14 修学旅行 その1
修学旅行である。
場所は奈良と京都。2泊3日。
新幹線内。
うちの生徒だけしか乗っていない車両は、およそ2時間の車内を各々のやりかたで過ごしていた。
無難にトランプをする者がいれば、10人ほどが集まって人狼をやったりしている。
私とハルは、SNSで京都のおすすめスポットを検索し、明日の自由行動でどこに行くのかを相談する。
それとともに、告白する計画も立てる。
「ううー、胃が痛い」
「前日の段階からそれで大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ、ないよ」
決行日は明日である。
今日のところは、純粋に修学旅行を楽しむつもりだ。
告白することを宣言したハル。
私はそれを全力でサポートする。
ハルのため。そして何よりも、私のタケルに対する思いを忘れるために。
タケルがいるグループに目を向ける。
彼らは、トランプタワーの建造に勤しんでいた。
新幹線とはいえ、多少の揺れがあるスリリングな環境なため、異様な盛り上がりを見せていた。
だが、私にはいかんせん何が面白いのかはわからない。
無事、新幹線は奈良に到着。
そこからバスに乗り換えて、現在は奈良公園にいる。
今日は、奈良公園や東大寺などをみんなで回る。
その後に宿泊するホテルに向かう。
現在、私とハルは、奈良公園で鹿に囲まれながら計画の続きを話している。
「で、そのホテルで告白するから、どこで告白するかを探検するの」
「なんで、ホテルなの? 明日の自由行動の時でよくない?」
「自由行動の時って、私とハルとタケルの三人なんだよ。私はどうしたらいいわけ」
「そうだけど」
「やだよ。カップル成立した後も一緒に行動するの。それに、夜のほうがムードが出ていいでしょ」
「じゃあ、ホテルで告白できそうなところ探すよ。一緒に来てね」
「もちろん」
予定としては、告白するのは、明日。
まず、京都の自由行動でそれっぽい雰囲気を作ってから、夜に告白。
で、無事成功して、翌日は二人きりで自由行動をさせるという作戦である。
一人きりになった私は、マキやメグミと一緒に行動すればいいだけだし。
「あ、タケル」
「えっ」
「よう」
男子グループから抜け出したタケルが、私たちのところに寄ってくる。
ハルとタケル。お互い目も合わさず、沈黙が続く。
こんな調子で大丈夫なのか。
「見てみて」
私はそんな状況を壊すため、鹿せんべいを口にくわえて、鹿に与えることにする。
「ほら、二人とも早く写真撮って。ファーストキスが鹿なんて嫌だよ」
「わかったからちょっと待って」
「急げ急げ」
ポッキーゲームよろしく、むしゃむしゃとせんべいを食べて、私の唇に触れようと進行する鹿。
ハルとタケルの二人は、そんな私の滑稽な姿を撮影する。
「さ、写真も撮れたことだし、東大寺に行きましょ」
「うん」
「そうだな」
とにかく、私が今できることは、二人が自然に会話できるよう誘導してあげることだ。
奈良の観光が終わり、一同はホテルに向かう。
そして私とハルは、ホテルの部屋で荷物を置く。
「うーん、告白できそうな場所、ないね」
そうなのである。そもそもホテルは宿泊施設なので、どうしても人目についてしまう。
一応、屋上が休憩所として開放されているが、そこはカップルたちが占領するに決まっている。
「やっぱり自由行動中に告白するしか」
「……できるの?」
「でき、る、よ?」
「自分から人気のないところに連れ出せるの?」
ハルは、頬を赤らめながらうつむく。
「ほら、想像しただけでもそんな恥ずかしがってたら無理だよ」
「はい」
「となると、……よし! この部屋にタケルを連れてくるわ」
「えっ」
「そうすれば、自然と二人きりになれるし、告白するしかなくなるでしょ」
私たちの部屋は二人用であるため、私さえ部屋から出れば、ハルの告白を邪魔する者はいない。
就寝時間の10時までは、男女ともお互いの部屋を行き来することができる。
まあ、そんな行為ができるのは限られた人間にしか許されないことなのだが。
具体的な方針が決まったところで、私たちは荷物から洋服やらシャンプーやらを取り出し、お風呂場へと向かう。
お風呂で体をリラックスさせ、バイキング形式の食事を楽しんだ。
今日ばかりは、先生たちによる長い話も許せてしまう。
お風呂も広かったし、食事もおいしいし、今のところ最高の修学旅行である。
ただ、女子づての噂でメグミの体がすごかったらしいことを聞いた。
明日は、ハルの告白が何よりも優先であるため、諦めるしかない。
せっかくのチャンスを逃してしまった。悔やまれる。
「今日、処刑されるのは、あなただ」
「えー、なんで私なのよ。全然、信じてくれないじゃん」
食後、就寝までの時間は自由時間である。
私とハルはクラスメイトの女子が集まる部屋にお邪魔して、人狼を楽しんでいる。
気になってたんだよね、新幹線でやってるの見て。
全員で9人集まっている。
オーソドックスな人狼をやるには最適の人数らしい。
「最後の人狼が処刑されたため、市民陣営の勝利」
「わーい」
「やっぱり、人狼じゃんかー」
ワイワイ大盛り上がりである。
「しかし、これでいいのかね」
不意に、一人がそう語る。
「何が?」
「だって、修学旅行だよ。私たち女子だけで人狼やってていいの?」
「彼氏なんていないし」
「くー、カップルは屋上で星空でも眺めてるんでしょうね。」
「『綺麗だね』『お前の方がきれいだろ』ってか、はー」
「じゃあ、恋バナでもしますか」
そんな流れで恋バナをする展開となった。
私の持ってる恋バナといえば、
中学生の時に付き合って、それから一言も話さずに別れた、苦い初恋の思い出。
それから、フレンドの関係。今は休止しているけど。
前者は大したことないエピソードだし、後者は絶対に言えない。
しかし、こういった恋バナの場面で何も話さないというのは、興が冷めるというものだ。
そこで私は、恋に飢えたハイエナたちに餌を投下する。
「あ、そうだ。明日、ハルがタケルに告白するって」
瞬間、女子たちの視線がハルに向かう。
ハルは、なんで言っちゃうの!?みたいな表情を浮かべているが関係ない。
どうせ明日にはバレるのだから。
ハイエナたちからの質問攻めにあうハル。
明日はさらに質問攻めにあうのだろうな。
こうして、恋バナは終始ハルのタケルに対する思いを聞く時間となった。
最後に、このことは誰にも言わないように誓い合う。
ここ数か月、ずっと見守ってきた私たちである。野暮なことをする人は誰もいない。
翌日。
私とハルとタケルの三人は、自由行動をする。
寺社仏閣を回るのは明日にして、今日はとにかく楽しいスポットを巡ることにした。
清水寺とか金閣寺とかは、明日二人で見て欲しいという配慮である。
そのため、忍者村や、SNSで人気沸騰中のお店でお昼を食べた。
とにかく私は、ハルが告白する時の緊張を緩和しようと、タケル耐性をつけさせた。
もしかしたら逆効果だったのかもしれない。
それでも、楽しい自由時間を過ごすことができた。
後は告白するだけである。
夜。
「いい? これからタケルのこと呼んでくるからね」
「わ、わわ、わかった」
「緊張しすぎ」
「だって」
「絶対に、大丈夫だって。1年の時から一緒の私が言ってんだよ」
「うん、ありがと」
それでも緊張して体が硬くなっている。
その緊張感が私にまで伝わってくる。
これが、恋をしている女の子なのか。
緊張と、恥ずかしさと不安を抱えながら、それでも今までの関係性から変わるために勇気を出すのである。
私はハルを抱きしめる。
「うう、苦しいよ」
「ちょっと我慢してよ。いま、私がパワー送ってんだから」
勇気を与える。
いや、違う。私の思いを。タケルに対する私の思いをハルに託しているのである。
私は自分勝手な人間だ。
タケルがいる部屋を尋ねる。
そこでは男子たちが人生ゲームをやっていた。
「ちょっと、タケル借りてもいい?」
「おっ、告白かー」
「なんだよ、ゲームじゃなくてリアルの人生で勝者なのかよ、くそ」
「あ、応援団でタケルと一緒にいた子じゃん」
私はタケルの手首をつかみ、部屋から連れ出す。
私の知らない人もいたことから、おそらくサッカー部の人たちだったのだろう。
なぜか、私が告白すると勘違いされてしまった。
その空気に耐え切れず、すぐにタケルを連れて行く。
「なんだよ」
「……」
「どこに行くんだよ」
私はタケルが言うことを無視して階段を下りる。
そして、タケルも何かを察したのか、語ることをやめるのだった。




