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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
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69 ~母と娘〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者となった初クエストで、帝国からの要人、皇女ラウラを無事に帝国領へと送り届けたユリウスたち一行は、次なるクエストとして、フィオナの故郷であるシュテッペ村に向かう事にした。


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 一行は夜明け前には野営を切り上げて出発する事にした。

 森の中の長く曲がりくねった道を馬車が進んで行くと、ほどなく背後の空が明るくなり始める。 木々の隙間から光が差し込み朝露に濡れた緑の葉をキラキラと輝かせた。 森を抜ける頃には辺りはすっかり明るくなり、目の前に広がる草原の先にシュテッペ村の家々が見えてくる。


 コーレはこれから、村の唯一の商店と契約外の取引の交渉をしなければならない。 ユリウスたちは村の入り口で一旦馬車を降ろしてもらう事にした。


 ユリウスたちが今回の格別の配慮に感謝の意を伝えると、恰幅のいい商人は笑いながら言った。


「実はずっと心に引っかかっていたんですよ…… 家出の手助けをしてしまったみたいな形になったままでしたので」


 その罪悪感を埋めるために、今回彼は快く引き受けてくれたのかも知れない。


「懐かしいな〜って、言いたいところだけど、一ヶ月くらいじゃ何も変わってないわよね〜」


 村の様子を眺めながらフィオナが呟く。


「ここがシュテッペ村…… 初めて来たわ。 私の実家も大概田舎だけど、ここは全然雰囲気が違うわね」


 村の周辺にはジャガイモやキャベツやダイコンなどの高地野菜の畑が点在し、その奥には放牧されている牛や羊の姿も見える。

 王都暮らしの長いルシオラは色んなところを珍しそうに眺めていた。


 ユリウスたち一行は、まず村長の家にギルドから正式に依頼を受けた冒険者である旨を報告に訪れた。

 すっかり年老いて畑仕事をもう引退している村長は、派遣された冒険者がフィオナだと知ってたいそう驚いていた。 しかし、彼女の立派な鎧姿を見て安心しているようにも見えた。


「そうかそうか…… グウィンとこの娘が、本当に冒険者になったのか」


 村長はすっかり視力が落ちて人の顔も碌に見えなくなった目をさらに細め感慨深げに何度も頷いていた。


「だから言ったでしょ、わたし必ず冒険者になるって」

「それで、ご両親にはもう会ったのかい?」

「うぅん、まだ。 どうせみんな仕事してるかと思って」

「そうだろうな。 しかし母親は家にいるんじゃないのか?」

「うん、今から母さんだけでもあいさつしてくるよ」

「そうじゃ、それがいい」


 きっとフィオナの事を、生まれる前から知っているのだろう…… 老人は優しげに微笑んだ。


「それで、ご依頼の件なのですが…… 蜂の巣というのはどちらに?」


 ユリウスの質問に村長は言葉を濁した。


「それが…… 巣がどこにあるのかは分からんのですじゃ……」

「えぇ〜〜っ そこから探さなきゃならないの〜?」


「二週間前くらいじゃったかのぅ…… 近くであまり見かけない、大きいスズメバチを見るようになって…… それで家畜や子供が刺されたら危ないって言うんで、大人たちで巣を探したんじゃが見つからなくての……」

「それで冒険者ギルドに依頼を?」

「まぁそんなトコじゃ……」


 ユリウスは、メナスやルシオラの顔を見回した。


「そのハチは、今でも飛んでるんですか? 実際に被害は……?」


 ルシオラが尋ねた。


「一時期よりはだいぶ減ったが、まだ見るには見るな。 最初の頃は凄い数じゃったが。 被害の方は……」

「被害の方は?」

「人間は刺されてないが、牛が何頭か刺されてな。 死にはしなかったが毒のせいなのか暴れまわったんでな…… 結局みんな潰すことになっちまったみたいだ」

「あらら…… 可哀想に」


 ユリウスとメナスは目を見合わせた。


「それで、そのハチは…… どの辺りを飛んでるんですか?」


 長老は、村人たちがよく蜂を見かけたと言うポイントを何ヶ所か教えてくれた。 それは地元のフィオナには当然馴染みの場所ばかりだったので案内は必要はなかった。


──────────


 ユリウスたち一行は村長の家を後にして、すぐ近所のフィオナの家に向かっていた。

 フィオナの家は集落の中では大きめな一軒家だったが、なんと言っても彼女は九人兄弟なのだ…… 家族の人数を思えばこれでも手狭なくらいだろう。 


 みんな仕事に出ている時間帯なので、彼女の家には母親と一番下の子供たち二人しかいなかった。 


「母さん、帰ったよ〜」


 さっき出かけたみたいな気軽さでフィオナが声をかけると、庭で洗濯物を干していた中年の女性が手にした衣服を取り落とした。


「フィオナっ! フィオナなのっ⁈」


 女性は一目散に走ってきて、フィオナを(サムライ)の鎧の上から抱きしめた。


「ちょっとぉ〜 母さん…… 痛いって」


 そう言いながらもフィオナは、満更でもない顔をしている。 ユリウスたちは、しばらくその様子を見守っていた。


 若干明るい色の赤毛に翠色の瞳…… フィオナの母親は彼女をそのまま老けさせて少し太らせたような愛嬌のある女性だった。 それでいてどこか芯の強さを感じるところも、もしかしたらこの母親譲りなのかも知れない。 まだ幼児の二人の子供は、ちょうどお昼寝の時間だったようだ。


「わたし冒険者になったよ。 そんで、この村のクエストの依頼を受けてやって来たってワケ。 この人たちはパーティーの仲間。 あ、あとわたし、この人と結婚するから」

「何その雑な報告……」


 思わずメナスがツッコミを入れる。


「あはははははっ…… ほんとにこの()はもうっ……!」


 フィオナの母親は大きな声で豪快に笑ったが、その目の端に光るものがあるのをユリウスは見逃さなかった。


「あんた誰? やっぱり冒険者なのかい」


 彼女はユリウスに向かって尋ねた。


「はい…… シン・イグレアムと言います。 何とか冒険者をしています」

「で、この娘を貰ってくれるって? どこが気に入ったのさ、こんなの」

「いえ、お嬢さんはとても素晴らしい女性です。 彼女の明るさにいつも救われています」

「あははははっ! それじゃあまるで、褒めるトコがない時のお世辞みたいじゃないか」

「……いえ、決してそんな」


 フィオナの母親の豪快さには、流石のユリウスもタジタジだった。


「あれ、あんたメナスちゃんじゃない? あんたその格好…… ひょっとしてあんたも冒険者になったのかい? そう言やお兄さんの看病してたんじゃ……」

「そのお兄ちゃんが、こちらになります」


 メナスは無表情でユリウスを指差した。

 フィオナの母親は改めてユリウスの顔をまじまじと見つめた。


「へ〜え ほ〜お は〜ん、なるほどねぇ……」


 そこで彼女は、ルシオラが訝しげな表情で見つめているのに気が付いた。


「いえね、前からよく話してたんだよねぇ…… メナスちゃんの病気のお兄さんのコトは」

「……そうなんですか」

「どんな病気なんだろうとか、どんな身分の人なんだろうとか……」


 ユリウスが視線に耐え切れずふと横を見ると、何故かフィオナもそわそわしていた。


「で、この娘ったら言うのよね、メナスちゃんのお兄さんなんだから、きっと凄いハンサムに違いないって」

「ちょっと! 母さん、何言うのよっ!」


 突然フィオナが焦り出した。


「確かにちょっとハンサムだねぇ……」


 身を乗り出し自分の顎に手を当ててユリウスの顔をまじまじと見つめる。


「なるほどねぇ〜 あんたは憧れの王子さまを捕まえたってワケか……」


 フィオナが見た事もないくらい真っ赤に赤面し、それを見たユリウスも釣られて動揺してしまう。 


「はいこれ、初仕事の報酬。 いつもあげられるワケじゃないから期待しないでよ」


 そう言ってフィオナは母親に小さな革袋を手渡した。 それを受け取ってそっと中を見た母親は息を飲んだ。


「こんなに?」

「大したことないわよ、だからわたしの心配はもうしないでいいからね」


「またみんな揃ってる時に寄ってくれるんだろ?」

「ううん、今回は分かんない。 だから先に渡しとくの」


「そうかい? きっとお父ちゃんも会いたがるよ」

「そおいうのは、また今度でいいよ! 今日はあくまで蜂退治のクエストで来たんだから……」


 そう言うとフィオナは、母親から目線をそらして横を向いてしまった。


 母親は感慨深げに、そして少しだけ寂しそうに娘の横顔を見つめていた。


 別れ際に彼女は「くれぐれも娘をよろしく」と、ユリウスたちの手を一人ずつ握りしめた。



 フィオナの母親と別れて村長に聞いた『蜂』のいくつかある目撃地点を目指していると、村の少年たちが珍しい来客を認めて近寄って来た。 それはユリウスの目覚めのきっかけをくれた── あの少年たちだった。 年長の少年は、ユリウスのあげたあの木の剣をちゃんと手にしている。


「あれぇ〜 フィオ姉、帰ってきたのか〜? ていうか、その鎧どうしたんだ?」

「フィン!」

「メナスも帰ってきてる! なんで一緒に帰ってきたんだ?」


 どうやら一人はフィオナの弟だったらしい。


「フィン、わたし冒険者になったのよ! それで今回はこの村のクエストを解決しに来たってワケ!」


 フィオナがドヤ顔で胸を張って見せる。


「うっそだぁ〜〜っ」

「フィオ姉のくせにぃ〜〜?」

「本当ですよ。 ほら、これがギルドのクエスト受領証明書です」


 ルシオラが子供たちに羊皮紙の巻物を開いて見せた。 ルシオラのような大人の女性に言われては信じるしかなかった。


「ちょっと待って…… メナスのそのかっこ…… まさかお前も」


 メナスはみんなとお揃いの冒険者用のブーツに黒のスパッツと革のシャツ…… そして両腕には、ごつい鋼鉄製の籠手(ガントレット)を嵌めていた。


「冒険者ですが何か?」


 そう言うとメナスは、両の拳をガチャンと合わせて見せた。


「え? っていうコトはメナス…… 14歳以上ってコト? え? え?」


 少年が半信半疑な表情で目を白黒させている。


「14歳ですが何か?」


 メナスがもう一度ドヤ顔で胸を張る。


「えぇ〜〜〜っ 年下かと思ってたのに、14歳のババァだったのかよ〜〜〜‼︎」


 そうだ、この少年は…… 確かメナスに恋をしていたのだ。


 もしかしたら、百年の恋が冷める瞬間を目撃してしまったのかも知れない。


 少年たちがワイワイと騒がしく立ち去った後、メナスは呆然と立ち尽くしていた。


「どうした…… メナス?」


 心配したユリウスが声をかける。


「ひょっとしてボク…… (コク)ってもいないのに、振られたみたいになってません?」

「はははは…… そうみたいだな」


 いつもと変わらぬメナスの反応に、ユリウスは安心した。


 それに釣られて、フィオナとルシオラも明るい笑い声を上げた。


 すいません、また少し遅れてしまいました。 年末で何かと予定が狂いがち何ですが、気楽に待っていて頂けましたら幸いです……(汗)


─────次回予告─────


第70話 ~彷徨える獣〜

 乞う御期待!

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