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20 女子会 その2


 で、銭湯に行き、色々と堪能して帰宅。


「やっぱりそういう目的だったんですね。急にバンドが『銭湯に行きたい』なんておかしいと思ったんですよ」


 ご立腹のようすであるのは、もちろんメグミである。

 今日はもう寝る、と言い放ち、布団に潜り込んでしまった。


 リビングで5人が布団を敷いて寝ることにした。


 メグミ以外の4人は顔を見合わす。


 確かに悪いことをしたと反省する。

 が、それ以上に、とんでもないものを見てしまったという気持ちが大きい。

 とにかく、すごかった。

 


 勉強を強いられ、カラオケで熱唱し続けたマキ。それからチョコケーキ作りに没頭した親友は、メグミの就寝を追うように夢の世界へと向かう。


 私はというと、なんだか気分が高揚して眠れない。

 

 隣にいるコバヤカワを見る。


 こちらを向いていないため、起きているかどうか判断がつかない。

 寝てるところを起こしたら迷惑だしな。


 そんなことを考えていたら、不意にコバヤカワが布団から抜け出す。


「どこ行くの?」

「ああ、起きてたの。寝られないからベランダにでも行こうかと。一緒に来る?」


 私はその提案に同意して、二人で屋上へ向かう。



 焚火を中央に配置して、私とコバヤカワはぼんやりと炎を見る。


「はい、コーヒー」

「ありがと。……苦っ」

「言ったでしょ。私、甘いの苦手だって」

「そうだったね」


 私は、コバヤカワに言いたかったことをぶつける。


「あのさ」

「何?」

「この前、海に行ったじゃん」

「そうね。今月のことなんだもんね。だいぶ昔のできごとみたいに感じるわ」

「その、帰りの電車でさ。私、見ちゃったんだよね」

「何を?」

「キス、してるとこ」


 マモルと。

 ガールフレンド(仮)の関係に過ぎないのに。

 他の男子から告白されたり、女子から嫉妬されないようにするための、偽りの関係だったはずなのに。

 手すら握らない関係だったはずなのに。


 でも、同じフレンドでしかない私が、その理由を聞いてとやかく言う資格はあるのだろうか。


「ああ、見てたのね」


 コバヤカワは、大したことないという風な口調である。

 表情がこわばっているようにも見えない。


「なんでキスしたか、聞きたい?」

「はい」


 コバヤカワは笑顔を見せる。


「嫌いになるため、かな」

「嫌いになるために、キスを?」

「そう。『ああ、所詮、こんな奴なんだ』って思えるから。変に想像したり、思わせぶりな言動ばかりだと、勝手にその人のことを理想的な人と考えちゃうの。この人が私の運命の人ー、みたいな」


 私で言うところの、妄想しすぎた結果、久しぶりに会った時に軽く幻滅した、みたいなことだろうか。


 理想と現実は違う。

 そして恋愛は理想を追い続けてしまう。

 盲目だから、その人の本当の姿が見えなくなる。

 ひとりよがりの妄想世界。でも、私が愛し求めている世界。


「てことは、コバヤカワはヒガのことが好きだったんですか?」

「厳密に言えば、好きになりかけてた、かな。だから、その時の私が一番ドキドキすることをしたの。

 そこから嫌いになるのなんて簡単よ。好きの最高点がここなんだってわかったから。

 これ以上ドキドキしないんだなって思ったら、途端に気持ちが冷めていくの」


 私は苦いコーヒーを飲む。

 もうすっかり冷めてしまっている。

 夏とはいえ、やはり夜の外は寒いのである。


「わかる、この感覚?」

「なんとなく。おもちゃの缶詰みたいな」

「というと?」

「銀の天使5枚か金の天使1枚でおもちゃの缶詰が当たる、みたいなお菓子があるよね」

「ええ」

「私、小学生のとき、どうしてもそれが欲しくて、お小遣い全部そのお菓子に費やしてた時期があったの。だいたい一年くらいかかったけど、銀の天使が5枚集まったの」

「へー、すごい執念ね」

「えへへ。それで念願のおもちゃの缶詰が家に届いたんだけど」

「中身が大したことなかった?」

「うん。小学生の私でもガラクタにしか思えないおもちゃばっかり。あとはシールとか。ええと、だから。何が入ってるんだろうなー、って時が一番楽しかったと言いますか」


 ダメだ、自分でも言いたいことが分からなくなってる。

 でも、コバヤカワは私がいわんとすることをくみ取ってくれたようだった。


「10年ぶりくらいに開ける自分の宝箱みたいなものね。高校生になって開けた時、がっかりしたわ」

「そんな感じです」


 コバヤカワは夜空に手を掲げる。今日は満月だ。だが雲が厚く、ぼんやりとしか見えない。


「あーあ、月には餅をつくウサギも、かぐや姫も、バルタン星人もいないんだよね」

「まあ、作り話ですからね」

「つまらないわ」


 コバヤカワは続ける。


「なんて世界はつまらないの。

 どうしてつまらないことを私に教えてしまったの。

 私に本当のことなんて教えないでよ。知りたくなかったのに」


 コバヤカワの叫び。世界から認められるために教えられる、知りたくもない真実。


「知れば知るほど、嫌いになる。だから私は誰のことも好きになれない」


 達観、なんて言葉で終わらせるのは簡単である。

 でも私は、コバヤカワに教えたかった。


 想像する力さえあれば、世界を変えることができると。



「今も、宝箱ってあるんですか」

「ええ、あるけど」

「持ってきてもらってもいいですか」


 コバヤカワは、私がこれから何を行うのか理解できないまま、とりあえず私の言う通り、ガラクタの入った宝箱を持ってくる。


 その宝箱の底には、幼い字で「サツキのたからばこ」とマジックペンで書かれていた。


「……サツキ、ちゃん?」

「恥ずかしいわね。名前なんか書いちゃって」

「その宝箱を貸してくれる? サツキ」

「いいわよ。……ユウカ」


 サツキの宝箱を見て童心に戻った私たち。

 もちろん、ここに宝物を入れていた時には戻れないのだ。


 私はそれを手にするや、空に向かって投げる。

 そして、宝箱は燃え上がる焚火に落下する。


「ちょっと何してんのよ」


 私はサツキに空を見るよう促す。


「サツキの宝箱を空に投げたんですよ。ほら、ガラクタを空に撒いたら、星になりましたよ」


 いつの間にか雲が無くなり、満天の星空が私たちを覆っていた。

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