99 ~ともだち(後編)〜
少し間が空いてしまいました
もうストックも尽きますので、これからはまた不定期になってしまうかと思います
週一回は更新できるといいなぁ、とは思っておりますが
抑えきれない好奇心に瞳を輝かせたラウラが両手を胸の前で握りしめながらその大鎧を覗き込み、つぶさに観察している。
「そうですね…… 確か【強化外骨格騎乗操縦型自動人形】と仰るのでしたわよね? 駆動系は普通のゴーレムと同じなのかしら……? それとも操縦出来るという事は、根本的に何か別の──」
「そっからか…… そうだよね、そこ重要なトコだもんね」
稀代の錬金術師を祖父に持つ天才少女も、自分の工夫が説明できる相手にさぞ飢えていたのではないだろうか。 おそらく師匠や兄弟子にも理解出来ない技術や魔法術式を駆使する彼女は、工房でも少し距離を置かれた存在なのかも知れない。
「これは普通のゴーレムじゃなくて【自動人形】だからね、金属製の骨格に人口の筋肉を内蔵してるんだ。 そこまでは知ってる?」
「いえ、ゴーレムは私の専門ではないので最初から説明して下さると嬉しいです」
ラウラの表情には自分を卑下する感情も無知を恥じる素振りもなく、ただ相手を尊敬する純粋な好奇心だけが浮かんでいる。 そんなラウラの反応にキアラもまた嬉しそう応えた。
「これはお祖父さまたちの発明した物なんだけど…… 少しだけ魔素を流すと収縮する繊維と、逆に伸びる繊維があるのよ」
「それを適切に組み合わせ編み込んで束ねてね、人間の筋肉の代わりに関節の可動に組み込んだ物が【自動人形】の特徴ってワケね」
「とても興味深いわ!」
それはユリウスたちも協力した発明のひとつだった。 今でも当時と同じなら、ある種の魔獣の体毛を編んだ繊維と魔素の濃い土地に自生するとある水草の繊維が、それぞれ最適の素材として選ばれていた筈だった。 その魔獣は、敵と遭遇すると体毛に魔素を流し毛を逆立てて身体を大きく見せる。 その水草は、近寄ってくる魚や魔獣の魔素に反応してその身を固く縮め、発見されにくく且つ食い千切られにくくするのだと言う。
「関節が動く原理はその人工筋肉なんだけど、問題はその動力と制御なんだよね」
「もちろん【魔素水晶】のバッテリーは必要なんだけどそれだけじゃコイツの爆発的な瞬発力やパワー、それに緻密な動作を全て賄うにはかなり大きい物が必要になっちゃうからね──」
キアラはレバーを引いて甲冑の右腕を肩の高さまで上げて見せた。 練習試合の時には気が付かなかったが、肩や肘の関節部分から微かに蒸気のような物が漏れ出している。
「実は人工筋肉に流す魔素は必要最小限にして、圧縮した蒸気を閉じ込めたカートリッジを使って、その蒸気でほとんどの動力を賄ってるんだ」
「へぇ〜 そいつは凄いな。 それキアラが発明したのか?」
ふたりの交流をなるべく邪魔しないよう気を遣っていたユリウスも思わず質問してしまった。
「原型はもちろん、インドゥストリで見た蒸気機関だけどね。 あらかじめ専用に開発した高性能蒸気機関で圧縮しておいた超高圧蒸気を、小さなカートリッジにしようと思ったのは私のアイディアかな」
ユリウスに関心されて、心なしかキアラも得意げだ。
「へぇー それで予備動作もなくあんなに凄いスピードで突進できたのか」
メナスが小さい声で独り言のように呟く。
「でもこれだけの複雑な構造だと、操縦するのは大変な技術が必要なのでは?」
「ううん、そこはそれ。 一応はコイツも【自動人形】だから…… 基本はそこのチタニウム・ゴーレムと一緒だよ」
キアラがメナスの方を見もせずに言い放つ。 ユリウスは一瞬口を開き掛けたが、メナスの様子を見てまだ沈黙を守る事にした。 そんな事には意も介せずキアラが続ける。
「ほら見て」
彼女が正面のコンソールパネルを開くと、カードのような物が刺さった複数のスリットが現れた。 キアラは各々が微かに赤や緑の光を帯びているカードの一枚を引き出すと、無造作にラウラに手渡して見せた。 それを恐る恐る受け取るラウラ。 その手のひらサイズのカードには、幾何学的な魔法陣の様な複雑な紋様が表裏に刻まれていて、脈動するように微かに緑色の光で明滅している。
ラウラはもちろん、メナスも興味深そうに複雑なカードの紋様を覗き込んでいた。
「それはね、主に剣技に関する制御系のプログラムが書かれた術式符かな」
「術式符……ですか?」
これはゴーレムを動かすための基本動作を記した術式と同じ技術だ。 【自律思考型自動人形】の【A・I】もこの技術の延長線上にある。
「うん、こっちに刺さってるのは大楯と隠しボウガンの制御術式符、その横の赤いのが有毒ガスとかを検知したら換気したり警告を鳴らしたりする術式符」
これはユリウスも後で知った事実だが、あの隠しボウガンの射出には超高密度に圧縮した例の蒸気のカートリッジを丸々ひとつ消費するらしい。 かつてルシオラを襲った高速のボウガンを思い出して、彼の背筋を冷たい汗が伝った。
「もちろん歩く、立ち止まる、右に回る、座る、みたいな基本的な動作は本体に書き込んであるんだけどね、特殊な技や細かい動きはこれらのオプションカードで補助してるんだ」
「へぇ〜 考えたもんだなぁ。 これならシチュエーションに合わせて無限に応用と拡張が可能じゃないか!」
「そゆコト!」
少し翳りを帯びていた少女が、再会してから初めて破顔した笑顔を見せてくれた。 ユリウスはそう思った。 少女の自由で革新的とも言える発想に、彼が心から純粋に感心していたのも事実だった。
「だからコイツは、私が乗ってなくても歩いたり座ったりとかの簡単な動作は出来るんだ。 私の後をついてきたりとか。 音声命令でも、ある程度自己判断でもね」
「それじゃあ【自律思考型自動人形】でもあるわけなんですね」
「まぁ、一応大きなくくりではね」
少しだけ少女の表情が曇るのを、ユリウスは見逃さなかった。
「それじゃあ、このコにも名前はあるんですか──」「そんなのはないよ」
少し食い気味に強い返事が返ってきてラウラはきょとんとした表情を浮かべた。
「ゴーレムはゴーレム…… 所詮ただの人形だよ。 名前なんか必要ないさ」
「そ、そうですわ…… ね」
何かを察したかのようにラウラが取り繕う。
ユリウスは恐ろしくて隣にいるメナスの顔が見れなかった。 そんな自分が、たまらなく情けない。
「なぁ、最初から気になってたんだが…… この板金鎧の表面って、なんの金属で出来てるんだ?」
確かに黒と銀を基調としたこの大鎧は、一見鋼のようでいて、よく見ると同じ銀色の部分でも光沢が違ったりしてる。 まるで継ぎはぎのパッチワークのような雰囲気なのだ。
「そこはまぁね…… 私のお給金も無尽蔵ってワケじゃないから」
キアラはバツが悪そうに頭をかきながら、おどけた笑みをこぼす。
「内部のフレームはね、お祖父様の工房に残っていたチタニウムを大分拝借させて貰ったんだ」
「もちろん重要な関節と、あとは兜と胸の部分にも少し使ってるかな?」
「一部には、これもお祖父様の工房から拝借してきたミスリル銀も使わせてもらってたりして……」
「それは高く付きそうだなぁ……」
ミスリル銀は、かつてドワーフが採掘していた希少金属で、チタニウムよりも更に軽くて硬いという貴重な金属素材だった。
半分呆れ顔でユリウスが感心する。 もっとも当の本人が7年も行方不明なのだ。 形見分けと思えば彼女以上に有効活用出来る相続人は居ないのではないだろうか。
「でも残りのほとんどは普通の鋼鉄だよ。 だから装甲ごとに常時発動で【軽量化】の魔法術式を組み込んであるんだけど、あんまり【魔素】を取られたくないから強力なヤツは使えないんだ」
「鋼鉄だって安くはないだろうに」
「そこはそれ、今お世話になってる工房から端切れをちょっとずつ拝借したりとか……ね」
「なるほどな…… でもこの大きさならある程度重量がないとバランスが保てないんじゃないか?」
「まぁ、それもあるから結果オーライ…… なの、かな?」
まだ重くする部位と軽くする部位のバランスに検討の余地があると思ったが、あえて今それを口にするべきではないとユリウスは判断した。
「でも、あの試合の時の猛ダッシュの後、その場で反転して剣撃を繰り出した動きは…… まるで羽のような軽やかさでしたわ」
ラウラの疑問にキアラの瞳が「待ってました!」と言わんばかりに輝いた。 パネルから薄紫の光を放つカードを抜き取り掲げて見せる。
「これがそんな時のための切り札よ! 咄嗟に必要な部分に最大レベルの【軽量化】の魔法かける術式符なのよ!」
超重量級の大鎧の騎士が、その硬度を保ったまま突如紙の人形のように軽くなる── この隠し技は戦場では凄まじい効果を発揮するだろう。
「しかも超圧縮蒸気のカートリッジをノズルから排出して推進力に使えば瞬間的に出せるスピードは、まだまだあんなもんじゃないんだから!」
「凄いですわ! こんなに凄いシステムをお若いのにお一人で組み上げたなんて…… 私、心から尊敬いたしますっ!」
5つも歳上のキアラが、ラウラの最大級の賛辞に顔を真っ赤にして戸惑っている。
「いやいや、ラウラだって凄いじゃないか。 キアラ、彼女は独力で【転移門】の魔法が使えるようになったし、おそらくは古代文明由来の国宝級の【魔導機】を複製したりも出来るんだ」
「へぇー 凄いねぇ! この元皇女さまが⁈」
「いえいえ、私なんかまだまだ未熟者ですわ」
「今度はそっちの話が聞きたいな。 って言うかよかったら…… もし嫌じゃなかったら、冒険者になるまでのいきさつとか聞かせてよ?」
「ええ、よろこんで!」
なんだかすっかり意気投合したふたりを、ユリウスは少し離れて見守っていた。 お互い特殊な出自と決して明るいとは言えない運命を背負った年若い少女だ。 幸い【魔道具】と言う共通の趣味もある。 このままお互いが心の支えになるような関係になればいいと、ユリウスは心の底から祈らずにはいられなかった。
現在102話の執筆中です
仕事が立て込んでくると、ある分の投稿すらままならないかと思いますが、気長に見守って頂けると幸いです




