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05 デート


 デート当日。

 だがしかし、時間軸的に言えば、電話をした直後である。


 デート。デートか。

 妄想では何度もしたことがあるが、現実では皆無である。

 洋服とかどうするんだよ。せめて一日猶予があれば、ハルに頼み込んで洋服屋に直行していたはずなのに。

 勝負服なんてあったか?


 とにかく眠れる気がしない。


 仕方がない、妄想をするか。

 ただし、これはいつも妄想ではない。今日の午後から実施されるデートのシミュレーションなのだ。



◇◇◇◇◇


 まずは出会いのシーン。

 余裕をもって早めに目的地に到着。

 でもヒガはすでに佇んでいる。


「待った?」

「いや、今来たところ」

「本当に?」

「本当、本当。それにしても、フーン」

「何よ」


 ヒガが私のことをマジマジと観察する。


「そういえば、制服以外の服装初めて見たな」

「変かな」

「いいや、可愛いよ」

「キャハ」


◇◇◇◇◇



 何が「キャハ」だ。

「キャハ」になるために、服装をどうにかしないといけないな。


 部屋の電気をつける。

 眼が光に慣れるまでしばし耐久。


 とりあえず、クローゼットの中からあるだけの服を取り出す。

 大まかにジャンル分けすると、ワンピース・スカート・その他ズボンって感じである。

 最近は、ズボンしかはいていないような気がする。


 出かけるといっても、ハルとタケルとしか遊ばないし、その二人に対してワンピースとかスカートとか着るのはちょっと違うというか。以前、お気に入りのワンピースを着て行ったら、タケルから「可愛い」とか言われて、ハルから嫉妬されるなんて展開が一度あったのだ。そのため、ワンピースやスカートなどは、封印されし存在であった。


 だが今回は、逆にズボンはないかな。自分で言うのもなんだが、私はズボンが似合うようなスタイリッシュ系の人間ではない。どちらかというとガーリーで可愛い系を目指すべき容姿である。


 とりあえず、ワンピースとスカートをそれぞれ履いてみるか。


 まずはワンピース。

 薄い空色、緑、白などを着てみる。

 流石に白だけはないな、よくこんな服買ったよな。

 まあ、空色が一番無難か。

 でもいいのか、デートにしては地味過ぎるのか。いや、こんなもんなのか?


 次はスカート。

 うーむ、なんか違う。脚が短いせいで爆裂に似合わない。


 なんだか消去法的な形で、空色のワンピースに決定した。


 後は、それに合うように靴下とか靴を揃えればいいだけだね。


 姿鏡でデート衣装を確認する。

 一応、くるりと一回りしてみたり。


 大丈夫?これ可愛いか。

 不安である。正直ハルに意見を聞きたいところだが、おそらく寝ているだろうしな。


 てか待て、可愛いって言うでしょ。

 だって、フレンドなんだから。

 恋人としてデートするのだから。


 ……どんなに服がダサくてもカッコいいって言ってあげよう。

 もちろん、自分のために。



 服装が決まったところで、電気を消し、妄想デートを再開する。

 まだ、出会ってしかないぞ、先が思いやられる。


 そういえば、どこに行くのか全く聞いてないな。現状としては手つなぎをマスターしようっていうデートだから、必然的に暗くて二人だけの空間が作れるところのはずだ。



◇◇◇◇◇


 候補1、プラネタリウム



 それでは間もなく上映を開始します。

 アナウンスと共に会場が暗くなる。


 私たちはカップルシートで寝転がっている状態である。

 すぐ横に主がいるため、そちらを向くことができない


「ほら、暗くなったんだから。こっち見てよ」

「……わかった」


 ヒガのほうを見る。

 間近で見ると、その整った容姿がより強調されて伝わる。


「星綺麗だね」


 恥ずかしさを紛らわすため、プラネタリウムの話をする。


「そうだな」


 ヒガは私の方をずっと見ている。


「ちょっと、上見ないと」

「いや、星よりもきれいだなって」


◇◇◇◇◇



 もう、……好き。

 言って欲しい。


 で、次は本物の星を見に行こう的な展開になるわけよ。

 絶対、そこ寒いんだろうなー。身を寄せ合うんだろうなー。

 


◇◇◇◇◇


 候補2、お化け屋敷(遊園地)



 廃病院という設定のお化け屋敷である。


「離さないでよ」

「わかってるって」


 急に扉が開き、血まみれの患者が現れる。


「あああああああぁぁぁぁぁぁ!!、助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」


「キャーーーー。怖い怖い無理無理」

「大丈夫だって。怖がり過ぎだから」


 涙目になる私を抱きしめるヒガ。


「だって、あんまり怖くないから一緒に入ろうっていったのに。嘘つき」

「そんなに怖いか?」


 今度はメスを持った医者が現れる。


「次の患者はお前だ―」


「キャーーーー」



 なんとか、廃病院からの脱出に成功。


「なあ、機嫌治してくれよ」

「フーンだ、私が怖いの苦手って知ってるのに」

「ごめんて」

「やだ、許さない」


 頭を撫でられる。


「もっと」

「もっとなでろと?」

「うん、じゃなきゃ怖いのも機嫌も直らない」

「わかったよ」


 ナデナデ


「えへへ」

「なあ、もう機嫌治っているだろ

「えへへ」


◇◇◇◇◇



 ヒガの行為に対するドキドキよりも、お化け屋敷の怖さに対するドキドキ方が上回りそうである。

 吊り橋効果?確か、あれ厳密には違うんでしょ。


 遊園地は、ちょっとないかな。



◇◇◇◇◇


 候補3,ネフレ


 添い寝フレンド、略してネフレ。

 名目上はただ一緒に寝るだけの関係であるが、果たしてヒガの場合はどうなのか。


「あの」

「ん、なに?」

「そんなに目を合わせられると、いつまでたっても寝られないと言いますか」

「寝かせる気なんてないよ」

「え、だってこれネフレですよ」

「勘違いするな、何かしようってわけじゃない、そういうのはセフレで間に合っている」

「それを堂々と言うところに問題があると思うんですけどね」

「ずっとドキドキさせて、寝かせないって意味」


 眠れる気がしない。シーツとパジャマがこすれる音と、ヒガのリズムよく上下する体躯。それから、私の高まる鼓動。

 眼を合わせた状態はまずい。本格的に眠れる気がしない。


 なんとか眠るために、主がいる反対の方向に顔を向ける。


「ダメ、こっち向いてて」


 顔を主の方に向け直される。


「ううー、イジワル」

「知ってる」

「ばか」


◇◇◇◇◇



 流石にフレンドになって一週間と数日。一緒に寝るのは早すぎるよね。

 でも、ヒガのことだからわからない。

 ……一応、勝負下着で行こう。一応。



 とりあえず、三つほど妄想デートをしてみたけど、総じて言えることは、だいぶ私が頑張らないといけないってことだな。

 正直できる気がしない。手を繋ぐだけでも怪しいのに、「好き」とか「イジワル」とか言える気がしない。妄想してる段階でも恥ずかしいのだから、実際に言えるはずがない。


 でも、とにかく頑張るぞ。デートとはいえ、あくまでイチャイチャするだけのフレンドなんだから。






「遅れました。ハアハア」


 完全に寝坊をした。待ち合わせは13時だというのに。

 休日ということで、両親は私のことを完全に無視して仲良く日帰りバスツアーに行ってしまったので、起こしてくれなかったのだ。。


 時計を確認すると、まさかの12時30分。デートのシミュレーションが、結局6時ぐらいまで続いてしまったのが原因である。

 急いで夜の段階で用意していた服を着て、家を飛び出した。


 そして現在、いつもの駅前である。


「まあ、2分ぐらいだから問題ないよ」

「そう、ですか」


 呼吸を整えつつ、ヒガの服装を見る。


 やっば、超カッコいいんですけどー。

 他の女子からめっちゃ見られとるやん。


「モテそうな服着てますね」


 素直にかっこいいと言えない。


「そっちこそ、似合ってるじゃん」

「いや、本当に申し訳ないです」


 こんなことなら、ちゃんと目覚ましかけておけばよかった。

 髪型ぐらいならもっと可愛くできたはずなのに。


 ドキドキしてもらえてるのだろうか。

 不安である。


「初デートだな」

「あ、えと。は、はい」


 ぎこちない。

 主に私が。

 ずっと私なのだが。


 ヒガが人差し指を立てる。

 手を繋ぎませんかの合図。


 周りに知っている人がいないかキョロキョロと確認をする。

 よしいない。

 安全を確認した後、私も同じように人差し指を立てる。


 二人の思いが一致して、手を繋ぐ。


「行こうか」

「うん」



「で、どこに行くんですか」

「最初のデートだし無難に映画にしようかと。嫌か?」

「いえ、私もちょうど見たい映画があったんで」

「ならよかった」


 シリーズものの洋画の最新作が公開されたのだ。

 ハルと見に行こうと考えていたが、いい機会なのでヒガと見ることにした。


 映画上映中。


 会場が暗くなり、予告編や『no more 映画泥棒』でおなじみの映像が流れる。


「なあ、ユウカ」

「なに?」


 人差し指を立てている。


「……いいよ」


 なんだかずっと手を握っているような気がする。

 まあ、途中でこんな提案されたら映画に集中できなくなっていたであろうから、結果的にはこのタイミングでよかったかな。


 映画終了後。


 主の提案でカフェに行き、そこで映画の感想を言う。


「今回がシリーズの中で最高傑作だって思いました。

いつもながらのド派手なアクションは健在で、それに加えて前作までの謎が一気に解明されることの驚きたるや。もう一回シリーズ全部見直したいなー。

あ、私ばっかりしゃべりすぎですよね」


「本当に好きなんだね」

「ソウダヨ」


 なぜか、「好き」というワードに反応してしまう私がいる。

 もちろん、映画に対しての好きであるのはわかっている。


 いかんいかん、夜にした妄想がまだ抜けきっていないな。


「てか、こんなおしゃれなカフェ、良く知ってるね」

「ああ、ここでバイトしてるから」

「そうなの」

「色々とお金がかかるからさ」


 ため息をつくヒガ。

 ホテル代とかプレゼント代とかなんだろうな。女遊びをするのも大変だな。


 カフェを後にした私たち。


 いつもの流れで手を繋ぐ。

 人差し指を立て合う、私たちだけの決まり事。

 手を繋ぐためのおまじない。



 駅についた。


「じゃあ、今日はこの辺で」

「えっ、あ、うん。」

「バイバイ」


 あれ?

 これで終わり?


 なんだか拍子抜けというか、本当にただただ手を繋いでいたデートという印象である。

 なんだ、意外と紳士じゃん。


 でも、


「やっぱり、ちょっと待って」


 自然とヒガを呼び止めてしまった。


「どうしたの?」

「その」


 なんだろう、紳士的だし、いいんだけど。

 この物足りない感覚というか、なんというか。


 一言で言うなら。


「もうちょっと、ドキドキしたい」

「……わかった。それなら、ドキドキさせてあげるよ」


 言うや否や、彼は私の体を引き寄せる。

 そして私は、ヒガに包まれる形となる。


 レベル2、ハグである。


「これでどう?」

「やりすぎ」

「すごいドキドキしてるね」

「言うな、ばか」


 至福の時間であった。

 だが、すぐにバスが到着してしまい、この時間に終焉が訪れる。


「バイバイ」

「バイバイ」


 やっぱり余裕の表情を保っているヒガ。

 私はバス停に設置されている椅子に座り、顔をふさぎこむ。


 ヒガの温度がまだ体に残っている。



 うう、レベル2はまだ早いみたいです。

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