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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
68/111

68 ~シュテッペ村再び〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者となった初クエストで、帝国からの要人、皇女ラウラを無事に帝国領へと送り届けたユリウスたち一行。 さらにユリウスは彼女の希望を叶え、奴隷姫と揶揄されていた籠の鳥の生活からも解放してやるのだった……


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 第2回、魅惑の女子会が開催されてから三日後の事。

 ユリウス、メナス、フィオナ、そしてルシオラの四人はギルド本部の受付ロビーでクエスト掲示板を眺めていた。


 前回の特殊任務で二、三ヶ月は遊んで暮らせるくらいの報酬を得たが、だからと言って本当に遊んでいるわけにはいかない。 帝国の動向は冒険者個人が心配する事ではないが、最近王国周辺を騒がしている異変も気になるし、何より彼らの冒険者としてのキャリアはまだ始まったばかりなのだ。 


 余談だが前回の任務の後、彼らのパーティーの『ランク』が【Cランク】に正式決定した。

 いかに【SSS+】と【A+】判定の冒険者がいると言っても全く実績のない新人パーティーなのだ。 ルシオラに言わせれば【Dランク】じゃないだけでもかなり異例な事らしかった。


 それを伝えられた時、チーフオフィサーのマルモアに『チーム名』はどうするのか? と尋ねられた。


 ユリウスは考えた事もなかったので少々面食らってしまった。 もっともチーム名は付けていないパーティーも多いという。 メンバーの入れ替わりが多かったりすると、すぐにオリジナルメンバーが一人も居なくなることなんてザラにある事だし…… 単に面倒で付けないパーティーもあるようだった。


 ユリウスたちのパーティーは、おそらく固定チームでいくだろうし、何より【SSS+】のメナスを擁するパーティーだ。 マルモアは期待の眼差しでチーム名のアイディアを尋ねたわけだ。


 取り敢えずみんなで相談してみます、とだけ言ってその場はお茶を濁したが…… さほどユリウスは乗り気ではなかった。


 しばらく掲示板を眺めていると、フィオナが不意に声を上げた。


「どうした、フィオナ?」

「これっ!【スズメバチの駆除…… シュテッペ村】だって!」


 シュテッペ村はフィオナの故郷の草原の村だ。 そしてユリウスが7年間、ただ眠りに就いていた山小屋(セーフハウス)がある岩山…… その麓に位置する村でもあった。


「ねぇ、よかったらこの『クエスト』受けてもいい?」

「やっぱり心配よねぇ」

「うん、それもあるけど…… わたし、家出同然で飛び出して来ちゃったから…… ちゃんと冒険者になれたよって安心させたいって言うか」

「そうだったな」

「あとは……」


 そこでフィオナが声のトーンを落とした。


「婚約の報告もしちゃおうかなって……」

「……⁈ そうか…… そうなるのか」


 全くの不意を突かれたユリウスだった。


「シンは…… いや?」

「いや、そんなコトはないよ。 ちゃんと挨拶しなきゃな」

「ありがと、シン」


 そう言ってフィオナは、ユリウスの手を握りしめた。


「はいはい…… ご馳走さま、ご馳走さま」


 ルシオラが茶化すのも、そろそろ恒例と化してきた。


「でも依頼の難易度の割に遠いわよね…… これは中々行きたがる冒険者もいないと思うわ」


 確かにそうだ。 馬車で丸一日以上かかるような田舎に、たかが蜂の巣駆除で行きたがる冒険者など、まずいないだろう。


「やっぱりそっかぁ〜」

「まず馬車をどうするかよね? 御者付きで借りるとそれなりの出費になりそうだし……」

「そう言えば馬車って買えるんだよねー いくらぐらいすんだろ?」

「それはピンキリよねぇ…… 安いのを買っても不便だし長持ちしないから、やっぱりそれなりのを買った方がいいと思うわ」


 こんな時、元冒険者で元ギルド職員だったルシオラがいると本当に助かった。


「そうだな、いずれ馬車の購入も視野に入れるとしてだ…… 今回はどうするかな?」


 その時一行の背後から声をかけてくる者があった。


「おや、もしかしてあなた方は……」


 ユリウスたちが振り返ると、そこには恰幅のいい人の良さそうな中年男性が立っていた。 


「コーレさん!」

「いやぁ、奇遇ですなぁ…… こんなところでお会いするなんて。 という事は皆さんなれたんですな、冒険者に」


 それは商人のコーレ・ディアマントだった。 コーレはユリウスたちが王都に向かう時にシュテッペから馬車に同乗させてくれた旅の商人なのだ。


「はい、まぁ何とか……」

「そうだ! ぜひ妻にも顔を見せてやって下さいませんか? いま外の馬車に待たせていますから」


 その時何を思ったか突然フィオナが叫んだ。


「コーレさん、お願いっ! シュテッペ村まで連れてって!」

「えっ? どういう事ですかな」


 人の良さそうな商人は目を白黒させた。


──────────


「なるほど、そういう事でしたか」


 ユリウスたち一行は冒険者ギルド本部の前に停めてある、コーレの馬車で話していた。 これまた人の良さそうなコーレの夫人は、フィオナとメナスとの再会を喜んでくれた。 向かい合わせの座席の片側にコーレ夫妻とメナス、もう片側にユリウスとフィオナとルシオラが座っていた。


 事情を聞いて、コーレは目を閉じて考え込んでいた。


「すみません、彼女が突然…… お仕事の予定もあるでしょうし……」

「いいでしょう!」

「……は?」

「今回は特別に行商のスタート地点をシュテッペ村にすればいいだけの事です」

「ほんとっ⁈ やったぁ〜っ‼︎ ありがとうございま〜す!」


 行商人のコーレは、普段はこの王都ミッテ・ツェントルムから南下して港町ハーフェンに向かい、そこから海岸沿いに西に向かって町や村落を巡り大陸西にある川を上流に向かいながら北上してシュテッペ村に辿り着くのだ。

 通常は3時からスタートする時計の針を、今回は特別に12時に巻き戻してから始めるイメージだろうか。


 フィオナは無邪気に喜んでいるが、行商には各地点への厳密な到着予定日がある筈だ。 それをずらすのは商人としての信用問題に関わるのではないのか?


「大丈夫です。 実は出発予定にはまだ時間があるのです。 2日もあれば往復できるわけですし」

「そうですか、それは大変ありがたい。 それで報酬はどのくらい用意すればよろしいでしょう?」

「なぁに、構いませんよそんなモノ!」

「いや、そういう訳にはいかないでしょう」


「今回は王都で仕入れた品物をシュテッペ村に卸せばいいだけの事ですから…… きっと喜ばれるんじゃないですかな」

「うん、きっとみんな喜ぶと思う!」


 フィオナはどこまでもポジティブだった。


「それに…… 往路は皆さんに護衛して頂けるんでしょう?」


 そう言って恰幅のいい商人は、片目をつぶって見せた。


「流石は商人ですね。 抜け目がない」


 決して広いとは言えない馬車の中が、温かい笑いに包まれた。


 結局少し急だが、コーレ氏の本来のスケジュールに間に合わせる為、その日の午後過ぎには王都を出発する事になった。 ルシオラがクエスト受領の手続きをしている間、ユリウスたちは旅の準備と買い物を済ませた。 昼にはルシオラと合流して、また数日留守にするのでその報告がてら、シャウアの勤めるパン屋に行って昼食にした。


 ルシオラはまた留守にしてシャウアが寂しがるのではと心配していたが、彼女はすっかりパン屋の仕事に夢中なようで全然平気そうだった。 もしかしたらルシオラが気を遣わないようにそう振る舞っているだけなのかも知れないが。


 そして予定通り昼を少し過ぎた頃、こちらも商品の仕入などすっかり準備を終えたコーレ夫妻に合流し、シュテッペ村に向け出発する事となった。


──────────


 王都を北門から出ると、ザントシュタイン山脈沿いの街道を真っ直ぐに北上していく。

 陽の暮れる頃には道は西に折れ、やがてシュテッペ村へと続く森が見えてきた。 前回と同じように、その森の手前の丘陵地帯で一行は野営をする事になった。 あれからまだ一ヶ月も経っていないのに、自分の身に起こった変化を思うと、奇妙な感慨深さを感じるユリウスであった。


 そう、ここはユリウスがフィオナと出会った場所なのだ。


 ユリウスたち四人は前回と同じように丘の傾斜の芝生に寝転び、満天の星空を眺めながら寝る事にした。


「ふぅん…… シンとフィオナはここでこうして出会ったのね。 何か凄くロマンチック…… 羨ましいわ」


 前回はここに居なかったルシオラが呟く。


「でしょお〜? こんなの好きになっちゃうよね〜 わたし一目見た時からシンのコト狙ってたもん♪」

「そんなのお兄ちゃんの前で言っちゃっていいの?」

「シンはそんなの気にしないよね〜?」

「うん…… まぁな」


 気恥ずかしいが、フィオナと付き合うならこれくらいは慣れなければならないだろう。


「私なんか、ギルドの受付窓口だもんねぇ……」

「それはそれで、ドラマチックだと思うけどねー」

「うん、きれいな金髪で肌なんか真っ白で眼鏡も似合ってて知的で美人で…… 正直わたし、少し焦ったもん」

「ふふふ、ありがとう」


「ねぇ、ルシオラ…… その…… これからどうやって賢者ユリウスって人を探すつもりなの?」

「……」


 ルシオラから返事はなかった。 それはそうだ。 相手は自分の意思で身を隠している強大な力を持った大魔導師なのだ。 探しようなど全く思いつかなかった。 いっそ魔術師呪文の【念話(テレパシー)】を覚えて、昼夜を問わず呼びかけ続けるくらいしかないのではないかと本気で考え始めていたくらいだ。


 フィオナは何か言いたそうで、けれど何も言わなかった。 それは当のルシオラはもちろん、ユリウスにさえ伝わってきた。


 満天の星空に見守られながら、いつしか四人は静かな眠りに落ちていった。


 実は今回からのエピソードが、本来予定していた第二章のスタートと言えるかも知れません…… 第一章のラストで少しカタルシスが欲しいかな、と思って『賢者の石』の力を大盤振る舞いで使ったら、案の定物語の世界に歪みが生じてしまいまして…… その修復(?)のために紡ぎ出されたのが『赤銅色の奴隷姫』のエピソードだったのです……(汗) 個人的には、これで良かったと思っているのですが…… 皆さんは気に入って頂けたかとても心配です…… ご意見ご感想などお聞かせ頂けましたら嬉しいです。 それではこれからもよろしくお願いたします。


─────次回予告─────


第69話 ~母と娘〜

 乞う御期待!

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