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フロストランド  作者: くまっぽいあくま
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41 「おかしい…」ジャンヌはつぶやいた。

41


「おかしい…」

ジャンヌはつぶやいた。

ゴブリン族の反乱分子たちは、相変わらず散発的攻撃を繰り返している。

押しては返す波のような印象だ。

無目的に攻撃を仕掛けているのだろうか。

「なにが?」

静が聞いた。

「ヤツら、なにも考えていないのか、ただ機械的に攻撃を仕掛けているように見える」

「あー、そういうことか」

静はうなずいた。

「……分ってないだろ」

「だって、難しいんだもん」

「ふぁ、ひょーいうひょきはふぁいふぇがひかんはしぇきひてるっへにょがひょうばだにぇ」

アレクサンドラが言った。

山芋と里芋を蒸しただけのものを頬張っている。

砂糖をつけて食べるのがゴブリン族流らしかった。

「食べながらしゃべるのは行儀悪いぞ」

巴がジト目で咎める。

「……」

アレクサンドラは飲み物で芋を飲み込んでから、

「そういう時は、時間稼ぎってのが相場」

「あ、そうか」

ジャンヌはそれで気付いたようだった。

里芋を一口かじり、飲み物を飲む。

山に自生しているハーブを煎じたものだ。

考えをまとめているのだった。


……反乱分子たちは何か企んでいる。

ジャンヌたちを引きつけている。

何かをやろうとしている。


「……何をやろうとしている?」

ジャンヌはつぶやいた。

「え?」

静が山芋を食べようとして、手を止める。

「手薄な所を攻めるのが定石だな」

ヴァルトルーデがハーブティーをすすりながら言った。

「手薄なところか」

ジャンヌの脳裏に場所が浮かんでくる。

雪姫の町。

パック集落。

メロウの町。

茜の丘集落。

マロースの館。

「ダメージを与えるとしたら、雪姫の町が一番いいな」

「なに!?」

巴が思わず立ち上がる。

「レッド・ニー、今すぐスネグーラチカに連絡してくれ!」

ジャンヌが言った。



ジャンヌたちの読み通り、反乱分子は刺客を放っていた。

指導者が選抜した者たちだ。

敵の警戒を引き起こさないよう普通の見た目の者を選んでいる。

トロル、プーカ、コバルトは体格や筋力、見た目のせいで除外され、シーオークは魔力のせいで除外された。

小柄、非力、貧相。

刺客はすべてノッカーであった。

狙いは雪姫の町。

中枢を叩くことで混乱を引き起こそうとしている。


レッド・ニーが風の精霊を使って伝言を送ってくるまで、十数日かかった。

この間に刺客たちは町に潜入し、氷の館に潜入する方法を探った。

観察している内に、刺客達は館に業者が出入りしているのに気付いた。

食糧や日用品、消耗品などを届ける業者だ。

運の良いことに業者は人を募集していた。


刺客は業者として館へ潜入することに成功した。

最初は間取りや中で働いている者たちを把握するに留める。

間取りは典型的なフロストランドの建築様式。

大きいが思っていたより質素である。

使用人たちはドヴェルグの女たちで、皆、素朴な服装。

ある程度顔を出すことで、中にいる者たちの警戒心を解いておく。

顔を覚えてもらえば、普通に対応される。


……意外に貧相な館だ、もっと贅沢していると思ってたが。

……出会い方が違っていれば、あるいは。

……このまま働いた方が良かったかもな。

刺客達は胸に様々な思いを持ったようだったが、


しかし、


既に反乱分子として活動した以上、その経歴が消え去るなどと言うことはない。

暴力によって立つ者には、暴力しか道はない。

時間が経てば、いずれ正体が割れて捕まるだろう。


刺客のノッカーたちは持参した黒色火薬を体に巻いた。

自爆するつもりである。

服を着れば、外からは火薬を仕込んでいるとは分らない。


「やあ、今日は良いお天気で」

「おお、いつもご苦労さん」

館の門番のドヴェルグに挨拶をして、刺客たちは館の裏手へ回った。

台所が裏手に位置しており、その勝手口に搬入するのだった。

「やあ、小麦粉届けにきだだよ」

「あら、ご苦労様。小麦粉は小屋へ入れとくれ」

「へえ、分りましただ」

刺客は侍女たちに挨拶して、小麦粉を担いで小屋へ搬入する。

小屋は勝手口の近くにあって、食糧品を保管している。

必要な分を台所へ運ぶやり方だ。


ここからが正念場だ。

小屋の中で火打ち石を使って導火線に火を付ける。

そして何食わぬ顔で館へ戻る。

「ちょっと厠を拝借」

侍女に断っておいて、館の内部へ。

ここからは雪姫を探さないといけない。

侍女との会話で、1階の大広間か会議室、2階の自室という三カ所にいることが多いのが分っている。

刺客もちょうど3名。

各々が分れてその3カ所を目指すことになっている。

刺客たちは何も言わずに分れた。

目指す場所に着くまでに見とがめられたり、導火線が尽きたらそこで終了である。

いずれにせよ、館の内部に潜入したところで成功なのだ。

火薬が爆発して確実にダメージを与えられる。


1階の大広間と会議室を目指した二人は無言で廊下を進んだ。

1階には武官が多くいるので、すぐに見つかってしまう。

「おい、おまえら何をしている?」

武官が詰問してくる。

「へえ、厠はどこですだべ?」

「ああ、厠を探してるのか」

武官のドヴェルグは少し安心したようだった。

何か用事があったのか、武官は一人で廊下にいる。

「厠なら…」

言いかけたところで、刺客が懐から取り出したナイフを構えて武官へ体当たりした。

ナイフが横っ腹に突き刺さる。

「ぐっ…!?」

ドヴェルグは驚いたが、反射的に刺客を手で押しのけた。

刺客は吹っ飛ばされて床へ転倒する。


だっ。


もう一人が走り出した。

「待て!」

武官は腰の斧に手を伸ばそうとしたが、腹に力が入らず、よろめいて膝を着いた。


その瞬間、転倒した刺客の導火線が尽きた。

火薬に火が達し、爆発する。



どごおぉぉっ!


爆発音。


館の壁という壁、柱という柱が振動する。


「何事じゃ!?」

スネグーラチカは驚いている。

「爆発音……」

パトラが何かを察したようだ。


……爆発、火薬。

……襲撃か!?


パトラの出身地であるエジプトは、2013年から2017年まで大規模テロ事件が散発していた。

2017年4月に、アレキサンドリアとタンタでコプト・キリスト教会に対する自爆テロ事件が発生したことを受け、エジプト政府は非常事態宣言を発し、同宣言は現在まで継続されている。

2018年からはテロ事件の件数、死傷者数ともに減少しているが、引き続き死傷者の出るテロ事件が発生しており、テロリスト掃討作戦が各地で行われている。

警察当局によるテロ事件防止の過程で、カイロ市内及びカイロ近郊で爆発事件が発生しているので、引き続き注意が必要とされている。

そうしたお国柄で育ったため、パトラはこの手の雰囲気に敏感だ。


「襲撃だ、雪姫様!」

言いながら、パトラはスネグーラチカに駆け寄った。

「おわっ!?」

パトラは有無を言わさずスネグーラチカを抱え上げ、会議室から出る。

「武官! 武官はいるかッ!?」

「なんじゃ、どうしたというのじゃ!?」

スネグーラチカはきょとんとしているが、パトラは声を張り上げて大広間まで走り抜けた。

「ハイッ! ここに!」

パトラの声を聞いて、武官たちが駆けつけてくる。

「襲撃の可能性がある、雪姫様を連れて外へ!」

「え!?」

武官たちは驚いている。

しかし何をしていいか分らず右往左往しているのだ。

暢気なものだが、爆破テロを経験したことがない者たちだ。

この反応は仕方がない。

「早く!」

「は、はい、分りました!!」

武官たちはスネグーラチカを受け取って、外へと走り出す。

ドヴェルグたちは力があるので問題ない。

「こらー! 私は物かーっ!!」

スネグーラチカの怒鳴り声が遠ざかっていった。

「残りは私と襲撃者を迎え討て!」

「ハッ! ……ですが法務大臣は非戦闘員では?」

武官たちは、パトラの身を心配しているようだ。

「緊急事態に、そんな事を言ってられるか!」

が、パトラは声を張り上げて押し通した。

「りょ、了解であります!」

武官たちは迫力に圧されて、うなずいた。


静、巴、ジャンヌ、ヤン、ヴァルトルーデ、アレクサンドラは西の山岳地。

マグダレナ、クレア、フローラはメロウの町。

屋敷にいるのは、パトラとヤスミンの二人だけだ。

正直、このメンバーで切り抜けられるか不安なところだが、誰かがまとめ役になっていかないと屋敷の武官たちが効果的に動かない。

パトラは内心、覚悟を決めた。

……私が死のうとも、皆を殺させはしない。



1階へ進んだ残りの刺客は会議室を目指した。

だが屋敷のガードが固く予行演習ができなかったので、だいたいの方向しか分っていない。

当てずっぽうに進んだので、会議室から出てきたスネグーラチカと武官とは遭遇しなかった。

その後に出てきたパトラ率いる武官たちが、屋敷内の捜索を開始したので、これと鉢合わせた。

「いたぞ!」

武官が叫び、刺客はハッと立ち止まった。

「ノッカーだ!」

「火薬に気をつけろ!」

武官たちは斧と盾を構えた。

盾は丸くて上半身程度しかカバーしないので、爆風を遮るには不十分だ。

刺客は瞬時にそれを悟ると、武官たちに向かってダッシュした。

そして武官の一人にしがみつく。

「あっ!」

パトラが思わず声を上げる。

爆弾を持ったまま自爆する気だ。

イヤな汗がどっと吹き出た。


……。

…………。


「あれ?」

パトラは拍子抜けしたような声を出す。

いつまで経っても爆発しない。


「え?」

刺客のノッカーも不思議そうに己の体を見つめている。

刺客たちは緊張のため汗をかきすぎた。

しかもこの刺客は廊下で見つかった後、ずっと走ってきた。

かいた汗が火薬を湿気らせたのだ。


「捕縛しろ!」

「ハイィーッ!」

「覚悟しろ、おらぁん!」

パトラの命令で、武官たちが刺客のノッカーを押さえつける。

「導火線は……!」

パトラが言うと、

「服の下ですね!」

武官の一人が懐からナイフを取り出して、刺客の服を裂いた。

急いで火薬を改める。

導火線は、既に尽きていた。

もう爆発することはない。

「ふう…」

その場の全員が安堵した。

武官たちは縄で刺客のノッカーを縛り上げる。

「よし、これで…」

パトラは言いかけて、その後、すぐに思い出した。

「2階!」

「あ、ヤスミン殿たち!」

「急げ!」

パトラと武官たちは走り出した。



2階に上がった刺客は、すぐに声のする部屋を見つけた。

ヤスミン、ヤンネ、ヘンリックの3人が勉強をしているのだった。

フローラがメロウの町に行っているので、時々大パックが教えに来るのみ。

ほとんど自習である。

彼らの勉強も進んでいて、フローラが作らせた外の知識を記した本や屋敷の本を読んだり、3人でデスカッションしたりという段階へ来ている。


ぎぃ


不意にドアが開いた。


「ん?」

ヘンリックがそれに気付いた。


……誰か来たのか?


そういえば、そろそろ昼飯の時間だろうか。

白昼堂々と襲撃してくるとは思っていないのだ。


ノッカーが入ってきたのを見て、ヘンリックは貴族として普通の反応をした。

「おい、ここは部外者が来るようなところじゃないぞ?」

つまり部屋の外へ出るよう言った。

「あの、厠を探していて…」

ノッカーはオドオドした様子でボソボソと言った。

「厠なら廊下の突き当たりだぞ」

ヤンネが言う。

それでもノッカーは出て行こうとしない。

それどころか、自分の体をしきりに見たりまさぐったりしている。

「やれやれ」

ヘンリックは立ち上がった。

……ヘンなのが来たな。

……屋敷の武官たちは何をしているんだ。


(今、血相変えて向かってきているところだ)


「おかすいな」

ノッカーは首を傾げた。

かと思うと、急に懐からナイフを取り出した。

「!?」

「なんだ、お前、ナイフなんかどうする気だ!?」

ヤンネが驚いて叫んでいる。

「わっ!?」

ヤスミンも驚いて立ち上がった。

「痴れ者!」

ヘンリックは腰の小剣を抜いた。

護身用のショートソードだ。

貴族のたしなみとして持っているだけの物であるが、ないよりはマシだ。

しかし、ヘンリックがショートソードを抜いた時には、ノッカーは距離を詰めてきていた。

非力とはいえ、反乱分子として戦いに何度も参加しており、実戦経験は豊富だ。

ナイフを振る。

ヘンリックは寸での所で身を躱したが、それでも腕にかすったようで、袖が切り裂かれている。

「ぐっ…」

ヘンリックは斬られたという事実に驚いていた。

戸惑いは戦いにおいて隙となる。


刺客のノッカーは火薬が爆発しないのを見て、すぐにナイフに切り替えた。

ここにいる3人は戦闘経験が少ない。

反応で分った。

雪姫はいなかった。

こうなればこの3人を殺し、できれば武官を殺し、少しでも被害を広げるしかない。


刺客のノッカーはナイフを振って攻撃してくるが、ヘンリックはなんとか踏みとどまって防御した。

避けてしまえばヤンネとヤスミンの所へ行かれてしまう。

そう判断したので、ショートソードで敵の刃を防ぐ選択をした。

この辺は、巴たちに厳しい稽古を強要されていたお陰である。

胆力を付けるのに役だったらしい。

しかし、ノッカーも無駄に戦を経験してきてはいない。

相手の防御が固いのを見て、すぐにナイフを投げた。

「うわっ!?」

ヘンリックが反射的に避ける。

ナイフは背後へ飛び、ヤスミンへ向かって行った。


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