なんだか、ずいぶん楽しそうじゃないですか?」

「コバヤカワとのことか? そりゃ、他の男に言い寄られないためだから、ある程度は仲良くしないと」

「放課後、一緒に帰るのも?」

「大抵のカップルはそうだろ」

「部活が一緒なのも?」

「帰りに校門とかで待ち合わせるよりはいいだろ。演技も結構うまいし」


 わかっている、これは完全な嫉妬である。

 おかしいことは自分でもわかっている。ヒガにとって私は都合のいいフレンドでしかない。

 でも、それでも、ヒガがコバヤカワと一緒にいる光景を見るのは苦しいのである。


「ヒガは、私とイチャイチャしたくないんですか?」

「そりゃしたいけど、まだダメだろ。ハグするくらいで照れてるようじゃ。演技も下手だし」


 私はコバヤカワに対する嫉妬心を、ヒガにぶつけてしまう。


「わかりました。ええ、そんなにコバヤカワさんのことが好きなんですか。やっぱり、ああいうスタイルがいい女の子の方がいいんだ。私なんて所詮体だけの関係ですよ


 嘘ではない。手を繋いだり、ハグをすることは、立派に体だけの関係と表現できる。


 そして、ふと今日のホームルームで言っていた先生の言葉を思い出す。


「決めました」

「何を」

「私、応援団に立候補します」

「体育祭のやつか」

「そうです。私はその練習で忙しくなるので、これからは放課後に会えませんね」


 私はそう言い残し、ヒガの返答を聞かないまま部室を後にする。


 フンだ。もとはと言えば、ヒガが私に断りもしないでコバヤカワと付き合い始めたのが原因だ。

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