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02 フレンド その2


「要するに、私とラブコメみたいなことを演じて、ドキドキしたいだけってことですか」

「そう」

「好きじゃないけど」

「そう」

「なんだかな」

「ほら、さっきここに連れて来られるまでの間、ワタナベはどう思った?」

「そりゃ、多少なりともドキドキしてたけど」


 妄想していた理想の告白が、そのまま現実で現れたのだから。


「ね、悪くなかったでしょ」

「てか、こんな面倒なことなんかしないで彼女作ればいいでしょ。その彼女にいくらでもドキドキさせてもらいなさいよ」

「わかってないね、ワタナベ。よく聞かない? 付き合った頃が一番楽しかったという話を」


 彼は、演劇部らしくやや大げさな身振り手振りで、その真意を説明する。


「その原因は明白、自分と相手との気持ちのズレなわけ。例えば、『抱きしめてほしいー』と彼女が思っていても、彼氏はそれに全く気付かず冷たく扱われる。反対に、彼氏が彼女とイチャイチャしたいと思っている時に限って、彼女は勉強や友達同士の付き合いで一緒にいてくれない。

 いつのまにか、常態化した恋人関係。ドキドキよりストレスが溜まる相手の言動。そしてついには、ラインのたわいもないやりとりから喧嘩に発展。そして、涙涙の別れ」


 彼の演技に唖然としつつ、一理あると思ってしまった私がいた。


 というのも、こんな私でも交際の経験があるのだ。一回だけだけど。

 それは中学1年生の時である。小学校からの友達と付き合うことになったのだが、それまで友達だったからこそ気兼ねなく話せていたのに、恋人という肩書きが乗ってしまうことで上手く話せなくなってしまった。結果、二人きりでしゃべることはほとんどなく、一緒に帰っても無言の日々が続き、彼の方から別れを切り出されたのである。


 私の最初で最後の交際は、必要以上の遠慮と緊張感によって、ドキドキするどころか、何も話せずに終了。それが私が持つ唯一の恋愛エピソードである。


「いいですか、私たちがやりたかったことは何だ? そう、イチャイチャすること。隣にいるだけでドキドキする? そんなの付き合って一週間でなくなるだろ。だがしかし、お互いのことをただイチャイチャしあうだけの関係とすることで、これらの問題はすべて解決するわけ」


 ここまで意気揚々と語っていた彼だが、ふと悲しい表情を浮かべる。


「ただし、このイチャイチャする関係には問題点があります。それは、このような関係を了承する人がいるのかということ。そこで俺は、色々と聞き込みをしました。そうしたら、毎日かかさず妄想をしている女子生徒がいるじゃないですか」


 彼は、私の方に視線を向ける。


「その女子生徒が、私ってことですか。でも、あなたみたいな人となら、イチャイチャしたいって言う女子もいるでしょ」


 それこそ、私にはもったいないくらいのイケメンなんだし。


 だが、私の発言に対して、彼は難色を示す。


「面倒なんだよ。『別れたくない』とか粘ってくるし」


 あ、分かれる前提のお付き合いなんだ。

「付き合い始めの頃が楽しかった」なんて言う奴だから当然の考えか。


「それに引き換え、私は恋に恋してるから、面倒くさくないと」

「そういうこと」

「よし、わかった、なってなろうじゃないイチャイチャする関係とやらに」

「いいのか?」


 自分で提案してきたにもかかわらず、彼は驚いた表情を見せる。

 それほどに、私も変な奴だと自覚する。


 でも、今まで文字でしか表現できなかった妄想を現実で体感できるのだ。

 それもイケメンと。

 この話に乗らない手はない。



 こうして、ここに私と演劇部男子との奇妙な契約が成立する。



「ええと、さっきまでの会話から私の名前を一方的に知っているようだけど。あなたの名前を知らないから教えてよ」

「俺は、比嘉守(ひがまもる)。2-Cで演劇部に所属してる」

「一応私も。2-Dの渡辺優香です」


 チャイムが鳴る。


「今日はこの辺にして、また明日からにしますか。このイチャイチャする関係を」

「一ついい?」

「なんだ?」

「ずっと気になってたんだけど、イチャイチャする関係って名称どうなの?」


 言いにくいし、非常に恥ずかしい表現である。


 どうやら、そうした感覚は主も持っていたようで、思案気な様子になる。


「なんかいい案はあるの」

「そーだねー。……じゃあ、こういうのはどう?」


 意気揚々と私は言う。


「フレンド」

「フレンド、ねぇ」

「そうフレンド。ガールフレンドだってフレンドの一つでしょ」

「でも、ガーフレンドだと恋人って意味になるぞ」

「それは英語としての意味でしょ。もちろん、恋人の意味もあるけど、単純に女友達っていう意味にもなるでしょ。そういう意味では、都合いいでしょ?」

「確かに、都合はいいな。曖昧だし」

「曖昧だよ、煩わしい人間関係に縛られたくないし」

「でも、友達の時と恋人の時はどうやって区別するんだ?」

「簡単よ。友達の時は名字、恋人の時は名前で呼び合えばいいのよ」


 友達として接する時は、ヒガ。

 恋人としてイチャイチャする時は、マモル。


「じゃあ、また明日。ユウカ」

「うん、また明日。……マモル」


 自分で提案したのもなんだが、非常に照れる、顔が熱い。


「一応言っておくけど」


 ドアノブに手をかけた状態で、ヒガは言う。


「ガールフレンドって言葉には、肉体的な関係を持つことも意味してるけど知ってた?」

「え、そうなの」

「ま、その点は心配しないで」

「どうして?」

「だって、そういった性的欲求は、全部セフレで解消してるから」

「は?」


 ヒガは部屋を出る。部室に残された私。

 今、セフレいるって言ったよね。

 恋愛関係が嫌だっていうのは、もしかして、いろんな女子と遊びたいだけなんじゃないの?


「ちょっと、まちなさいよ」


 全力でヒガを追いかける。だがしかし、どこにも姿が見当たらない。

 やれやれ、明日またこの部室に来るしかないようである。


 こうして、私は比嘉守とフレンドとなった。

 ただし、それはちょっと、いや、だいぶ特殊な形の友達ではあるが。


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