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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
70/111

70 ~彷徨える獣〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者となった初クエストで、帝国からの要人、皇女ラウラを無事に帝国領へと送り届けたユリウスたち一行は、次なるクエストとして、フィオナの故郷であるシュテッペ村に向かう事にした。


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 その日の昼下がり、ユリウスたちパーティーは村の北側の丘陵地帯にいた。 草原の丘の上で村で仕入れた新鮮な食材の昼食を摂ると、ちょっとしたピクニック気分が味わえた。


 シャウアの働いているパン屋で買ったバケットに、シュテッペ村唯一の雑貨店で買ったバターを塗り干し肉とレタスを挟んだ。 そこにメナスがいつも持ち歩いている、岩塩と胡椒をほんのひとつまみ。 ミルクも搾りたての物をフィオナの知り合いの農家から分けてもらった。 デザートは商人のコーレに分けてもらったドライフルーツだ。 フィオナとメナスが前回夢中になったスウィーツだが、どうやらルシオラもいたく気に入ったようだった。


 すぐ北には高い岩山があり、丘の下にはシュテッペ村の家々の屋根や畑や放牧場がほぼ一望出来た。


「すごくいいところねぇ…… 空気も澄んでて眺めも良くってホント気持ちいいわぁ」


 ルシオラはすっかりこの雰囲気が気にいっているようだった。 実際に住むとなったらまた話は違ってくるかも知れないが。


「そう言えば、シンたちの山小屋ってどの辺にあるの? わたしもいっぺん行ってみたいな」

「あぁ、結構登りにくいところにあるんだ…… 簡単には行けないよ」

「そうなの? だってメナスちゃん、ちょいちょい村まで来てたみたいだけど」

「だから【SSS+】判定になれたんじゃないかなー?」

「そうだったのか〜」


 いつかはフィオナも連れて行こうと思っているが…… まぁ、すぐに招待する訳にはいかなかった。 なにせ常人には【転移門(ゲート)】の魔法を使わないと行けないような場所にあるのだから。


「そう言えば、まだ見ないね…… スズメバチ」


 フィオナが辺りをきょろきょろ見回しながら呟いた。 ここで食事をしているのはピクニックの為ではないのだ。 長老に聞いた、よくスズメバチが目撃された場所のひとつがこの辺りなのだった。


「そうねぇ…… もうこの辺りにはいないのかも知れないわねぇ」


(なぁ、メナス…… この辺りのハチの居場所、お前分かるか?)


 ユリウスはメナスに【念話(テレパシー)】で語りかけた。


(えっとぉ…… 小さいモノだから流石に難しいですねぇ…… 何匹かはいるみたいな気もしますが飛んでるところを見たコトは無いんで、ホンモノのハチかも知れないし)

(……そうか)


 その時だった。 丘の北側から一頭の大きな牛がのそりと姿を現した。 巨大な角のある大きい黒い牛だった。


「ねぇ、あれも放牧してる牛なの?」


 ルシオラがおそるおそるフィオナに尋ねた。


「ううん、知らない…… って言うかあんな種類の牛この辺で見たコトないよ」

「それじゃあ…… まさか」


 最近王国周辺を騒がせている異変── 一連の、本来の生息地を離れた魔獣の出没や凶暴化現象…… それは冒険者ギルドでは【彷徨える魔獣(ストレンジャー)】と呼称されるようになっていた。


 それはユリウスたちに気付くと、躊躇(ためら)う事なくこちらへ向かって来た。


 大きい…… 体高は2.5m以上ありそうだ。

一般的な牛の数値から類推すると体長5m、体重は軽く2tを越すかも知れない。


「あれ…… トライホーンじゃない?」


 ポツリとメナスが呟いた。 もしかしたら今までデータを検索していたのかも知れない。


「トライホーン? 【トライホーン・バイソン】⁈ 確かヴェルトラウム大陸にはいない、もっと南の島の魔獣の筈よっ!」


 知識としては知っているが実物を見るのは初めてなのか、ルシオラが半信半疑で叫んだ。


 その牛は二本の歪曲した巨大な角があり、中央の額の辺りには確かに一本の短い角があった。 それはユリウスたちの20mほど手前で立ち止まると激しく威嚇の唸りを声を上げる。


「気を付けて下さいっ! バイソンは草食ですが、テリトリーを侵す敵には非常に好戦的です!」


 四人はゆっくりと立ち上がると、いつでも武器を抜けるよう身構えた。 それが不味かったのかも知れない。 興奮したトライホーンが突然走り出し猛然とこちらへ向かって来たのだ。


 (サムライ)のフィオナが反射的に前に飛び出しユリウスは息を飲んだ。 もしあんな巨体に跳ね飛ばされたら、フィオナなどひとたまりもないだろう。 その時ルシオラがフィオナの背後から叫んだ。


「フィオナ! この間のでいくわよっ!」

「えっ あ、うんっ……!」


 分かってるんだか分かってないんだか何とも頼りない返事だった。 その間もトライホーンは猛然と距離を詰めてくる。 その距離約5m…… 3m……


「伏せてっ!」


 ルシオラが叫ぶと同時にフィオナは片手を地面に着いた。 その頭の上を、見えない空気の塊が通り抜ける。


「【神の拳(ゴット・ファウスト)】‼︎」


 それはフィオナの直前で巨大牛の顔面を打ち、ほんの少しだけ牛の頭をぐらつかせた。 しかし、それくらいで2tの巨体の突進が止まろう筈もない。 フィオナは身を屈めた姿勢のまま居合いで抜刀すると、そのまま右手に転がって牛を(かわ)す。 だが、フィオナの背後にいたルシオラは咄嗟に反応出来なかった。 突然目の前に巨大な牛が現れて固まってしまう。 その身体をユリウスが体当たりするように抱きしめて二人は草原を転がった。


 巨大な牛はそのままの勢いで走り抜けてゆく。 慌てて振り向いたユリウスが見たものは、しかし血を流して地面に転がる黒い巨体だった。


 実はフィオナの(カタナ)は、牛の左前脚を見事に切断していたのだ。 


 突進中に脚を一本失った巨牛は、そのスピードと自重によるダメージを全て自分で受けてしまった事になる。


 彼はそれでも何とか三本の脚で立ち上がろうと(もが)くが、それもままならない。 どうやら残った前脚も、どこかで骨が折れているようだった。 遠い異国の魔獣は悔しそうに(いなな)いた。


 フィオナは立ち上がると、横向に倒れている牛の背中側に立った。


「……ごめんね」


 それだけ言うと彼女は牛の背中に刀を垂直に立てて、そのまま心臓を貫く。 一度だけぶるっと全身を震わせて、やがて牛は動かなくなった。


 ルシオラが気が付くと、彼女はユリウスの腕の中で草原に倒れていた。 背中から抱きつかれて頭を両手で包まれている。 ふたりは慌てて離れるとお互いの顔を見合わせた。


 ルシオラは銀縁の眼鏡が落ちて素顔になっていた。 ゆるいウェーブのかかった金髪が乱れてその内の何本かが顔にかかっている。 間近であらためて見ても息を飲むような美人だった。


「あ、ありがとうございます……」

「どこか…… 怪我は?」

「いえ、お陰様で…… 大丈夫です」

「それなら良かった」


 ルシオラが眼鏡を拾って立ち上がると、ちょうどフィオナが戻ってきて片手を上げた。 ふたりは笑みを交わすと、そっと手の平と手の平を打ち合わせた。


「やっぱりこの牛も、例の異変の影響なんでしょうね……」

「おそらく間違いないでしょう、凶暴化してたかは分かりませんが」

「通常のバイソンでも侵入者を見つけたら同じコトをするでしょうしね」

「ていうか、フィオナの赤い鎧で興奮したんじゃないの?」


 メナスのジョークに、一同は笑っていいものか一瞬考えてしまった。


「それで、この死骸はどうしましょうか?」

「このままにするワケにもいかないから、後で村のみんなに解体してもらうよう頼んでみるよ」

「それは是非頼むよ」


 牛の死骸をずっと観察していたメナスが呟いた。


「取り敢えず、この立派な角だけでも持って帰ろうよ。 【トライホーン・バイソン】が出現してボクたちが倒した証拠になるし、結構値打ちもありそうだしね」


 とは言え今回は、メナスの力なしにフィオナとルシオラの連携だけでこの巨大な魔獣を倒していた。 フィオナの修行は着実に成果をあげているようだった。


「そうだな。 ギルドに報告しなくちゃいけないしな」


 おそらくメナスは牛の頭骨内から、それ(・・)がもしあるなら例のスズメバチ型の『自動人形(オートマータ)』を摘出するつもりなのだろう。


──────────


 その頃シュテッペ村の入り口付近、ユリウスたちが探索している場所のちょうど反対側では、子供たちがいつものように冒険者ごっこをして遊んでいた。


 そこに、ふらりと一人の少年が近付いて来る。 見た事のない少年だ。 村の子供ではない。 彼は子供たちのすぐ側まで歩いてくると気さくな様子で話しかけてきた。


「その剣いいね、ちょっと見せてくれなイ?」

「え…… おまえ、誰? どっから来たの?」

「僕はアダム。 遠くから来たんダ」


 顔立ちはとても整っているのだが、表情に乏しくどこか作り物のような笑顔だった。 身体にぴったりと張り付く黒い奇妙な衣服も、今まで見た事も聞いた事もない物だった。


 子供たちは何故だかこの余所者の少年に、言いようのない不気味さを感じ始めていた。


「そんなことより、その剣を見せてよ。 ちょっと気になる魔素(マナ)を纏ってるみたいだかラ」


 しかし子供たちは、何故だか既視感をも感じていた。 そうだ、この少年は誰かに似ている── 男の子という事と、異様な雰囲気に気付かなかったが、よく見るとメナスにそっくりじゃないか!


「おまえ、メナスの兄弟かなんか? 双子だったのアイツ……」


 それを聞いた少年が急に表情を変えた。 最初から作り笑いのようなぎこちない笑みだったが、今は能面のような薄い笑顔になっている。


「へぇー 誰だろう? そんなに似てるの? その子、どこにいるのかなァ?」


 周囲の気温が一気に下がったように錯覚する程の寒気を覚え、子供たちは震え上がった。


 ただ一刻も早く立ち去って欲しいというそれだけの理由で、黙って子供たちは北の岩山の方を指差した。


 いよいよその刻が訪れようとしています…… 自分で書いてるのに何だかドキドキしてしまいますね……(汗) 明日はもしかしたら2話投稿するかも知れません…… (話数調整と前後編のため)


 よろしくお願いたします。


─────次回予告─────


第71話 ~アダム襲来〜 前編

 乞う御期待!

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