34 いじめの決着
翌日、文化祭についての集会があった。
体育館で全校集会をしてから武道場で学年集会。
武道場は体育館より一回り小さいが、
床が柔道畳になっていて柔道や剣道の授業で使われる。
全校集会が終了し、体育館から武道場に蓮と一緒に移動する。
・・・昨日の話の続きをするか。
「なぁ蓮、昨日の続きだけど・・・」
「蓮!一緒に・・・」
俺の声を遮るように後ろから誰かが話しかけてきた。
・・・梅澤だ。
「・・・」
どうやら俺の存在に気づいたようだ。
久しぶりにこんな近くで梅澤を見たが、やっぱり圧倒されてしまう。
梅澤の長い金髪が俺を威圧してくる。
長い金髪に短くしたスカートから白い足が伸びている。
梅澤には今だにちょっとビビってしまう。
場に気まずい空気が流れる。
「なんだよ」
蓮が答える。
「・・・別に。じゃあな」
梅澤はそう言うとその場を去って行った。
蓮を見かけて話しかけるなんて、
俺が思った以上に蓮と梅澤は仲がいいんだな。
「放課後にいつも話してるの?」
蓮に聞いてみる。
「たまにな」
「どうやって梅澤と仲良くなったんだ?」
「・・・前に校長室に呼び出されただろ?」
橘と梅澤が喧嘩して、
俺が梅澤たちに体育館裏に連れてかれてボコられそうになったやつか。
「あれ以来あいつが俺にちょくちょく話しかけてきてよ。
でも最初は無視してたんだよ。お前がいじめられてたのも知ってるからな」
そうか。
「無視しても気にせずに話しかけてくるから渋々話してやったら、いつの間にか仲良くなってな」
だからここ最近、梅澤が俺に関わってこなかったのか。
「で、話しているうちにあいつが一馬をいじめてたとは思えなくなってよ」
・・・そうか。
俺が知らないうちに蓮は梅澤と仲良くなってたんだな。
「一馬は俺とあいつが仲良くするのは良く思わないだろ?」
「・・・いや、大丈夫だよ。でも梅澤が俺をいじめてたのをなかったことにするのは嫌だな」
「・・・そうだよな。
俺としてはお前と梅澤には仲良くしてほしいんだけど、そう簡単にはいかないよな」
「・・・俺はいじめてたことを一言謝ってくれたらそれでいいんだよ」
「そうか。・・・それなら一度あいつと話してみないか?」
放課後、俺と橘が屋上の扉の前で待機している。
「ドキドキするな」
「・・・うん」
橘にも事情を話して来てもらった。
・・・橘も梅澤と仲良くしたいってのは知ってたからな。
今日はなんか重要な分岐点の気がする。
ここで梅澤と仲良くなれるかが大事だな。
「な、なんだよ。お前から呼び出したりして・・・」
梅澤の長い金髪が風になびいている。
屋上には蓮と梅澤の2人。
俺と橘は屋上の扉の前で蓮と梅澤の会話を耳をすまして聞いている。
「あー、ちょっと話があってな」
蓮が話し始めた。
「な、なんだよ話って・・・」
「お前って橘と仲直りしようとは思わないの?」
「・・・したいけど、まさか加藤と付き合ってるとは思わなくて」
まあそうだよな。
自分がいじめてるやつが親友と付き合ってたらどうしたらいいかわからないよな。
「橘と仲直りしたいんだ?」
蓮が問いかける。
「・・・うん。親友だった、いや親友だしね」
「・・・それじゃあ加藤のことはどう思ってるんだ?」
蓮が核心を突いてきた。
「それは・・・京子の彼氏だし仲良くしたいけど、私はいじめてたから仲良くなれない」
「でも橘だって元々はいじめてたわけだろ?」
「・・・そうだけど」
「じゃあ一馬とも仲良くなれるんじゃないの?」
「でも許してくれないでしょ」
「一馬は仲良くしたいって言ってたぞ。ただいじめてたことを一言謝ってくれたらそれでいいって」
「・・・」
橘も梅澤も俺も仲良くなりたいと思ってるのか。
じゃあ仲直りすればいいじゃないか。
ふと横の橘を見てみると、
・・・ボロボロ泣いている。
橘が落ちてくる涙を手で拭っている。
俺のせいで橘はこんなに泣いているのかな。
「橘、行こう」
「え、え、」
そう言って戸惑っている橘の手を引く。
勢いよく屋上の扉を開ける。
ガンッ!という音に反応して蓮と梅澤がこちらを向く。
梅澤が驚いた顔をしている。
気にせずに、ずんずん2人のところへ進んでいく。
「京子・・・」
梅澤がそう呟いてるのが聞こえた。
2人の前に到着する。
「・・・今の話、全部聞いてたよ」
「え!?」
梅澤が驚いた表情をする。
「俺も橘も梅澤と仲良くしたいって思ってるよ」
率直な俺の気持ちを伝えた。
・・・どうなる?
「そうらしいぞ」
蓮が梅澤に問いかける。
「・・・私がいじめてたこと、許せないでしょ?」
梅澤が小さな声で聞いてくる。
「許せない」
それを聞いて梅澤が下を向く。
「でもだからって一生許さないってわけじゃない。
だって橘だって元々は俺をいじめてたし。でも今は謝ってくれた。それで付き合うまでの関係になれた。
俺はみんなと仲良くしたい。もちろん梅澤とも。
でも今のままじゃ仲良くすることはできない。それが俺の思ってること」
思ってることを全部言った。
あとは梅澤次第だ。
屋上が静まり返っている。
グラウンドの部活の声も今日は聞こえてこない。
「いじめてたこと、ごめん」
そう言って梅澤が頭を下げた。
あんなに高圧的な梅澤が頭を下げている。
相当な覚悟を感じた。
「これは京子の彼氏だから謝ってるとかじゃない。ただ私が悪いと思ってるから謝った。それはわかってほしい。
私も、京子と、加藤と、良い関係でありたい」
屋上の地面に梅澤の涙が落ちた。
俺はその涙が偽物には見えなかった。
「・・・ありがとう、謝ってくれて。俺も梅澤と仲良くなりたいって思ってる」
不思議だ。
いじめられてる時は梅澤のことを心底憎んでいたが、
今はそんな気持ちはない。
・・・橘と出会って俺も変わったのかな。
「里奈!」
そう言って橘が梅澤に抱きつく。
「京子!」
橘と梅澤が泣きながら抱き合っている。
「ごめんね里奈、長い間話しかけられなくて」
「全然いいの、私こそごめんね」
屋上に2人の泣いている声が響いている。
「これでひとまず解決、か?」
蓮がそう問いかけてくる。
「そうだね、一歩進むことができた」
まだ完全に梅澤のことを許したわけではないけど、
この一歩は次に繋がる一歩だと思った。
「京子!体育祭の障害物競争見たよ!」
「ありがと!里奈のも見てたよ!」
2人が久しぶりの会話にきゃっきゃしてる。
真っ赤な目をしながら。
・・・2人とも仲良くなんの早いな?
女子ってすげーな。
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