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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
84/111

84 ~冒険者ギルド報告会〜

こんな感じで毎日とか何時とか決めず不定期に投稿していこうかと思います

気長にお付き合い頂けたら幸いです


 四人が身支度を整え『砂岩の蹄鉄亭』を後にしたのは結局昼時を大きく回った後だった。


 ギルドに指定された時間には完全に遅刻だが、そもそも報告を聞くだけなので大目に見てもらえるだろうという淡い期待を抱いている。


 一行は王都の目抜き通りを急ぐともなく歩きながら、中心部のギルド本部の建物を目指した。


「うわぁ〜 太陽がまぶしい…… なんか久し振りに陽の光の下を歩いてる気がするよ」


 フィオナが目を細めながら手をかざして太陽を仰ぐ。


「ほんとよね、私もこんなの初めてだわ。 身体がふわふわして変な感じ……」


 それは多分気のせいではなかった。 ルシオラとフィオナの歩き方や身のこなしが以前とは若干変化している事にユリウスとメナスは気付いていた。 


「あ〜 羊肉の串焼き屋さんがいる〜! お腹空いたな〜」


 例の屋台を見つけ思わずフィアナが叫んだ。


「今はやめておこう。 これ以上遅刻するわけにはいかないよ」

「はいはい、わかってますよ〜」


 ユリウスが釘を刺すとフィアナは心底残念そうに俯いた。 その様子をルシオラとメナスは微笑ましげに見守っている。


 冒険者ギルドに到着すると一行はすぐに例の三階の応接室に通された。 そこには既にギルドマスターのエルツ・シュタールと、チーフ・オフィサーのマルモア・エルフェンバインが待機していた。


「遅かったじゃねぇか! 俺を待たせるとはいい度胸だ」


 エルツはロマンスグレーの頭髪をオールバックにした壮年の男性で、かつては『生きる伝説』と謳われた歴戦の冒険者だった男だ。


「すみません、出掛けにちょっとしたトラブルが発生しまして…… それはもう無事に解決しましたが」


 しどろもどろにユリウスが言い訳をする。


「まぁいい、さっさと座ってとっとと始めようぜ」


 予想通りの豪快なギルドマスターの反応で、それを計算に入れて遅刻した自分たちをユリウスは少し心苦しく思った。 一行の到着を受けて、すぐに研究調査班のハイメル・トゥルブレンツも応接室に駆けつけた。


「早速ですがハイメルくんも忙しいようですので、まずは先日のスズメバチ型のゴーレムの件から報告させて下さい」


 チーフ・オフィサーのマルモアが目で合図をすると、横に座るハイメルが白衣のポケットから小さな試験管を取り出した。 その中には先日ユリウスたちが持ち込んだサンプルが収められている。


 それは全長6cmほどのスズメバチの形をした、超小型【自律思考型自動人形インテリジェント・オートマータ】だった。


「解析の結果、確かにこれは【自律思考型自動人形】で間違いないです」


 ハイメルの落ち着いた声に、結果は分かっていたもののユリウスたちもお互いに目を見合わせる。 ギルドマスターのエルツは、そんな彼らの様子を静かに見つめていた。


「実はギルドの地下にある保管庫を調べてみたところ、これと同じ物が魔獣の頭骨内から、もう二つ発見されました」

「本当ですか!」


 ある程度予想できた事ではあるが、これで仮説の信憑性が増したに違いなかった。


「非常に小さな物なので、構造や…… とくに【A・Iアーティフィシャル・インテリジェンス】の解析にはまだ時間がかかると思いますが、現時点で分かった事をお伝えすると──」


 もう先に報告は受けているだろうが、マルモアがゴクリと生唾を飲み込む音が部屋に響いた。


「この『魔導機(アーティファクト)』は、比較的大型の魔獣の脳に寄生して魔素(マナ)の濃い場所を目指すように設計されているようです」

「魔素の濃い場所、ねぇ……」


 ギルドマスターのエルツが腕を組んだまま呟いた。


「そいつは魔素を探してどうするつもりなんだ……? わからねぇなぁ、魔素を探すだけなら【魔力探知(マナ・サーチ)】の呪文の方がよっぽど早いんじゃないか?」

「それは目的にもよるかと思いますが…… 現時点ではまだ何とも言えませんね」


 ギルドマスターとは目を合わさず、眼鏡のフチに指を当てながらハイメルが答えた。 ユリウスたちはその目的に心当たりがあったが、それをここで明かすわけにはいかない。


 それが── メナスの胸部に内蔵された『賢者の石』である事は。


「問題は一連の異変……【彷徨える魔獣(ストレンジャー)】が、人為的に起こされていたと言うコトでしょう」


 ルシオラが話を促すために核心を突いた。


「その通りです、それが一番の収穫にして一番の問題かもしれません」

「その者の心当たりはないのですか?」


 そう尋ねるユリウスには、実は心当たりがあった。 しかしギルドがどこまで把握しているのかを知るためにあえてこの質問をする。 マルモアは当惑した顔色を隠す事なくハイメルを仰ぎ見た。


「そうですね、これほどの【自動人形】を造れる技術者は自ずと限られてくるでしょう…… 王都よりむしろ、商業都市ハンデルや工業都市インドゥストリあたりの方が対象者は多いかも知れません…… しかし──」

「それが王国内の者とは限らない」


 ハイメルの言葉を受けてエルツが応える。


「その通りです」


 それは現在微妙な関係にある、帝国が絡んでいる可能性もあるという事だった。 それほど広いとは言えない応接室に重苦しい空気が垂れ込めた。


「現時点では、黒幕の正体もその目的も不明のままというわけか」


 ギルドマスターが歯痒そうに呟いた。


「ですので…… これからのギルドとしての方針と対策としましては、まず王国領全域に渡り、改めてスズメバチと【彷徨える魔物】の出現情報を、冒険者に限らず広く集めさせようと思っています」


 そこまで一気に喋ると、チーフ・オフィサーのマルモアは深く息を吸い込んだ。


「それから、それらのデータを時系列順に精査していけば、その発生地点や黒幕の目的が見えてくるかも知れないと期待しています」


 たまたま目が合ったユリウスが小さく頷いて見せる。


「可能なら【彷徨える魔獣】の帝国での出没状況なんかも調べられませんか?」


 ユリウスの問いに、マルモアはしばし目を伏せて考えを巡らせた。


「そうですね…… 難しいかもしれませんが、出来うる限り情報を集めてみましょう」


「引き続きハイメル君たち調査班には、サンプルの解析を進めてもらおうと思っています」

「了解いたしました」


 そう言うとハイメルは、サンプルの入った試験管を白衣のポケットに戻し席を立った。


「一分一秒でも時間が惜しいので私はこれで失礼いたします」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 マルモアの言葉に一礼すると彼は部屋を後にした。 扉を潜る直前、一瞬ルシオラと目が合うと互いに軽く会釈をする。 ふたりは現役の冒険者時代、何度かパーティーを組んだ間柄なのだ。


「さて、それでは少し話は前後しますが…… シュッテッペ村に出没した【彷徨える魔獣】の件ですね」


 扉の閉まる音に一呼吸置いて、マルモアが口を開く。


「頭蓋骨や死骸の一部を分析した結果、あの魔獣が南国にしか生息しない【トライホーン・バイソン】である事は間違いないようです」

「死骸? もう回収してくれたんですか?」

「はい、実はあなた方が頭蓋骨を持ち込んだ日の遅くに、旅商人の方が死骸の一部を運んで来てくれたんですよ」

「それって、もしかしてコーレさん⁈」


 フィオナがいきなり大きな声で尋ねるので、マルモアは目を白黒させた。


「そ、そうです…… 旅商人のコーレ・ディアマント氏です。 彼もあなた方が無事だと聞いて安心しておりましたな」

「それは良かった。 彼にもお礼と挨拶もせず帰ってしまったお詫びがしたかったので……」


 彼にお礼を伝えようにも、定住していない旅商人なのでそれは簡単ではなかった。 今頃は当初の予定通りなら、港町ハーフェンを経った頃だろうか。


 ユリウスの脳裏に、建物も石畳も白で統一された潮風の香るハーフェンの街並みが蘇る。


「それで今回のあなた方への報酬なのですが、当初の目的は【シュテッペ村のスズメバチ駆除】でしたが…… 今回は事態が事態なだけに特別に成功として報酬を支払わせて頂きます」

「いいんですか?」

「スズメバチ型ゴーレムの発見と【トライホーン・バイソン】の討伐を鑑みれば、補って余りあるほどの功績ですから今回は特別ボーナスも支給させて頂きたいと思います」

「わぁ〜い、やったぁ〜!」


 フィオナが両手を挙げて喜びを表現する。 彼女はいつでも感情を表現する天才だった。


「それで、今後のクエストなのですが…… まだ今回の事態を広く知らしめるのは時期尚早かと思いますので、一部の冒険者にのみ知らせる事になるかと思います」

「つまり、私たちには率先してこの件に関連するクエストを受けてもらいたいと?」

「お察しが良くて助かります」


 ユリウスが仲間たちの顔を見回すと、ルシオラは小さく、フィオナは大きく頷いてくれた。 メナスは無表情に黒い瞳をくりっとこちらに向けただけだったが。


「それではまた情報が集まるのを待って、あなた方に依頼するクエストを選定したいと思います。 最低でも三、四日は待機して頂く事になるかと思いますが……」

「そうですね、仕方ないと思います」


 本来は各自冒険者が自分の技量や都合を考えて受けるべきクエストを選ぶのだが「仕事の指定も出来ないで数日待機していろ」は横暴と取られても仕方ない対応だ。 もしかしたら特別ボーナスにはそう言った含みもあるのかも知れない。


「実はな、お前らにも伝えといた方がいいかと思うんだが……」


 おもむろにギルドマスターのエルツが重苦しい口を開いた。 マルモアが彼の顔を仰ぎ見る。


「お前らが届けたあの皇女殿下な…… 帝国領に入ってすぐ…… 亡くなったらしいぞ」


 ユリウスたちは…… あのフィオナでさえ、どう反応していいのか分からなかった。 それが上手い具合に、余りの事に言葉を失っているかのように見えたようだった。


「ショックなのも無理はない、せっかく苦労して送り届けたのに…… 可哀想に、まだ若いのにな」

「死因は…… 死因は分かっているんですか?」


 それが帝国内ではどう伝わっているのか、王国はどう認識しているのか…… 今後のためにもユリウスは確かめておきたかった。


「あぁ、帝国では一応、馬車での事故死ってコトになっているらしい…… ただ実際はアドゥストゥス辺境伯が何か企んだって噂だな」

「へー 帝国の辺境伯が?」


 今まで置物のように黙っていたメナスが棒読みでのたまう。 彼女はいつでもこんな感じなので別に違和感はなかった。


「実際あの男は失脚して牢に繋がれ、いまあの城の辺境伯は空位になってるからな……」

「そうだったんですか…… 皇女殿下のコトはとても残念です。 しかし、これで帝国の侵攻計画は多少遅れるコトになるのでしょうか?」

「どうだろうな…… 全く影響がないとも思えんが……」


 そう言いながらギルドの生きる伝説は、ユリウスの目を静かに射すくめていた。 心の奥底まで覗かれているようなその視線がユリウスは苦手だった。 はっきりと明言されていなかった帝国の侵攻計画を口にしたのはカマをかける意図があったのだが、それを承知の上での答えだったように思えた。


「それでは早くても三、四日後になるかと思いますが、今後の方針が固まりましたらこちらからお声をかけさせて頂きますので…… それまでは王都内で待機して頂けましたら」


 マルモアがそろそろ今回の会合の終わりを告げようとしていた。


 ユリウスたちが革張りのソファーから腰を上げ一礼してドアに向かおうとした時だった。 背後から期待に満ちたマルモアの声に呼び止められた。


「あの…… それで、考えて頂けましたかな?」

「何のコトでしたっけ?」


「チーム名ですよ! 皆さんのパーティーの!」

「あぁ……」


 ユリウスは仲間の顔を見渡した。 みんな一様に微妙な表情を浮かべている。


「すみません、まだ相談の途中なんです……」


 一応申し訳なさそうにユリウスが告げると、マルモアは心底残念そうに肩を落とした。


 一行が廊下に出てすぐ、今度はユリウスがギルドマスターのエルツに呼び止められた。


「何でしょうか?」

「ちょっとふたりだけで話したいんだが」


 ユリウスは仲間たちに先に行くように伝えギルドマスターと彼らの背中を見送った。 以前にも確かこんな事があった。 あの練習試合の日を思い出して、ユリウスの背筋に冷たい汗が流れた。


 あの日こんな風に呼び止められて二人きりになると、彼はメナスの正体が人間ではないと看破したのだ。


「何でしょうか? ふたりだけで話とは」


 エルツはニヤリと笑うとユリウスの肩に親しげに腕を回した。


「おい、これは一体どういう訳なんだ?」

「いえ、何のコトだかさっぱり……」


 彼の表情はニヤついた笑顔のままだ。


「ついこないだまで処女だったお嬢さん方が、何で今日はふたり揃って『女』になってるんだ?」


 ユリウスは狼狽え、少年のように赤面した。


「実は、つい数日前に…… ふたりと婚約させて頂きました」

「はっはっはっはっ! やっぱりそうなったか! 俺の言った通りになったな!」


 ギルドの生きる伝説は、心底愉快そうにユリウスの背中をバンバンと叩いた。


 ユリウスははにかみながら、ただただ頭を掻くだけしか手立てがなかった。


現在100話までと+1話分がストックされております

ですので未公開は、あと17話分くらいですかね

ほとんどが四年前に書いてあったものなのですが……

理由は色々あるのですが、結局はコロナ禍ですっかり生活環境が激変してしまいましたね……

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