06 お泊り その1
初デートはただ映画を見て、私が一方的に感想を言って、終了。
それからというもの、放課後は部室で手を繋ぎ、週末はデートをしながら手を繋ぐ日々。
ずっと手繋いでるな。
でも、おかげでだいぶ慣れてきた。
成長しているよ私。
そしてなまじっか、それ以上先のことができないことによって、私の妄想エネルギーは蓄積される一方である。
週末のデートのチョイスだって、水族館・ゲームセンター・カラオケなど、定番と言えば定番のデートスポットであり、ヒガは常に紳士的に振る舞っていた。
だがそれ以上に、私が一回目よりもデート中に緊張してしまっていることで、イチャイチャするための練習ができていない。
あれ以来、レベル2のハグは避けてるし。
だって、あんなにドキドキするとは思いもしなかったからである。
手だけと全然違う、あのぬくもり。
チャンスは何回かあったが、あの瞬間を思い出して、照れて終了というのが最近のパターンである。
このままではいけない、これではフレンド失格である。
よーし、次のデートでは、絶対にハグするぞ!
おそらく、次のデートはゴールデンウィークになるはずだ。
「お泊りデートをします」
「はい?」
演劇部部室、いつも通り人差し指を立て合って手を繋いだ後、ヒガからいきなりそう切り出された。
紳士的な男?撤回、やっぱりこいつは妄獣である。
自分の欲望を抑えられない獣だ。
「お泊りってどこですか。私そんなにお金持ってませんよ」
なんですか、福引でたまたま温泉旅館のチケットが当たった、みたいなありえない理由でもあるんですか。
「いや、どっちかの家でいいでしょ」
「私の家か、主の家、ですか。うちは、無理ですよ」
両親にどうやって説明すればいいのだ。
根掘り葉掘り詮索されるに決まっている。
「じゃあ、俺んちで決定だな」
「そうなりますね。でも、ご両親とかいるんでしょ」
「母親がいるよ。というか、いる方がいいだろ。俺がよからぬ行為をしないという安心材料になるでしょ」
「確かに」
そう、私とヒガは、あくまでもフレンド。
イチャイチャするだけであって、セフレではないのである。
ヒガは、私が安心してお泊りできるような配慮をしているのである。
紳士的なのかそうではないのか、よく分からないな。
「じゃあ、明日の夕方に駅前に来て」
「え、いきなり家に行くんですか」
「問題あるの?」
「いや、なんかとりあえず外でデートして、緊張を和らげてからなのでは」
「本題だけでいいでしょ」
「その言い分、セフレにしか通用しませんよ」
「でも、フレンドでしょ。俺たちの目的ってなんだっけ」
「イチャイチャしあうことです」
「でしょ。このままデートを続けてても、一向に進展しなさそうだし」
「ぐうの音も出ません」
チャイムが鳴る。
「てことで、帰るか」
「うん」
帰宅後。
とりあえず、寝坊して遅刻することはないね。
親もゴールデンウィークは、旅行することなく家にいるみたいだから、8時には起こしてもらえるし。
家でデートか。
どうしても妄想してしまう。
◇◇◇◇◇
「実は、親が急に出かけてて、今うちに誰もいなんだよね」
「へえ、そうなんだ」
「悪いな、まあ上がれよ」
「おじゃましまーす」
◇◇◇◇◇
前提として、母親が急な用事でいないことにしよう。
そっちの方が色々都合がいいし。
兄弟、とかヒガにはいるのか?これもいないことにしよう。
◇◇◇◇◇
テレビ視聴中。
「ちょっと」
「なーに?」
ヒガが私を煩わしそうにする。
それもそのはず、テレビを見ているヒガの視界を私が遮っているのである。
「見えないんだけど」
「見せるきないし。てか、テレビ見てなかったでしょー」
「見てたし」
「えーい」
私はヒガの膝を枕にする。
「じゃあ、こうしててもいい?」
「しょうがない奴だな」
◇◇◇◇◇
テレビがない場合も想定する必要があるな。
◇◇◇◇◇
「最近ハマってる曲はこれとかかな」
「どれどれ?」
イヤホンの片側を渡される。
ワイヤレスではないため、必然的に距離が近づく。
「ワイヤレスイヤホン、持ってるでしょ」
「持ってるよ」
「じゃあなんで」
「近くで聞きたいから、かな」
イヤホンから聞こえてくるのは恋愛ソング。でも今の私の方がよっぽど恋愛をしている
◇◇◇◇◇
鼓動の音で歌が入ってこないやつだな。
◇◇◇◇◇
夜、シングルベットに二人で寝ることに。
「なぜこんなことに」
「マモルが頑固だからだよ」
「いや、ユウカが『マモルがベットで寝ないなら、私もベットで寝ない』とか言うからだろ」
「どっちもわがままだね」
「そうだな」
そこで会話が終了して、しばらく沈黙が流れる。
うう、寝れる気がしない。
「マモル、寝た? もしもーし」
反応はない。
こちらを向いているが、表情では寝ているかどうか判断がつかない。
よし、起きているか試してみよう。
「……好きだよ。マモル」
僅かに反応アリ、どうやら起きているらしい。
「いつもはカッコいいけど、寝顔は可愛いんだねー」
あれれ?
ヒガの顔が赤くなってるぞ。
なんだろうこの気持ち。
優越感?
いつもは、ヒガに主導権を握られっぱなしだからであろうか。
そのため、恥ずかしそうにしてるヒガを見て、いじわるしたくなってしまった。
「好き、大好きだよ。えへへ、恥ずかしいな。私がマモルをこんなに好きなの気づいてるのかな。
私はいつだってマモルとイチャイチャしたいんだよー。それなのに早く寝ちゃってー。もう」
「起きてる起きてる。だからやめてくれ、恥ずい」
「やっぱり起きてるじゃん」
「あんまり俺をからかうなよ」
「からかってないよ、本当のことだもん。マモルのこと大好き」
「俺も好きだよ」
「えー?誰のことが?」
「……ユウカ。ユウカが好きだよ」
◇◇◇◇◇
で、この後、めちゃくくちゃイチャイチャした、になるな。
言われたいなー、好きって。
思い返せば、いままで好きって言われていないような気がする。
なんか流れでフレンドにはなったけど。
手つないだりハグしたりしたけど。
言葉ではまだ聞いてないな。
聞きたいな。