21 文化祭
「さあ、俺たちの文化祭がはじまるぜー」
照明が落とされた体育館。
そこに集まる全校生徒、約1000人。
彼らによる盛り上がりで、体育館が音で充満される。
数か月間、この日のために準備をしてきたであろう文化祭実行委員による、気合の入った合図で文化祭が始まる。
「みなさま、夜分遅くにありがとうございます」
執事の衣装に身を包んだマモルが語る。
「私の名前はテリー。この屋敷の執事長を務めています。
我々の屋敷に住む大切な王女が、悪しき怪盗によって誘拐されてしまいました。
『返して欲しければ、このなぞを解いてみろ』という謎が書かれた紙を残して。
しかし、どうしても謎が解けない私たちは、あなたがた探偵をお呼びいたしました」
ここで、どこかから声が聞こえてくる。
「探偵に頼むとは愚かなことを。本来であれば王女の命はここで奪ってもよい。
だがそれでは興が冷める。
だから、制限時間を設けることにした。
30分ですべてのなぞを解けば王女は解放してやる」
慌てふためくマモル。
「皆さんにお願いします。どうか謎を解いて王女を助けてください」
場所はホールである。
ムードを出すために、部屋の証明は使わず、ランタンなどの間接照明のみで照らされている。
また壁などは西洋のお城をイメージした壁紙を張り付け、そのほか貴族の家っぽい小道具などを配置した。
そうした雰囲気とマモルの演技力によって、臨場感のある謎解きの場と化している。
「はい、これが誘拐犯が残したメッセージです」
私とメグミは、それぞれのグループを巡って、メッセージと言う名の最初の謎を渡す。
どうして、謎の書かれた紙が何枚もあるんだ?という疑問を抱かせないほど、お客さんはこの物語に没頭しているようである。
一応、私も世界観を保つためにメイド服を着ている。
仕事は主に裏方である。
演技が致命的にできない私なので、なるべく邪魔をしないようにする。
「みなさん、怪盗からのメッセージを受け取ったでしょうか。それでは、謎解きを初めてください」
マモルの号令とともに、各グループたちはあーだ、こーだと議論を開始する。
私はマモルのところに近づく。
執事姿のマモルである。
「けっこう上手いだろ?」
マモルが得意そうな表情をする。
「うん、そうだね」
どうしよう、かっこよすぎないか?
ランタンでぼんやりと光るこの空間もあいまって、普段のマモルとは違うオーラが漂っていた。
絶対、後で写真をとろう。
「あ、質問あるみたいだから、また後で」
「うん」
マモルは忙しそうである。
正直、私はこの場にいる必要がない。
かといって、一人で文化祭を回ってもむなしいだけなので、マモルを見る時間にする。
◇◇◇◇◇
「きゃ」
食後に食器を片付けている際、誤って転倒する。
その結果、ガシャンという音と共に皿を数枚割ってしまう。
「おい、何をやってる」
マモルが私のもとにやってきて怒鳴る。
「す、すみません、執事長様」
「皿すらまともに運べないのか。このノロマが」
「すみません。今すぐに片づけますから」
「いい、あとは俺がやる。」
「でも」
「いいと言ってるだろ。手でもケガしたら、余計に使い物にならないだろ」
「ありがとうございます」
私の執事長は非常に厳しい。
でも、心の深いところには温かい優しさが垣間見れる。
私と執事長は、付き合っている。
ただし、その事実は二人だけの秘密である。
「失礼します」
マモルの部屋へ改めて謝罪をしに行く。
「どうした?」
「あの、先ほどは私の割ったお皿を片付けてくださり、ありがとうございました」
「別にお前のためではない」
「はい。えと、それで、今お伺いしたのは、その……」
私は言いよどむ。
しびれを切らしたマモルは言う。
「ユウカ」
「はい!」
「こっちにこい」
マモルは自分が座っているベットの横をたたく。
そこに座れってこと!?
「できません」
「どうしてだ?」
「恥ずかし過ぎて死んじゃいます」
「なら、とっとと死ね」
「そんなー。じゃあ、死ぬ前に隣、失礼します」
私はマモルの隣に座ろうとする。
が、スカートの裾に足を引っかけて、転倒。
マモルに覆いかぶさる形になる
「すみません。すみません」
「お前、わざとだろ」
「違いますよ。あっ、今すぐどきますから」
どこうとする私の体を、無理やり自分の体に寄せるマモル。
「今夜は部屋に返さないからな」
◇◇◇◇◇
ビービー
わっ、びっくりした。
「制限時間は、あと10分です。皆さん、いそいで謎をといてください」
残り10分を伝えるブザーが鳴り、私は現実に戻る。
マモルが執事だったら、絶対ドSだろうな。
なんてことを思う。
謎解きも終盤である。
一応、私はこのなぞ解きを前日に体験した。
どうやら、クイズ研究会は夏休み中に本気を出したようで、全部で10パターンの問題を用意した。
つまり、ここにいる10グループは、全て別の問題を解いているのである。
そして、それらの問題に応じて、小道具などの作成を細かく演劇部に依頼したのである。
もちろん、彼らも小道具の作成に協力した。
で、肝心の謎解きだが、結論から言うと犯人はマモル。
つまり、屋敷の執事なのである。
暇を持て余している王女が探偵に挑戦状を出した、みたいな設定である。
だから、マモルが持っているメガホンに耳打ちをする場面があるのだが、10パターンの問題どれも、最後の答えが執事長の名前になっているのだ。
それをマモルに耳打ちできれば、謎解き成功である。
しかし、最後の答えがテリーになるような謎を10パターンも用意とは。
再びブザーが鳴る。
制限時間を表示するデジタル時計は、0を示している。
「はい、終了です。謎解きは以上となります。配布及び追加で入手したものは、こちらで回収します」
私とメグミが各々回収していく。
15分ほど休憩である。
「いやー、演劇部に頼んでよかったわ。おかげで、俺たちが作った謎をいろんな人に楽しんでもらえてるよ」
「こっちとしても、舞台でやるよりお客さんの反応がいいよ。やりがいあって楽しい」
マモルとクイズ研究会がワイワイと話してる。
「しっかし、マモル。執事服が似合ってるなー。くそー、かっこいいぜ。俺が女だったら惚れてるわ」
「いいすぎだって」
「いやいや。そうだそうだ。記念に写真撮ってもいいか」
「いいけど」
マモルと一緒に写真をとる。
「あ、私も」
「この後しばらく休憩だろ。何かおごらせてくれよー」
「あ、ヒガ……」
行ってしまった。
ま、まだチャンスはあるもんね。
「じゃあ、わたしたちも交替しますか」
「そうだね」
メグミにそういわれて、私も廊下に出る。
2時間くらい自由な時間があり、午後にまたホールに戻るのである。
「あれ、着替えないの?」
「うん、めんどうだしね」
「そう? 私はこれで終わりだから。じゃ、記念に写真撮ろう」
「いいよ」
メグミとメイド同士写真をとる。
なんでだろう。私のメイド服はデコルテを露出しているのに、肌の見えないメグミの方が色気がある。
着替えるのが面倒なので、このまま繰り出す。
この後の予定としては、マキの演奏を聴きに行くことである。
軽音楽部のマキを見たことがないので、正直楽しみである。
「私は露店の食べ物を全部制覇しに行くから。じゃあね」
「うん」
「あら?」
「あっ、サツキ」
サツキも衣装を着ている。マモルと一緒の執事服である。
彼女も謎解きの進行役を任されている。
「本当、なに着ても似合いますよね」
「うん、知ってる」
「でしょうね。私が着ても、こんなにかっこよくなりませんよ」
なんか宝塚の舞台に出てきそうな雰囲気が漂っているのである。
「そういうユウカのメイド服も、可愛いよ」
「ああいいです、そういうお世辞。自分の評価は自分でできるんで」
「そんな、卑下しなくてもいいのに」
嫌味っぽくなくそういうセリフを吐くところが、実に嫌味っぽい。
私はその場を後にする。
さて、誰と回るか。ハルとタケルは、クラスの出し物を担当している時間だ。
ちなみに、そのテーマは演劇である。
もちろん、私はクラスの演劇でも戦力外通告を食らって、前日まで装飾を担当していた。
「あれ? 一人なの?」
声がする方を振り向く。
そこには、紳士服を着たマモルがいた。
「クイズ研究会の人たちは?」
「ああ、さっきまで一緒だった。で、団子おごってもらった」
手にはパックに入った団子が三本。
「一本たべる?」
「食べる」
てくてく
「あの」
「何?」
「周りの人からの目線が気になるんですけど」
「そりゃ、コスプレしてる男女がいたら気にはなるだろ」
やばい。一緒に団子を食べながら露店見てるだけなのに、超楽しい。
「ヒガは私と一緒でいいんですか?」
「なんで? いい宣伝になるでしょ。それに」
「それに?」
「友達と一緒に回るもんだろ、こういうお祭りって」
友達。今は、私たちは友達である。
「ま、男女なら恋人なんだろうけど。でも、俺たちの場合、そういうのじゃないだろ」
「……そうだね」
「よしっ、団子も食べたし、いろんなところ巡ろうか」
「うんっ! あっ、写真撮っていい?」
「いいぜ」
写真を撮り、私たちは文化祭を楽しむことにした。
あくまで、友達として。
自主映画を見る。
「面白かったねー」
「ああ、ストーリーだけ有名な映画で、あとは全部パロディーだったな」
お化け屋敷に入る。
「まあ、あんなもんだろ」
「だね」
その後も、たこ焼き屋や焼きそばを食べる。
で、カフェで休憩しつつ、次に回る場所を決める。
「危ない、忘れるところだった。この後、マキがライブするんだった」
「そうなのか。じゃあ、行くしかないな」
スタジオに入る。
薄暗い部屋には、すでに50人近くの人がおり、ステージにはマキがいた。
「もうすぐ始まるみたいだね」
「ああ、そうだな」
マキが手短に挨拶をする。
そして、軽妙なイントロとともに、一曲目が始まる。
私はマモルの方を見る。
マモルはマキの曲に熱中しているようで、私の視線には気付いていない。
暗い部屋、熱狂する人たち、普段とは違う服装、おまけにBGMは純情な恋愛ソング。
こんなの、意識せずにはいられない。
私の横にいる人が、恋人だったらいいなって。
都合のいいフレンドとかじゃなくて。ちゃんと私のことを好きでいてくれて。
マモルが私のことを好きになる?
それこそ都合がよすぎる話である。
「マモル」
私は名前で呼ぶ、マキが大声量を出して歌っているため、隣のマモルにしか聞こえていないはずである。
「手、繋ぎたい」
マモルは何も言わず、私を見ることなく、私の手を握る。
「……」
「……」
「好きだよ、マモル」
「……」
「だから、私と付き合ってください」
私は告白する。マモルのことが好きであると。
「もう付き合ってるだろ、俺たち」
「……そうだね」
今の私たちは恋人同士である。
でもこの曲が終われば、ただの友達に戻る。




