77 占い
応接室の話し合いから数日。
結論から言うと、浜中は退学になった。
理由はもちろんストーカーだ。
そして噂によると、どこか遠くの方に引っ越したらしい。
浜中の退学から引っ越しまで、
恐ろしいほど早かった。
俺の勝手な予想だが、誰かの大きな圧力がかかっている気がする。
まあ誰かといっても一人しかいないのだが。
やっと俺たちに平和な日々が訪れた。
昼休み、
「一馬くん、今日の放課後って時間ある?」
橘が寝ている俺に話しかけてきた。
「うーん・・・」
「もう!寝てないで聞いてよ!」
「ごめん、もう一回言って?」
起き上がってほぼ開いてない目で橘を見る。
「放課後、暇でしょ?」
・・・ゲームしたいな。
「あー、ゲーム」
「時間あるよね?」
橘が強めに圧をかけてくる。
「いや、ない」
「あるよね?」
「あれ?橘さん、聞こえてない?」
これは断れないパターンだ。
「・・・あります」
「やった!行きたいところがあったの!」
くそ!ゲームはまた今度だ!
そうして放課後、無理矢理連れてこられたのは、
「なにここ・・・」
駅前の商店街にある、
「運命の館」
との看板が立ててある占いの館だった。
「駄菓子屋の山内さんが教えてくれたんだよ!」
山内さん・・・
橘に変なこと教えないでください・・・
寂れた商店街の一角に似合わない派手な外観で、
紫やピンクで塗られている看板がいかにも怪しさを醸し出している。
さらに店の前には、この店の占い師だろうかの胡散臭い笑顔の写真が大きく飾ってある。
俺は占いとかを信じていないわけじゃない。
まあ一つの意見として捉えている。
対して橘は、
「わぁ!この店は本物だよ!」
と、目を輝かせながら俺の体をブンブン揺さぶる。
女の子って占いとか好きだよなー。
「行こう!一馬くん!」
無理矢理引っ張られ、
占いの館の中に入っていく。
中に入ると薄暗く、入り口のすぐ横にある受付の光がボワッと光っていた。
店の外観に対して中は古びた感じだった。
完全に外観だけこだわってる感じだな。
受付には生きてるのか死んでるのかわからないぐらい、
目をつぶっていて微動だにしない、おばあちゃんが座っていた。
・・・死んでるんじゃないだろうな?
「あの!占いしてもらいにきたんですけど!」
橘が言うと、
おばあちゃんが細い目を開けて、無言でゆっくり受付から出て歩き始める。
おい、大丈夫か?
帰りたいんだけど・・・
おばあちゃんの歩くスピードは恐ろしいほど遅い。
亀の方が速いんじゃないか?
そして腰が恐ろしいほど曲がっている。
直角、いや、それ以上だ。
そんなおばあちゃんの後ろをゆっくりとついていく。
少し進むと仕切られているカーテンの前に案内された。
カーテンの隙間から微かに光が漏れている。
おばあちゃんが無言で立ち去っていく。
ゆっくりなスピードで。
怪しい・・・
この先に店前の写真の占い師がいるのか?
「開けるよ?」
橘がカーテンを開けると中は小さな個室になっていて、
テーブルを挟んで奥に店前の写真の占い師が座っていた。
「いらっしゃい」
髪は白髪でボサボサ。
声はしゃがれていて、ローブのようなものを着ている。
テーブルには水晶が置いてある。
タロットカードや古びた分厚い本も見える。
「よく来たね。まあ座りな」
そう誘導されて占い師の目の前の席に座る。
・・・すごい占い師と言われればそう見えなくもないが、
この薄暗い雰囲気で誤魔化している気がする。
「占う前に、料金説明からするね?」
占い師はそう言うと一枚の紙を見せてきた。
「占いは30分で8000円。それ以降は10分毎にプラス2000円だよ」
「高いな!」
思わず声が出てしまった。
「何を言う!この私が直々に占ってあげるのじゃよ!それ相応の値段はするわい!」
やっぱりぼったくりの占いだ。
今すぐ帰ろう。
「もしかして2人、カップルかい?」
占い師が聞いてくる。
「そうです!」
「そうかい、じゃあカップル料金にしておくね」
カップル料金?
そんなのあるのか?
「カップル料金で30分7500円だね」
「500円しか安くなってないじゃねーか!」
「黙りな!ウチはこういうシステムなんだよ!」
「よし橘、帰ろう」
そう言って席を立ち上がろうとする。
「待って!せっかく来たんだし占ってもらおうよ!」
「いや、高すぎるだろ」
「私が払うから!」
「・・・知らないぞ?ぼったくられても」
「人のことをぼったくり呼ばわりするんじゃないよ」
橘になだめられて席に座る。
「それじゃあ占いを開始するよ。どんなことを占って欲しい?」
「じゃあ・・・私たちの相性について!」
「相性ね、わかったよ」
占い師はそう言うと、
目を瞑って水晶を触り始めた。
「うーん、あんたたち・・・相性抜群だよ」
「えー!本当ですか!?」
橘は子供みたいに喜んでる。
俺の腕をとってギューっと抱きしめてくる。
「これは運命の相手だね。絶対だよ!」
もう帰ろう・・・
この人は占い師なんかじゃない、ただの一般人だよ。
「じゃあ!・・・2人の将来のこと占って欲しいです!」
「わかった!」
占い師はそう言うと、
また目を瞑って水晶を触り始めた。
「将来は親の仕事の関係でお金持ちになって2人で庭にプール付きの大きな一軒家に住んでるね」
なんか急に具体的になったな!
しかも全然ありえそうだし!
「子供は2人で男の子と女の子。どちらも良い子に育つよ」
「えー!そこまでわかるんですか!」
本当だろうな?
適当に言ってるんじゃないか?
「どうする!?子供は2人だって!」
「まだ決まったことじゃないから」
橘が次の質問をしようとしていると、
占い師がじっと俺の方を見ていた。
「・・・あんた、悪いオーラを持ってるね」
「え、俺ですか?」
「これはまずいねぇ〜」
占い師が顔をしかめながら俺を見つめる。
いや、怖いな!
「一馬くんは大丈夫なんですか!?」
橘は完全に占い師を信じきっている。
「あんたの持っている悪いオーラがピークになるのは次の火曜日!その日はあんたに多くの不幸が訪れるよ!」
おい、やめてくれよ。
火曜日が怖すぎるわ。
「で、このままいけば火曜日には・・・死ぬ!」
「え、そんな死ぬなんて占いあります?」
「先生!何か一馬くんを助ける方法はないんですか!?」
橘がアワアワした様子だ。
おい橘、大丈夫だって。
なんでそんな俺が大病を患ったみたいな反応するんだよ。
「そんな怖いこと言わないでもらえます?」
「言わないでって言ってもこれは本当だからねぇ〜。でも・・・」
占い師はテーブルの下から何か出してきた。
それはどこにでもあるようなお守りだった。
「これを持っていれば死ぬ運命から守ってくれるぞ!」
はい、これは俺たちのこと騙そうとしてるな。
相手を心配させてこういう物を購入させる商売なんだろ。
「買います!いくらですか!?」
橘が財布を出して、お金を払おうとする。
「いや、ダメだって・・・どうせ騙されてるから」
「買おうよ!私がお金払うから!」
「買わないと死ぬぞ〜。ちなみに値段は1万円じゃ!」
「高すぎるって!そんな値段のお守り聞いたことないぞ!」
「これは私の力を込めた最強のお守りなのじゃ!1万円など超サービス価格じゃ!」
なんだよ最強のお守りって!
絶対そこらの神社とかで買ったやつだって!
「買います!」
橘はそう言うと、
財布から1万円札を出して占い師に渡した。
「まいどあり〜」
あーあ、騙されたよ。
お守りを受け取った橘は、
お守りを強制的に俺の鞄の中に突っ込んだ。
ここで占いは終了した。
結局30分ほど占いをしてもらい、
お守りの料金と合わせて1万7500円も取られた。
橘は金持ちだからいいけど、
こんなの普通の人だったら怒るぞ?
「お守りちゃんと持っとくんだよ〜」
「はいはい」
そんなことを言いながら占いの館を出た。
そして火曜日。
朝、通学していると、急に雨が降ってきた。
他は晴れてるのになんで俺のとこだけ・・・
その時は占いのことなんて忘れていた。
そして学校について席に座った瞬間に気づいた。
あ、今日提出のプリント忘れた。
最悪だ・・・
「おはよう一馬くん!」
橘が登校してきた。
「おはよう・・・」
「どうしたの?元気ないね。しかもなんでそんなに濡れてるの?今日晴れだよ?」
「いや、今日なんかついてないわ」
他にもその日は不幸なことがいっぱいあった。
授業中に俺ばっかり当てられたり、テストの点が悪かったり。
さらには急に頭が痛んできたりもした。
ここでやっと思い出した。
そういえばこの前行った占い、火曜日に不幸が訪れるとか言ってたな。
あの占い師、インチキだと思ってたけど、
マジで言った通りになってるな。
HRの時間。
担任の先生が、
「あー、今日の放課後、荷物運ぶの誰か手伝って欲しいんだけど。じゃあ・・・加藤!」
謎に俺が指名された。
不幸だ・・・
そういえばあの占い師、最後にとんでもないこと言ってたな。
「このままいけば火曜日には・・・死ぬ!」
まさかな、死ぬなんてそんな。
流石にそれはないよな?
・・・あのお守りどこいったっけ。
鞄の中を探ると、占い師が言っていたお守りが見つかった。
よかった!あった!
俺はお守りをポケットに入れて持ち歩くことにした。
そして放課後、
先生に言われた通り倉庫で荷物を一人で運んでいた。
死ぬなんて怖い占いもされてるし、
さっさと終わらせて部活に行こう。
っていうか部活も念の為休もうかな。
そんなことを考えながら荷物を運んでいると、
真上からいきなり大きな箱が落ちてきた。
「あぶねぇ!」
ギリギリで躱して難を逃れた。
こんなの頭に当たってたらやばかったぞ。
危なかった〜。
そう思っていると、ブーン、と近くで音が聞こえた。
見てみると近くに蜂がいた。
バッ!と天井を見ると、大きな蜂の巣があって大量の蜂が倉庫内に飛んでいた。
「あー!」
叫びながらすぐに倉庫を出る。
なんで倉庫の中に蜂の巣があるんだよ!
倉庫から飛び出して廊下を歩く。
マジでやばい。
「このままいけば火曜日には・・・死ぬ!」
占い師の言葉をまた思い出す。
やばい、このままじゃすぐに死ぬ。
そういえばお守り!ポケットに入れたはず!
・・・ない!
ポケットに入れておいたのに!?
「おい一馬!何やってるんだ?」
「おわぁ!」
話しかけてきたのは蓮だった。
もしかして蓮が俺を殺したりして!?
思わずファイティングポーズをとる。
「・・・なにやってんだ?」
「危ないものとか持ってないよな?」
「いや、持ってねーよ」
「俺を殺したりしないよな?」
「なんでだよ!大丈夫か?」
蓮が近づいてくる。
「近づくなぁ!」
「おい、ついにおかしくなったか?」
蓮から逃げようとすると、
逆側に橘が立っていた。
「一馬くん?」
「わぁぁぁ!」
まずい!挟まれた!
橘にも殺されるかもしれない!
「橘!やめてくれ!」
「え?やめるって何を?」
「あれだろ!愛しすぎて殺しちゃうとかだろ!」
「何言ってるの?これ、落ちてたよ?一馬くんのでしょ?」
橘が渡してきたのは俺のお守りだった。
「あった!」
橘からお守りを奪い取る。
こ、これで安心・・・なのか?
なんだか橘と蓮がすごい悪人に見えてきた。
2人がどんどん近づいてくる。
「くるなぁぁ!」
「ちょっと待ってよ!」
「おい!待てって!」
2人に追いかけられる。
結局その日、俺は死ぬことはなかった。
これもお守りのおかげだろうか。
「お守りのおかげだよ〜」
占い師は今頃そう言って笑ってるんだろうな!




