1 恋の始まり
主人公目線の時に橘はどう思ってたのかを書いているので、先に主人公目線の1話 黒髪美少女 を読むことをお勧めします。
私は自分の名前が書ければ受かると言われている「英翔高校」に通っている。はっきり言って私は勉強ができる。行こうと思えばもっと賢い高校に行くこともできた。でもこの高校に通う理由は私の親が英翔高校と関係があって、なにやらお金も渡しているみたい。そういうこともあってここなら融通が効きそうだし、のびのびと高校生活を送れると思って決めた。
まあ、私の学力なら有名大学にこの高校からもいけるだろうしね。
入学式の日、クラス表を見て教室に移動する。教室を開けると不良っぽい見た目の生徒がいっぱいいた。不良が多いって聞いてたけどここまでとは。っていうか皆めっちゃ見てくるんだけど。
えっと、席はどこだろ?
黒板に貼られてる座席表を見る。
窓側の一番後ろか。
なぜか皆に見られながら自分の席まで進む。
席に座る。
隣の奴も私のことをぼーっと見ている。
・・・この人が隣か。
黒髪でいかにも普通ってやつ。
まあ、仲良くなることは絶対ないな。
入学してすぐにクラスの不良の女の子が私に声をかけてくれて仲良くなった。
その子たちが私の隣の加藤をいじり始めた。
私もそれに加担した。特に理由はなかった。
みんながやってるから。ただそれだけだった。
加藤がかわいそうという気持ちはなかった。
でも、あることを境に加藤を意識するようになった。
それは少し前の放課後、教室で里奈たちと溜まっていると、窓の外に1階の木陰のベンチに座って絵を描いている加藤を見つけた。
大きなキャンパスに筆を走らせている。
方向的に夕日を描いているんだろう。
そういえば美術部って言ってたな。
その姿がとても印象的だった。
なぜか目が離せなかった。
その目に何が写っているのか、何を考えているのか知りたくなった。
加藤が視線に気づいたのか2階のこちらを見る。
ドキッとして急いで視線を逸らす。
心臓の鼓動が止まらない。
「京子?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
なぜあんなに魅力的に見えるんだろう。
何もない普通のやつなのに。
あれ以来なぜか加藤が気になって仕方ない。
「部活はどうなの?何か言われないの?」
「数回しか行ってないし、幽霊部員だと思われてる」
「ふーん」
もっと加藤のことを知りたくなる。
「美術部に女子っているの?」
「ほとんど女子だよ」
「・・・じゃあダメだな」
なぜか嫉妬してしまう。
加藤がジュースで私の手が塞がってるので体育倉庫の扉を開けてくれる。
こんなことでも優しいなって思ってしまう。
ガラガラッ、扉が開くと
「京子に持たせてんじゃねーよ!」
里奈が怒鳴る。
そんなに言わなくてもいいのに。
ジュースを皆に配ってソファーに座る。
ここのソファーは本当に座り心地がいい。
用務員さんに言って校長室から奪ってきてもらった。
校長は驚いてたけど、何も言い返して来なかった。
「メイク変えた?」
「そう、ブランド変えたの」
私はあまりメイクをしない。
理由は単純。面倒くさいから。
里奈たちは登校前にガッツリやってるみたいだけど私はギリギリまで寝てたいタイプだから、メイクする時間があれば寝て起きたい。
それに自分で言うのもあれだけど、私は可愛い方だと思う。
あまりメイクしなくても何も言われない。
そんなことを考えていると里奈が
「おい加藤!なんか面白いことやれ」
「はやくしろよ」
加藤を使った暇つぶしの遊びだ。
最近こういうノリにイライラするようになってきた。
里奈たちのことも大事だけど加藤にも嫌な思いはして欲しく無い。
加藤が戸惑っているのがわかる。
・・・助けるか。
「あー、今日私早く帰んなきゃだったわ。ごめん」
「えーもう帰んの?」
嘘をついて加藤を助ける。
荷物をまとめる。
よかった。里奈たちも帰るみたいだ。
里奈たちと体育倉庫を出る。
「掃除しとけよ」
里奈が加藤に吐き捨てる。
・・・なんかモヤモヤする。
駅までの長い1本道を里奈たちと歩く。
ちょうど真ん中あたりまで来たところでいつもの手法を使う。
「あー、私忘れ物したわ。取りに行くから先に帰っといて?」
「えー、また?昨日もじゃん!」
「ごめん!忘れっぽくて!」
里奈たちを置いて元来た道を戻る。
これが使えるのもあと2、3回かな。
校門を通って体育倉庫へ向かう。
体育倉庫の前に到着して深呼吸をする。ふぅー。
最近はこの時間が楽しみになっている。
加藤との二人の時間。
よし!いこう。
ガラガラッ、体育倉庫の扉を開ける。
「よっ」
「帰ったんじゃなかったのか?」
「忘れ物」
ほんとは忘れ物なんてしてないけど。
あるはずのない忘れ物を探す。
加藤も一緒に探してくれる。
探すフリをして加藤をチラチラ見る。
・・・加藤は私のことどう思ってるんだろう。
目があってすぐに視線を逸らす。
なんでこんなにドキドキするんだろう。
「あれーないなー」
「どこにもないなー」
あまり時間をかけすぎると変に思われるのでそろそろ見つけたことにする。
「あ、あった」
「よし!帰るか〜」
ちょっと大きめに言ってみる。
あまり反応が無いのが少し寂しい。
前に加藤が歩いている。
その後ろを歩く。
2人の影が夕日に照らされて伸びている。
自転車置き場に向かっているんだろう。
・・・今日はもうちょっと踏み込んでみようかな。
たまに加藤が後ろを振り返ってこっちを見てくる。
私も誤魔化すために何かあるのかと後ろを振り向く。私の考え、バレてないでしょ。
自転車置き場に到着する。
加藤に視線を送る。
乗せてってくれ〜。
「・・・何?」
「方向一緒でしょ。乗せてって」
「電車じゃないの?」
「いいじゃん」
強引に鞄を加藤の自転車の中に入れる。
加藤が観念したというような態度をとる。
やった!乗せてってくれるみたいだ!
校門の前で加藤の自転車の後ろに乗る。
自転車が進み始める。
「・・・重い」
「あぁ?」
部活終わりの生徒がこちらを見ている。
自転車で2人乗りで帰るなんてカップルがすることだ。
付き合ってるって思われてるかな。
でもそう思われてもよかった。
風が気持ちいい。
・・・加藤の背中ってこんなに大きいんだ。
その背中に触れてみたかったけど、まだそんな関係性じゃなかった。
家の近くに到着する。
「ここでいいよ」
家をあまり見られたくなかったので少し遠くで降りる。
あんな大きな家を見られたら引かれそうだし。
「・・・じゃあね。・・・また明日」
家の方向に歩き始める。
短い時間だったな。
・・・また送ってくれるかな。
「また明日」
加藤が言う。
後ろを振り向いて大きく手でも振ってやりたかったがそんな勇気はなかった。
なんで加藤がこんなに気になるのかな。
もしかして・・・
薄々気づき始めていたけど、なんで私があんなやつ。
自問自答を繰り返しても答えは出なかった。