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⑻『絶望の淵で、笑っている』
⑻『絶望の淵で、笑っている』
㈠
それはたいそう、笑っている。七転八倒するくらいに、笑っている。それがどうしたというのだ、何がどうしたというのだ、しかし、俺は、小説の材料が無い時には、とにかく、絶望の淵で、笑っているのだ、そうする以外に他がないのだ。
㈡
俺には、人間の幸福というものは、結句、分からないね。芸術の幸福なら、分かりそうなんだが、人間の本質的な幸福が分からない。恐らく、昔から、そういう環境に居なかったから、そう思うんだろう。少なくとも、正常ではない訳である。
㈢
絶望の淵は、暗いムードだけではない、俺には一種の愉快にも思えてくる。誰のためでもなく、自分のためだけに書く小説も、誰かのために書き、自分のためではない小説も、小説であることには変わりない。要は、執筆の契機が得難いものなのだ。