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フロストランド  作者: くまっぽいあくま
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8 「商隊がまた襲撃にあったようじゃ」


「商隊がまた襲撃にあったようじゃ」

スネグーラチカが言った。

「どうやら、あくどい商売人どもに目を付けられとるらしいのう」

「じゃあ護衛を増やせばいいんじゃない?」

「もちろん、そのつもりじゃ」

静が言うと、スネグーラチカはニコリと笑顔を返す。

「シズカ、行ってくれるな?」

「はあ!?」

静は驚いて椅子から落ちそうになった。

「え、私? いやいやいや、私、大臣だし、ダメでしょ!?」

「大臣の力量を国民に示すいい機会じゃろ!」

スネグーラチカは笑顔のままで詰め寄ってくる。

目が笑っていない。

「毎年そうなんじゃが、この時期は寒波が来るから準備のため人手があまり裂けぬ。

 そこで自由に動けるおぬしらじゃ!」

「え、私たちも!?」

「ふぁっ!?」

他人事だと思っていたジャンヌとヤンが驚いている。

「うろたえるな!」

巴が叱責した。

「私たちが、フロストランドの民にお飾りだと思われてるのは承知している。

 だからこそ、この機会に手柄を上げないと今後、事業に支障を来しかねない」

「うむ、その通り」

スネグーラチカはうなずいている。

「いやー、でもー」

ヤンが渋っている。

あまり自信がないのだろう。

「ニョルズもつける!」

スネグーラチカは、なんか勢いだけのセリフを叫ぶ。

「そんな某漫画の教授みたいなこと言われても…」

静も煮え切らない。

「皆、聞け! フロストランドの民は大体が脳筋だ!」

「おいおい、問題発言じゃね、それ?」

巴が言い切ったので、クレアが突っ込んでいる。

「うるさい!」

「うへー」

「そういう性質のヤツらってのは、実力のないヤツの言うことなんか聞かないんだ。

 ジャンヌ、あんたは防衛局の長だな?」

「うん、まあ、そうだけど」

「将来的に正規軍が出来て率いないといけなくなった時、お飾りのままだと誰も言うことなど聞いてくれないんだぞ」

「う、それは困るな…」

ジャンヌは若干、引いている。

だが、巴に具体的な事を言われて理解できたようだった。

「ジャンヌだけじゃない。全員そうだ。それぞれの局に人員が配置された時、そいつらを率いられなかったら惨めだぞ」

「ああ、まあ、それはイヤだな」

クレアも追随した。

経営者の立場に居ただけにそういうものには敏感なのだろう。

「まあまあ、皆、事の次第は分ったようですわ」

マグダレナが巴をなだめる。

「分ればいいんだ」

巴はプイッと顔を背ける。

「トモエ姉さん、怒ると怖いなぁ…」

ヤンはビクビクしながら、巴の顔色をうかがっている。

「まずは状況を聞くのが先だよ」

パトラが言って、椅子から立ち上がる。

「え、今?」

「これでも法務大臣だからね」

「よし、私も行くぞ」

巴が意気込んでいる。

「はー、分ったよ、行くかー」

静はため息をついた。



商隊がねぐらにしている酒場に到着。

「邪魔するぞ」

スネグーラチカが先頭を切ってドアを空け、中へ入った。

静たちも後について入る。

その後に入ってきたニョルズがドアを閉める。

「これは雪姫様」

体格の良いドヴェルグの女が声を掛けてくる。

女主人のグリーズである。

どっしりとしていて筋肉質。

とても商売人とは思えない体つきだ。

「商隊が戻ってきたと聞いた、また襲われたそうじゃな」

「へえ、そうなんでさぁ」

グリーズはポリポリと頬をかく。

「ミッドランドのヤツらはクソの集まりですべ」

「今、会えるかの」

「へえ、しばしお待ちを」

スネグーラチカが言うと、グリーズはさっと二階へ上がってゆく。

この手の酒場にありがちなように、二階が宿になっている。

フロストランドは、あまり旅人が訪れないため、地元の商売人たちに休息所として提供しているらしかった。

月にいくらの契約で何部屋かを貸している。

グリーズが商隊を呼んできた。

若干の負傷者はいるが、屈強なドヴェルグらしく全員無事だ。

「賊は、数をそろえてきやがりまして」

「ワシらの商売が上手くいってるのを見て、後をつけてきたみたいなんでさぁ」

「装備も良くて、戦いも上手いヤツらばかりで」

「追い剥ぎ専門の悪党かもしらんですだ」

「前よりグレードアップしとるな」

スネグーラチカは唸った。

「となると、しばらくおぬしらの事を調べとったんじゃろう」

「ああ、なるほどね」

クレアがうなずく。

「ビフレストだっけ、街の長に言って取り締まってもらえば?」

「そのようなこと、いの一番にやっとる」

「そっかー」

「相手の人数が多いなら、クロスボウがいいかもね」

アレクサンドラが言った。

「狙撃なんかできないよ」

静が口を尖らせた。

「いや、クロスボウの数を揃えて一斉射撃すればいいよ」

アレクサンドラが説明した。

「ああ、面で制圧するんだな」

ジャンヌがうなずく。

「ん?」

商隊のドヴェルグがそこで気付いた。

「まさか、護衛を増やすって、大臣方が?」

「うん? 頼りないと申すかえ?」

スネグーラチカの顔には、何か問題でも?と書いてあった。

「いえ、滅相もねぇ」

ドヴェルグは首がちぎれんばかりに振る。

「ここな娘たちの中には武芸に秀でた者もおる」

「ボクも着いていっていい?」

いきなり声がした。

パックだ。

「なんじゃ、おぬしも居たのか」

「なんか面白そうだったし、それにビフレストに行けるじゃん」

「おお、大魔法使い殿も同行かや」

「これは心強いべ」

ドヴェルグたちは談笑し始める。

雰囲気が少しこなれてきたようだった。

「なんだい、みんなしてバカにして」

パックはプイッとそっぽを向く。

「いやいや、そんなことはねえだよ」

「ところで、みなさん、メシは食ったべか?」

「今日はワシらがおごるでよ」

「わーい」

パックはコロッと掌を返して喜んだ。

(場を和ませるって才能だなぁ)

静は感心していた。


大臣という肩書きで、女ときたら、打ち解けるのはかなり難しい。

そこへパックが入ってちょうど良い具合に緩和された。

話はまとまって、次の旅程に同行することになった。


商隊は持ち帰った品物を売りさばいたり、向こうで売る品物を買い込んだりしながら、旅支度をした。

ほぼ休みという時間がない。

体力のあるドヴェルグだからこそ、できることか。


静、巴、ジャンヌ、ヤン、それにアレクサンドラは毎日商隊の所へ足を運んだ。

アレクサンドラはクロスボウの訓練と指導のために来ていた。

ドヴェルグたちは一通りクロスボウを扱えたが、隊列を組んで一斉に撃つ訓練はほとんど受けたことがない。

ジャンヌとアレクサンドラが、軍隊式の訓練を施す。

整列から射撃までを何度かやる。

付け焼き刃だが何もしないよりはいいだろう。

もちろん、静たちも同じように訓練をした。

地位がどうあろうと一緒に旅をする仲間なので、分け隔てがあってはならない。

そんな訳で、一応全員がクロスボウの一斉射撃を覚えた。

基本戦術はクロスボウの面射撃で相手の勢いを削ぎ、白兵戦で押し込んで蹴散らすというものだ。


「念のため、面射撃が失敗した時、どうするか考えよう」

ジャンヌは言った。

「うーん、どうしよう?」

静は首を捻った。

何も浮かばない。

「面射撃がうまく行かなかったとして、相手はどうくると思う?」

「数で押してくる、突撃だな」

巴が答える。

「そうだね、そしたら、こちらは何をすればいい?」

「うーん、何人かが盾役になって、相手を押さえながら撤退かな」

「それが1番目の案」

ジャンヌは言った。

「パックの魔法で足止めしてもらうってのは?」

「目くらましとか?」

「面倒くさいから火で焼き払っちゃおうよ」

と言ったのはパック本人。

「おいおい、殺戮する気マンマンだよ」

「えー、クロスボウの一斉射撃だって同じだろ」

パックは肩をすくめる。

「まー、そうだね」

「じゃあ、盾役が相手を押さえながら、パックが魔法で援護しつつ退却でどう?」

ジャンヌがまとめる。

「相手に魔法使いがいたら?」

ヤンが言った。

「ミッドランドには人間が多く住んでるけど、人間の魔法使いは数が少ないんだ」

「ワシらドヴェルグよりかは多いだがね」

商隊の男が言った。

「つーか、伝説の中でしか聞いたことねえだな」

「なるほどね、相手に魔法使いがいる可能性は低いのね」

「んだ」

「なら、考える必要は薄いね」

ジャンヌは答える。

「万が一、魔法使いがいたら?」

ヤンは心配性な質らしい。

「パックを当てて拮抗させる」

静が冗談交じりに言うと、

「ボクは物かよ」

パックはふて腐れた。


「狙撃で射殺する、は?」

アレクサンドラが提案する。

「狙撃に熟練した人がいない」

「あ、そっか」

「まあ、でも、適性があれば練習してもいいかもね」


てな感じで、準備は進んでいった。



商隊が戻ってきて1週間。

再び旅に出発した。

今度は静、巴、ジャンヌ、ヤン、それにニョルズが同行している。

アレクサンドラは格闘戦ができないので館に残っている。

商隊のドヴェルグは15人。

隊長はガングと言う。

ヨツン族の名家の血筋で昔から商売に従事している。

商隊のメンバーも親戚関係の者ばかりである。

全員、有事の時には兵隊として戦に参加していたようなので、戦士としても十分な力がある。

荷物はソリに載っけていた。

いつもと同じで、ソリは5台。

ソリを牽くのはトナカイである。

急に数を変えると賊に警戒されるかもしれないということもあったが、一回の旅程で採算が取れる物資を積むとどうしてもこのボリュームになるのだ。


ガング商隊は町を出て、雪景色の中をソリで移動した。

途中いくつかの集落を通り抜ける。

集落は皆、ドヴェルグの部族で、資源の近くに点在しているようだった。

日の出とともに町を出て、昼に休憩を入れる。

昼食を取ってから、夕方になる前に集落の一つへ入る予定だ。

旅程はいつも同じルートが構築されている。


「護衛を増やすのは通常の反応だから大丈夫だよ」

パックは言った。

皆、たき火を囲んで休んでいた。

昼食はスライスされたパンとチーズ、それからゴロッとした芋を煮込んで小麦粉を溶かし込んだ薄味のスープがついてくる。

「相手もそれを予想してるかもね、増員はありそうだね」

ジャンヌはパンを頬張りながら、談笑に加わる。

戦術戦略はジャンヌの領分だ。

積極的に関わるようにしているし、ジャンヌ自身もこの手の話をするのが好きである。

「まあ、わーっと襲ってきて標的が崩れたら略奪してくんだべ」

ガングが説明する。

「じゃあ、標的が持ちこたえたら?」

「そん時は諦めて逃げてくんだけど、後をつけてきてまた襲ってくんだ」

ガングは忌々しそうに言った。

「波状攻撃ってヤツか」

「んだ、あっちも人手をかける以上、儲けがねえと大損だからな、しつこくつきまとってくんだよ」

「儲けか…」

ジャンヌは考えている。

(短期的には撃退してゆくけど、長期的にはどうするか…)

(向こうの支配者に取り締まってもらうのが一番いいんだけど、雪姫様の話だとまったく手を打ってくれないみたいだし)

(ということは、手を打たざるを得なくなるように仕向けるべきだね)

(やり方はこれから考えないといけないけど)

(それから、埒があかない場合は直接、賊と談判することも視野に入れるべきかな)

(賊の周辺背景を調べておく必要があるかも…)

「スネグーラチカに定期的に連絡を取りたいんだけど、そういう魔法ある?」

ジャンヌはパックに耳打ちした。

「うーん、風の精霊に頼んでみるよ」

パックは言って、たき火から離れる。

「大丈夫、伝令走らせるって」

「はあ、何してるか全然見えないし、聞こえないよ」

静が言った。

「君らの世界でも霊視とかいうヤツがあるだろ」

パックは説明を始める。

「精霊もそんな感じのものさ。対話できる人にしか分らないんだよ」

「伝令って?」

ヤンが聞いた。

「風の精霊の親分が子分の精霊を使いっ走りさせるって」

「パシリかい」

静は突っ込みを入れた。

「ははは、どこの世界もみな似たようなもんだな」

巴が笑っている。


一行は午後のうちに目的の集落へ入った。

いつもの馴染みの集落のようで、宿を借りて代金を払う。

ここでちょっとした販売をするのが恒例のようだった。

集落の住人にしてみれば、ガングたち行商人からアクセサリなどの小物や便利グッズなどを買う良い機会なのだ。

「ふーん、こういう文化なんだねぇ」

静は感心していた。

フロストランドに来てから、静はこうした世の中のものに興味を持ち始めたようだ。

「物流や商業の理解を深めるのは、シズカの仕事には役立つよ」

「あ、うん、そうね」

ジャンヌに言われて、静はうなずいた。

「最初は、経済産業局って何するかわかんなかったけど、実際に見たらこういう生活のことなんだねー」

「産業と商売ってことだね」

「うん、こういう活動をちゃんと育てて大きくすればいいってことか」

「ああ、一つ賢くなったね」

ジャンヌは笑った。

「うっさいなー、あんま頭よくはないけど、こんぐらいは分んだよー」

静はブンブンと手を振り回す。



三日が過ぎて、景色が変わって雪が少なくなった。

宿泊する集落で、トナカイとソリを預け、代わりに馬と馬車へ荷物を載せる。

人を雇って拠点としているのだった。

支店までは行かない規模だが、機能としてはそれに近いようである。

ここへ物資を置いて、周辺の集落と売り買いしているとか。

「よさげな物があったら、ここで荷物に加えたり、売れそうにないって分った物があったら置いていくんでさぁ」

ガングは機嫌よさそうに話している。

この集落には、ガングと同じ家の親戚筋が多く住んでいるようだった。

身内なので、リラックスできているようだ。

「将来、商売の規模が大きくなったら、ここに支店を作るつもりですだ」

「ふーん」

静は相づちを打ってガングの話を聞いていたが、

「じゃあ、将来的にはこの集落に鉄道を引いてくるといいかもね」

急に思いついて言った。

「はあ、なんですかいそれ?」

「ああ、馬車をもっと大きくしたような車のことだ」

巴が説明した。

「それが完成したら、もっと多くの物資を運べるようになる」

「へぇ、それはすごいだなぁ」

ガングは半信半疑といった感じである。

「んじゃ、ワシらの最初に物資を運んでもらうだか」

「んだなや」

「わはは」

商隊の面々はガハハと笑った。


静の頭の中で、漠然としていたものが少し形になってきていた。

アレクサンドラが言う鉄道を、雪姫の町からこの集落までつなげる。

この集落にある拠点に荷物を輸送して運賃を頂く。

ついでに途中の集落に停車駅を置き、積み荷を降ろしたり、新たに積んだりする。

モデルはガング商隊だ。

ソリや馬車を維持する費用と比べてどうかってところだろうか。

その他にも、薪や石炭などの燃料、食料品なども運べそうだ。

(まあ、細かい所は後で良いよね)

静は思った。



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