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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
77/111

77 ~幸せの当番〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者となった初クエストで、帝国からの要人、皇女ラウラを無事に帝国領へと送り届けたユリウスたち一行は、次なるクエストとして赴いたフィオナの故郷シュテッペ村で一連の異変と関わりのあるかも知れない魔獣やゴーレムの襲撃を受ける。 そこで賢者である身分を隠し新人冒険者になっていたユリウスは、とうとう仲間たちに正体を明かし、そして王都へと戻ってきた。


──────────


※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 ギルド本部を後にして、ようやくユリウスたちは懐かしい『砂岩の蹄鉄亭』の宿に帰ってきた。 時刻は既に夕食の時間をとっくに過ぎている。 幸い帰り道に例の屋台を見つけたので、羊肉の串焼きを買い込んで四人で頬張りながら帰ってきたのだ。


「これ食べると、やっと帰ってきたって感じするよね〜 おいひ〜」


 フィオナは両手に串を一本ずつ持って、交互に口へ運んでいた。


「ほんとね、なんだかとっても安心する」


 そう言いながら、ルシオラは隣を歩いていたユリウスの姿を横目で盗み見た。 今更ながらに胸が高鳴り、鼓動が早くなるのを感じる。


 少女の頃から憧れていた人が、いま自分の横を歩いている。 そしてあの、めくるめくような素晴らしい体験…… 彼はもう、永遠に自分のものなのだ……!


 言いようのない幸福感が彼女の全身を包んでいた。


「ん、どうかしたか? ルシオラ」


 そんな彼女の様子に気付いたのか、ユリウスが声をかけた。 不意を突かれて心臓がひとつ大きく跳ね上がる。


「え、ううん…… なんでもないの…… シャウアには、なんて話そうかなぁって考えていて……」


 それは嘘ではなかった。 これからはユリウスの部屋で眠る事もあるだろう…… そうでなければ困ってしまう! それに賢者ユリウスは、シャウアの命の恩人でもあるのだ。 その事もいつかは打ち明けなければならない気がした。


「そうだなぁ…… なんて言えばいいのかなぁ」


 この時のユリウスには、ふたりの女性と婚約した事の言い訳しか頭になかったようだが。


 四人が部屋に戻ると、シャウアは既にルシオラを待っていた。


「あっ お姉ちゃん、今夜は帰れたのね」

「ただいまシャウア。 ごめんね、しょっちゅう留守にして」

「ううん、いいの。 それで、相談があるんだけど…… せっかくだから、みんなもいい?」


 ルシオラはユリウスたちの顔を見た。

みんなが頷くのを見て、一同はルシオラとシャウアの部屋に集まった。


 実は── 冒険者のルシオラが、たまにクエストなどで何日も外泊する事を話すと、シャウアの働くパン屋のおかみさんが「それならいっそ住み込みで働かないか」と言ってくれたそうなのだ。


 シャウアにとっては願ってもない話だった。 それだけパン屋夫婦に気に入られていると言う事でもあるし…… 単に出勤の手間が省けるとかではなく、一日中パン屋の生活を送れると言う事はそれだけ得る物も多い筈なのだ。

 だがもちろん、ルシオラと離れるのは寂しいし彼女を一人にしてしまうのではないかと心配もしていた。


「よかったじゃない! 是非そうするべきよ」


 ルシオラは心から祝福した。 彼女自身、シャウアを一人にさせる罪悪感がないではなかったし、何より彼女の夢であるパン屋への道がより確かなものになるチャンスでもあった。


「でも…… それだとお姉ちゃんが」


 シャウアが心配そうにルシオラの瞳を覗き込む。


「実はね…… 私も」


「え〜〜っ お姉ちゃんが婚約⁈ シンさんと⁈ やっぱりフィオナさんとふたりでお嫁さんにしてもらうのっ⁈」


 全く想定していなかった答えにシャウアは驚きの歓声を上げた。


 これにはルシオラはもちろん、何故かユリウスとフィオナまで真っ赤になっていた。


 取り敢えず今は、シャウアに真実を告げる必要はないだろう。 いつかは打ち明けなければならないかも知れないが。



 それから約一週間後、シャウアは荷物をまとめて『砂岩の蹄鉄亭』を後にした。 もとより裸ひとつで蘇った彼女だ。 手荷物と言っても、まだ鞄ひとつに収まる程度だった。


 ルシオラは当然、パン屋まで彼女に付き添って行った。 戸籍上は姉という事になっているし、この世でただ一人の家族と呼べる人間なのだ。 いや、ルシオラにはもちろん、故郷に本当の家族がいるのだけれども……


 それから問題となるのは部屋割りだった。

今までは二人部屋を三部屋借りて、ユリウスが一人で寝ている状態だったが、これからはどうしたらいいのか?


 取り敢えず一部屋は引き払って二部屋にして…… ユリウスとメナスが兄妹という事で一部屋、フィオナとルシオラが一部屋というのが現実的だろうか?


 もっとも…… その組み合わせは、頻発に入れ代わる予定ではあるのだが。


 シャウアが宿を引き払った夜、四人はユリウスの部屋に集まって夕食を摂った。 『砂岩の蹄鉄亭』の一階にある定食屋兼酒場は、宿泊客には部屋まで食事を運んでもくれるのだ。 さらにルシオラがパン屋で買ってきたラスクやクッキーがこれに加わった。


 四人でベットの上に車座に座り食卓を囲む。 シャウアがいない事も加わり、なんだか妙な雰囲気だった。 フィオナとルシオラは時々目線を交わしてお互いの意思を確認しているようだったが、とてもユリウスには口を出せる雰囲気ではなかった。


 たまらずメナスに【念話(テレパシー)】で話しかける。


(なぁ、メナス…… オレはどうしたらいいんだろうなぁ?)

(あれ、マスター…… もう【念話】で話す必要ないんじゃないですか?)

(いや、そうとも言い切れんだろう)

(どうかなー 愛する女性たちの目の前で堂々とナイショ話なんて…… ボクは感心しませんねー)

(それは、まぁその通りなんだがな……)


 ユリウスはバツが悪そうに頭を掻いた。


(なぁ、メナス…… お前は気付いているんだろう? 今回の一連の異変の黒幕は──)


 その時メナスの表情が、すっと能面のように変化した。


(どうした……? メナス)


 しかし、彼女からの返事はない。


(メナス……?)

「ねぇ、それでシンはどう思うの?」


 いきなりフィオナに話しかけられて、ユリウスは我に返った。


「えぇっと…… なんの話だっけ?」

「もうっ 聞いてなかったの⁈ お当番(・・・)のことよっ!」

「えっと…… お当番?」

「やっぱり聞いてなかったんじゃない! だ〜か〜ら〜 わたしとルシオラが、シンと幸せになるお当番!」

「あっ うん、なるほど……」


 ようやく意味を理解して、改めて言葉に詰まるユリウスだった。


「わたしは一日交代でもシンが大変だろうから、二日にいっぺんを、交代でって思ってたんだけど……」


 そこでフィオナは、いったん言葉を切って、ユリウスの反応を伺う。


「一日交代にお休みを加えて、三日サイクルでもいいんじゃないかってルシオラが……」

「ちょっと…… そんな言い方したら、私がユリウスさまのコト心配してないみたいじゃない」


 ルシオラが顔を真っ赤にして抗議する。


「ちょっと待ってくれ、それメナスの前で話さないといけない話か……」

「え、なんで? 部屋を代わってもらうんだからメナスちゃんも当事者でしょ」

「そういう事じゃなくてだなぁ……」


 フィオナとルシオラにとっては14歳の成人した冒険者なのだとしても、ユリウスにとってメナスは妹であり、親友たちと作り上げた娘でもあり、そしてまだ10歳の少女なのだ……

 彼女が『チタニウム・ゴーレム』である事を差し引いても、そこに感情のギャップがある事は否めなかった。


「お兄ちゃんの体力のコトを心配してるんなら何も問題はないと思うよ。 だってお兄ちゃん、20代前半の身体と体力に加えて魔素(マナ)のコントロールで何日でも飲まず食わずで徹夜出来るくらいの化け物なんだから……」


 メナスは一応、人目がなくても日常会話では『お兄ちゃん』で統一する事に決めたようだ。


 その時何故か、ルシオラが生唾を飲み込む音が部屋に響いた。 みんなの視線が集まり赤い顔をさらに真っ赤に染め上がる。


「違うのよっ…… 確かにユリウスさまのお身体も心配だけど…… 私たちはまだ結婚前だし、王国は今非常事態なワケだし…… 節度を持って──」

「あー フィオナも言ってたね…… 猿みたいに一日中って……」


 今度はフィオナが真っ赤になる番だった。


「メナス…… お前なぁ……」

「ねぇ、三人いっぺんにって日はなくていいの?」


 ここに来てメナスがとんでもない爆弾を放り込んできた。 フィオナとルシオラが顔を真っ赤にして視線を合わせる。


「えっ……? 三人って…… えっ……?」

「わたしは…… ルシオラがいいなら……」

「えっ……? それなら、私も……」


 ふたりの乙女は茹でダコのように真っ赤になって、おそるおそるユリウスの顔を伺った。 そんな顔で見られても何と返事をしていいのやら……


 結局その夜は何も決まらずに、結論を明日以降に持ち越す事にした。 食器も片付け終わり、フィオナとルシオラのふたりが部屋に戻ろうと立ち上がったちょうどその時だった。


「あれ、シン…… どうしたの、そのチョーカー?」

「え、何だって?」


 フィオナがユリウスの首元を指差して言った。 見下ろすと、確かに黒いチョーカーが微かに光を放っている。 それはギルドの【魔道具(アーティファクト)】による適性検査をパスするために身に付けた、パラメーターを擬装する【魔道具】だった。 どちらの【魔道具】も製作したのは三賢人のひとり、錬金術師のミュラーであった。 メナスは片膝を立てて静かに臨戦態勢に入る。


「これは…… 魔素(マナ)の輝き──」


 ユリウスが言い終わる前に部屋の中央の何もない空間に、突然見慣れた黒い窓が出現した。


 次の瞬間そこから姿を現したのは、赤銅色の肌をした小柄な少女だった。


「ユリウスさまっ……‼︎」

「ラウラっ⁈」


 少女はあどけない表情で満面の笑みを浮かべると、ぶつかるようにユリウスの胸に飛び込んできた。


「えっ 皇女殿下⁈ なんで?」

「これって、まさか……」


 ラウラはユリウスの胸の中で顔を上げると、満面の笑顔で叫んだ。


「やっと成功しました! 【転移門(ゲート)】の魔法がっ‼︎」


 それもユリウスが先日考案したばかりの『品物』を『触媒』に『知人』を『目的地』にした改良型の【転移門】だった。


 フィオナとルシオラはおろか、メナスまでもが言葉を失い呆然と立ち尽くしている。


 ただひとつだけ言えるのは── ここに新たな【転移門】の使い手となる天才魔導師が誕生したという事だった。


「フィオナと…… それにルシオラだったか? お前たちも壮健だったか?」


 少女はユリウスの胸の中で部屋の中を見回すと、無邪気な笑顔で白い歯を見せた。 それは皇女と呼ばれていた頃には見せた事のない、歳相応の屈託のない笑顔だった。


 新年明けましておめでとうございます!

昨年9月より投稿を開始した『絶望の賢者とタイタンの妖女』も今回で77話、28万文字を数えました。 これも応援して下さった皆さんのお陰です。 本当にありがとうございました!


 第二章『赤銅色の奴隷姫』も残すところ(短めのエピローグを加えて)あと3話…… 1月1日中に更新しようと思ったおります。 


 それでは本年もよろしくお願いたします。


─────次回予告─────


第78話 ~制約〜

 乞う御期待!

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