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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
97/111

97 ~女子会と制約と〜

ここは試験に出ます


 キアラがようやく落ち着きを取り戻した頃、時刻はいつの間にか日を跨ぎすっかり深夜になっていた。 まだまだ話さなければならない事は残っていたが、今日は切り上げた方がいいだろう。


「もうすっかり遅くなったな。 今後の相談とかはまた明日にして、そろそろ休もうか?」


「わたし興奮しちゃって眠れないかもしれないな〜」


 爛々と目を輝かせたフィオナが、深いため息をついた。


「ねぇ、いっそこのまま女子会しちゃわない?」

「女子会…… って何ですか?」


 ラウラが黒い瞳を丸くしてきょとんと聞き返す。


「確か二人の研修って明後日からだったよね? いいじゃんいいじゃん、今夜は女子会にしちゃおう♪」

「私は…… お酒があれば、まだいけるかしら?」


 どうやらルシオラも乗り気らしい。 一方メナスはと言うと、額縁に腰掛けたまま所在なさげにお尻をもぞもぞさせている。


「あー ボクは今夜は遠慮しようかなー」

「えぇ〜 メナスちゃんは疲れてないよねぇ〜」


 そこでフィオナも、メナスとキアラの微妙な空気に思い至ったようだ。


「ちょうどいい、メナスには用事があったんだ。 今日は久し振りに二人で寝るか?」


 用事があるのは本当だが、ここのところはフィオナとルシオラに挟まれて、メナスには独り隣室で寝てもらっていた後ろめたさもユリウスにはあった。


「わーい お兄ちゃんと一緒だー うれしいなー」


 無表情にメナスがのたまう。


 結局なんだか事情の分かっていないキアラたちと、フィオナ、ルシオラの四人は隣室に移動して、朝まで女子会を開催する事になったのだった。


 ユリウスの部屋の隣の、本来はフィオナとルシオラの部屋に女子4人は移動した。 深夜だと言うのに階下の食堂兼酒場へ降りて、つまみや飲み物を仕入れるのも忘れない。 自然な流れで二つあるベッドの片方にフィオナとルシオラが座り、もう片方にラウラとキアラが腰を下ろした。


 ラウラとキアラは、女子会と言う物が今ひとつ飲み込めていないようで、フィオナたちの言葉を待っていようだ。


「まずは二人とも、冒険志願者登録おめでとう〜♪」

「あ、そこからなんだ。 そうよね、おめでとうございます」


 フィオナの祝福にルシオラが賛同すると、二人は顔を見合わせてから軽く頭を下げた。 蜂蜜酒(ミード)林檎酒(シードル)の入った杯で乾杯をする。 普通なら近くの部屋の客に怒鳴られそうな所だが、ユリウスの部屋と同様に【防音】の呪文をラウラが掛けたのでその心配はない。 ちなみに、ユリウスはユリウスで女子たちに気を遣って、自室の【防音】の効果はそのままにしていた。


 まだどこか所在なさげな新人二人をよそに、最初に口を開いたのは、やはりと言うかフィオナだった。


「まず最初に聞いておきたいんだけどぉ〜」


 真っ直ぐにキアラの目を見ながら、フィオナはふんすと鼻息を荒げた。


「キアラさんはぁ〜 シンのコトどう思ってるの?」


 それを聞いたキアラは、改めてフィオナの方へ向き直る。


「シン…… あぁ、ユリウスのことね」


 鼻の穴をふくませて五つも歳上の女性を睨みつける少女をよそに、キアラは少し横を向いてから物思いにふけるような表情を見せた。


「憧れ…… うん、好きだったのかなぁ? 最後に会ったのは7年以上前だったけど」


 同じくユリウスに好意を寄せる三人の女性たちは、静かに次の言葉を待った。


「この7年間、お祖父さまとユリウスの居場所を探したり心配したり…… 気が気じゃなかった。 それでも日々の生活は続いていくし、私は私の人生を生きていかなくちゃならないし……」


 黒髪の少女はひとつひとつ思い出すように、ゆっくりと言葉を紡いでいった。 ルシオラも自分の人生に重なる部分があるからか、神妙な面持ちで彼女の言葉に耳を傾けている。


「私ね、15歳から家を出て工業都市のインドゥストリで魔素機関(マナ・エンジン)の工房に弟子入りしたの…… お祖父さまとも取引があった工房だから、まぁコネみたいなもんだけどね」

「工房に弟子入りって…… キアラさんは貴族の御令嬢なのよね?」


 同じく貴族出身のルシオラが尋ねる。


「そうよ。 お祖父さまとは違って子爵家だけどね」

「そうなの! 実は私も子爵家出身なのよね」

「へぇ、子爵家令嬢なのに冒険者なんかしてるの? 人のコトは言えないけど」


 ふたりは目を合わせると声を揃えて笑い出した。 お互い急に親近感が湧いたようだ。


「魔素機関って分かる? まだ王都ではあまり普及してないと思うけど……」


 フィオナはふるふると首を振ったが、ラウラとルシオラは名前くらいは聞いた事があった。


「魔素水晶に蓄積させた魔素を、風車を回したり馬車を走らせたり物理的なエネルギーとして変換する仕組みの事ね。 ゴーレムなんかが代表的な例だけど」

「あぁ…… ゴーレムねぇ〜 あ〜 な〜る」


 やっとフィオナも、朧げな話の輪郭は見えたようだった。


「見習いの下働きから始めて二年、やっと17歳で機関部の作業に関われるようになったの」


 キアラは両手を広げ、身振り手振りを交えて話し出した。 どうやら得意な話では、饒舌になる(たち)のようった。


「そしたら俄然(がぜん)仕事が楽しくなってきちゃって、一日中工房で働いて仕事が終わってからは自分の部屋であの騎乗型の自動人形を設計する── そんな生活を、また二年くらい続けてた頃に……」


 そこでキアラは、一旦言葉を飲み込んだ。


「あの【スズメバチ】と【彷徨える魔獣(ストレンジャー)】の異変に出くわしたの」


 そこからの経緯は先ほど話した通りだった。 ユリウスの持っている筈の【チョーカー】が、対となる探知用の魔導器に反応しているのに気付いたのは一月くらい前だった。


「もちろん嬉しかったし、それ以上にビックリしたなぁ…… もちろんすぐにも飛んで行きたかったけど、私も工房の戦力として数えられるようになってたし、やっとキリのいい所で暇を貰えたのがついこないだだったってワケ」


 キアラもすっかり酔いが回っているようだった。 赤ら顔で少し興奮しているようにも見えた。


「でね、インドゥストリからこの重い自動人形でおっちらこっちら歩いてきて、王都の冒険者ギルドに立ち寄ったワケよ」

「それで、ユリウスさまたちの噂を聞いたのね?」とルシオラ。

「うん、偽名で冒険者なんかやってるって知った時は本当にびっくりしたんだけど…… そんなら私もびっくりさせてやろうと思って──」

「冒険志願者に登録したの?」

「そゆこと」


 尋ねたフィオナの方に振り返り、キメ顔で人差し指をぴっと立てて見せた。 外見だけでなく、性格もどことなくメナスに似ているような気がした。 フィオナもこの女性の事が、だんだん好きになってきていた。


「で、結局話は戻るんだけど…… キアラはぁ〜 シンのコトどう思ってるの?」


 フィオナの質問に一同は息を潜めた。 その問いに当のキアラはしばらく目を伏せていたが、自分自身の心に問いかけるように思いを巡らせているようでもあった。


「うん…… 正直少し冷めちゃったかなぁ…… って」

「冷めちゃった?」


 ルシオラが少しだけ意外そうに呟く。


「だって、こっちは7年間ずっと心配してたのに…… いざ見つけてみれば、身分を偽って冒険者になってて、しかも若い女の子を二人も婚約者にって……」

(さらには、10歳の頃の自分そっくりの人形まで侍らせて……)


 そこで少女は自嘲気味にため息を漏らした。


「なんだかバカバカしくなっちゃって……」

「やっぱり私は…… 恋に恋してただけなのかなぁって思っちゃったんだよねぇー」


「そっか……」

「……そうなんですね」


 それを聞いたフィオナとルシオラは、安心したような、けれども少し残念なような…… 自分でもよく分からない感情に戸惑ったのだった。


─────────


 一方隣りの部屋では、ユリウスとメナスの二人が各々のベッドに腰掛けて(考えてみれば元々ここはユリウスとメナスの部屋だった)所在なさげに顔を見合わせていた。


「マスター、ボクに用事って何ですか? それとも、やっぱりみんなに気を遣ってくれただけなのかな?」


 まぁその側面も否定は出来ないが、それをメナスに言う必要はなかった。


「いや、お前に用事があったのは本当だよ。 もっと早くにやってやりたかったんだが…… ゆっくり二人きりになる機会もなかったしな」

「えー こないだ二人っきりで【ドワーフの大洞窟(グレートダンジョン)】を発見したり探索したりしたじゃないですかー?」

ゆっくり(・・・・)ではなかったろ?」

「うん、まー そうですかねー」


 その軽い口調からチタニウム・ゴーレムの少女が何を考えているのか、その黒い瞳を覗き込んでもユリウスには掴めなかった。 ユリウスは改めてメナスの正面に向き直ると、真剣な表情で頭を下げた。


「本当にすまなかった。 オレはお前のコトを人間(ひと)として扱うと言っておきながら、一番やってはいけないコトをしてしまっていた」

「ちょっと、ちょっと…… なんですかマスター? 怖いコト言わないで下さいよー」


 メナスの返事をよそにユリウスは先を続ける。


「【チタニウム・ゴーレムのメナスよ! 汝の創造主たる三賢人、ウィリアム・グレゴールとミュラー・フォン・ライヒェンシュタイン、及びユリウス・ハインリヒ・クラプロスの名に於いて命ずる!】」


 少女の黒い瞳が驚きで大きく見開かれた。


「【お前に掛けた全ての『制約』を、永遠に解除する!】」


 それは【創造主権限】による【制約リミテーション・コマンド】だった。

 この形式で命じられた事は【被造物】たる彼女には絶対に逆らえない。 そうプログラムされていた。 隠れ家のあった岩山を降りる時ユリウスは【二度とその話題に触れるな!】と彼女に制約を掛けていたのだ。


 その話題とは── メナスに備わっている女性の機能(・・・・・)についてだった。


「お前をひとりの人間として扱うなら、決してしてはいけないコトだった。 すまん、許してくれ…… オレはもう二度とお前に【制約】を課すコトはないだろう」


 メナスはきょとんとした表情のまま凍りついている。


「お前が将来…… 独りで世界を旅したいと言えばオレは止めない。 お前は自由だ。 何処へ行って、何をしても、お前は自由なんだ」


 戸惑っているのか無表情のままの少女から目線を落として、ユリウスは頭を垂れた。 そして絞り出すように最後に付け加える。


「出来れば…… 今回の問題(・・)が片付くまではオレの側にいてくれたら…… オレは嬉しい」


「それならずっとマスターの側にいるのも、ボクの自由ですよね?」


 ユリウスが顔を上げると、両手を広げてメナスが胸に飛び込んできた。 それはまるで、白い図書館のあの少女…… セイレーンのようだった。


「これで晴れて、ボクもマスターのお嫁さん候補の一員と言うコトですね?」

「馬鹿言え…… お前はオレの、大切な娘で、妹だ」


 ユリウスはメナスの頭にそっと手を添え華奢な身体を抱きしめた。 だから胸に埋もれた少女の、その時の表情を見る事は出来なかった。


そろそろストックが尽きようとしておりますね

可能な限り執筆を急ごうと思いますので気長に見守ってやって頂けると幸いです

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