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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
95/111

95 ~キアラ・テルース〜

やっとこさ、話が動き出した気がしますね

気のせいかも知れませんが……


 その日の夕刻、ユリウスたち一行は常宿の【砂岩の蹄鉄亭】のユリウスの部屋に集まっていた。 

 新しく加わった顔ぶれ、ラウラとキアラも一緒だった。 二つのベッドに向き合うように腰掛け、片側にユリウスとフィオナとルシオラ── もう片側にはラウラとキアラが座っている。 メナスはというと、独り離れた窓際で額縁(ケーシング)のところに猫のようにちょこんと腰掛けていた。


 練習試合の後、一行はギルド本部に戻って合否その他の結果を聞かされた。


 ラウラは【S+】判定の冒険志願者として、魔術師としての研修の後、一週間後に実技試験を受ける事になった。 場所はあの【試練の洞窟】だ。 試験官はラウラの希望通りユリウスたちパーティーが引き受ける。


 一方もう一人の冒険志願者は、結局あの騎乗型のゴーレム…… 【強化外骨格騎乗操縦型自動人形エクソスケルトン・ライド・オン・ゴーレム】と言うらしいが── その能力値込みでの冒険者登録は当然ながら却下された。 それはそうだろう。 いつ、どんなクエストが来るか分からないのが冒険者という物だ。 あれが入れたり活動出来る場所は相当限られているし、稼働可能時間も決して長くはない筈なのだから。 


 それに加え問題となったのは、練習試合の最後に使用されたあのボウガンだった。 圧縮された高圧蒸気によって射出された太さ5cm長さ50cmの鋼鉄の矢は、易々と人体を粉砕する殺傷力を有していた。 搭乗するキアラの弁によれば、メナスの攻撃により激しく地面に激突した際の魔導回路の誤作動という事だった。


 ギルドマスターのエルツは何も言わなかったが、ユリウスにはその目が何かを訝っているように感じられた。


 しかし幸い怪我人も出なかった訳だし、やはりこんな不安定な物は正式に認められないという結論で騎乗型ゴーレムの件は一旦の決着を見たという次第だった。


 もっとも彼女自身は生身でも【A+】判定の冒険志願者であった。 彼女もまた、魔術師の研修を受けて一週間後にユリウスたちと【試練の洞窟】に実技試験に同行する事になったのだった。


 このミーティングは、そのための今後の相談という形を取っていたが、実際にはもっと別の角度の緊張感を孕んでいた。


 何となく気まずい空気が漂う中、最初に口を開いたのはフィオナだった。 


「取り敢えずそちらの美しいお嬢さんを紹介して頂けますか? イグレアムさん」


 普段のフィオナからは決して出てこないような言葉使いだ。 彼女は両腕を組み鼻の穴を膨らませながらユリウスを問い詰めた。


「あ、うん…… そうだな。 まずそこからだよな」

「私が自分で言うよ」


 そう言って黒髪の少女が立ち上がった。


「私の名は、キアラ・テルース。 ユリウスとは幼馴染なんだ」

「「幼馴染⁈」」


 フィオナとルシオラの驚きの声が重なる。 その少女が、ユリウスの正体を知っていた事にではなく。


「幼馴染というか、な…… 実は彼女は、ミュラー師のお孫さんなんだ」

「ミュラー師⁈ 三賢人のミュラー・フォン・ライヒェンシュタイン様の……っ⁈」


 再びルシオラが驚きの声を上げる。 ミュラーとは、言わずと知れたヴェルトラウム大陸の三賢人の一人、7年前に失踪したツェントルム王国筆頭錬金術師のミュラー・フォン・ライヒェンシュタインその人に他ならない。


「うん、まぁそうなんだけどね……」


 黒髪の少女は、バツが悪そうに頭を掻いた。 念のためこの部屋には、廊下にも音が漏れないよう【防音】と【盗聴防止】の呪文がかけられている。


「キアラは…… どうしてここに冒険者になりに? オレたちがいるコトを何で知ってたんだ」


 ユリウスの問いにキアラは不敵な笑みを見せた。


「これよこれ!」


 言いながら彼女は親指で自分の首を指し示す。 そこにはユリウスやメナスがしている物と同じ、黒いチョーカーが巻かれていた。 


「このチョーカーが?」


 思わずユリウスもチョーカーに指を添えた。


「ひと月ちょっと前だったかな、チョーカーの反応を7年ぶりに感知したから…… たぶんユリウスたちだろうなぁと思って追跡してたんだ」

「追……跡……?」

「私もインドゥストリにいて手が離せない仕事とか研究とかあったし、ちょっと時間かかっちゃったけどね」


 インドゥストリというのは、ヴェルトラウム大陸のほぼ中央付近にある工業都市で、そのすぐ隣には商業都市ハンデルが隣接している。 どちらも王都ミッテ・ツェントルムを除けば王国最大規模の大都市である。


「それでずっと追跡してた動きから冒険者ギルドに目星をつけて張ってたら、たびたびメナスっていう飛び切り強い新人冒険者の話題に出くわすじゃない? それでピーンときたってわけ」

「ちょっと待て、何でオレたちの場所が分かったんだ⁈」


 話の展開についていけず、ユリウスが混乱する。


「あれ、言ってなかったっけ? そのチョーカー、この水晶球で方角と距離が分かるようになっているのよ」


 キアラは手のひらの上に小さな水晶玉を乗せ得意げに掲げて見せた。 球の中には白い光点が3つ、小さく明滅していた。 これはかつて皇帝がシュピンネ・シュヴァルツに託した、ラウラの居場所を示す水晶球と同じ物なのだが、ここにいる誰もそんな事は知る由もなかった。


「知らなかった…… そんな物が」


 調べれば当然すぐに判明した事だろうが、疑問にも思わなかったのなら流石のユリウスも鑑定を試みようとは思わない。 そもそも【魔道具(アーティファクト)】なので、【魔力感知(マナ・サーチ)】に反応するのは当然だ。 どんな魔法がかかっているかは、別に詳しく調べる必要がある。 複数の魔法を掛けておけば本当の目的を隠す事ができるかも知れない。 これは今後、心に留めておかなければならない教訓だろう。 


 しかしそうなると、ひとつの疑問がユリウスの脳裏に浮上した。 それは余りにも不可解な疑問だった。


「それより…… 何でシンを探してたの? キアラさんは」


 フィオナの問いに、ルシオラも大きく頷いた。


「ちょっと待ってよ! その前に私にも色々整理させてよ…… まず貴方たちの紹介もしてもらってないし…… そもそも、シン・イグレアムだっけ? 何で偽名を使って冒険者なんかをしているの? 7年間何をしていたの? それに──」


 ここで少女は声を落とした。


「7年前に…… 一体何があったの?」


 そう、7年前── ユリウスたち三賢人はこの世の真理に辿り着き、その重さに耐えきれず一人は自ら命を断ち一人は失踪した。 残るユリウスも独り隠れ家に引き籠り、7年もの間忘我の淵を彷徨っていたのだ。


「わかったよ…… 先ずそこから説明しよう」


 ユリウスは話し始めた。 7年前にあった事を。 


 【賢者の石】についてはもちろん三賢人だけの秘密だった。 それには少なからず、キアラもラウラも衝撃を受けていたようだ。 そしてユリウスが行方を眩ませていた理由…… それはラウラにとっても初めて聴く話だった。 ここで初めて、彼女はメナスが【自律思考型自動人形インテリジェント・オートマータ』】だと知ってさらなる衝撃を受けていた。


 それからユリウスは、自分がつい先月7年振りに目を覚まし冒険者になるために王都にやって来た事、フィオナとルシオラと知り合い婚約した事などを告げた。 その流れの中で、2人の事もさりげなく紹介する。


 そしてラウラの了解を得て、彼女がアウレウス帝国の皇女だった事、帝国の侵略の計画を伝えるために王国にやって来て、既に事故で死亡扱いになっている事…… 今は別人としての籍を得て、冒険者としての第二の人生を歩み始めようとしている事などを説明した。


「……そう、そんな事が」


 ひと通り話を聞き終わると、キアラは俯いて長いため息を吐いた。


「賢者の石…… 9年も前にお祖父さまたちが完成させていたなんて……」


 賢者の石は全ての錬金術師の究極の目標である。 いま彼女の胸に去来しているのはどんな感情なのか……


「情報量が多すぎて、なかなか理解が追いつかないや……」

「そうでしょうね……」


 ルシオラが同情するように同意を示した。


「あの、さっきから気になってたんですが…… 貴方とメナスちゃんって──」

「そうだよね! すっごく似てるよね! まるで姉妹みたい!」


 やはりフィオナも気になっていたようだ。 しかし顔を上げたキアラの表情は、ふたりが期待していたような物ではなかった。 それに答えたのはユリウスだった。


「そうなんだ。 メナスはな、9年前…… 当時10歳だったキアラをモデルに造られたんだ」

「え〜っ そうだったんだ〜」


 ヒマワリのような笑顔で振り返ったフィオナが目にしたのは、しかし憂いを帯びたキアラの表情だった。 そこでフィオナは、ようやく気が付いた。 再会してからこのふたりが、ただの一度も言葉を交わしていない事に。


 そこでようやく窓際にいたメナスがゆっくりと首を回した。 まるで人形のような無表情で機械的な動きだった。


「やあ、キアラお姉ちゃん。 久しぶりだねー」

「やめてよ、お姉ちゃんなんて呼ばれたらゾッとするわ」


 キアラは目を合わす事さえしなかった。 このやり取りだけで、ふたりの間に何らかのわだかまりがある事をフィオナたちも充分に察した。 


 ユリウスもふたりの気まずい関係は何となく知っていたが、その理由までは推測する事しか出来なかった。 考えても見れば当たり前の事かも知れない。 子供の頃の自分を(かたど)った自動人形が当時の姿のまま動いている── しかも自分の親しい者たちに囲まれて。 それは一体どんな気分なのだろう?


 メナスにしたってそうだ。 自分の姿形の元となった少女。 彼女は時を経て美しい女性に成長したが、自分は9年経っても当時のままの姿なのだ。 果たして【A・I】に嫉妬や羨望の感情があるとしてだが…… それはおそらく、気持ちの良いものではないだろう。


 さらに重くなった空気の中、最初に沈黙を破ったのは意外にもラウラだった。


「あのぉ…… あの騎乗型のゴーレム、貴方が造ったんですか? 動力とか駆動系とか、とても興味があるのだけど」


 金色の虹彩の混じった黒い瞳をキラキラさせて上目遣いにキアラの顔を覗き込む。 彼女にもこんな一面もあるのかとユリウスは感心した。


「そうだ、このラウラは【魔道具】のスペシャリストでもあるんだ。 良かったら教えてやってくれないか?」

「あ、あぁ…… 別にいいですよ。 皇女さま?」

「もう皇女じゃないよ。 今の私は、ただの一般市民なんだから」


 元皇女殿下の思いがけない好奇心に、少しだけ場が和んだところで、すかさずフィオナが割って入った。


「ねぇ、何であのゴーレムごと冒険者登録しようなんて思ったの? いくら凄くてもやっぱりムリがあると思うんだけど……」

「あぁ、私も最初から受かるとは思ってないよ」

「ええ〜 それじゃあ──」


「冒険者に【錬金術師(アルケミスト)】って職業(クラス)がないだろ? それが気に入らなくってさ…… 私の力を見せつけてやりたかったのさ」

「そっか、キアラさんは、ミュラーさんのお孫さんなんだもんね」


「それに…… いずれ錬金術師として工房を構えた時のために宣伝になると思ってね」

「なるほど〜 ちゃんと計算づくなんだね〜」


 フィオナは感心したようにうち頷いた。 せっかく和んだ雰囲気を壊したくはなかったが、このまま有耶無耶にするわけにもいかず、ユリウスは切り出した。


「なぁ、キアラ…… 最初の質問に戻るけどな。 何でオレを探していたんだ?」


 幾分和らいでいた少女の表情が再び固くなった。 ルシオラやフィオナにもその緊張が伝わったようだ。 この質問の答えを、ユリウスは何となく知っているような気がした。


 キアラは立ち上がって姿勢を正すと、ユリウスに向かって深々と頭を下げた。


「お願いします、賢者ユリウス・ハインリヒ・クラプロス様…… どうか、どうか…… お祖父さまを止めて下さい!」


 キアラがそのままの姿勢で固まる中、一同は恐る恐る、ゆっくりと互いの顔を見合わせた。 ユリウスには、それぞれの顔に不安と緊張の表情をありありと見て取れる。


 それはユリウスが、どこか頭の片隅に常に意識しつつも、敢えて気付かない振りをしていた答えだった。


ここから先は比較的最近、少しずつ書き足していった分になります…… 100話以降はこれから書くことになりますが、現時点でどれくらいのペースになるのかは見当もつきません 気長にお付き合い頂ければ幸いです

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