79 エピローグ1 ~高い塔の男〜
新年明けましておめでとうございます。
今回はこの後0時にも更新して第二章『赤銅色の奴隷姫』を完結させたいと思っております。
どうかよろしくお願いたします。
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※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
ラウラが帝国を出発する少し前の事──
アウレウス帝国皇帝、アウルム・アルゲンテウスは執務室で机に向かっていた。 彼の他には室内に人の姿はない。
「それで、首尾はどうだ?」
「はい、今のところ順調に進んでおります…… ただ──」
皇帝の問いかけに、誰もいない筈の室内の一角から返事があった。
「ただ、何だ?」
するとどこからともなく黒い人影が現れ、皇帝の机の上に一本の巻物を置いた。 そしてすぐに再び部屋の一角に溶け込んでいく。
「これは?」
「プルプレウス辺境伯が国王に宛てた親書です。 私が拝借して参りました」
成る程…… 確かに羊皮紙を巻いたその巻物には封蝋が施されており、プルプレウス辺境伯の紋章が押してある。
皇帝は無造作に封を破り羊皮紙を広げると、その内容に目を通す。 いかに皇帝であろうとも他人宛の封蝋を破るのは本来あり得ない行為であった。 机の上に羊皮紙を投げ捨て、彼は深いため息をつく。
「アドゥストゥス辺境伯…… あの奴隷商あがりの成り上がり者め。 余計な事を企みおって…… 【漆黒の暴竜ルイン】も【ドワーフの大洞窟】も、わざわざ王国に教えて何の得があると言うのか」
「仰せの通りです」
「よくやった。 お前の働きにはいつも感謝しているぞ…… シュピンネ」
「ありがたき幸せです」
黒い影の正体は、シュピンネ・シュヴァルツ…… 大陸に数人しかいないと言う忍者の一人にして、皇帝直属の隠密部隊【黒後家蜘蛛】の頭目である。
皇帝は机の引き出しから何かを取り出すと、部屋の隅へ放り投げた。
「それを持ってゆけ」
黒い影がそれを受け取る。 それは、手の平にすっぽり隠れるくらいの水晶球だった。
「これは……?」
「あれの居所がわかる【魔道具】よ。 あれには絶対に外せぬ『印』が付けてある。 かざして光った方角で居場所がわかり光の強さで距離がわかる…… 活用せよ」
「……御意」
黒い影は水晶球を懐にしまい込んだ。
「今回もお前たちの働きに期待しておるぞ」
「お任せください」
本来そこで話は終わる筈だったのだが、皇帝は些細な好奇心から意地悪な質問を思い付いた。
「ところで今回の件だが…… 王国側にいると言う例の忍者は動くと思うか?」
「……」
黒い影は、何を思うのか即答を避けた。
「分かりません…… しかし、もし戦場で出会う事があればその時こそ初代ツヴァイ・シュバルツから受け継いだ『正統』が我々である事を証明出来ると思います」
「それは楽しみだな…… 初代ツヴァイ・シュヴァルツの直系の子孫であるお前こそ、まさしく『正統』の名に相応しい忍者であろうよ」
正直、皇帝アウルム・アルゲンテウスにとっては、忍者の『正統』がどちらであるかなど、どうでもいい事だった。
「……御意」
その声を残して…… 黒い影の気配は、執務室から完全に消え去った。
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どこか遠いこの世の果て──
そこは訪れる者も無い人跡未踏の秘境の地にある高い塔の中。 そこは塔の最上階…… 巨大な天体望遠鏡が備え付けられたドーム状の部屋だった。
ローブ姿の老人が、丸テーブルの上に台座で固定されている巨大な水晶球を一心不乱に覗き込んでいる。 かと思えば、落ち着きのない様子で慌ただしく部屋の中を歩き周り、ブツブツと何かを念仏のように唱えていた。 その姿は控えめに言って、正気を保っているとは思えない。
「アダムめ…… いったいどうしたと言うのじゃ…… 【死の谷の洞窟】での報告を最後に、あれから連絡もなければ、行方も分からんっ」
「何のために【念話】の『魔道具』を渡しておるのかっ⁈」
いかに【念話】の魔法と言えど、その効果範囲には限界があった。 魔素を増幅し、且つ周波数を合わせる働きを持つこの『魔道具』があれば、たとえ【念話】の使い手でなくても長距離の会話が可能なのだった。
その時まさに、巻貝の形をしたその『魔道具』から声が響いた。 しかしそれは、老人の待ち望んだ声ではなかった。 一瞬歓喜に輝いた老人の表情が、落胆から怒りへと変わる。
「マスター、ご報告があります」
「なんじゃ⁈ ワシは今忙しいっ!」
それはアダムの物とは違う、若い男性の声だった。
「それがマスター、取り急ぎお耳に入れたい事態が発生しておりまして……」
「何だっ⁈ 言ってみろ!」
「【ワスプ・ゴーレム】の存在に気付いた者がいます…… 王国の冒険者ギルドにそれを持ち込まれました」
「それがどうしたっ……⁈ 事ここに至っては大事の前の小事でしかないわっ‼︎」
「いえ、しかし…… あれを子細に調べられたらマスターまで辿り着く者もいるかも知れません」
老人は苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。
「馬鹿めっ‼︎ そんな時のためにお前をギルドに潜り込ませておるのだろうがっ‼︎ そんな事でいちいち報告してくるなっ‼︎」
「申し訳ありません、マスター……──」
それきり【念話】は切れてしまった。 どうやら老人が一方的に『魔道具』を停止したようだった。
「アダムめ…… 何をやっておるのか…… もう『その時』は近いと言うのに‼︎」
そう言いながら老人は、再びうろうろと部屋の中を歩き周り始めるのだった。
その時だった……
ドーム状の観測室の巨大な天体望遠鏡のために開いていた窓の隙間から、光輝く何かが飛び込んできたのだ。
それはアダムと呼ばれる少年だった。
地上最強の硬度を誇る金属で作られた【アダマンタイト・ゴーレム】の少年アダム……
その彼が、室内に飛び込んで来るなりボロボロの状態で床に倒れている。 黒い衣服は既にほとんどなく、右腕が肘の部分で折れて関節が露出している。 そればかりか左脚は膝から下がもげて消失していた。
「アダム⁈ 一体どうしたのじゃっ⁈ その姿は……⁈」
老人の問いかけに少年は弱々しく顔を上げた。
「すみません、マスター…… 岩盤を掘り起こすのに時間がかかって…… 頂いた『念話の魔道具』も失くしてしまいましタ」
「何があったんじゃ? 説明してみよ!」
「マスター…… 見つけましたよ…… 【賢者の石】を持っている女の子ヲ……」
「……っ⁈ それでっ…… 【石】は手に入れたのかっ⁈」
「いえ…… コテンパンにやられちゃいました…… 油断してるつもりはなかったんですけド」
「馬鹿なっ! お前は史上最強の【アダマンタイト・ゴーレム】なのだぞ……っ‼︎ 10年も昔の【チタニウム・ゴーレム】なんぞに……」
「いえ…… 他に誰か魔導士がいたみたいデ……」
「魔導士じゃと⁈」
「【転移門】に叩き込まれたと思ったら、そこは洞窟の奥の更に地割れの奥深くで…… しかもご丁寧に攻撃呪文まで投げ込まれて…… たぶんアレは…… 第9ランクの【重力の中心】ですかネ?」
「【転移門】に【重力の中心】じゃと……?」
焦点の合っていない老人の目が、不気味に輝いた。
「奴じゃ…… ユリウス・ハインリヒ・クラプロス……‼︎」
「そうか…… 何故今まで気付かなかったんじゃ……⁈ あのゴーレムは、奴と一緒におるのか……‼︎」
「アダムよ…… よくやった! 可哀想に、すぐに直してやるからな…… そして今度こそ【賢者の石】をこの手に取り戻すのじゃっ‼︎」
「はい、マスター」
【アダマンタイト・ゴーレム】の少年は、弱々しく屈託のない笑顔で微笑んだ。
新年明けましておめでとうございます!
昨年9月より投稿を開始した『絶望の賢者とタイタンの妖女』も今回で79話、29万文字を数えました。 これも応援して下さった皆さんのお陰です。 本当にありがとうございました!
第二章『赤銅色の奴隷姫』も残すところ(短めのエピローグ)あと1話…… 1月1日中に更新しようと思っております。
それでは本年もよろしくお願いたします。
─────次回予告─────
第80話 エピローグ2 ~とある玩具工房にて〜
乞う御期待!




