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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
94/111

94 ~強化外骨格騎乗操縦型自動人形〜

ようやく第三章のサブタイトル『小麦畑と蒸気機関』の要素が出てきました まぁ片鱗くらいですけど

まぁ大して深い意味もないんですけどね……


「そりゃあ確かに【S】クラス判定の冒険志願者には興味あるけどねぇ〜」


 道すがらフィオナが期待とも不平とも取れそうなぼやきを独り言のように呟く。


「ボクは単純に興味しかないけどねー」


 メナスは、エルツと武闘家訓練場と言うだけでワクワクしているようにも見えなくもない。


「そろそろ話して頂けませんか? 私たちがそこへ行くワケを」

「実はその志願者は生身(・・)でも【A】クラス以上の数値を出したそうなんですが……」

「生身でも?」


 マルモアは実に言いにくそうに言葉を選んでいるようだった。


「実は、巨大な…… 鎧型のゴーレムを着込んでおりまして…… それ込み(・・)の能力値で冒険者登録させろと言っているようなんです」

「鎧型のゴーレム⁈」


 ユリウスとメナスが顔を見合わせたのは言うまでもない。


「その実証試験として、その志願者はギルドマスターと── メナスさんのお二人を練習試合の相手に指名してきたんですよ」


「えぇ〜っ すっごい自信だねぇ〜 その新人さん」

「いいのか、メナス? そんなヤツと試合なんて」

「ボクは全然オッケーだよー むしろウェルカムな感じー」


 ゴーレムという部分に反応したのだろうか? 鋼の籠手をガシンと打ち合わせ、いつになくノリノリに見えるメナスだった。 ちなみにこの籠手は、ブライが貸してくれた代替品だ。 ちゃんとメナスの小さい手に合わせてあるので、もしかしたらこんな時のために予備を用意してくれていたのかも知れない。


「まぁそれも、ギルドマスターの判断を仰いでからになりますが…… さて着いたようですな」


 マルモアが指差すまでもなく、少し先に武闘家訓練場の看板が目に入ってきた。

 乗り気なメナスとは対照的に、当初の懸念とは関係なく、また面倒な事が始まりそうな予感にユリウスは内心頭を抱えていた。


 その訓練施設は『口の字』型の建築物で、中庭にあたる部分が吹き抜けの訓練場になっている。 一行が訓練場の中庭に入ると軽い歓声が出迎えてくれた。


 どうやら既にエルツとその冒険志願者が待機していて、一体何事かと観客が集まり始めているようだった。 確かに黒く巨大な甲冑姿がひとつ、訓練場の中央にあって一際異彩を放っている。 一行に気付いて、ふたりもこちらに向き直った。


 それは確かに異様な人影だった。


 身長2mを優に超える── いや、それどころか2m50cmはあるかも知れない大きな人影だ。 それが銀色と黒を基調にした巨大な板金鎧(プレートメイル)を全身に纏っている。 屈強な戦士でも扱いに苦労しそうな大剣を片手に軽々と握り、一方の腕にはやはり特大サイズの大楯を携えている。


「あれが本当に人が乗れる自動人形(オートマータ)なのですか…… 凄いですわ」


 ふと横を見ると、ラウラが金色の虹彩が混じった黒い瞳をキラキラと輝かせている。 魔法遺物(アーティファクト)にも造詣が深い彼女は、どうやらこの新型ゴーレムに興味津々のようだった。


「おう、やっと来たか。 待ちくたびれたぞ!」


 長身の偉丈夫(いじょうふ)エルツが、片手を挙げて手招きする。


「ギルドマスター、まさかもう始めてらっしゃったんですか?」


 マルモアの問いかけにエルツは無言で肩を竦めて見せた。


「いいや…… 実はそう思って少しだけ剣を交わしてみたんだけどな」


「俺の得物は剣だからな…… この全身鎧を何とかしようと思ったら関節や隙間に刃を差し込むしかねぇからな、練習試合になんねぇんだわ」


 心底落胆したように首を振るエルツの姿にマルモアはやれやれと嘆息をついた。


「だから試験官の役目は、そこの坊主に任せるわ」

「だからボク、女の子だってば」


 指名を受けたメナスが、お決まりのやり取りに付き合ってやっているのが何だか微笑ましい。


「よろしいですか、メナスさん?」

「ボクはいつでもオッケーだよー」


 マルモアの問いにメナスがもう一度籠手を打ち鳴らして見せる。


「ところでどうなったら勝利── って言うか、合格なの? ボクが勝ったら()は失格?」

「いや、あくまで実証試験だからな。 俺が良しと言ったらそこで終わりだ。 合否は試合の内容を見て決めさせて貰うぜ」


 両手剣を背中の鞘に戻したエルツは、後ろに数歩下がってから両腕を組んだ。 それに倣って、マルモアとユリウスたちも練習場の端までそそくさと移動する。


(わかってるなメナス? くれぐれも──)


 たまらずにユリウスは【念話(テレパシー)】の呪文でメナスに釘を刺す。


(わかってますよ、偽装したパラメータの範囲内で相手してやりますから)

(それだけじゃないぞ! 相手はまだ冒険志願者なんだからな…… 間違っても死んだり大怪我させたりしないように──)

(はいはい、それくらいわかってますって)


 そう言いながらも一瞬身を固くしたメナスの反応に、ユリウスは一抹の不安を禁じ得なかった。


 ギルドマスターと視線を交わし、マルモアがひとつ咳払いをしてから宣言した。


「それではこれより、暫定【Sクラス】冒険志願者と【SSSクラス】冒険者、メナス・イグレアムさんによる実証試験を兼ねた練習試合を行います!」


 正確にはメナスはまだ【SSSクラス】冒険者ではないのだが、つい場が盛り上がるように言ってしまったのだろう。


 武闘家訓練場に大きな歓声が湧き起こった。 今まで何事かと遠巻きに様子を伺っていた者たちも一斉に練習場の周りに集まってくる。 どこからともなく賭けを募る声が、当然のようにいくつも聞こえてきた。


「準備はいいですか?」


 マルモアは、メナスと巨大な板金鎧姿に向かって声をかける。 メナスは籠手を打ち鳴らし、板金鎧は片手を挙げて同意の意思を示した。

 さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り訓練場にピンと張り詰めた空気が立ち込める。 何故だかユリウスは胸騒ぎが止められなかった。 まるであの板金鎧が、メナスに恨みでもあるかの様に睨みつけている── そんな異様な雰囲気が感じられるのだ。


「それでは試合開始っ‼︎」


 マルモアの掛け声と共に熱狂と嬌声が戻ってきた。


 しばらく距離を置いて対峙したまま動かない2人だったが、先に痺れを切らしたのは意外にもメナスの方だった。


「こう言う時は目上の者からは動かないもんだって言うけど── ボクはやっぱり性に合わないなー」


 メナスが一歩踏み出そうとしたその瞬間だった。 突然板金鎧の足元に土煙が舞い上がり岩のような巨体が滑るように迫って来たのだ! とてもあの質量が走って出せる速度とは思えない。 


 両足の踵の部分に付いている大きな歯車が、単に拍車を模した飾りというだけではなく、どうやら車輪のような役目も担っているらしい。 おそらく足の裏にも補助輪かベアリングのような物が取り付けられているに違いない。


 その巨体は、その勢いを保ったまま右腕に構えた大剣を外側に薙ぎ払った。 それをメナスは苦もなく3mほど跳躍して躱すと着地した瞬間に反転して大鎧の背後を狙う。 しかし、その大鎧はメナスの予想を越えた有り得ない動きをしていた。 全く速度を落とさないまま片足の裏にスパイクを打ち出し、地面に食い込んだそれを軸にしてその場で反転して見せたのだ。


 振り返ると同時に砂埃を切り裂いて目前に迫る大剣の刃! メナスはそれを地面に手を触れないまま側転で躱す。 頭の位置がほとんど動かない見事な側転だった。 さらに着地の前に空中で身体を捻り、離れ際に板金鎧の脇腹に蹴りを入れた。


 ゴゥン……ッ


 鈍い手応え。 大鎧にダメージがあるようには見えなかった。 メナスはそのまま石の床を転がり7、8mほど離れたところで立ち上がる。


「「「うおぉぉぉ〜〜〜っ‼︎」」」

「すげぇぞ! なんだ今のはっ⁈」

「メナスの嬢ちゃんもよく躱したなっ‼︎」


 場内は異様な興奮に包まれていた。


 板金鎧はゆっくりと体勢を立て直すと、メナスの方へ向き直る。 メナスは最初と同じ、両拳を構えるボーズを取った。


「さあ、どうしたもんかね」


 誰に聞かせるでもなくポツリとメナスが呟く。 その表情は、しかしどこか愉しげだ。


「今度はこっちから行ってみようか」


 そう言って彼女は低い姿勢で弾丸のように駆け出した。 一瞬にして距離を詰め右の拳を振りかぶる。 大鎧は左腕の大楯を前に出しその拳を受け止めた。


 ガイィーーンッ‼︎


 大きな金属音が鳴り響いた直後、大鎧の姿が後方に数m吹き飛んだ── かに見えた。 しかし殴った方のメナスが、何故かその場に片膝をついていた。 


 実は大鎧はインパクトの瞬間、例の拍車で後方にダッシュして打撃の衝撃を吸収していたのだ。 虚を突かれたメナスが思わずバランスを崩してしまったのも無理はない。 メナスが立ち上がると同時に再び大きな土煙が巻き起こった。 拍車を逆回転させた大鎧が滑るように迫って来たのだ。 メナスは拳を構え、その攻撃を受けて立つ意思を示す。


 板金鎧は大楯を前面に構えたまま低い姿勢で直進してくる。 そのまま体当たりをして弾き飛ばすつもりなのか── そう思った刹那、盾の影から大剣を振りかぶると上体を大きく捻ってそれを内側に薙ぎ払った。 


 しかし、今回のメナスは冷静だった。 横から迫る刃を瞬きもせず紙一重で屈んで躱すと、そのまま大鎧の脇の下を潜り、すれ違うように背後に回り込む。 そして高速で滑る巨大な全身鎧の片方の膝の裏側に、強烈な回し蹴りを放ったのだ。


 ガキィーーンッ‼︎ ドゴォォォーンッ‼︎


 上体を回転させバランスが崩れていたのだろう、拍車の高速回転の効果もあってか蹴られた片足は勢いよく宙を蹴り、大鎧はなす術もなく仰向けに倒れてしまった。 ものすごい衝撃で地面に叩きつけられた形だ。 手にした大剣も取り落としてしまっている。


 一瞬の静けさの後、再び場内は熱狂の歓声に包まれた。


「「「うおぉぉぉ〜〜〜っっ‼︎」」」


 仰向けに倒れた板金鎧の左側に立ち、メナスが無表情に見下ろしていた。


「大丈夫? どういう風に中に入ってるか分かんないから出来ればこれ以上攻撃したくないんだけど……」


 冒険志願者からの返事はなく、黒と銀の板金鎧もピクリとも動かない。 動くことが出来ないのか、それとも中で脳震盪でも起こしているのか……


「起きるのを待っててあげてもいいんだけど、実戦で敵は待っててくれないしね。 降参してくれると助かるんだけど──」


 その時大楯を持った鎧の左腕が、力なく持ち上げられた。 弱々しく震えながら手首をメナスの方へと向ける。


(危ないっ! メナス避けろっ‼︎)


 思わず【念話】でユリウスが叫んだ。 ギャラリー達からは、メナスが身体を捻りながら側転して躱すのと、大楯から白い蒸気が吹き上がるのがほぼ同時に見えた。 その瞬間、大楯の内側に備え付けられていた射出口から槍のような金属の棒が打ち出されたのだ。 


 メナスに躱されたそれは、地上から50cmほどの高さを凄まじい速度で観客のいる方角へ襲いかかった── その人混みの中からひとつの影が飛び出すと手にした両手剣の面の部分で高速の弾丸を叩き落とした。


 ギィィーーンッ‼︎ 

ギャリギャリギャリギャリーッ!


 訓練場の石床を削りながらもその金属棒は直進し、壁に激突するまで止まる事はなかった。 もっとも、大きく減速した事により壁際にいた観客達が避けるのは充分に可能だったが。


「そこまでだ!」


 金属棒を叩き落とした影、伝説の冒険者【鋼の剣】エルツは、手にした大剣を背中に戻しながら宣言した。 ゆっくり壁まで歩いていくと、まだうっすら蒸気を上げている金属の棒を拾い上げた。


「おいおいおいおい…… いくらなんでも練習試合でこれは反則だろう?」


 それは直径5cm全長50cmほどの先の尖った金属棒で、ユリウスたちの冒険志願者実技試験の帰りに謎のゴーレムがルシオラに放ったそれと同じ兵器だった。 もっともサイズはこちらの方が倍以上も大きかったが……


 ユリウスたちはもちろん、全ての観客の視線が巨大な板金鎧に注目する。 すると板金鎧の胸部が矢庭に頭部ごとゆっくり上に開いたかと思うと、もうもうと立ち込める白い蒸気と共に中から小柄な人影が姿を現した。


 黒い髪に黒い瞳、透き通るような白い肌…… それは17〜8歳くらいの美しい少女だった。


 何故か上半身ノースリーブの肌着姿の少女は全身汗だくで、首に無造作にかけたタオルで額の汗を拭いながら屈託のない笑みを見せた。


「あ〜あ残念。 負けちゃったか……」


 巨大な板金鎧から可憐な少女が現れた事に誰もが目を奪われる中、一際驚いていたのがユリウスだったかも知れない。 少女はギャラリーの顔触れをひと通り見回すと、ユリウスたち一行に気付き大きく手を振った。


「ひさしぶり〜っ ユ…… イグレアム(・・・・・)さん!」


「ま、まさか…… キアラ…… なの、か?」


 ユリウスは混乱する意識の中、両隣りのフィオナとルシオラから冷たい視線が身体に突き刺さるのを感じていた。


 メナスはというと── 驚きとも無関心とも取れる小さく口を開けた表情のまま、その少女を見つめていた。


 その少女の顔立ちは、どことなく【チタニウム・ゴーレム】の少女、メナスを思わせた。


これで4年前、というかもうほぼ5年前なんですね……

書き貯めていた分はほぼ投稿できたでしょうか

確か次回あたりから、一昨年とか去年とかに気が向いた時に書き加えた物だったきがします

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