13 自覚
翌朝。
「あっ」
「おはよう、ユウカ」
「お、おはよう。タケル」
朝である。
たまたまタケルと出会う。
なんだか最近、やたらタケルと二人きりになるな。
「何で一緒についてくる?」
「通学路だし」
「先に行きなさいよ」
「なんでだよ。ほら、前の信号、赤になったし」
こんな時にハルが現れたらどうするのだ。
昨日ならまだしも、今の状況は言い訳できないぞ。
「おっはよー、二人とも」
そんなことを言ってたら、本人登場である。
「おはよう」
「お、はよう。ハハハ」
挨拶がぎこちなくなる。
気まずい。
そう思っていたら信号が青に変わってくれた。
「私、先に行くから。二人はごゆっくりー」
二人とも私に向かって何か言っていたが、無視である。
出来る限り全力で学校まで向かう。
まさか、応援団で鍛えた体力がこんなところで発揮されるとは。
日直:渡辺・大久保
マジか。
タケルと日直である。
日直の仕事は、主に二つ。授業後に黒板をきれいにすること。日直日誌を記入することである。
授業後。
早速、黒板を消す。
そして、わかっていたことだが、黒板の上部には届かない。
「はい、どいたどいた」
私には届かない場所を颯爽と清掃していくタケル。
改めて背の高さを感じる。
下の方からきれいにしていく私。
上の方からきれいにしていくタケル。
タケルと交差するタイミングが、毎回ソワソワする。
これが6時間目まで続くのか。
「ああ、日直のお二人さん」
先生から声をかけられる。
「二人でこのプリント理科職員室まで運んでくれない?」
「はい、いいですよ」
即答したのは、もちろんタケルである。
先生は、次の授業が実験だから助かるよと大喜びだった。
「いい人過ぎない?」
「そう?」
「だって、プリントを運ぶなんて」
「別に俺だけでもよかったんだぜ」
「それだと私に対する先生の心証がよくないでしょ」
また、二人きりの時間である。
「ヤバ」
「な、何」
とつぜん、タケルが私に近づく。
開いた窓から突風が吹いたのである。タケルは、私の持つ紙束が舞い上がる寸前のところで止める。
「危ない、危ない。ギリギリセーフ」
がっつりアウトなんですけど。
タケルの手が私の手に触れてしまっている。
「あの、手」
「ああ、悪い」
「いや、ありがと。早く職員室まで持っていこ」
私は足早に職員室へと向かう。
朝からタケルが私を殺しにかかっている。
こういう優しさは、ハルにやれっての。
昼食はいつも通りハルとタケルの三人で食べる。
私は終始、ハルとだけ会話する。
もちろん意図的である。意図的にタケルを避けたのである。
なんだかタケルといるだけでも緊張する。
「今日からいよいよ修学旅行についての事前学習を行う」
クラス全員が大いに沸く。
それもそのはず。修学旅行は、高校生活最大のイベントと言っても過言ではないのだ。
「さっそく班分けだが、2人以上なら基本的には構わない。だからと言って10人以上はやめてくよ。そんなことしなくても当日は自由行動だから、その時に集まってくれ。これはあくまでも修学旅行の後にやってもらう発表をするための班決めだ。じゃ、各自グループを作ってくれ」
皆がそれぞれグループを作っていく。
私はいつも通り、ハルとタケルのところに近づき、三人班を結成する。
「結局、この三人か」
「何、不満なわけ?」
「本当、一緒のクラスになってよかったぁ」
とはいえ、そのような安堵の気持ちは全体の感情の半分だった。
もう半分は、二人の邪魔ではないかという心配である。
LHRを利用して、グループ分けとざっくりとしたテーマ決めが終わる。
帰りのホームルームも終わり、放課後である。
本来であれば部活に行くのだが、私にはまだ日直日誌を書くという仕事が残されている。
「あとは私だけでできるから、部活に行っていいよ」
「いや、残るよ」
で、なぜかタケルも教室に残っている。
またしても二人きりである。
そのことを強く意識してしまうほど、タケルを一人の男子として見てしまっている。
正直、早く部活に行ってほしい。
きまずい。
「あのさ」
黙々と日誌を書いていると、タケルが話を切り出してきた。
「なに?」
私はタケルの方を向く。
そして、異変に気付く。
何か、意を決したような、覚悟を決めた表情をしている。
告白。
なぜかその二文字が私の脳裏をかすめる。
いやいや、タケルに限って。
ない、よね?
「……」
なんで、黙るの。
「実は、ユウカに言いたいことがあって」
ああ、うるさい私の心臓。変な期待すんな。
「好きなんだ。……ハルのこと」
その倒置法はダメだって。
ほんと、ダメ。
「知ってるよ」
そう、知っているのである。1年生の時から。
少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。
「マジか」
「で、私にどうして欲しいと? 言っとくけど、協力しないよ」
「えっ」
「それと、ハルにも好きな人いるからね」
「誰?」
「はい、これ日誌ね。私、これから部活があるからお先に。職員室に持って行ってね」
私は一方的に日誌を押し付けて教室から飛び出す。
せいぜい悩みなさい。
私の心を弄んだ罰なんだから。
「なるほど、ハルはタケルのことが好きで、それを応援したいけど、ユウカもタケルのことが好きになっちゃったってことね」
「三角関係かぁ。ドキドキしちゃうね」
「どうしてそういう結論になるのか」
教室を後にした私は、演劇部部室に足を運ぶ。
マキとメグミの二人に、ハルとタケルがどうすれば付き合えるのか尋ねた。
それと、タケルからハルのことについて相談されたことも。
だが、人選ミスであったと後悔している。
「私、タケルのこと好きじゃない」
「それは、いくらなんでも嘘だよ。一緒にいて、『あ、こいつかっこいいな』って思ったことあるでしょ」
うなずく。
「あっちは自分のことを友達としか思ってないけど、こっちはそうじゃない時もあるでしょ」
うなずく。
「ハルとタケルが両想いじゃなかったら、付き合いたいって思ってるでしょ」
「……うん」
「ほら、やっぱり恋じゃん」
「それも、一年かけて醸造された、とびっきり甘いやつですね」
「恥ずかしいから言わないでぇ」
最悪だ。
私がタケルのことが好きであると自覚してまった。
モヤモヤする。
梅雨のどんよりとした空のように。
忘れるしかない。でも、忘れられる気がしない。
でも、二人が付き合えば、この気持ちに踏ん切りがつくかもしれない。
翌日。
タケルはハルに対して非常にぎこちない。
「なんかあったの、タケル。私と全然話してくれないんだけど」
「さあ」
絶賛、私の「ハルに好きな人がいる」発言が効いているらしい。
放課後。
この日は演劇部の活動がないため、ヒガと演劇部室に二人きりである。
「私たちの関係を一旦休止させてください」
開口一番、私はそのように切り出す。
「というと?」
「私、今、好きな人がいまして。だから、私の中で踏ん切りがつくまで待ってください」
ヒガは、私の言い分を不思議そうに聞いている。
「別に、一途じゃなくてもいいんだぞ。あくまで俺たちは、イチャイチャするだけの関係なんだし」
「私は、ヒガみたいに割り切った考えはできないんです」
「わかった。でも、いつでも再開していいからな」
「うん。その時は、『会いたいよー』って甘えてあげますよ」
「ハハ、頼むわ」
ヒガとフレンド関係を一旦解消したので、一人で下校する。
だが、玄関でハルと会う。
「ユウカ、一緒に帰ろ」
「いいよ」
帰り道。未だに一言も会話はない。
ハルは、いいかけてはやめる行為を何回も繰り返す。
何か重大なことを話そうしている。
そして、ハルは覚悟を決めて私に語る。
「私、タケルに告白しようと思う。修学旅行で」
「マジ?」
「うん」
「私も出来る限り協力するよ」
「ありがと」
こうして、私・ハル・タケルがそれぞれ思いを巡らせたまま、修学旅行の出発の日を迎える。




