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01 フレンド その1

 ◇で挟まれている箇所は、妄想や回想シーンです。


◇◇◇◇◇


 今日、放課後に彼氏と帰っていたら、急に後ろからハグされちゃったー(照)

「なんで」って聞いたら、夕日をみる私に見とれちゃって、夕日と一緒に見えなくなっちゃうからだってー。


 なんなのそれ、いなくならないもん。

 大好きな○○君とは一生一緒にいるんだもん。


◇◇◇◇◇



 ツイートしたことを確認し、満足した私はスマホの電源を切り、学校へ行く準備をする。

 ありがとう、私の妄想力。今日も、元気に過ごせそうです。


 私だけの時間、私だけの空間。

 私だけの世界。



 私こと渡辺優香(わたなべゆうか)は、SNSの裏アカウントで密かに妄想ツイートをする、かなり終わっている女子高生である。もちろん、終わっていることは重々承知しているため、もはや何の羞恥心もない。


 今日も妄想ツイートを続ける。学校に行くまでの電車内は、格好の妄想タイムである。



◇◇◇◇◇


 朝、偶然彼氏と会って、そのまま朝デート開始。

 ○○君が眠いって言って、私の方に寄り掛かってきたー。 ←イマココ!

 普段、遅刻ギリギリに来ている○○君が朝早い時間の電車にいるのって、絶対私のためだよねー(うぬぼれ把握)


 どうしよう、このまま知らない駅まで行っちゃいたい。


◇◇◇◇◇



 電車、マジ神。


 一心不乱になって、スマホに妄想を入力していく。

 朝の満員電車。吊革を掴みながら、片手で操作をする。

 そんな妄想をする私の前には、カップルが楽しそうに談笑している。


 くそ、満員電車でいちゃつくなよ。

 なんで私が必死に吊革につかまっているのに、こいつらは悠々自適に席に座ってんだよ。

 譲れよ。幸せでない人間に席を座らせるべきだろ。



 現実はこんなもん。だから私は日々叶いもしない妄想を綴っているのである。

 悲しい?リア充じゃない?まさか。


 ドキドキ成分は、多様なコンテンツのあるネット社会によって、十分に満たされているのである。

 マンガ、アニメ、ドラマ、声優、アイドル、インフルエンサーのSNSにエトセトラエトセトラ。

 よかったー。この時代に産んでくれた両親に感謝感謝。

 その感謝を示すために、頑張って勉強していい大学に入学するからね。


 私は恋に恋をする女子高生なのだ。

 さよなら、現実。こんにちは、愛すべき妄想ワールド。






「また、妄想してるの?」

「まあ、そうだけど」


 呆れ声のハルをよそに、妄想ツイートを書き続ける。


「よくもまあ、あきもせず毎日妄想が浮かぶよねー、ある意味才能でしょそれ。今は何のツイートしてんの?」

「理想の告白シチュエーションでーす」


 昼休み。

 その時間は、親友である倉持春(くらもちはる)と食事をするのが日課であり、その日課は今日もつつがなく実行されている。


 ハルは、高校に入ってすぐに仲良くなった女子。私と違って恋に恋をしていないタイプである。


「俺も入ーれて」

「あ、タケル」


 陽気な口調で私たち二人の食事に参加してきたのは、大久保健(おおくぼたける)。ハルの幼馴染である。


 わたしはハルの方を向いて、ニヤニヤする。


「何よ」

「べっつに―」


 知り合って最初に分かったことでもあるのだが、ハルはタケルに好意を寄せている。で、おそらくタケルも同じ気持ちである。現実の恋愛では鈍感である私ですら気付いているのだ。クラスの全員、そのことに気づいているが、あえて触れていない。なんというか、みんなでハルとタケルの恋が成就するように見守っている感覚なのである。で、私もその考えに同感であるため、下手に恋の仲介役を引き受けるような野暮な真似はしない。


「お、ユウカは相変わらず妄想してんのか」

「まあね、ハルと一緒に理想の告白について議論していたところ」

「私はそんな会議に参加した記憶はない」


 屈託のない笑顔で笑うタケル。

 悪態をつきながらも私の話に付き合ってくれるハル。

 そんな二人の恋路を陰ながら応援する私。


 高校1年生からこの関係がなんとなく続いている。

 高校2年生のクラス替えで、全員がまた同じクラスになった時は感動したな。


 いつまでもこのままでいたい。けれども、そういうわけにはいかないよね。そんな曖昧ながらも心地よい時間が、私たち三人の中には流れているのである。


「二人の考える理想の告白ってあるの?」


 意外にも、私の妄想恋愛話に興味があるタケル。

 私に尋ねてくる。


「それを言うなら、タケルはどう考えてるの?」

「俺が告白するならってこと? それとも、女子から告白されるとしたらって話?」

「うーん。じゃあ、女子から告白されるならどんなのが理想なの?」


 ハルは、「そんなのないでしょ」といいつつ、タケルの発言内容に興味津々であることを隠せていない状態である。


「そうだなー、夜空を見ながらとかかな」

「えー、めっちゃロマンチストじゃん」

「意外。タケルってそういうのがいいんだ」

「まあ、理想はね。正直告白されるなら何でもうれしいよ。男って単純だから」

「そう、なんだ」


「……」

「……」


 ハルとタケルの間にイイ感じの雰囲気が生まれ、沈黙が流れる。

 なんか私は、そうした二人のイイ感じの雰囲気に邪魔をしているような気がしてならない。


 まさか、私のせいでこの二人は高校生にもなって「好き」の一つも伝えられていないのではないか?

 そうした疑念を抱くほどである。

 大抵、こういうラブコメっぽい雰囲気になった場合、私がその状態を壊さないと、いつまでも沈黙が続いてしまう。

 何が悲しくて、両想いの会話に茶々をいれているのだか。


「でもさー、夜空を一緒に見てる時点で、付き合ってないとできないと思うんだけど。付き合ってもないのに、星とか見ないでしょ」


 沈黙を破る私。


「確かに、言われてみればそうだな、恋人であることが前提のデートプランだもんなぁ」


 私の発言を待ってましたかのように、タケルが口を開く。


「はい、妄想トークは終わり終わり。早く食べないと次の授業に遅れちゃうよ。音楽室遠いんだから」


 ハルの一言で、私の妄想が机上の空論に過ぎないことを突き付けられ、現実に戻される。

 そして、三人で仲良く音楽室へと向かう。

 この環境に甘んじているのも、私が恋愛をできない理由の一つなのであろう。



 5時間目の音楽が終わり、教室に戻る。

 そして6時間目。この時間は、LHRという名の委員会決めである。正直、全員がなんらかの委員に加入する必要はないため、私には関係なしと妄想タイムに突入する。


 昼休みの時から考えていた、理想の告白についての妄想を再開する。



◇◇◇◇◇


 今日、私は告白された。


 放課後、部活が休みだから帰宅しようと下駄箱に向かったところ、一人の男子が私の下駄箱の前に立っている。

「何をしているの」と聞いたら、「話がある」とのこと。

 周りの目が気になるからといって、空き教室に連れて行かれる。


 ちょっと、手。手、握られちゃってるー(恥)

 一体、いつ私に恋愛フラグがたったのやら。



 で、空き教室に到着。


 夕焼けがきれいだなー、なんて冷静になろうとしても無理。大丈夫?顔赤くなってるのバレてないよね。夕焼けが隠してくれてるよね。


 彼が私に顔を向ける。彼の緊張した表情は、明らかに本物である。

 やばい、絶対に告白される。彼から響くドキドキが、私にも伝染してどうにかなりそう。


「ずっと、あなたのことが好きでした。俺と付き合ってください」


 恥ずかしいから、彼の手を握って「いいよ」とだけ言った。

 目なんて合わせられるはずない。

 しばしの沈黙、あれ、私の声聞こえてなかった?


 ゆっくりと顔をあげると、喜びと恥ずかしさが混ぜ込まれた表情を浮かべる彼。

 大好きと叫びたかったけれど、他の人にはまだバレたくないから、静かにほほ笑む私。


 明日みんなに言うから。だから、今日だけは二人だけの秘密にしよ。


◇◇◇◇◇



 ちらりと文字を打っている画面から目をそらす。委員会決めの方は、あと二人で全員決定というところまで進んでいた。


 ふー、久しぶりに大作が完成してしまった。「今日だけは二人だけの秘密」ってところがいいわー(自己陶酔)

 秘密の関係は憧れるよね。

 ま、そもそも告白されることなんてないんですけどね。トホホ。


 残り二人の委員決めだったり、その流れで行われた帰りのホームルームだったりの時間は、この日に出された課題をこなすことで時間を潰した。ハルとタケルとは席が離れているため、雑談をすることができない。だが、おかげで課題の半分をこなすことに成功した。あとはすぐに家に帰って、続きをやるとしよう。


 ハルはテニス部、タケルはサッカー部にそれぞれ加入しており、平日の放課後はだいだい忙しくしている。一方、私はと言うと、部活加入が必須でないことに甘んじて、帰宅部を選択している。早く家に帰って、ドラマやアニメをみるのである。もちろん恋愛系。そうして私の妄想力は、さらなる成長を遂げるのである。



 先生が帰りの挨拶をするやいなや、鞄をもって足早に教室を出て、玄関まで向かう。


 下駄箱でスムーズに靴を交換をするため、上履きを脱ぎかけの状態にする。

 だが、そんな時短行動もむなしく、一人の男子生徒が私の下駄箱がある位置に突っ立っているため、どいてもらうよう声をかけなければならなかった。


 邪魔だな。最初はそれくらいにしか思わなかった。


「あの、そこに私の下駄箱があるので、少しよろしいでしょうか」


 靴の色から同級生であることは分かったが、男子だし結構高身長であるため、つい丁寧語になる。


「いや」

「いや?」

「ワタナベさん、あなたにお話ししたいことがあって」

「私に? 何?」

「ここだと、話しづらいからちょっと」


 そう言って、彼は私の手をつかんで引っ張っていく。


 な、何が起きているんだ。これじゃあまるで、私がさっきまで妄想してた理想の告白と一緒ではないか。



 高まる期待。

 そして、一度も訪れたことのない部室塔へと足を踏み入れる。


 目的地に到着したらしく、彼の足が止まる。

 そして、ポケットから鍵を取り出してロックを外す。


 演劇部部室。どうやら彼は演劇部の部員らしい。申し訳ないが、演劇部に知り合いはいない。ましてや、私に好意を寄せているであろう男の存在なんて知るよしもない。


 部室に入る。

 きれいな夕日が窓からうかがえ、部室に茜色の光を注いでいる。


 二人きりである。


「ちょっと、待って。え、本当に?」


 目の前にいる相手は、普通にかっこいい。

 さらに、告白される補正が入っているため、現物よりも美化されて目に映る。

 やばいやばい、目を合わせることができない。


「言いたいことあるって話だけど」

「はい」


 しばしの沈黙、耐えられません。

 全神経が、名前も知らないイケメンから発せられる次の一言に集中している。



「ワタナベって、裏アカウント持ってるよな」

「は?」

「それも、結構赤裸々な妄想を綴った」

「シラナイデス」


 私は、しらを切ることにした。


「ええと、『今日、私は告白された…』」

「わー、わー、やめて。声に出されるのが一番恥ずかしいから」


 はい、しらを切ることに失敗しました。

 これで、裏アカウントが私ということが確定されました。


 照れるわたしと対照的に、表情一つ変えずに私の妄想ツイートを読む男。


「何が目的?『そのアカウントをバラしてほしくなければ』みたいな?そんな手には乗りますか。今はとっさのことで自分のアカウントだと白状しちゃったけど。他のみんなには、しらを切ればいいだけの話だもの。それに、最悪バレてもいいと思って投稿してたし。」

「俺と付き合ってください」

「は?冗談でしょ?」

「いや、冗談ではなく」


 何なのこいつ、絶対女遊びしているタイプだ。多分、どこからか私の裏アカウントの情報を聞いたんだ。それで、私がおとなしくてちょっと脅せば無抵抗に従うやつだと高を括って、こんな陰湿な行為をしたのよ。危ない、見てくれに騙されるところだった。


「仮に本気だったとしても、付き合うわけないじゃない。こんな脅しみたいな告白。私があんたのことを好きなるとでも思ったの?」


 強い口調になる私。こういう時に弱気になってはダメだ。でもどうしよう、無理やり押し倒されたりしたら、抵抗できない。


 しかし、そんな私の心配は杞憂に終わった。


「よかったー。やっぱりワタナベって恋に恋してるタイプでしょ」

「そう、ですけど」

「俺も似たようなタイプだから。ああ、さっきの『付き合って』というセリフを正確に言うと、『ワタナベのことは好きではありません。だから付き合ってください』っていうこと」

「……ごめん、意味がわからない」


 わかることがあるとすれば、目の前にいる男は、私が知らない恋愛観を持っている人間ということである。

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