80 エピローグ2 ~とある玩具工房にて〜
新年明けましておめでとうございます。
すみません、リゼロ観てたらすっかりこんな時間に…… これにて第二章『赤銅色の奴隷姫』は完結です。 もしこれから、このエピローグだけ読もうとしている方にはひとつだけご忠告を。 今回の話には本編に登場する人物は一人も出て来ません……(汗) 出来ましたら、もう少しだけ遡って確認して頂けましたらと思います(笑)
それではどうかよろしくお願いたします。
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※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
王都ミッテ・ツェントルムの城下町。
目抜き通りからは大分外れた住宅街に、その工房はひっそりと建っていた。
ミルヒ・エフネンは、赤ん坊を背負ったまま今日二回目の洗濯物を干していた。 ベッドでは今頃、もうすぐ2歳になる上の女の子がすやすやと昼寝している筈である。
ミルヒは今年21歳。 黒髪を短く切り揃えた黒い瞳の快活な印象の女性だ。 新婚三年目。 夫のロイドは玩具職人をしている二つ歳上の優しい青年だ。 彼は子供の頃から手先が器用で木材や金属を加工して何でも作ってしまう。 特に得意なのは、チェスの駒などの細かいミニチュアの細工だった。
ここは若い夫婦の住宅兼・玩具工房なのだ。
ミルヒは洗濯物を干す手を止めると腰を伸ばして深いため息をついた。 近くにある木箱に腰を下ろして少しだけ休憩をとる。 太陽は高い。 そろそろ昼食を摂りに夫が営業から帰って来る頃だろう。 そうなのだ…… 本来生活必需品ではない玩具職人などは無くても困らない職業…… 逆に言えば、平和でなければ成立しない商売だ。
彼らは知らない事だったが…… ひとまずは帝国との開戦の危機は回避できたとは言え、度重なる王国内の異変などの影響もあり、この王都でも緊張状態が続いているように感じられた。 ましてや夫のロイドは、まだ若い玩具職人だ。 腕は確かだが経験がない。 コネなどもないし人の良さが災いしてか要領も良くない。 そんな頼りないところもミルヒは放って置けなかったのだが、いざ暮らしが苦しくなるとそんな事も言っていられない。
今日も夫の尻を叩いて、大きな玩具問屋に仕事の無心を頼みに回らせていたのだ。
栄養のつくものを食べないと乳の出が悪い。 だから子供のミルク代がかかる。 だからお金がない。 お金がないから栄養のつくものが食べられない。
完全な悪循環に陥っている……
とは言えこの暮らしに不満はない。 ミルヒは優しくも頼りないこの幼馴染みの青年を心から愛していたし、可愛い子宝にも恵まれた。 夫は子供の頃からの夢を叶え、こうして玩具工房も構えられた。 これ以上何を望むと言うのか…… そんな事を言ってはバチが当たる。
ただ…… 忙しい日々の雑務に追われる中、時々ふと思い出す事がある。
ミルヒは結婚するまで、さる貴族のお屋敷で住み込みのメイドをしていたのだ。
もちろんあの頃も日々の仕事は大変だった。 しかし平民出身の彼女にとって、あの大きなお屋敷での暮らしは夢のような日々だったのだ。 見た事もないようや豪華な食事に、信じられないくらい甘いお菓子。 身に着ける制服は全て上等な仕立てだったし、ベッドの布団もまるで雲の上に寝ているような柔らかさだった。
あの日々を懐かしく思い出してしまうのは、決して後ろめたい事ではない筈だった。
今でも時々、後輩のメイドが遊びに来てくれることがある。 相変わらず主人の男爵は帰ってこないらしいが、彼女もこの仕事にやり甲斐を見出しているようで安心している。 つい先日もその後輩、カエルラ・パレンスが遊びに来て赤ちゃんと上の子の相手をしてくれた。 一時期は母親の体調が良くないとの事で沈みがちな所があったが、今はすっかり良くなったらしく以前の明るい彼女に戻っていた。
懐かしく光り輝いていたが、決してもう二度と戻れないあの日々──
ミルヒは物思いから我に帰ると、再び洗濯物を干すために立ち上がった。 そろそろ昼食の準備も始めなければならないだろう。
その時、誰かが慌てた様子で路地を駆けてくる靴音が鳴り響いた。 何事だろう? 遊んでいる子供たちでもないようだし、こんな昼前の住宅街に……
「ミルヒ! ミルヒ! やった! やったよっ!」
それは夫のロイドだった。 ちぎれんばかりに腕を振りながら石畳みの路地を真っ直ぐに駆けてくる。
「どうしたのよ、いったい?」
ロイドはミルヒの目の前で立ち止まると、両膝に手をついて苦しそうに息を整えた。 普段はこんながむしゃらに走ったりする事はないのだろう。
「大丈夫……? ロイ」
「仕事だっ! 大口の仕事が入ったんだっ!」
「本当なの⁈」
「あぁ、本当だ! これを見てくれ!」
そう言うとロイドは、革の鞄から小さなミニチュアをいくつか取り出した。
それはロイドが作った兵隊や馬などの木彫りのフィギュアだった。
「こないだ王都一番の問屋に見本で置いてった僕のフィギュアを、凄く気に入ってくれたクライアントがいたんだ! 誰だと思う?」
「………… お金持ちの…… 貴族の方?」
そこでロイドは、たっぷりと勿体つけて不敵な笑みを浮かべて見せた。 小憎らしいが、ミルヒはそんな彼が子供の頃から大好きだった。
「冒険者ギルドだよっ! 冒険者ギルドが、僕のフィギュアを大量に発注してくれたんだっ‼︎」
「冒険者ギルドが…… どういうコトなの?」
「そんなの知らないよ! 新人冒険者の訓練に使うとか何とか…… とんでもない数を注文されたよ! これから当分忙しくなるぞ…… とにかくこれで貧乏からはオサラバさっ‼︎」
そう言うとロイドは、愛する妻の身体をきつく抱きしめた。
「ちょっと、ロイ…… 赤ちゃんが……」
そう言いながらもミルヒは、大粒の涙を流していた。
ふたりはまだ知らない……
このミニチュアを用いた冒険者ギルドのイメージトレーニング用アイテムは…… やがて【|両刃斧と迷宮《ラブリュス&ラビリントス》】というゲームとして一般に販売され、王都で一大ブームを巻き起こす事になるのだった。
新年明けましておめでとうございます!
昨年9月より投稿を開始した『絶望の賢者とタイタンの妖女』も今回で80話、29万文字を数えました。 これも応援して下さった皆さんのお陰です。 本当にありがとうございました!
第二章『赤銅色の奴隷姫』は、ここで完結となります。 これからすぐにも第三章の執筆に入ろうかと思いますが…… 先に進むほど話が複雑化して手間暇がかかるような予感がしております……(汗) いずれにせよ、なるべく早く再開出来るよう努力したいと思います!
よろしければ、ここで一旦保留していた評価などお付け頂けましたら大変励みになるかと思います。 もちろん、感想、レヴューなども大歓迎です。
それでは本年もよろしくお願いたします。




