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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
75/111

75 ~賢者の時〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者となった初クエストで、帝国からの要人、皇女ラウラを無事に帝国領へと送り届けたユリウスたち一行は、次なるクエストとして、フィオナの故郷であるシュテッペ村に来ていた。 賢者である身分を隠し新人冒険者になっていたユリウスは、とうとう仲間たちに正体を明かす時が訪れようとしていた……


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


「それで…… これからどうなさるつもり何ですか? ユリウスさま」

「ルシオラ…… もう、そんなに(かしこ)まらなくていいよ。 今まで通り話してくれないか」

「でも…… 私はユリウスさまって呼んでもいいでしょう?」


 彼女にとっては、ユリウスと言う名前に特別な思い入れがあるのだろう。


「構わないけど…… 人前では、シンと呼んでくれよ」

「それじゃあ、やはり…… これからも?」

「あぁ、冒険者シンとして活動するつもりだ。 ただ──」

「……ただ?」


 ユリウスは空いている左手をルシオラに差し出した。


「これからは王国の人々のためにも積極的に動くし、そのために『力』を使うコトは躊躇(ためら)わないつもりだ」


 そう言いながら、ユリウスはルシオラの手を引いて彼女を抱き寄せた。 右手にはフィオナを、左手にはルシオラを抱いている形だ。


 三人は何も話さずに、しばらくそのままでいた。


「そう言えば、ずっと気になってたんだけど…… あの男の子『石』がどうとか言ってなかった? あれって【賢者の石】のコトじゃないの?」


 いきなりフィオナが核心を突いてきた。 知恵や知識はなくても、そういう直感は時として子供や学問を学んでいない者の口からもたらされるという事をユリウスはよく知っていた。 ルシオラもずっと気になっていた事を思い切って口にする。


「あの少年…… メナスちゃんによく似ていませんでしたか?」


「『石』は、ここだよ」


 振り返ると、バルコニーの椅子に座っていたメナスが立ち上がり上半身をはだけるところだった。


「メナスっ……⁈」

「マスター…… ここまで来たら、もう無理でしょう。 ふたりに隠す意味もないと思いますけど」


 メナスの裸の上半身、微かに膨らんだ乳房の間のちょうど心臓のあたり…… 肌が透けて内側から何かが輝いているのが見えた。


 それが【賢者の石】の隠し場所だった。


「メナスちゃん……」

「ごめんね、フィオナ、ルシオラ…… ボク、人間じゃないんだ」

「「……っ⁈」」


「すまん、ふたりとも…… 実はメナスは、

オレたち三賢人が作り上げた【自律型自動人形インテリジェント・オートマータ】の【チタニウム・ゴーレム】なんだ」


「「【チタニウム・ゴーレム】……っ⁈」」


 ふたりは声を揃えて驚いた。


「ミュラーが『チタニウム』の身体を作って、ウィリアムが『心』である【A・Iアーティフィシャル・インテリジェンス】を作った…… それを、オレが手伝ったんだ」


 実は集積回路や全身を巡る神経にあたる部分の魔素(マナ)の流れを司る重要な部分をユリウスが手掛けているのだが、彼は自分の手柄を大きく言う事はしなかった。


「マスター、もういいよね? 『力』を使って脚、治しちゃっても?」

「待て、今【魔力検知阻害】の魔法をかけるから」


 そう言うとユリウスは、小屋の周囲に【魔力検知阻害】の障壁を張り巡らせた。


「あいつがどうやってここを見つけたのか分からないが…… 大量に魔素が動くと、分かる奴には分かるからな」

「……ですね」


 メナスは再び椅子に腰を下ろすと、静かに【賢者の石】を起動した。


 恐ろしいほどに濃密な魔素が集まり、周囲の大気が微かにふるえているようだった。 その魔素は、メナスの右足に集中し、彼女の足をみるみるうちに修復してゆく。


「すごい…… こんな複雑な人工物がこんな風に修復されていくなんて…… こんな種類の魔法、聞いたこともない」

「魔法じゃないからな。 これは【賢者の石】の『錬成』の力だ」


 程なくして魔素の輝きは消え、メナスの右足はすっかり元通りになった。 彼女は椅子から立ち上がると、斬られた方の片足でくるりと一回転して見せる。


「うん、だいじょーぶみたい」


 ふと見ると、フィオナとルシオラは呆気に取られた顔でその様子を伺っていた。 メナスは改めてふたりの方へ向き直った。


「ごめんね…… フィオナ、ルシオラ…… ボクのコト、嫌いになっちゃった?」


 あくまで彼女は無表情だったが、その黒い瞳はどこか悲しげに見えた。 ルシオラが一瞬答えを躊躇したその瞬間、フィオナがメナスに抱きついていた。


「フィオナ……」

「メナスちゃんは…… メナスちゃんなんでしょ?」


 それはさっき、彼女がユリウスにした問いと同じものだった。 ルシオラは、ほんの一瞬でも戸惑ってしまった自分を恥じた。


 あの人を食ったような飄々とした態度の少女…… 何を考えているか分からないが、とても強くて、冷静で賢くて…… それでいていつも、ちゃんと仲間のコトを考えているのをルシオラは気付いていた。


 みんなで泉に入り、スライムの粘液を洗い流した…… 

一緒に何度も食べた羊肉の串焼き…… 

イカスミのパスタで口の周りを真っ黒にしていた少女の顔…… 

あの、信じられないくらい楽しかった女子会……


 それらが全て嘘だったとしたら…… この世にある全ての物こそ『幻』ではないのか……


 ルシオラも背中からメナスを抱きしめた。


「ウィリアムさまが、貴女を作ったのなら…… その心は人間と同じ筈だわ…… それなら貴女は人間よ!」


「うん…… うん…… ありがと……」


 メナスは小さな声で答えた。 その瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


 ユリウスは驚いた。 これまでメナスが泣くのを、一度として見た事がなかったのだ。

そういう機能が付いているのかどうかすら、ユリウスは知らなかった。


「ねぇ、見てすごい夕焼けだよ」


 フィオナの言葉に皆が顔を上げる。


 いつの間にかすっかり陽が傾き、西の空をオレンジ色に染め上げていた。 綿を千切って空に蒔いたような羊雲がまるで燃えているかのような夕焼けだ。 


 四人はしばらくの間…… 言葉もなく刻々と変わる空の色を眺めていた。


 しばらくして突然、フィオナが叫んだ。


「決めたっ! わたし、ここでシンに処女をもらってもらう!」

「何言ってんだ? ……突然」


 ユリウスは()せ返りながらも、辛うじて声を絞り出した。


「この景色に包まれながら── 産まれた故郷の村を見下ろしてながら初めて(・・・)を捧げるの。 最高じゃない?」


「ルシオラも一緒にしようよ! 一緒にシンに処女をもらってもらおう! ねっ、そうしよう!」


「一緒にって……」


 ルシオラは顔を真っ赤にして戸惑っていた。


「それはいいけど…… ボクだけ仲間外れみたいで寂しいなー」


 メナスが冗談とも本気ともつかない調子でぼやいて見せる。


──────────


 その夜三人は、結局小屋の前にマットレスを敷いて一夜を明かした。

 若いフィオナのエネルギーに、ユリウスとルシオラが押し切られた形だ。 とりわけ、ずっと正体を偽っていた後ろめたさもあり、ユリウスは断る事が出来なかったのだ。


 満天の星空を見上げながら、ユリウスの横でフィオナが囁いた。


「ねぇ、シン起きてる……?」

「あぁ、起きてるよ」

「ルシオラは……?」

「疲れたんだろうな…… 眠ってるよ」


 ユリウスは首筋に付いた歯型をさすりながら、横目でルシオラの様子を伺った。


 ギルドの()美人受付嬢は、フィオナの反対側ですぅすぅと静かに寝息を立てて眠っていた。 緩くウェーブのかかった金髪が扇の様に美しく広がっている。 この清楚で知的で上品な女性が、まさかあの様な……


 その行為の時の彼女は、まるで獣のように荒々しかったのだ……


 彼女は貴族の家に生まれ、10歳から修道院で生活していた。 その後はシャウア捜索の為だけに人生を捧げてきたと言っても過言ではない。 こういう行為は、もう自分の人生には関係ないとさえ思っていた。 だが無意識に抑圧されていたその『熱』は、彼女自身が思っていた以上に膨れ上がっていたのかも知れない。


「シン…… 結局、この世界の姿ってどんなだったの? テーブルみたいな地面を象と亀が支えてたとか」


 その時のフィオナは、対照的にまるで子猫のようだった。


 昔話に出てくるようなフィオナの微笑ましい『世界像』だったが、それはあながち間違いではないのかも知れない。


「それは…… 答えたくないな…… 思い出すのも辛いんだ」

「そっか、ごめんね……」


 フィオナはそっとユリウスの手を握りしめた。


 それは嘘だった。

あの日以来7年間…… 意識が混濁していた失われた時間ですらも、一瞬たりとてそれが頭から離れた事は無かった。


 でなければ、咄嗟(とっさ)に何故あんな偽名を名乗ったのか。


 シン・イグレアム──


 それは、あの忌々しい…… 『奴』の名前に他ならないのだから。


──────────


 いつの間にか夜が明けていた。

東の空から日が昇り、眼下に広がる雄大な景色を黄金色に染め上げてゆく。


 三人はマットレスの上に座ったままその景色を眺めていた。 ふたりの女性は少し前に乗り出して集落の姿を遥か遠くまで見渡している。 ユリウスはその少し後ろで、そんなふたりの背中を眺めていた。


 しばらく経ってから、フィオナが思い出したかのように呟く。


「すごかったね〜」

「あぁ、そうだな」

「みんなが夢中になるの…… わかった気がする」

「……ん?」


「なんか…… 生まれた時からずっと欠けていた何かがやっと埋まった感じ…… みたいな?」

「何のコトを言ってるんだ、フィオナ?」

「ねっ、ルシオラも思うでしょ? ずっと探してたモノが手に入ったみたいな満たされた気持ち」

「そうね…… 私も正直、そういうコトに偏見があったと言わざるを得ないわね」


 フィオナの感想にルシオラは同調した。


「控え目に言って…… とっても素敵だった」

「うん、幸せすぎて…… 頭がおかしくなりそうだったもん」


 そう言ってふたりの女性はユリウスの方を振り返り、蠱惑的な笑みを浮かべて頷いた。


 ふたりの裸身が黄金色に輝き、その姿はまるで天使のようだ……


 たとえこの時間は一瞬でも、ユリウスは『永遠』を感じずにはいられなかった。


「それにしても、コレやばいよね〜 ちゃんと約束ごと(ルール)を決めとかないと…… 猿みたいに一日中したくなっちゃう予感がするし」

「そ、そうね…… 今は大事な時期ですものね」


 そう言いながらもルシオラは少し…… かなり残念そうだった。 


(……確かにな)


 ユリウスも思った。 それはユリウスにとっても信じられないような体験だった。 たったこれだけの事なのに、今は世界の真理などどうでもよくなっている。


「ねっ、マスター…… ボクの言った通りでしょう?」


 振り返ると白いエプロン姿のメナスが、バルコニーの玄関に立っていた。


「もっと外に出て色んな景色に触れて色んな美味しい物をいっぱい食べて、可愛い女の子といちゃいちゃしたら、そんな悩み一発で吹き飛んじゃうって」

「……メナス」


 ユリウスは、ちょっと困って自嘲的に微笑む事しか出来なかった。 そこにフィオナが、そしてルシオラがそっと寄り添ってきて手を握ってくれた。


 大切なかけがえのないふたりの女性たち。


「さっ いつまでも乳繰り合ってないで…… ボクが美味しいベイクドエッグとチーズトーストを焼いたから、珈琲を淹れてみんなで朝食にしよう!」


 そう言って小屋の中に戻ろうと振り返ったメナスは、なんと裸のお尻が剥き出しだった。


「おい、メナス! なんて格好してるんだっ⁈」


 するとメナスは首だけ振り返って答えた。


「知らないんですか、裸エプロン?」

「そういうコトを言ってるんじゃなくて── なんだ? 裸エプロンって」

「それはともかく…… すっぽんぽんの人たちの中にひとりだけ服を着てると、こっちの方が恥ずかしくなるんですよ?」

「そういうものなのか?」

「そういうものなんです」


 そう言うとメナスは、小さなお尻を可愛らしく振りながら小屋の中に消えて行った。


 その後メナスは、木のテーブルと椅子を持ってきてバルコニーの前で朝食の準備を整えた。 もちろん、フィオナとルシオラとユリウスも手伝う。


 裸の男女が四人で和やかに食卓を囲む姿は、微笑ましくもあり、少しだけシュールでもあった……


 もう無理…… それは作者の心の声でもありました。 力を隠したまま仲間を護りながら強大な敵と戦うとかマジ無理です…… もう堪忍してください……(汗)


 そしてまた、勝手に動き出す登場人物たちですよ…… まぁ、そう言う時は流れに身を任せるのが吉と、私の経験則が言っているのですが……

 どうですかね? 信用できそうですかね? 私の経験則?


 第二章も残すところ後数話…… それではまた、明日からもよろしくお願いたします。


─────次回予告─────


第76話 ~帰還〜

 乞う御期待!

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