8 本心
主人公目線の時に橘はどう思ってたのかを書いているので、先に主人公目線の8話 本音 を読むことをお勧めします。
「ねぇ、このまま二人でどっか出かけようよ」
自然とその言葉が口から出ていた。
加藤の制服の袖を掴んで離さない。
いや、離せなかった。
こんなことして迷惑かな?
「どっかって、どこ?」
「・・・どこでもいい」
「だめ?」
迷惑かなという思いと、
一緒にいたいという思いがあった。
アンビバレントな感情。
加藤は私のお願いを受け入れてくれ、終点まで来た。
「ショッピングしようよ!」
里奈たちとか、女の子とは放課後に遠出したことあるけど、男子とは初めてだ。
しかも加藤となんて、ドキドキする。
雨は止んでる。
加藤の傘を奪ってさして、スキップで歩いている。
自分でも浮かれているのがわかる。
私、普段こんなことしないもん。
いつもとは違う非日常に胸が高鳴る。
・・・加藤も同じ気持ちかな?
ショッピングモールに着いてお店を見て回る。
ここは色んなお店があっていい。
「何か買わないの?」
加藤が問いかけてくる。
「んー、欲しいものがあったら買うけど」
「買わないならなんで店に入るの?」
なんでそんなこと聞くんだろ?
まさか加藤って、
「・・・女の子と買い物したことないでしょ」
加藤は、はいそうですけど、みたいな顔してる。
女の子との買い物に慣れてないんだ。
でもちょっと安心した。
次は本屋に。
ファッション雑誌を立ち読みする。
私はだいたいこういう雑誌から情報を得ている。
毎回買ってたらお金かかるしね。
加藤が隣でアイドルグループのページをまじまじと見てる。
今人気のアイドルグループだ。
清楚系のグループで、みんな揃った制服でお嬢様みたい。
やっぱこうゆう子が好きなんだ。
・・・私もこのアイドルと同じくらい可愛いと思うけど。
もっと私を見てよ。
「へー、そういうタイプが好きなんだ」
「いやっ、好きってわけじゃないけど」
誤魔化してる。
「ふーん」
そうだ!加藤に服選んで欲しいな!
「ねぇねぇ!服見に行こうよ!」
高まりから小走りで本屋を出る。
「はやく!はやく!」
楽しい。
女の子と買い物するのとは全然違う。
なんなんだろう、このドキドキ感は。
「橘はいつもどんな服着てるんだ?」
加藤が聞いてくる。
「えっとね、ワンピースとか、他には・・・」
加藤に色々流行りのコーディネートを教えた。
全然わかってなさそうだったけど。
「でも私、休みの日も制服着ることあるんだよ?」
「なんで?」
加藤が不思議な顔してる。
「制服なんて卒業したら着れないじゃん。それにJKはブランドだから、今のうちに制服楽しまないと」
うん、制服は高校のうちしか着れないからね。
卒業したらコスプレになっちゃうし。
服屋さんに着いて、服を見る。
服屋さんで、加藤に似合うか何度も聞いている。
「これどう?」
「いいんじゃない?」
「こっちは?」
「いいと思うよ」
空返事で全然真剣に考えてくれてない。
「ほんとにちゃんと考えてる?」
「考えてるって」
「えー、どっちにしようかな、決めて?」
加藤が顔をしかめている。
あっ、今度は真剣に考えてくれてる。
「こっちがいいんじゃない?」
加藤が私がいいと思っていた方と逆を指差す。
「そっちかー」
結局加藤が選んだ方を買う。
レジで加藤と並んでお会計をする。
「お二人はお似合いのカップルですね!」
急にカップルって言われて体が熱くなる。
「あっ、いや・・・」
「えっと・・・その」
二人でもじもじしている。
お会計が終わって急いで店を出る。
「・・・」
話しにくいな。
そうだよね、カップルに見えるよね。
でも違う。
いつかはそうなれればいいな。
今日が最初で最後の加藤との買い物になってほしくなかった。
「そっ、そうだ!バナナジュース飲みに行こうよ!」
「バナナジュース?」
「知らないの?タピオカの次はバナナジュースだよ!」
「へー」
バナナジュースの店員さんと話す。
「これ新しいやつですか?そうなんだ!へ〜、こんな味もあるんだ。あっ!そのネイルいいですね!」
加藤が私と店員さんの会話を感心したように見てる。
「どれにする?」
「あー、俺も同じやつください」
2人で近くの公園のブランコに座る。
夜の公園ってなんかいいな。
「ごめんね今日は引き止めちゃって」
「いいよ、楽しかったし」
「それならよかった」
会話が止まる。
さっきまであんなに楽しく話してたのに。
なんでこんなにうまく話せないんだろう。
「なんで出かけようって誘ってくれたの?」
加藤がそう聞いてくる。
「・・・席替えで席が離れたら、話す機会が少なくなると思ったから」
これは本当に思ってた。
もう会う機会なんて少なくなると思ったから。
「橘は優しいね」
加藤がそう呟く。
・・・そんなことない。
私は全然優しくない。
「違う」
「え?」
加藤が驚いた顔をしている。
「・・・私そんなにいい人じゃないよ」
「私、加藤のこといじめてたんだよ?」
そう、私は加藤をいじめてた。
これは何があっても変わらない。
いくら加藤と仲良くなっても変わらない。
「でも俺は橘とあいつらは違うって思ったよ」
「里奈たちと一緒だよ」
「少しの間だけだし、そんなの気にしてないよ」
「私は気にしてる。短くてもいじめていたことに変わらないよ」
加藤は今は気にしてないって言ってるけど、いじめられてた頃は辛かったはず。
私も加藤に聞きたいことがあった。
「逆になんで私と一緒にいてくれるの?」
ずっと聞きたかった。
なんでいじめてた私と一緒にいるのか。
普通なら嫌いになってるはず。
「・・・友達だから」
「友達・・・」
そっか私は友達だったんだ。
嫌だな。
身勝手だけど、もっと近づきたい。
覚悟を決めた眼差しで加藤を見つめる。
「加藤と一緒にいると楽しい。もっと一緒にいたいって思う」
言っちゃった。
「でもこの気持ちが罪悪感から来ているものなのかもって思っちゃう」
「でもそうじゃないって、私の本心だって信じたい」
次々と言葉が出てくる。
「加藤にとって私は女友達?いじめていた一人?それとも・・・」
ああっ、泣きそうになってきた。
「俺は・・・」
加藤はなんて言うんだろう。
時が止まったように加藤の動きが遅く感じる。
「あっ雨だ・・・」
こんな大事な時に。
でも、今はまだってことかな。
「喋りすぎちゃったね・・・帰ろっか」
電車では出来るだけいつも通り接した。
さっきのことなんてなかったみたいに。
私が降りる駅が近づいている。
「ねぇ、今日は楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「よかった」
それだけで、よかった。
うん、よかった。
「これ使って」
加藤が私に傘を差し出す。
そっか私、傘持ってないんだ。
外は雨だ。
「いいの?」
「俺は駅近いから大丈夫だよ」
「・・・ありがとう。やっぱり優しいね」
なんでこんなに優しいの。
ドアが開いた。
「橘、また明日」
「うん、また明日」
電車を降りる。
電車が動き出す音が聞こえた。
あーあ、結局加藤の気持ちは聞けなかったな。
でもよかった。
ちょっとでも加藤に近づけた気がした。




