50 付き合う前の気持ち
橘は翌日から学校に行き始めたが、
学校を休んでいたからか、まだまだ本調子ではない。
早くいつもの元気な橘に戻ってもらうために、
俺はある提案をした。
「一緒にコンサートに行かない?」
橘が大好きだというアーティストのコンサート。
橘におすすめされてから俺もちょくちょくそのアーティストの曲を聞いている。
橘にその提案をすると、二つ返事で行きたい!と返ってきた。
コンサートで盛り上がれば気分転換にもなるだろうしな。
しかしそのアーティストは今大人気でライブのチケットを取るのは難しい。
倍率も高く、即完は当たり前。
取れたら奇跡だろう。
それを橘に伝えると、
「パパに聞いてみる!」
そう謎の一言を言った後、
すぐに橘がお父さんに電話をし始めた。
すぐに電話は繋がり、
ものの20秒ほどで通話は終わった。
「え、ど、どうなったの?」
「多分チケット用意できると思う!パパが主催者に聞いてみるって!」
橘のお父さん何者?
恐ろしい権力者だな。
ということで倍率の高い即完激戦チケットなどなんのそのと、
俺たちはライブに行けることになった。
そしてその日の夜。
橘とライブ当日の予定について話し合う。
「あの駅に美味しいスイーツあるらしいよ!」
橘から絵文字付きのウキウキなLINEがくる。
テレビを見るのを辞めて返信する。
橘と久しぶりにやりとりしているからか、
なんだかドキドキする。
まるで付き合う前に戻ったみたいだ。
付き合ってるんだからこんなにドキドキするはずないんだがな。
基本俺は返信の速度は相手と同じぐらいにする。
相手が2分ぐらいで返信してきたら俺もそれぐらい。
返信がきているとわかっているのにわざと返信のスピードを遅らせる時もある。
今がそうだ。
「へー、いこ!」
軽い感じで返信した。
でもこれがいい。
いつ帰ってくるかわからない返信を待つ。
そして返信に一喜一憂する。
チラチラとスマホの画面を見る。
まだ1分しか経っていない。
落ち着くことができない。
もうテレビの内容なんて入ってきてない。
普段しないような貧乏ゆすりまで始まってしまった。
ピコンッ、その音が聞こえた瞬間、
ドクンと心臓が跳ねる。
「他にどっか寄りたいとこある?」
寄りたいとこかー。
どうしようか。
文字だけで全てを表すのは難しい。
文字を打って消す、打って消すの繰り返し。
隣で相談していたり、電話なら次々と案を出せるのだが、
LINEだとそうはいかない。
そんなことを考えているうちに1分、2分と時間が経ってしまい、
早く返信しないと、と焦り始める。
「本屋とか?」
送った瞬間から、
もっと他に言いようがあっただろ!と無駄な後悔が始まる。
後悔してももう遅い。
「行きたい!」
よかった。
橘はいつもと同じだな。
「ねぇ」
短い2文字を送信する。
「なに?」
向こうも2文字で返してくる。
「好きだよ?」
なんとなく込み上がってきた思いを伝えてみる。
言葉にしないと伝わらないこともある。
いくら付き合っている恋人同士だと言ってもだ。
「なによ急に」
困った顔をした絵文字と一緒に送られてきた。
突然こういうことを言って橘を困らせるが俺は好きだ。
「私も好きだよ」
最高の返信が返ってきた。
その言葉が俺の心を優しく包んで守ってくれる。
これがあれば当分なにがあっても大丈夫だな。
やりとりをもっと続けたいが、
向こうが迷惑だと思っていたらどうしよう。
そんな気持ちが送信ボタンを押すのを思いとどまらせる。
「眠いから寝るわー」
まったく眠くないのに遠慮から嘘をついてしまう。
「はーい、おやすみー」
橘から終了のメッセージが送られてくる。
これで今日のやり取りは終了だ。
終わった後の謎の満足感。
先ほどのやりとりを遡って見直し、
ニヤニヤする。
口角が上がりっぱなしになる。
こんな姿、恥ずかしくて橘には見せられないな。
冷静になってからやりとりを見直すと、
何言ってんだ自分、と思うことも多々ある。
でもこれでいいのかも。
付き合ってからもこんなにドキドキできるのはいいことだし。
大切な人がいると頑張ろうと思える。
自分がなんか無敵のような感じになる。
なんでだろうな。
絶対に自分に寄り添ってくれる人がいるからかな。




