83 ~愛の巣〜
改めまして、あけましておめでとうございます
やっと主人公たちに視点が戻って参ります
ちょっと内容はアレなんですが……
シャウアが冒険者ギルド御用達の宿屋『砂岩の蹄鉄亭』を引き払い、住み込みでパン屋に働くようになってから三日が経っていた。
ラウラは意外な事に、あれから一度も顔を見せていない。 それだけ冒険者になるため、一般市民としての常識を身に付ける勉強に真剣に身を入れていると言う事なのだろう。
その日ユリウスは昼近くに目を覚ました。
カーテンは締め切っているが、隙間から差し込む光でもう陽が充分に高いことが分かった。
目醒めるとすぐに甘い体臭と乾いた汗の匂いが鼻孔をくすぐる。 ふと見ると、両側から自分を挟むように一糸纏わぬ裸の女性たちが腕や脚を絡めておだやかな寝息を立てている。
右側の、まだあどけない顔付きをした赤毛の少女はフィオナ・フィアナ── 北の辺境の農家から冒険者になるために王都に出て来る途中ユリウスと知り合った、侍の娘だ。 まだ14歳になったばかりだが冒険者ギルドの職業適性検査で【A+】の判定を叩き出したフィジカルの持ち主で、小柄だがしなやか筋肉質の体付きをしている。 そして年齢の割には豊かに実った、西瓜のような見事な乳房の持ち主でもあった。
その反対側で緩くウェーブのかかった見事な金髪を額に汗で貼り付け、すうすうと寝息を立てているのはルシオラ・スキエンティア── 貧乏貴族の令嬢だと言う彼女は、花嫁修行のために修道院に入った後、政略結婚の道具になる事を嫌い僧侶として冒険者になった。 その後、雨要曲折あって冒険者ギルドの受付嬢をしていた彼女は、再び冒険者に戻って今はユリウスたちのパーティーに参加している。 普段はトレードマークの銀縁の丸眼鏡をかけ、透き通るような白い肌と印象的な碧い瞳をした23歳の知的な美女だ。 彼女もまたフィオナに負けず劣らずの見事な胸の持ち主だった。
その美女ふたりが、自分のベッドの上で全裸で眠っている。 ほんの一月ほど前、絶望の闇に沈み暗い地下室で何もせずに7年間も眠っていた我が身を顧みると、にわかに信じられない現実味のない状況だ。
身分を偽り冒険者となって第二の人生を歩み始めた賢者ユリウスは、この短い期間の中で知り合っふたりの美少女と惹かれ合い、正体を明かして婚約するまでになっていたのだ。
王国では一夫多妻が法律上認められているとは言え、複数の女性と婚約する事にもちろん葛藤がない訳ではなかった。 しかし彼を慕うふたりの美女たちは、ふたり揃って妻にしてもらう事を自分たちから強く望んでくれている。
何と身に余る幸福だろうか……
このふたりを少しでも不幸にしたら罰が当たる。 たとえこの身に代えても彼女たちだけは護らなければならないと、ユリウスは固く心に誓っていた。
天使のようなふたりの寝顔を、彼はいつまでも眺めていたかった。
しかしそれはそれとして、そろそろ彼女たちを起こさなくてはならないだろう。 今日は午後から冒険者ギルドに出向くことになっている。 例のスズメバチ型の超小型ゴーレムについての分析結果と、その今後の対策をギルドの上層部と話し合う事になっていたのだ。
実はあれから三日間、三人は寝食を忘れ部屋に篭りっきりで互いの愛情を確認しあっていた。 当初から危惧していた通り、今までそういう経験のなかった三人は、初めて知った甘い果実の禁断の味にすっかり歯止めが効かなくなっていたのだ。
しかし、それもこれで一段落付けなくてはならないだろう。
王国への侵攻を密かに画策する帝国の影や【ドワーフの大洞窟】の存在── 最近王国周辺を騒がせている、本来の生息地を離れた魔獣の出没や凶暴化現象【彷徨える魔獣】と、その原因と疑われるスズメバチ型の超小型ゴーレム。
そして── これはギルドには報告出来ないが、メナスにそっくりな【アダマンタイト・ゴーレム】だと自称する謎の少年…… 彼はメナスの持つ『賢者の石』を探していると言っていた。
これからしばらくは手綱を引き締めて『種の保存』に関わる原初の欲求を抑え込まなければならないだろう。
額に張り付いた前髪ををそっと整えてやっていると、ルシオラが深い海のような碧い瞳を静かに開いた。 ユリウスの姿を認めその美しい顔が薔薇のように微笑む。
「おはようございます、ユリウスさま」
「おはようルシオラ」
ルシオラは上体を起こすと覆い被さるようにそっと唇を重ねてきた。 豊かに実った重い果実がユリウスの胸板でふにゃりと潰れた。 知的で清楚な印象とは反して、彼女は獣のように荒々しい激しいキスが好みだった。
そのベッドの軋む音で反対側に寝ていたフィオナが目を覚ます。
「あ〜 ずる〜い! わたしが寝てる間に〜」
しかしその声には本気で非難している響きはない。 実に9歳も年の離れていているふたりだったが、既にしょっちゅう冗談を言い合う仲の良い姉妹のような関係になっていた。 ルシオラはユリウスの顔を両手で挟んだままフィアナに向き直ると、満面の笑みを浮かべて囁いた。
「フィアナは私より三週間くらい早くからキスをしてたんでしょう……? これくらいしないと追いつけないわ」
「う〜〜 それは、ためらっていたルシオラが悪いんじゃない?」
「それを言うなら正体を隠していたどこかの誰かさんが一番悪いんじゃないかしら?」
そうなのだ。 最終的には結局いつもユリウスの責任という事で話が落ち着いてしまう。 実際この件に関してユリウスには、一切自由意志が認められていなかった。
彼がふたりの美女を自由にしていると言うよりは、彼女たちが仲良くご馳走を分け合っているような関係だ。
「それはそうよね…… なんたってシンが一番悪い!」
赤毛の少女は、たわわに実った果実を揺らしながらユリウスとルシオラにのしかかってきた。
「でも、おはようのキスはしちゃうも〜ん!」
二人の美女にのしかかられ、口付けの雨を浴びながらユリウスはおそるおそる進言した。
「なぁ、そろそろ準備しないと…… 今日は午後からギルドに出頭する日だったろ?」
「そっか、今日だったっけ? すっかり曜日の感覚がなくなってたわ」
「私は覚えてましたけどね。 でも……」
ルシオラとフィアナは、ふたりで意味ありげに目配せをした。
結局その日は昼食を諦める事になってしまった。 ふたりのたっての希望により、もう一度ずつ愛情を確認する例の儀式を厳かに執り行う事になったのだ。
宿屋に用意してもらったお湯で身体をよく拭いてから冒険者ギルドに出かける準備をする。 先に身支度を終えたユリウスが隣の部屋のメナスを呼びに行く事にした。 メナスはこの三日間、もう一つの二人部屋で独り読書をしながら過ごしている筈だった。 この状況は彼女が望んだ── ある意味メナス自身が仕組んだ成果とも言えるわけなのだが、何となくユリウスは後ろめたい感情を抱かないわけにはいかなかった。
ドアをノックしてから声をかける。
「おいメナス、起きてるか?」
返事はなかった。 わざわざ【念話】の魔法で話しかけるのも何だか気が引けた。
もう一度ノックしてからドアノブに手をかけると鍵はかかっていないようだった。 おそるおそるノブを回し扉を開く。
「メナス、そろそろ出かける時間だぞ」
部屋の中を覗き込むと、彼女は寝台の上に座って本を読んでいるようだった。 淡い光を放つプラチナブロンドに吸い込まれるような黒い瞳。 華奢な印象の10歳くらいの幼女にしか見えない彼女だったが、冒険者に登録するため一応14歳と言う事になっていた。
「メナス……」
「あ、マスター。 おはようございます。 読書に集中していて、ぜんぜん気が付きませんでしたよー」
そんな訳はないだろう!
なにせ彼女は【A・I】を搭載した超高性能の【自律思考型自動人形】──
【タイタンの幼女】なのだから。
「今日はギルドに例のハチの分析結果とこれからの方針を聞きに行く日だったろ? 準備は大丈夫か?」
すると少女の首がゆっくりと回転しユリウスの方を向いた。 人形のような不自然な動きは、おそらく彼女自身による演出だと推測される。
「分かってますよ、お兄ちゃん。 ボクはいつでも準備オッケーです」
そう言うメナスの顔は能面のように無表情だった。
お気付きかと思われますが、現在過去の章を改稿しながら投稿しておりまして…… ですので新作の執筆自体は止まっている状態です これは改行とか句読点とかルビの振り方とか統一されていなかった所を直したかったからなのですが、読み返してみると説明不足な点などにも気付き、足したり削ったりもしております…… それが終了したら執筆も再開するつもりです 気長にお待ち頂ければ幸いです




