54 ~作戦会議〜
──────前回までのあらすじ─────
晴れて冒険者試験に合格して一週間。 帝国の不穏な動きが王国に影を落とす中、そんな事は露ほども知らないユリウスたちは、次のクエストに向け冒険の準備を進めていた。
そして今日ついに初クエストの受けるためギルドを訪れた一行は、何故かギルドの応接室に呼び出されて……
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※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
ギルド本部の応接室に、重苦しい空気が立ち込めていた。
沈黙を破ったのは、ユリウスだった。
「聞けば聞くほど危険な任務のように思えるのですが── 何故もっと王国が動かないのでしょうか?」
「その方は…… 沢山の王国兵を巻き込んだ事に酷く心を痛められている」
「いやいやいや、それよりも国家の危機でしょー」
メナスがナチュラルに突っ込みを入れた。
「あなた方は、帝国側が開戦の意図を持って襲撃者を送り込んだと考えているんですね?」
「…………」
「隠し事があっては、こちらだって命を賭ける訳にはいきませんよ……」
そこで兵士長ヴェルデは、長く大きく息を吐き出した。
「そうだな…… 少なくとも俺はそう思ってる」
彼の口調が畏まった公人の物から私人のそれに変わった。
「それではこれが最大の疑問なのですが…… 何故それ程の危険を犯して、その方は王都へ訪ねて来たのですか? まさかそのために帝国に無理矢理送り込まれた──」
「いや、自ら強く望んだ事だと聞いている。 俺自身直接会って嘘は言っていないと感じた。 それどころか、命を賭した使命感すら感じさせる物が彼女にはあった」
「一体何のために?」
「それは…… 本当に分からない。 俺のような一介の兵士には知らされない何か重大な事を伝えるためにやって来たんだと思う……」
ユリウスとメナスは目を合わせた。
どちらからともなく【念話】の呪文で会話を始める。
(どう思う…… メナス?)
(胡散臭いですねー これ絶対、まだ二つも三つも裏がありますよ、きっと)
(最近の『異変』とは関係ありそうか?)
(ちょっと分かりませんね。 あれは組織と言うより個人の仕業って感じもしますが)
『異変』と言うのは、魔獣たちの本来の生息地域を無視した活発化凶暴化現象の事である。
それにはどうやら超小型の【自立思考型自動人形】が絡んでいると、メナスの解析で判明している。
(危険だが、いずれにせよ放置出来ない案件ではあるな……)
(ですかねー)
王国と帝国が戦争になれば冒険者どころではない…… ユリウスはともかく、フィオナやルシオラやシャウアたちの平和が脅かされる訳にはいかない。 今となっては、それらはユリウスに取って自分の命と同じくらい大切な物になっていた。
(こうして人と関わるコトが…… 結局世界と関わるってコトなのか)
(え? 何ですか?)
(いや、何でもない)
「それで…… もし引き受けたとして、出発はいつ頃なんですか?」
ずっと俯いて机を見下ろしていた兵士長が驚いたように顔を上げた。
「まだ決まってはいないが、数日のうちになると思う……」
「そうですか。 ここまで聞いてしまったからには何とかしたいと思うんだけど、みんなはどう思う? フィオナ? ルシオラさん?」
フィオナとルシオラも顔を上げた。
「わたしはいいよ。 それって結構報酬高そうだし」
そう言いながら彼女は屈強な中年男を横目で見る。
「多分、満足してもらえる報酬が払えると思う」
「やった♪」
フィオナは胸の前で両手を打ち合わせた。
「ルシオラさんは?」
ルシオラはしばらく言葉が出なかった。
彼女には冒険者ギルドの立場もよく分かっているし、もう少し詳しい事情も理解していた。 その上で、シンやフィオナたちを危険に巻き込みたくない思いで葛藤があるのだった。
「私は…… みなさんの決定に従います」
「そうですか。 あの…… 兵士長、それは今ここで返答しなければいけませんか?」
「出来ればそうしてくれると嬉しい。 実は断られた場合、君たちにはその方が出発するまでギルド本部に軟禁させてもらう事になっている」
「え〜〜っ そんなの先に言ってよね〜っ」
「もちろん食事と、少ないですがお手当てもお支払いしますよ」
マルモアが申し訳なさそうに付け足した。
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その数時間後…… ユリウスたち一行は王城の高い城壁の内側にいた。
危険な任務なのは承知の上で、放置出来ない案件だとユリウスは判断したのだ。 もちろんフィオナとルシオラの事は、何としてでも守り抜くつもりだった。
シャウアには、ルシオラが顔見知りのギルド職員を捕まえて「商人の護衛の依頼で数日帰れないが心配はしなくてよい」と伝言を頼んでもらった。 お金は充分あるし、パン屋の仕事も始まる筈なので心配はないだろう。
「すごいね〜 まさかわたしがお城に入れる日が来るとは思わなかったよ〜」
フィオナが周りきょろきょろ見回しながらユリウスの腕を掴む。 無理もない── 辺境の農夫の娘が王城内に入る事など、普通ならあり得ない事なのだから。 貴族出身でいつも冷静なルシオラでさえ、心なしか緊張しているようだった。
一行は兵士長のヴェルデ・トレラントと王城の衛兵二人に先導されて城壁と王城の間の中庭にある大きな兵舎へと案内された。
兵士長のヴェルデはプルプレウス辺境伯の配下なので、ここでは彼もお客さん扱いだった。 そして流石のユリウスも、こんな所に入るのは初めてだった。 扉を潜るなり一斉に兵士たちの視線が集まる。 事情を知っている者も、知らない者も── 場違いな一行の姿に怪訝な表情で観察していた。
兵士の案内で一行が二階に上がると、大きな作戦会議室に通された。 そこには既に今回の作戦に参加する兵士たちと、冒険者たちが集まっていた。
「よぉ、あんたたちが例のアレかい?【SSS+】の新人ってヤツかい?」
大柄な女性が親しげな様子で近付いてきた。 白銀に輝く見事な板金鎧を纏った赤毛の女性で、白銀に輝くフルヘルムを小脇に抱えていた。 どうやら兵士たちの鎧とは造りからして別物のようだった。
「はぁ…… 一応」
「まて! 喋るな! オレが当ててやる」
女性は鋭い視線をユリウスたち四人に順番に向けていく。
「お前だな!【SSS+】!」
そう言うと彼女は、フィオナを指差した。
「ううん、嬉しいけどわたしは【A+】」
「【A+】か! それも凄いな! それじゃあ──」
「はーい ボクでーす」
そろそろこのやり取りが面倒臭くなったのか、メナスがさっさと自白した。
「……っ⁈ マジか⁈ オレをからかってるのなら許さんぞ!」
「いえ、本当に彼女が【SSS+】判定の出た新人です。 私がその時の担当職員でしたから」
何故かルシオラが申し訳なさそうに説明した。 それとなく会話を聞いていたらしい周囲の兵たちからも、さざ波のようにどよめきが起こる。
「参ったなー こんなのがギルド始まって以来の【SSS+】判定かー オレの目も節穴だったとはな……」
「あの〜 すみませんが、あなたは?」
おそるおそるフィオナが尋ねた。
「あぁ、言ってなかったか? 悪い悪い…… 最近オレたちを知らないヤツに会うコトもめっきりなくなったからなぁ」
「あの、こちらの方は──」
ルシオラが口を開きかけたその時だった。
「おい、グローリエ! また同業者にケンカを売ってるんじゃないだろうな⁈」
背後から、目も覚めるような紫色の板金鎧を身に包んだ女性が声をかけてきた。
「まさか…… こんな時に、そこまでバカじゃねぇよ!」
「ルシオラさん、お久しぶりです。 また冒険者に戻られたんですね」
紫の鎧の女性は、見事な金髪を揺らしながら軽く一礼した。
「お久しぶりです、プルプラさん。 みなさん紹介します。 この方たちが【エンジェル・ファング】のみなさんです」
「あ〜〜っ 知ってる〜〜っ 【タイラント・アリゲーター】のっ‼︎」
フィオナの叫び声に、大勢の兵たちが何事かと振り向く。
「私が【エンジェル・ファング】のリーダー、プルプラ・プルプレウスだ。 そして、こっちが──」
「えっ? プルプレウスって確か……」
「そうなんです。 プルプラさんは、プルプレウス辺境伯の御令嬢でありながら【A+】ランクの冒険者でもあるんですよ」
「伯爵令嬢⁈ わたし失礼なこと言っちゃったかな〜」
「いいっていいって! どうせ今は冒険者なんだから!」
グローリエと呼ばれた女性が豪快に笑った。
「彼女は、グローリエ・クラフト。 ウチのパーティーの頼れる壁役です」
「ははははは…… 痛いコトはみ〜んなオレに押し付けやがって!」
「ウチにはもう二人いるんですが……」
「会議とかには出たくないみたいでな〜 困ったもんだよ」
「気持ちは分かります」
ユリウスたちも一通り自己紹介をして、その場は別れる事となった。
ほどなくすると、室内のざわめきが潮が引くように一瞬にして止んだ。 大扉が開き数人の文官と兵士たちが入室してくる。 どうやら会議が始まるようだった。
ようやく本編が始動(?)します。 『赤銅色の奴隷姫』と合流しつつ冒険者初クエストの始まりです! これ前回も書きましたね……(汗)
それはそれとして、またイラストレーターさんに第二章のイメージイラストを描いて頂きました。 挿絵として掲載するかは検討中ですが、気になるという方は私のTwitterを覗きに来て頂けましたら幸いです。
─────次回予告─────
第55話 ~前夜~
乞う御期待!




