15 修学旅行 その2
鍵を使って開錠する。
「ここ」
「ここって、ユウカの部屋?」
「そう、とりあえず、入って入って」
私は無理矢理押し込む形でタケルを部屋に入れる。
そして扉を閉める。
これで、部屋の中にはハルとタケルだけ。
外から開ける方法は、私が持つ鍵だけである。
ふと横の部屋を見ると、わたしのことを手招きする女子たち。
昨日、人狼をした女子たちである。
私は招かれたままに、そっちの部屋に入っていく。
「今、部屋に入ったのって、オオクボ君でしょ。てことは、ハルと二人きり?」
「そう」
「わー、なんかこっちが緊張する」
「全然隣の部屋の音聞こえないんだけど」
私たちは隣の部屋で何が行われているか、それだけに興味津々である。
昨日の人狼最中や質問攻めをしていた時と違い、誰一人しゃべることをやめる。
「あ、タケルが出てったよ」
時間にして5分ほどであろうか。
タケルが外に出て、階段を上ったらしい。
だがしかし、おかしい。
それからしばらく待っても、ハルがこっちの部屋に来ない。
前日、告白し終わったら、そっちの部屋に行って報告すると言っていたのだが。
「まさか、振られた?」
「いや、そんなはずないでしょ。ねえ、ユウカ」
「そうだよ」
タケルは、私にハルのことが好きだって言ったのだから。
断るはずがない。
「ちょっと、ユウカ見てきてよ」
「え、なんでよ」
「親友でしょ。多分、告白が成功して、そのうれしさで悶えてるだけだから」
不安が蔓延するこの部屋から出て、私は隣の部屋に行くことになった。
鍵を開け、中に入る。
そこには、目を赤くしているハルの姿があった。
うそでしょ。
何が起きたかわからないが、とにかく落ち着け。
こういう時は直接的なことは言わずに慰めるしかない。
「ええと」
ダメだ、何言っても地雷な気がしてならない。
ええい、こうなったら聞いてしまえ。
「どう、だった?」
すると、泣き顔を浮かべていたハルが笑顔を見せる。
そして、
「タケルと付き合うことになりました」
「よかったー。てっきり断られたのかと」
「なんでよ」
「そりゃ、泣いてるんだもん。断られたかもって想像しちゃうでしょ」
「ごめんごめん。安心したら、さ」
私はハルを抱きしめる。
「ありがと、ユウカ。あなたのおかげ」
「そんなことないよ。ハルが頑張ったからだよ。ほんっとに、おめでとー。
ずっと聞いてたから、タケルのことが好きだって。
好きだけど幼馴染みたいな関係になっちゃって、そこから一歩踏み出すのが怖かったって」
「うん」
「高校生になってもその関係のままで。どうにかしたかったけど、この関係を壊したくなかったって」
「うん」
「頑張った、頑張ったよ。ハル」
「ダメ、また泣いちゃう」
「いいだよ。泣いたって、やっとこの恋が実ったんだから。苦しかったよね。辛かったよね」
「うん、うん」
涙声になるハル。体が震え感情が吐露する。
「最初に会った時から分かってたよ。あ、ハルはタケルのことが好きなんだって」
「そうなの?」
「そうだよ。ハルってわかりやすいから」
「えへへ。……あのさ」
「何?」
「もうちょっと、このままでいい?」
「いいよ」
私はハルが泣き止むまで抱きしめることにした。
喜び。そして不安からの解放。
「ごめんね」
不意にハルが言う。
意味がわからない。
「何が?」
「ごめんね」
「だから何よ」
「知ってたの、ユウカの気持ち」
「え?」
「だから、ごめんね」
知っていた。私もタケルが好きなことを。
だから、ごめんね?
「そんな。そんなこと言わないでよ」
「ごめんね」
「だからやめてって」
なんでこんなに優しいのだろうか。
涙がこぼれる。
「いまは、素直におめでとうって言わせてよ」
「ごめん」
ハルは私に謝り続ける。
「私は、タケルのことが好きだよ。でも、ハルのことも好き。そして、二人と一緒に過ごすのが何よりも好きなんだよ。だから、ありがとうだよ」
涙とともに感情も溢れる。
止められない。
「こんな私と一緒にいてくれてありがとう」
「うん」
「普段、妄想ばっかりして、その話に勝手に付き合わせたのに、一緒になって話してくれてありがとう」
「うん」
「幼馴染のことを好きになっちゃったのに、そんな私も好きでいてくれてありがとう」
「うん」
「私と、私と」
涙で視界はぼやけるし、嗚咽で上手くしゃべれない。
こんなつもりじゃなかったのに。
「私と友達になってくれて本当にありがとう」
「こちらこそ、本当にありがとう」
私たちは涙が枯れるまで泣いた。
ハルの恋が成就したことを祝福し合って。
そして、私の失恋を慰め合って。
隣の部屋に行き、ハルが付き合ったことを報告する。
「付き合うことになった」と言った直後、大歓声とともにハルを取り囲む。
「おめでとー」
「泣いてるからてっきりダメかと思ったよー」
「ありがと、みんな」
ハルは女子たちに抱きしめられる。
「てか、なんでユウカも泣いてるのよ」
「もらい泣きです」
「でも、その気持ちわかるわ。自分の娘が嫁に行っちゃう感覚だよね」
流石にそこまでではないし、流した涙の半分は、失恋による涙だし。
「どんな感じだったの? なんて言って告白したの」
ある女子が、ハルに質問する。
そういえば聞いてなかったな。
でも、
「あれ、ユウカ帰っちゃうの?」
「うん、散々泣いて喜びを分かち合ったから。はー、安心したら急に疲れちゃった」
「そう、お休みー」
「うん、お休みー」
部屋に入る。
鍵は、ハルに渡してあるから、心置きなく寝ることができる。
隣の部屋では、根掘り葉掘り聞かれているのだろう。
いつもの私なら一言一句聞いて、そこから妄想を膨らませるのだろうが、今日はできる気がしなかった。
今の私には、ハルの惚気話を聞けるまでには、失恋の傷が癒えていないのである。
なんでかな。
枯れたはずだったのに、また涙が出てくる。




