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フロストランド  作者: くまっぽいあくま
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16 炭焼きに手を出したものの、作業は難航していた。

16


炭焼きに手を出したものの、作業は難航していた。

石窯はフロストランドにもある。

木炭も、一部に家族単位や氏族単位の狭い範囲で使用されているのはある。

しかし、薪を専門で燃やすという考え方は広まってはいない。

石炭が手軽に入手できるので、わざわざ製造に手間のかかる木炭は使わないのだ。

なので、説明するのにも骨が折れた。


「えー、なんで木炭なんか」

スカジは明らかに乗り気ではなかった。

「そういうなよ、石炭が有限なのはわかりきってるだろ」

パックが擁護している。

パックは頭が回るだけに静たちがやろうとしていることを理解できているのだろう。

「そんなのずっと後の話だろ」

「今からやった方がいいんだ、ボクたちが気付き始めた頃には手遅れなんだよ」

スカジは渋ったが、パックは退かない。

「石炭を温存するのは国のためにもなる。燃料相場だけの話じゃないんだ。

 植林だって資源が枯渇しないように、もしくは少しでも枯渇を遅らせるってことにつながるんだ」

「わかった、わかった」

スカジは面倒くさそうに手を振った。

「とにかく、窯で焼くのを試してみよう」


色んな木を燃してゆく。

炭は作れるのが分ったが、お世辞にも品質が良いとはいえない。

品質の良い炭というのは、煙が少なく、長時間燃える。

「出来たけど、煙が多くてそんなに持たないね…」

静は渋い顔。

燃焼時間は2時間程度。

時間的には普通だが、火の粉が多く出る。

いわゆる木酢液のような臭気があり、爆ぜやすいという欠点もあった。

「未炭化の部分が残ってるんだよ」

クレアがなにやら気付いたようだった。

炭を手に取って眺めている。

「成形炭にしたらいいんじゃないかな」

「なにそれ?」

「ほら、ホームセンターとかでも売ってるじゃない、円形とか八角形で真ん中に穴が空いたヤツ」

クレアは説明した。

バーベキューで使ったことがあるらしい。

「炭を粉砕して固めるから品質が均一化できるのよ」

「そうかもね」

アレクサンドラが賛同した。

「他のやり方も模索するといいかも」

「でも、最低限の品質までは上げないと成形炭にしても品質は低いままだろ」

巴が指摘する。

「そうだね、品質を一定の所まで引き上げるのは必要だね」

アレクサンドラはうなずいた。

「そして、目的に応じて色々なニーズがあるから、それをカバーできるものをいくつか作ればいいんだ」

「例えばどんな?」

「料理用なら調理する間だけ燃えて、臭いもない方がいいし、燃料用ならできるだけ長い時間燃えて、火力も強い方がいい」

「なるほど」

静は納得した。

「品質を気にしないんだったら、石窯じゃなくて金属窯でいいんじゃないの?」

スカジが言って、製作を始めた。

できあがったものは、

「あれ、これってドラム缶?」

「似てるな…」

円筒形の金属でできた容器みたいな形になっていた。

上面に煙突が着いていて、側面から吸気する窯になっている。

「これ、そのままドラム缶にできそうだね」

「そうだな」

静と巴がうなずき合う。

「この窯、そのまま焼き物にも使えそうだな」

「あー、なんか見たことある、横に長い窯だよね」

「穴窯ですね」

フローラが言った。

「私、趣味で陶器を集めてましたが、陶芸の窯は奥が深いんですよね」

「いや、あんた、ナニモンなの?」

「実は、家が名家なもので…」

なんとなく濁した感じになったが、フローラは金持ちの生まれだということらしい。

もしかしたら、貴族なのかもしれない。

「あー、だから交渉毎にも強いのか」

「それは関係ありません」

フローラは否定した。

「家柄がよくても、おポンチな人間はよくいます」

「ま、そうかもな」

巴はあまり深くは詮索しなかった。

フローラが嫌がっているような気がしたのだった。


まとめると、

・使用目的に合わせて木炭をいくつかの種類に分けて作る。黒炭、成形炭とか。

・備長炭に代表される、いわゆる高品質の炭作りは今後の課題。

・石窯だけじゃなく、金属窯も模索する。

・同時並行で、ドラム缶、陶器用の窯を開発する。


「こんな感じですわね」

マグダレナが、いつものようにまとめた。

「成形炭は作るのは手間ですが、輸送や販売には利点があります」

「重さが統一できるからね」

クレアが即座に答えた。

「そう、商売には重量は不可欠な要素です。

 個々の重さがバラバラだといちいち計量する手間ができます。

 一個当たりの重量が統一されていれば個数を数えるだけ。

 成形炭はさらに一箱辺りの個数も統一できます」

「箱で売るのか、なら輸送もしやすいね」

ジャンヌがうなずいた。

「ですから、これをボイラーと同様に輸出品目にしてゆくのがいいかと思います」

「なるほど」

スネグーラチカも納得しているが、

「ちょっとまった、炭は湿気ると火が点きづらくなる、その対策は?」

パトラの指摘で「あ、そっか」という空気になった。

「安くても質が悪いと売れない、輸出品は特に馴染みのない土地の物という認識をされるからね、使い勝手が悪いと売れなくなるよ」

「うーん、乾燥剤があればねぇ」

アレクサンドラが名残惜しそうにしているが、

「まてまて、みんな、早計すぎるよ」

そこで、クレアが言った。

「輸出より、国内で流通させるのが先だよ。それで使い勝手をみた方がいい。まあ、輸出品目としての適性はあるだろうから、ゆくゆくは……でいいんだよ」

「そ、そうじゃったな」

スネグーラチカは、ハッと我に返ったようだった。

「ちと性急じゃったようだ」


「ところで、高級木炭とはどんなものなんじゃ?」

スネグーラチカは聞いた。

この所、鉄道の普及のために国内のいろいろな所へ出かけていったりしていて、あまり説明を受けていないのだった。

「性能の問題ですね」

マグダレナが答える。

「燃焼時間が長い、煙がでない、火力も強く安定しているなどです」

「欠点はないのかえ?」

「火が点きにくい、高価になりがちというのがありますね」

「ふーん、じゃがそれを作る技術はみなもっとらんということか」

「私の国でも一部の職人しか作れないんだよねー」

静が言った。

「ならば、それは保留でいいのではないか?」

「あー、また保留か」

上下水道の他にも後回し事項ができた。


「金属窯については特に必要ないように思えるがのう」

「生産量が増えた場合は必要になってくるね、例えば国内外での需要が高まった場合とか」

クレアが答える。

「石窯では追いつかぬのか?」

「能力的には石窯でもいいんだけど、移設や修理が面倒なんだよね」

「ああ、そういう理由か」

「まだまだ先の話だけど、大規模になってゆくほどコストの問題が出てくる。無駄に金を使いたくないなら設備の規格化は必要だよ」

クレアは説明を続けた。

「それに金属の容器を作ってゆくと液体が運べるようになる。ま、今でも樽で運んではいるけど、これは技術の積み重ねをしてゆくってことだね」

「分った、これも続けよう」

スネグーラチカは納得したようだ。


「陶器窯か、土はどうするんじゃ?」

「これはドヴェルグたちに聞いた方がいいかもね」

アレクサンドラが答えた。

「質の良い土については、ドヴェルグの方が知ってると思う」

「陶器や土器は我が国にもあるが、それほど発達しとらんからの。ミッドランドやニブルランドの方が良い陶器を作っておるらしい」

「そっか」

「それに木工品が多いから、陶器の普及次第では木工匠の仕事を減らすことになりかねん」

「じゃあ、保留で」



ボイラーが運ばれてきた。

ガング商隊は手頃な物件を借りており、そこへ部品をどんどん運び込んだ。

馬車を置くスペースや馬の世話をする設備がないので、いつも通り宿は借りている。

物件は街の一角にある一戸建て。

常にビフレストにいるエーリクとアールヴたちも住まわせることになった。

商隊のメンバーも後退で駐在する。

徐々に商売の拠点にしてゆくつもりのようである。

ちなみに物件の借り賃については、雪姫の館も一部負担しているとのことである。


「ボイラー職人をつれてきたで、すぐできるだよ」

ガングは職人のドヴェルグにボイラーを設置させた。

拠点にボイラーが入った。

ついでに室内用ストーブも設置してもらう。

フロストランドほどではないにしても、ビフレストも北に位置しており、結構寒いのだ。

しかし、一面野原で雪だらけのフロストランドと違い、街中ではおいそれと水を捨てられないので、個室の暖房と料理用水の使用に留まっている。

「しっかし、完全に持て余すな」

エーリクはつぶやいた。

常駐する商隊メンバーが職人からみっちり使い方をならっているので、修理やメンテナンスで悩む必要は無い。

問題はいかに便利であるかを伝えるか、だ。


「……やっぱ粉挽きかな」

エーリクは考えた結果、この結論に達した。

動力といっても、意味不明なものでは便利だと思われないだろう。

ミッドランドの人々の生活に役立つものでなければならない。

小麦を自動で挽くことができれば、あるいは興味を持ってもらえるかも。

「ただなぁ、この辺は水車があるからな、難しいところだぜ」

「あー、水車の方が実績もあるからね」

カット・イヤーが言った。

「新しいものに拒否反応を示すしね、この辺のヤツら」

「いやなこと言うな」

エーリクは耳を塞いだ。

などとやっているうちに時間だけが過ぎてゆく。

「宿の方に訪ねてきた人がいるみたいだよ」

「誰だ?」

「前に酒場で会った人みたい」

カット・イヤーが答える。

一応、誰か訪ねてきたら教えてもらうよう頼んでいたのだった。

「ああ、太守の手下だな」

エーリクはうなずいて、

「いくぞ」

「あー、はいはい」

アールヴが何人か面白がって着いてきた。

(この野次馬がッ)

エーリクは思ったが、黙って鹿馬亭へ向かった。


鹿馬亭で待っていたのは、やはり太守の手下だった。

ヘルッコとイルッポである。

「お待たせした」

エーリクが挨拶すると、

「あれ、あんた前にあったことねーだか?」

ヘルッコが聞いてきた。

妙に勘が効くようだ。

「いえ、人違いでしょう」

「あ、そっかー」

エーリクが惚けるとヘルッコはすぐに忘れたようだった。

「ま、立ち話は何ですから、食事でもどうですか」

「お、いいねえ」

「待ってました」

ヘルッコとイルッポはそれが目当てだったようだ。

喜んで鹿馬亭に入ってゆく。

この手の宿にありがちなように、宿の一階は酒場兼食堂になっている。

酒盛りをしながら適当にボイラーの話をする。

この二人から上司のピエトリに話をしてもらうには、食べ物や酒で釣るのがいい。

しっかりもてなせば、良く伝えてくれるだろう。

「そーいや、なんか親方に言われたんでねっけ?」

「あーそうだ、なんだっけ」

「オレが覚えてるわけねーだよ」

ヘルッコとイルッポは途中で何か思い出したようだった。

(おいおい、忘れんなよ)

エーリクは内心呆れていたが、

「あ、思い出した」

ヘルッコが言った。

「当方、商売毎には疎いゆえ、懇意の者を介することになる、承諾されたし」

ピエトリの声色を真似ていた。

「ぎゃははは、似てる~」

イルッポが笑った。

(内輪ネタかよ)

エーリクにはさっぱり伝わらない。

「それでは、どなたか商人に委託されるということですね」

「んだ」

「ほだ」

ヘルッコとイルッポは同時にうなずいた。


酒盛りを適当に切り上げて、二人を帰らせる。

昼間から酔っ払っていたが、他にもそういうヤツらが一杯いるので誰も気にもとめない。

見送りが終わって、詰め所へ帰ると、

「エーリク、お金貸して」

カット・イヤーがいきなり言った。

「館から給料出てんだろ」

「もうなくなっちゃった…」

ぺろりと舌を出すカット・イヤー。

「今までで最速だな」

エーリクは呆れを通り越して感心していた。

最初は怒っていたのだが、そのうち何を言っても治らないのに気付いて諦めたのだ。

パックだけでなく、獣人や羽根付きの妖精も同じである。


「……今度から給料の一部を積み立てします」

エーリクは宣言した。

「えーっ」

「なんでーっ?」

「オーボーだーっ!」

バカどもが叫んでいるが、

「毎回、もらった瞬間に使い切るの誰ですか」

エーリクが言うと、

「……」

「……」

「……」

皆、視線を逸らして知らんぷりをする。

「もちろん、オレの給料も同じようにする、全員同じだから公平だ」

「給料が減るのはやだ」

「一時的に減ったように見えるだけだ!」

エーリクはピシャリと言って黙らせる。

「ガング商隊に預かってもらうから、必要になったらオレに言え」

アールヴたちはぶーぶー文句を言ったが、結局みな従うことになった。


エーリクは一計を案じた。

アールヴたちに金を持たせたらすぐに使い果たす。

下手をすると野垂れ死ぬ恐れがあるので、こういう措置を取ったのだった。

アールヴたちは全員、手持ちの金は使うが、預けた金は忘れてしまうという、おポンチ集団だ。

これなら手持ちの金を使い切っても、ワンチャンある。


商隊に帳簿をつけてもらい、必要になったらいつでも引き出せるという条件の元に運用は商隊に任せる。

利子はないが、銀行の預金機能のようなものだ。

ガング商隊にも余分に使える金ができるからメリットはある。

もっと言えば、給料の一部を徴収して保険のような事もしたかったが、説得が面倒なのでそこまでは踏み込んでいない。

仕事中にケガをしたり、病気になったりした時にはここから費用を捻出する。

裏も表も色んな仕事を経験してきたエーリクは、心のどこかでいつも「こういう保障があったら……」と思っていた。

しかし、これは時代をかなり先取りした考えだ。

ジャンヌたちの話を聞いていたから、思いついたことだった。

「アイツらマジでナニモンだよ……」

エーリクはつぶやいた。



数日して、ヘルッコとイルッポがまた訪ねてきた。

エーリクはいつものように食事に誘った。

二人をもてなすのは費用がかかるが、その分、太守サイドの情報をもらえたりと何かと利益がある。

交際費というヤツだ。

「そろそろ商人と顔合わせ的なことをすんべや、だと」

「そうですか」

エーリクは曖昧にうなずく。

(太守側と商人側の調整がついたということか)

「ところで、なんという商人なのですか?」

「えーと、ニール商会だっけ?」

「あー、なんかそんな名前だっけな」

ヘルッコとイルッポはぼんやりとしか覚えていないようである。

(えっ!?)

エーリクは内心驚いていたが、顔には出さなかった。

正直なところ、この活動を続けていれば、いずれどこかで接触するだろうとは思っていたが、こんな直接的なものになるとは思っていなかった。

「それで、いつお会いできるので?」

「明後日でどうだべ、だってよ」

「それはまた急ですね」

エーリクは即答を避けた。

習慣的にリスクを考えてしまうのだった。

(ま、今ならフロストランドの後ろ盾もあるし、太守の後押しもあるから、下手な事はしてこないだろう)

エーリクはすぐに分析した。

(それに、オレみたいなチンピラ、生きていようが死んでいようが大して気にしないだろうしなぁ)

「もしかして、都合悪いだか……?」

イルッポの表情が曇っている。

ヘルッコも同様だ。

恐らく上司のピエトリに「承諾してもらうまで帰ってくるな」とか言われているのだろう。

(…ということは、向こうは明後日で了承したのだな)

「分りました、では明後日で」

エーリクはうなずいた。

場所や時間を聞いて、そのまま解散となった。


「風の精霊の伝令が来たよ」

パックが報告にきた。

「エーリクと一緒にいる妖精からだね」

「なんて?」

「明後日、太守の紹介でニール商会と会う、だって」

「ん、なんか聞いたことあるな、それ」

「確か、エーリクが言ってた黒幕の商人じゃなかったか、それ?」

静と巴が言った。

「大丈夫なのかな」

「多分、大丈夫でしょう」

特に心配した様子もなく、マグダレナ。

「フロストランドの後ろ盾もありますし、ビフレスト太守は我が国との交易を重視してるようですから、相手も下手なことはできませんよ」

「そうだよ、エーリクなんてチンピラ殺したところで利益ないしね」

ジャンヌが一笑に伏した。

「さらっと物騒なこと言わないでよ」

「悲しいけど、これが世界基準ってヤツだよ」

ジャンヌはべーっと舌を出している。

からかっているのだった。

「静は反応が面白いからな」

クレアが笑いながら言う。

「ボイラーが売れたら一度ビフレストへ行くべきかな」

「そうじゃなぁ」

スネグーラチカが言った。

「太守殿に謝意は述べないといかんだろうな、尽力してもろうておるし」

「てか鉄道に客車導入して、それで茜の丘まで移動したいねぇ」

アレクサンドラが願望優先という顔をしているが、

「私たちの予定に合わせるとかダメだよ」

パトラが厳しく戒めた。

「工期を早めるのは事故フラグだからね」

「ケチー」

「そういうことじゃない」


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