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83 突撃


 翌日の放課後、

俺と橘と蓮、そして梅澤のいつもの4人で教室に集まる。



「そのいじめられてるっていう男子は体育倉庫に呼ばれてるんだろ?」



蓮が聞いてくる。



「うん、多分体育倉庫が溜まり場になっててそこでいつもいじめられてるんだと思う」


「体育倉庫って私たちが溜まり場にしてたとこじゃん」



 梅澤が呟く。

そう、元はと言えば橘と梅澤のグループが体育倉庫に溜まって俺をいじめていた。

つまりそれと同じことが行われているってことだ。


 あそこは最悪の溜まり場だ。

扉を閉めれば外界から完全に遮断される。


 助けを呼んでも誰も来ない。

狭くて逃げ場のない空間。

いじめをするには最高の場所だ。



「私たちが止めないと」



 橘が感情を込めて強く言う。

橘も自分が全く同じことをしていてそれを後悔してる。

事の重大さをわかってるのは橘と梅澤だろう。



「そうだね」



 昨日の男の子が呼び出されている体育倉庫に向かうことに。

放課後だから校内は人が少ない。


 俺がいじめられていた時を思い出す。

あの時期は全てが暗く見えていた。

自分には明るい未来なんてない、そう思ってた。


 今、あの子もそう思ってるだろう。

昨日のトイレで見た顔は過去の俺を思い出させた。

暗くて俯いた、笑顔なんかと無縁な表情。


大丈夫、今すぐ駆けつけてあげるから。



 体育倉庫に到着する。

案の定、体育倉庫の扉は閉まっている。


 扉の隙間から中の光が漏れている。

その光は、明るいはずなのに暗く感じた。

隙間から黒い、負の感情が漏れでていた。


 中からは楽しそうな声が聞こえる。

昨日の奴の声だ。



「お前そこに立てよ!」



笑いながら誰かに指示している。



「中はどうなってるんだ?」



 蓮がそう言った。

・・・俺もこの体育倉庫でいじめられてた。

だから中の状況が手に取るようにわかる。

それは多分、橘と梅澤も同じだろう。


 瞬間、バッシャーン!と水をぶちまけたような音が中から聞こえた。

ああ、遅かった。


扉の下の隙間から水が流れてくる。



「ちょっとかかったじゃねーか!」



そんな声が聞こえ、俺は体育倉庫の扉を開けた。


 そこにはびしょ濡れの昨日の男の子と、

その前で楽しそうに笑っている奴らがいた。

床には空のバケツが転がっている。



 男たちは笑っていたが、

入ってきた俺たちを見て笑うのをやめた。


 そして俺の顔を見て表情が強張った。

昨日の奴だって気づいたんだろう。



「あんたらなんだよ、勝手に入ってくるなよ」



びしょ濡れの男の子は俺たちが入ってきたことなんて気づいていないかのように下を向いていた。


 男の子の髪からは水が滴ってポタポタ落ちている。

その表情は「無」だった。


 わかる、もう全てを諦めているんだろう。

水をかけられたことも、俺たちが入ってきたことも。



「何って、お前たちこそ何してるんだよ。この子ずぶ濡れじゃないか」



蓮が少し威圧的に言う。



「ちょっと遊んでたら濡れただけだよ、なぁ!」



リーダー格の男が濡れている男の子に話しかける。



「・・・うん」



小さな、消えそうな声が聞こえた。



「あんたら、この子の事いじめてるんじゃないの?」



梅澤がはっきりと切り込んだ。



「あぁ?違うわ。たまたま水がかかったって言ってんだろうが」



 男が高圧的な態度で言う。

まるでこれ以上聞くと手を出すぞ、と言っているみたいだ。

でも梅澤は男の態度に全く動じてない。



「でも仲良い友達のようには見えないけど」



橘も問い詰めるように言う。



「俺たち友達だよなぁ?」



 男が男の子に聞く。

その場の全員が男の子に注目する。


 いじめている男側は男の子を睨んでいる。

友達だと言えって事だろう。

対して橘や梅澤たちは友達じゃない、という答えを待っているように感じた。


 でも無理だ。

この子にはこの場で友達じゃないと言う勇気なんてない。

これはいじめられてた人にしかわからない。 


 この子は変化を嫌ってる。

もちろん一刻も早くいじめをやめてほしいと思ってる。

でももし友達じゃないと言えば今よりもさらにひどい未来が待っているかもしれない。

ならできるだけ穏便に、今まで通りの生活が続く方を選ぶ。


 普通の人はいじめられてるって言えばいい、と思うだろう。

でもそれはいじめられてない状態だから考えられる事で、

現状この子には目の前の先の見えない闇しか見えてない。



「・・・友達だよ」



 男の子がポツリと呟いた。

瞬間、男がニヤッと笑った。



「だよなぁ!俺たち友達だよなぁ!」



他の奴らもつられるように笑う。



「じゃあ俺ら帰るわ!おい行くぞ!」



 男が男の子に話しかけると、

男の子は鞄を持って体育倉庫から出て行った。


 思えば俺と橘は特殊なケースだったんだ。

いじめてる側がいじめられてる側を好きなんてこと普通はありえないんだ。

俺たちは決して仲が良さそうには見えない男たちの後ろ姿を見つめることしかできなかった。



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