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82 目撃


 それはたまたま授業の合間にトイレに行った時のこと。

トイレに入ろうとすると中から声が聞こえてきた。


 その声は騒がしく、決して楽しそうではなく、

大人数で誰かを責め立てるような会話だった。

いや、会話というか一方的な恐喝のようにも感じた。


耳を済ますと、



「おい、いつもの金は持ってきたのかよ」


「はい・・・」



 そんな会話が聞こえた。

え?金を取られてるのか?


 この子はいじめられてるのかな。

会話からの推測だがこの男の子は常習的に金を取られていじめられてるんだろう。


責められている男の子の声から恐怖が伺える。



「こんだけかよ」


「すみません・・・」



 トイレの外から盗み聞きしているだけだが、

容易に状況を想像できる。


 バンッ!という音が聞こえた。

・・・多分、押し飛ばされてトイレのドアとかにぶつかったんだろう。


 トイレに入らず帰ろうかと思ったが、それは逃げているような気がした。

この男の子、そして過去のいじめられてた自分から逃げていると思った。


 俺はいつの間にかトイレの中に入っていた。

中にはトイレの壁を背に立っている男の子と、

それを取り囲む3人の男子生徒がいた。

3人の男子生徒は派手でいかつい見た目で俺よりも背が高い。


俺は無言でその3人を見つめていた。



「なんだよお前」


「3人で取り囲んで何してるんですか?」


「お前には関係ないだろ」


「男の子、嫌がってますけど」



 3人のうち1人がこちらを睨みながら近づいてきた。

なぜか怖くはなかった。

それは多分、俺が正しいと自分の中で自信を持って思えたからだろう。


 男の子は俺のことを心配そうに見ている。

近づいてきた男が俺の胸ぐらをつかもうとした時、

授業開始のチャイムが鳴った。



「・・・チッ」



 悪意のある大きな舌打ちをして3人がトイレを出ていく。

去り際いじめられていた男子生徒に向かって、



「明日の放課後、体育倉庫集合だぞ」



 そう言って立ち去った。

いじめられてた生徒は強張った顔をして数秒固まった後、

下を向いてトイレを出て行こうとした。



「ちょっと待って!君、あいつらにいじめられてるの?」



その小さな後ろ姿に声をかけると少し立ち止まって、



「ごめんなさい、さっき見たことは忘れてください」



 そう言って去っていった。

その後ろ姿は、いじめられていた時の俺に似ていた。


 いじめるやつらを、学校を、全てに絶望している。

誰も助けてくれず、これが卒業まで続くと思っている。


俺はその後もずーっとあのいじめられていた男子生徒の顔を忘れられなかった。



 その日の部活の帰り道、

橘に今日あったことを話すことにした。



「あー、ちょっと真剣な話なんだけどさー」


「なに?私なんかした?」


「いや、橘とは関係ない・・・ちょっとあるか。とにかく聞いて欲しいんだけど」



 橘に今日見たことを話した。

橘は真剣に、時に怒って大きく頷いて話を聞いてくれた。



「これが今日見たことなんだけど」


「絶対許せないね」



橘のその言葉からはいじめの被害者だった俺とは違う想いが込められている気がした。



「うん、俺は助けてあげたいと思ってる」


「私も」



橘はどう思う?と聞く前にそう返してきた。



「私も実際に加害者だったからこそ、いじめがどれだけダメかってわかってる」


「うん。俺もあの子の気持ちが痛いほど分かるから」



2人も当事者だったからな。



「明日の放課後、いじめられてる子は体育倉庫に呼び出されてるみたいなんだけど」


「行こう、蓮も連れてね」


「だな」



 蓮がいれば何か起こった時も安心だ。

俺たちの中で気持ちはどんどん強くなっていた。



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