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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
85/111

85 ~魔素の循環〜

ほぼ毎日投稿しようと思うのですが、なんやかんやあって難しいですね あまり気負うとしんどいので気楽に更新させて頂きたいと思います ご容赦下さい


 ギルドからの帰り道、四人は王都の目抜き通りを歩きながらいつもの羊肉の串焼きを頬張っていた。


「シン、ギルドマスターのお話ってなんだったの〜?」

 

 串焼きを二本手にしたフィオナが、頬を膨らませたまま聞いてきた。


「あぁ、うん…… 彼がいつか食事を奢ってくれるっていう話、いつにしようかって」

「あ〜そんなのあったね〜 それでいつになったの?」

「いや、今は慌ただしいからみんなで相談して、な」


 確かにあの後食事会の話題も出たので嘘はついていなかった。 しかし、その相談だけなら応接室でみんなの前でも出来た筈だ。 賢明なルシオラは別に何かあったのか気付いているようだった。


「それで…… 明日からまた三、四日待機する事になったんだけど…… どうしようか?」


 王都からは出るなと言う事だったが、逆に言えば連絡さえつけば自由という事だ。


「あのぉ、私…… 明日にでも大聖堂に『神聖魔法授与の儀式』を受けに行ってこようかと思うんですけど」


 ルシオラが片手を小さく挙げて提案した。


「へぇ〜 ルシオラ、新しい呪文を覚えるの⁈」

「もちろん、授けられるかどうかは神さま次第だけどね…… 出来れば【中位治療(ミドル・ヒール)】くらいは覚えられたらって」

「そうか、それは助かるなぁ」


 ルシオラもこれからの脅威に対抗するために、王国のため仲間のため、愛するユリウスのために少しでも力になりたいと考えているのだろう。


「早朝に出かけて、夕方までかかってしまうと思うけれど……」

「問題ないよ、是非とも行っておいで」


 それを聞いてフィオナも思うところがあったのか、腕を組んで考え込んだ。


「それじゃあわたしも、お師匠のトコ行ってこようかなぁ〜」

(サムライ)の師範のところかい?」

「そうそう、こないだの【トライホーン・バイソン】のコトも自慢── 報告したいし」

「あれはほとんどフィオナが一人で倒しちゃったもんねー」

「えっへん!」


 珍しくメナスに褒められて、フィオナは本当に嬉しそうだった。


「それじゃあオレたちも、ちょっと行ってくるかな……」

「オレたちって、ひょっとしてボクのコト?」

「ひょっとしなくてもお前しかいないだろ?」


 相変わらず表情の乏しいメナスの反応だったが、心なしか嬉しそうにも見えた。


「どちらに行かれるんですか?」


 行き先を言わなかったせいなのか少し心配そうにルシオラが尋ねる。


「いや、今の内にどうしても確認したいコトがあってね…… 戻ったらちゃんとみんなに報告するよ」

「わーい お兄ちゃんとお出かけだー♪」


「ところで、これからどうします? 夕食には早いし半端な時間ですけど」

「それならシャウアのパン屋に寄ってみる? 顔を見せるだけでも」

「う〜ん、どうかなぁ…… 今はお昼のパンも売り切れて夕方のために一生懸命準備している頃だろうし」


 フィオナとルシオラは黙って顔を見合わせた。 その後ふたりが交わしたアイコンタクトを、ユリウスは知る由もなかった。


「ねぇ、メナスちゃん…… 悪いんだけど今夜もお兄さん借りていいかなぁ……?」

「あぁ、そゆコト? もちろんオッケーだよー ボクもその方が嬉しいし、読みさしの本もあるし」

「ごめんねメナスちゃん」


「おいおい、何を勝手に──」

「だってぇ〜 これからしばらくこんな時間取れないかも知れないし〜 ねぇルシオラ?」


 ルシオラはうっすらと頬を染めて頷いた。 その期待を込めた眼差しに射竦(いすく)められて、ユリウスはこの件に関して自分に決定権がない事を改めて思い出した。


──────────


 翌日の朝は、ルシオラもフィオナも早くに出かける事になっていたのでユリウスは夜明け前に目が覚めた。


 前日の陽が傾く前に始まった三人の濃密な時間は、日を跨ぐ頃まで続いた事になる。


 心地よい疲労感の中ユリウスが目覚めると、昨日の朝と同じようにふたりの美女に挟まれていた。 柔らかで心地よい重さに彼の心は何故だか幸福で満たされた。 本当はもう少し寝かしてやりたいが、そうも言ってはいられないだろう。 優しく揺り動かして穏やかな目覚めを促してやる。 先に目が覚めたのはフィオナだった。


「あ、おはようシン」


 眠そうに目をこすりながらゆっくりと上体を起こす。 少し遅れてルシオラも目を覚ました。 彼女の方が眠りが深いのは年齢のせいなのか体質なのかは定かではないが。


「おはようございます、ユリウスさま」

「ふたりとも今日は早いんだろ、疲れてないか?」

「ううん、全然疲れてないよ〜 それよりなんか最近調子いいんだよね〜 なんでだろ?」


 フィオナが大きなあくびをしてから両腕を上げて猫のように伸びをする。 たわわに実った果実がふるんと揺れた。


「そう言えば私も…… やっぱり、こんなにも幸せだからかしら?」


 ルシオラは蠱惑的な笑みを浮かべてユリウスに流し目を送る。


 実はユリウスは、彼女たちの肉体の変化に気付いていた。 


【霞を()む】── それは、無意識に周囲や体内の魔素(マナ)をコントロールする事により、食事や排泄すらも必要なく若々しい肉体を保ち続けるユリウスの常時発動(パッシブ)スキルだ。 それはかつて文献で目にした東方の国の仙人(ハーミット)と呼ばれる求道師たちの技術(スキル)を、見よう見マネで習得した物だった。


 彼自身知らなかった事なのだが…… その効果は周囲の魔素をも操るため、必然的に彼の近くにいる友好的な者にも効果を及ぼしているようだった。 取り分け彼と身体の一部をつなぎ合わせて愛情を確かめ合うような関係の者には、その効果は劇的にして絶大だ。


 彼女たち自身が気付いているかは分からないが、23歳のルシオラの肉体は十代後半の瑞々しさを取り戻していたし…… 14歳のフィオナのそれは、さらなる壮健さと生命力に満ち溢れていた。


 これを教えてしまうと大変な事になってしまうかも知れないが…… 愛を確かめ合う度に、ふたりは疲れるどころかより美しく若々しい生命力に溢れてくるだろう。


 もしかしたらそれは、恐ろしい事に睡眠よりも疲労回復の効果が高いかも知れないのだ。



 しかしユリウスには、少しだけ気になる事があった。 それは彼女たちが生来の習慣によって身に付けている身体の偏りだった。

 魔素の流れを見る事の出来るユリウスには、流れが澱んだり滞っている箇所は違和感として感じ取る事が出来る。 普通の人にも多かれ少なかれ誰でもある事なので今まで気にしていなかったが、こうして魔素の流れが活性化してまばゆい光を放っているふたりを間近に見ると、ほんの少しの澱みが余計気になってしまうのだ。


 ユリウスは傍で座っているルシオラの正面に向き直り声をかけた。


「ルシオラ、そのまま背筋を伸ばしていて…… 少しの間だけ動かないで」

「ユリウスさま?」


 真剣な面持ちでユリウスが両手を伸ばしてくる。 ルシオラは頬を赤く染めて瞳を潤ませる。 フィオナも何事かと身構えていた。


 ユリウスは右手の人差し指と中指で、ウェーブのかかった見事な金髪の頭頂部にそっと触れる。 そのまま目を閉じで何かを念じているように見えた。 ほんの数秒すると、今度はその指先を彼女の眉間に置いた。 また数秒。 次に喉元。 これも数秒。 次に豊かな乳房の間に指を置くとルシオラは小さく吐息を漏らした。 さらに鳩尾(みぞおち)。 また数秒。 最後に下腹部に触れた時、彼女は蕩けるようなため息を漏らした。


「これでいいよ…… どうだい、何か変化を感じるかい?」


 そう言うとユリウスは、手の動きで彼女に立ち上がるように促した。


 促されるままに寝台から降り立ち上がったルシオラは、先ず自分の身体の軽さに驚いた。 そう言えば身体の芯が熱くなり火照って、それがじんわりと広がっているような気がする。 まるで堰き止められていた全身の血液が一斉に流れ出したような感覚だ。 ルシオラは頬を上気させ自らの肉体の内なる変化に戸惑っていた。


 地方の貧しい領主の家に生まれ、幼い頃からいつか有力な貴族の元に嫁がれる事を期待して育てられた彼女は…… 10歳の頃、逃げるように修道院に入った。 それは貴族の令嬢の花嫁修業としては一般的な事だったが、彼女にとっては永久に家から出られる唯一のチャンスに思えたのだ。 


 その後、三賢人と友達の失踪をきっかけに冒険者となり、その報告を最後に実家との縁はほぼ途絶えてしまった。 それからは生活の全てを投げ打って行方不明の彼らを追い、冒険ギルドの職員となってからもそれは続いていた。 いつしか自分には家族や恋愛など関係ない物だと思うようになったのも無理はないだろう。


 そうして頑な決意に凝り固まっていた彼女の精神が、ほんの僅かに魔素の循環を阻害していたのだ。


「ねぇいまの、何をしてたの?」


 その様子を見守っていたフィオナが尋ねる。


「ほんの少し魔素の流れが澱んでいる箇所があったから、オレの魔素を流し込んでそれを改善したんだよ」

「へぇ〜そうなんだ〜 ルシオラどんな感じ?」

「えぇ、何だか身体が温かくなって…… とても気分がいいわ」

「そぉなんだ〜 ねぇ、それってわたしにも効果あるの?」

「うん、もちろん。 今からやるつもりだよ」


 ユリウスはフィオナの方に向き直ると彼女の腰を上げさせて膝立ちにさせた。 両手の指先を彼女の脚の付け根、鼠蹊(そけい)部に押し当てる。


「わたしはルシオラとは違うトコなんだ……」

「フィオナは規則正しい生活と畑仕事が良かったのか、上半身はほとんど問題ないよ」


 若く健康で身体能力も高いフィオナはほとんど問題ないと言っていい状態だったが、少しだけ下半身に魔素の澱みが見られた。


 恐らくは無理な畑仕事や家事で下半身を酷使したか、若い内に筋肉を付け過ぎた事による弊害だろう。 次にユリウスは彼女の背後に回り、お尻の割れ目、尾骶(びてい)骨に指先を当てた。


「ひゃん」


 すぐ近くにデリケートな部分があるせいか、フィオナが妙な声を上げる。


「あっあっ…… なんかお腹の奥がポカポカしてきたよ!」

「尾骶骨のすぐ上に仙骨という骨があって、それが背骨を支えているんだ。 女性は特にこの仙骨が大事なんだよ」


 ユリウスは指を離すとフィオナの顔を覗き込んだ。


「どうだ、何か変化を感じるかい?」


 フィオナはベッドの上に立ち上がると、ひょいっと床に飛び降りた。 その所作は猫のようにしなやかで足音ひとつたてなかった。


「うん、なんか軽くなった気がする…… 脚に羽根が生えたみたい!」


 そう言いながらその場でぴょんぴょん跳ねて見せる。 剥き出しの大きな乳房が激しく揺れて目のやり場に困る。


 それはもしかしたらプラシーボ効果なのかも知れないが、いずれにせよ本人の意識が前向きになったのなら拾い物だ。


「ありがとうシン、だぁ〜い好き!」


 ベッドに飛び上がったフィオナがそのままの勢いで抱きついてくる。 その様子を見ていたルシオラも、すかさず背中から抱きついてきた。


「フィオナ、ルシオラ…… ふたりとも愛してるよ」

「うん!」

「……はい」


「それじゃあそろそろ、出かける支度をしようか」


 これから三人は、迫り来る脅威に備えそれぞれのパワーアップのために行動を開始するのだ。


 この王国全体を覆う、不気味な魔素の澱みや滞りを取り除き、健やかに循環させるために。


この序盤に三人で別行動するパターンも三章で最後になるかと思います 毎回進展してたり、やってる事が違ったりするんですが、展開としてはちょっとマンネリですかね

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