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17 夏休み


 蝉が鳴く7月下旬。

 絶賛、夏休み期間である。


 失恋でできた傷を埋めるためにマモルを利用した私。

 あの夜の自分は、自分ではない。

 そう言い聞かせないと死んじゃいたいくらい、恥ずかしい。


 フラッシュバックする記憶。



◇◇◇◇◇


「マモルー、好きー」

「私は、マモルにとって都合のいいフレンドなの」

「だからマモルは、ただドキドキしてればいいの」

「……マモルのお願いだったら、なんでも叶えてあげるから」


◇◇◇◇◇



 私、何てことを言ってしまったのだ。

 あの日から、たびたび思い出してしまう。

 マモルの、恥ずかしそうな顔。

 マモルのぬくもりと優しさ。

 そして何より、マモルに甘えている私の言動。






「あああああああぁぁぁぁ!!!!」

「どうした!?」

「終わった……」

「何がよ」

「夏休みの宿題」

「マジか」


 現在、演劇部部室。

 私の発狂に心配して声をかけたのは、文化祭で歌う曲を作っていたマキである。


 私はマモルのことを考えないようにするために、他のことに集中した。

 そしてその対象は、夏休みの宿題である。

 で、わたしは夏休みが開始して1週間で終了させたのである。


「なんか、仕事ある?」


 私はメグミに問いかける。


「いちおう、文化祭の衣装づくりがあるけど。でも、まだ時間に余裕もあるし」

「作る。やり方教えて。早めにやっといて損はないでしょ。それに、夏休みの宿題が終わって暇だし」


 あの夜のことを思い出したくない。

 妄想みたいなイチャイチャをしてしまったのだ。

 本当に、死ねる。


「それよりいいの?」

「何が?」

「ユウカさ、夏休み入ってから、毎日ここにいるけど。それも、朝から夕方までずっと。昼飯も妄想ツイートもしないで宿題やってたし。せっかくの休みなんだし、楽しみなよ」

「ベンキョウ、タノシイ。ハハハハハ」

「ダメだ。ユウカが正気じゃない。そうだ! 今日って花火大会でしょ。なんなら、私とユウカとメグミの3人で行こうよ」

「絶対に、ダメ」

「何でよ?」

「知り合いに会っちゃうでしょ」


 今日、花火大会があることくらい、私だって知ってる。

 しかし、そこに行くわけにはいかない。

 なぜなら、そこにはハルとタケルがデートしているからである。


 万が一、遭遇した時を考えてみろ。せっかく、イイ感じのムードになってはずが、一瞬でいつもの3人になってしまう。

 そして、二人ともたわいのない会話しかしなくなってしまう。

 なにより、その場に居合わせてしまった場合、私が一番きまずい。


 それから、マモルとコバヤカワもデートをしている。


 マモルとは、私がお泊りをした日以来、会ってていない。


 私が完全に意識してしまっているのだ。


 マモルから誘われたらどうしようと思っていたが、杞憂に終わる。

 

 ラインでは、何回かやりとりしている。

 だが私は、マモルからメッセージがくるたびに、恥ずかしい気持ちを隠すため、バカとか死ねとかの罵倒した返信しかしていない。


 もちろん、花火デートなんて恥ずかしくてできない。



◇◇◇◇◇◇◇◇


「どう? 浴衣で来たんだけど」

「……」


 マモルが珍しく照れている。

 私もそんなマモルの表情を見て、恥ずかしさがこみあげてくる。


 で、しばらくたってようやく、


「可愛い」


 とだけ、こぼす。


 私は、もっとマモルを照れさせることにする。


「キラキラーン」


 両手をピースにして、頭の上で八の字をつくる。


「伝われ、この大好きの気持ち」


 そして、ピースサインに気づいて―。


 もちろん、マモルは私のサインに気づいて、抱きしめてくれる。


「ほんと、ユウカ可愛すぎ」


 しばらくハグをして、名残惜しむように離れる。

 でも、二人の距離が近い。


「なに?」

「ん?ハグしてる間、ユウカの顔が見れなかったから、見てるだけ」

「もぅ、早くしないと花火始まっちゃうよ」


 私はマモルの手をとり、先を歩く。

 今は、マモルにも見せられないくらい、ニヤけてしまっている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 少しでも油断すると、マモルとの妄想が始まってしまう。

 てか、妄想世界のマモルがイケメン過ぎるのだが。


 久しぶりに、声を聞きたいな。



◇◇◇◇◇◇◇◇


「もしもーし」

「もしもし、ゴメン。今日、仕事が終わりそうもなくて」


 マモルの申し訳なさそうにしている顔が、電話ごしからでも伝わる。


「デート、楽しみにしてたんだぞ」

「まじでゴメン。絶対、この埋め合わせはするから」

「いいよ。家で待ってるから」

「帰るの夜中になるぞ?」

「だって、マモルとイチャイチャすること考えてたから、寝れるわけないじゃん。今日だって、朝からずっとドキドキしてたんだよ。

「俺もだよ。

「ねえ、キスしてもいい?」

「いいぞ」


 お互いにスマホ越しにキスをする。


「えへへ、後でいっぱいしよーねー」

「だな。……愛してる」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 なんか、年齢重ねてるし、同棲してない?

 都合のいいフレンドはどこへやら。


 まあ、いい。

 マモルが家に帰ってきてからの妄想に進もう。



◇◇◇◇◇◇◇


「マモルって、なんでそんなキスが上手いの?」

「そうか?」

「うん。他の人としてきたから?」

「それもあるけど、少しでもユウカにドキドキして欲しいって思ってるからかな?」

「うれしい。じゃあ、もう一回」


 お互いの唇を這わせ合う。


「ダメぇ、マモルのキス。キスのこと以外考えられなくなっちゃう」

「まだ足りない」


 何度もキスをする。

 マモルが何度も私の唇を甘く噛みしめる。


「好きぃ、ハムハムされるの好きぃ。もっとハムハムして」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 とまあ、このような妄想がエンドレスに浮かんでしまうため、夏休みの宿題などで気を紛らわせていたのである。

 本人と会ったら、どうなってしまうのか。好きすぎて怖い。



 私は、意識を衣装づくりに向ける。


「てか、この衣装でどんな舞台をやるの?」

「え、やらないよ」

「じゃあ、これは何の衣装?」

「謎解きで使うやつ」

「どうしてそれの衣装を演劇部が」


 メグミが言うにはこうらしい。


 まず、文化祭というお祭りにおいて、わざわざ30分以上の演劇を見に来ている人はいない。

 例年、演劇部の観客はクオリティに対して少ないのである。

 それに、演劇をするクラスもある。

 そのため、演劇部のような本格的な演技は行わないことになったのである。


 しかしながら、何もしないというのもなんだか味気ない。

 そんなところに、クイズ研究会から協力の要請が来たのである。

 というのも、クイズ研究会は、大がかりな謎解きを計画しており、絶賛その問題を作成中らしい。

 だが、せっかく問題を作っても雰囲気が作れなければ、味気のない簡素な謎解きになってしまう。

 そこで演劇部に白羽の矢が立ったというわけである。


 要するに、演劇部が単なる謎解きに演出を加えて、臨場感ある舞台にしたてあげるのである。

 そのために、衣装や小道具などの作成を演劇部が協力することになったのである。


 で、その衣装をこれからメグミと作る。


「二人でできるんですか?」

「まあ、去年は15人分の衣装をメグミ1人で作ってたから大丈夫だぞ」

「ほんとうですか?」

「うん、だから今の時期は余裕があるって言ったでしょ」

「なるほど、説得力ありますね」


 こうして、衣装を作る目的がわかり納得したところで、私とメグミは衣装作成にとりかかる。


 で、二時間後。


「ああ、ちょっと休憩」

「どうぞどうぞ、私はキリのいいところまでやっちゃうから、先に休んでで」

「そうさせてもらう」


 集中力を使い果たして疲労困憊の私に対して、終始鼻歌まじりで衣装を作成しているメグミ。

 キリのいいところと言っていたが、それは一着作り終えることを指していた。あとはボタンを縫い付けるだけである。


「お疲れー」


 マキは、文化祭で披露するための曲の作詞をしていた。

 他のバンドは大抵、名曲のカバーするのだが、マキはそれなら自分が歌う意味がないという持論があるらしく、イチから曲を作成しているのである。

 ま、メグミいわく、すべてが妄想恋愛ソングなのだそうだが。


「今回も、恋愛ソング?」

「今回もとかいうな。まあ、恋愛ソングだけど」

「妄想で書いてるんでしょ。すごいよね」

「ユウカも、妄想ツイートしてるだろ。それと一緒だろ」

「私のしてる妄想は直接的な表現しか使ってない、陳腐なやつだよ。マキみたいに、詩的な文章なんて書けないよ。……ハムハムだし」

「ハムハム?」

「それは、まあ、いいでしょ」


 私が妄想するような、「ハムハム好きぃ」なんて歌詞があったら、恥ずかしくて聞いてられないだろう。


「てか、今回は妄想じゃないんだよね」

「え、もしかして」

「ああ、運命的な出会いをしたんだよ」


 それは、先週、マキがフェスに行ったときのことである。


「どうしても見たいバンドがあったから、一人でフェスに行ったんだよ。

 で、そのバンドが登場する1時間くらい前にゲリラ豪雨が始まって、とりあえず雨宿りしたわけ」



◇◇◇◇◇◇◇


「あーあ、これじゃあ中止かな。せっかくきたのに……。」

 服もびしょ濡れだし、最悪」

「あの」

「えっと、私ですか?」

「そう、びしょ濡れの。ほら、このタオル使って。風邪ひいちゃうよ」

「ありがとうございます」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「その人は、たぶん大学生の人で、土砂降りなのに爽やかな顔してたぜ」

「見知らぬ人にタオル貸してくれるなんて紳士だね」

「そうだろ。この時点でちょっとドキドキしてさ」



◇◇◇◇◇◇◇◇


「あれ、これって、××のタオルじゃないですか」

「知ってるの?」

「はい、というか、今日はこのバンドを見に来たんですよ」

「マジか。いいよな××」

「でも、この雨だと見れそうにないですよねー」

「だなー」


 やば、会話が途絶えた。

 どうしよう、私つまらない女って思われてるよね


 雨の音だけがする。

 一向に雨は止む気配がしない。


 とりあえず、このタオル返さなきゃ。


「あの、タオルありがとうございました」

「……ちょっといい?」


 男は、返されたタオルをマキの髪に乗せて、ワシャワシャし始める。


「きゃ」

「髪、まだ濡れてるぞ。拭いてやるから、ちょっと我慢してろ」


◇◇◇◇◇◇◇◇



「マジ!?」

「マジだって。その時、『わぁー、わぁー』ってなって。この人好きだって気持ちになったの」

「うんうん。分かるよその気持ち。そういうのをさりげなくできる男にキュンときちゃうよね」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 しばらく、なされるがままに髪を拭いてもらう。


「よし、だいたいこんなもんだろ。晴れたら服も乾くだろうし」

「拭いてもらって、ありがとうございました」

「いいって。てか、××で何聞いてるの?」

「私はこの曲です」

「じゃあ、今から聞かない? 俺、スマホに全曲入れてるから」


「はい」と、イヤホンの片方を渡される。


「どうした?」

「いえ」


 照れてるのがバレないように、すぐさまイヤホンをつける。

 その時、どんな曲がどんな順番で流れたかなんて記憶にない。


 気が付いたら、空が快晴になっていた。


「晴れましたね」

「ああ。じゃ、俺は友達のところに戻るわ。あいつら、持ってきたテントにいると思うから」

「はい。あ、このタオル」

「やるよ。ここで会った記念に。またな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「その時のタオルというのが、これです」

「名前とか書いてないの?」

「確認してけど、書いてなかった。あーあ。連絡先でも聞いておけばよかった。恥ずかしくて聞けなかったのが悔やまれる」

「どうせ、彼女がいるってオチよ。綺麗な思い出のままにしておきな」


 いつの間にかボタンの縫い付け作業を終えたメグミが、マキの思い出に水を差す。


「そんなのわかんないだろ」

「相手、大学生くらいだったんでしょ。フェスにくる若い男子なんて、大概彼女持ちだって。それに××ってバンド、女子に人気なんでしょ」


 メグミは、理路整然とマキの恋する相手に彼女がいることの証拠を並べていく。

 おっとりとした見た目とは裏腹に、ズバズバとした語り口である。

 実はメグミって、闇が深かったりするのだろうか。


「ええと、メグミは、今好きな人とかいるの?」

「いないよ。男なんて、女のことを性的にしか見てないんだから」

「そんなことは」

「紳士的な素振りを見せてる奴も、最終的には私の胸が目的だから」


 結論、マキは見た目に反して純粋。メグミは見た目に反して闇が深い。

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