16 会いたい
最終日。
「大丈夫?」
目が腫れている状態の私を心配そうにのぞき込む、目が腫れているハル。
「大丈夫だって、だから幼馴染と二人で行ってきなよ。私は演劇部の人と行くから」
「そう?」
「告白して終わりじゃないんだぞー。ここからが大変なんだから」
経験者は語る。
とりあえず、照れて話せなくなるのが一番ダメである。
そのことだけは知っている。
でも、
ホテルを去るハルとタケルは、和気あいあいとしゃべりながら外に出る。
私が心配する必要はないのである。
さて、しばらくここにいますか。
先生には、体調が悪いと申告して、しばらくホテルに留まることにした。
ハルには申し訳ないが、昨日の今日で傷が癒えることは不可能である。
マキやメグミと一緒に行動することなく、一人で寺社仏閣を回ることにする。
金閣寺。
うーん、遠いな。
金色で派手なイメージだったが、いくらなんでも遠すぎるだろ。
これじゃ、教科書で見るのとなんら変わらない。
風情?周りに観光客めっちゃいますけど。外国人の観光客がいたり、私たちみたいな学生が騒ぎ立ててますけど。
清水寺。
「清水の舞台から飛び降りる」なんて言葉があるけど、実際に飛び降りても死ぬ確率は低いらしい。
……これ以上いると良くないことばかり考えしまうから離れよう。
清水寺近くの地主神社。
恋愛のおみくじをひく。
結果は、小吉。
いや、こういう場所のおみくじは全部大吉にして気分よくさせてよ。
なんでこんなにシビアなわけ。
でも、凶じゃなかっただけマシなのかな。
恋占いの石。
恋愛パワー、ではなく妄想パワーをいただくため、挑戦することにした。
目を閉じて歩き出す。
普通、一人が挑戦して何人かが危なくないように見るのだが、傷心している私には関係ない。
だが、そのまま歩いていても誰ともぶつからなかった。
なんだか、急に寂しさがこみあげてくる。
騒がしいのに、独りぼっちなのだ。
おそらく、周りの人が私にぶつからないように避けてくれているのだろう。
そのように、気を遣われている感じが堪らなく辛い。
結果的に、ゴールの石まで目を閉じたまま到着することができたが、そこで得たのは達成感ではなく虚しさであった。
京都駅に集合する。
私は早めに集合して、京都駅にあるお土産屋で時間を潰すことにした。
たまたま、マキとメグミが早く京都駅に集合していて幸いだった。
私の事情を理解した彼女たちは、アリバイ工作に協力してくれた。
そして、帰りの新幹線。
「私、寝るね。一日中歩き続けてたから疲れちゃった」
ハルにそれだけ言って、私は眠ることにした。
嘘はついていない。体全体が疲労していることは事実である。
でも、脳がタケルについて考えさせ続ける。
だから、東京につくまで眠ることはできなかった。
で、いつもの駅まで私とハルとタケルの三人で帰る。
二人はそこからバスで帰るためここでお別れである。
今日ばかりは、自分だけが電車通いなのが有難かった。
私は二人を見送る。
たまらないほど、人恋しい。
どうにかなってしまいそうだ。
……会いたい。
私は携帯を取り出し、電話をかける。
「もしもし」
相手が応答する。
どうしたものか、急に恥ずかしくなってきた。
「……」
「どうした?」
絞りだすように、一言。
「……会いたい」
ヒガが私の前に現れたのは、約10分後。
2本あとの電車に乗っていたようだ。
「情けない顔してんな。無事、失恋ってところか。どうやら、親友と幼馴染が付き合うことに……」
私は1のポーズをする。
うるせー。何も聞くな。
黙って、手を繋げ。
そのような意味を表情とともに示す。
私が伸ばした手に、ヒガが自分の手を重ねる。
「これじゃない。恋人繋ぎ」
「はいはい」
わがままな私の要求も、ヒガは受け入れてくれる。
なぜなら、今の私たちは恋人だからである。
すっかり夜の風景である。
そういえば、ヒガとこの時間に一緒にいるのは初めてである。
いや、同じ屋根の下で一夜を過ごしたことはあったか。
「決めた」
「なに?」
「マモルの家に泊まる」
「え?父親は出張だし、母親も今日遅くなるんだけど」
「だから? 変なことでもするの?」
「するかよ、バーカ」
やっぱり、ヒガはなんやかんやで紳士である。
「だったらマモルの家に泊まっていいでしょ。……ダメ?」
「わかったよ。このまま家に帰らせても、ラインでダル絡みされそうだし」
それから、バスに乗る。
ヒガの家につくまで何もしゃべらなかった。
ただ二人の手だけが結ばれ続けていた。
マモルの家の中。
「ただいまー」
「おじゃま、しまーす」
「やっぱり、誰もいないな」
暗い部屋が、家に誰もいないことを主張していた。
ヒガが電気をつけようとする。
が、私はそれを阻止する。
そして、ヒガをソファーに押し倒す。
カーテンが開いていたため、暗闇といってもシルエットくらいは見える。
「マモルー、マモルー」
「何?」
「ぎゅ」
私は手を広げてハグを要求する。
ピースサインなんてしない。
そんな照れ隠しは必要ない。
ヒガは、上に乗る私を覆うように手を回す。
「マモル、好きー」
「ああ、俺も好きだよ」
「名前で呼んで」
「好きだぞ、ユウカ
「私の方が好きー。ぎゅー」
私はヒガを強く抱きしめる。
ヒガは、私に抱きしめられたまま起き上がる。
私とヒガは、ソファーに座った体勢となる。
それでも、私は抱きしめ続ける。
「ワタナベ。何があったんだ」
カーテン越しからの僅かな光によって、ヒガの表情が読み取れる。
そこには、ドキドキした表情もあったが、それ以上に心配の表情が見れた。
「優しいね」
「急に呼び出して、家に泊まりたいって駄々こねて、恥ずかしいセリフ言って」
今ならまだ間に合う。
「失恋して人恋しかったんだよー」なんておちゃらけて見せればいい。
それで電気をつけて、ヒガから「もう一回さっきのやる?」なんてからかわれて。
そうすれば、いつも通りの私に戻るんだ。
でも、
「今日だけは、今日だけは何も聞かないで」
「そうはいっても」
唇をヒガの耳に近づける。
「いけないんだぞー。弱ってる女の子に優しくするのは。
「……」
「私はマモルにとって都合のいいフレンドなの。
「……」
「マモルは、ただドキドキしてればいいの。……マモルのお願いだったら、なんでも叶えてあげるんだから」
ガチャ
鍵が勢いよく開錠され、ドアが開けられる。
「ただいまー。あれ、まだマモルは帰って来てないの? 久しぶりに会えると思ったのに」
ヒガママは部屋の電気をつける。
その視界には、ヒガと私が気まずそうにソファーの端々に座っている姿が映る。
「ええと」
「お、おじゃましてまーす」
「ううむ?腫れた目、乱れた髪の毛。暗かった部屋。……なるほど、別れ話に発展して、どうせ別れるならって、マモルがヒロを襲おうとしたんだな」
「どうしてそういう結論になる」
「それ以外に何があるのよ。女の子泣かして」
「いや、泣かせてなんか。……なんで、泣いてんだよ」
私は泣いていた。
ただただ自分が情けなくて泣いていたのだ。
「うう、それはユウカちゃんの気持ちもわかる。許可するわ。マモルでその傷ついた心が癒されるならいくらでも使ってね」
「おい、人を慰めるための道具みたいに扱うな。自分の息子だぞ」
「知りませーん。女の子を泣かすような男に育てた覚えはありませーん」
一緒に食事をいただくことになり、私はヒガママにハルとタケルのこと。それから、自分の思いを語った。
途中、何度も泣いてしまった。
ヒガママも一緒に泣いてくれた。
ヒガはというと、一滴も涙を流さず、ただ黙って聞いていた。
ただ、私とヒガとのフレンド関係を知っていたことには、驚いていたようだけれど。
「いい、私からアドバイスできることは一つだけ」
「なんでしょうか」
「恋でできた傷は、恋でしか癒すことはできないわ。これは、私の経験談よ」
「めっちゃ参考になります。」
「だから、新しい恋を見つけてね」
「はい」
「なんなら、マモルでもいいからね」
ちらりと横を見る。
「あいにく、俺には拒否権がある」
「みたいです」
「ま、そんなこと言って、あとから私のことを好きになった奴なんて、何人いたことか」
それから私は、ヒガママから恋愛のいろはを教わることになった。
で、就寝の時間。
「なんで俺の部屋なんだ。前みたいに、変なことをしてもすぐに気づけるように、リビングに布団を敷けばいいだろ」
「まあ、いいじゃない」
「なんだよ、それ」
ヒガママの一方的な提案によって、私はヒガの部屋にあるシングルベットで寝ることになった。
もちろん、ヒガと二人で。
「すぐ寝るからな。母親は冗談で言ってるだけだからな。今頃、リビングで地獄耳を立ててるに決まってんだから」
「わかってるって」
少しでも動くとヒガに触れてしまう。
それくらい近い距離である。
ヒガが電気を消す。
リモコンを天井のライトに向け。顔もそちらに向ける。
「隙アリ」
電気が消えた瞬間。私はヒガの頬にキスをする。
「何を!?」
「情けない顔しちゃってー。えーい」
慌てるヒガに蹴りを入れて、ベッドから退場させる。
「痛って、なにすんだよ」
「べー」
私はあっかんべーをする。
目は腫れて痛いので、舌だけだして。
今日は、よく眠れそう。
ありがとね。……マモル。




