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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
53/111

53 ~初クエストの依頼〜

 晴れて冒険者試験に合格して一週間と少し。 帝国の不穏な動きが王国に影を落とす中、そんな事は露ほども知らないユリウスたちは、次のクエストに向け冒険の準備を進めていた。


 ユリウスが盗賊の師範に合格の報告に行く間、四人の乙女たちは魅惑の女子会を開催し、そして今日ついに初クエストの受けるためギルドを訪れるのだった……



 魅惑の女子会が開催されてから二日後。

ユリウス、メナス、フィオナの三人はギルド本部の受付ロビーでクエスト掲示板を眺めていた。


 今日は晴れて冒険者になり初の仕事(クエスト)を受注するためにギルド本部を訪れたのだ。


 一緒に来たルシオラは、ロビーに入るなり顔馴染みのギルド職員に捕まって事務所に連れ出されてしまった。 何でも急な用件があるらしい。


 せっかく元ギルド職員のルシオラの意見を参考にしようと思っていた矢先、仕方なく勝手も分からないまま、ぼ〜っと掲示板を眺め始めてかれこれ十数分が過ぎていた。


 ここへ来る途中、実は防具屋のドワーフの所へも寄っていた。 あまり期待していなかったのだが、フィオナの新しい鎧『赤備え板金甲冑』の胸当ては見事に仕上がっていた。 店主のブライ・ベルンシュタインは、二日間まるで寝ていないかのような(やつ)れようだった。 実際寝ていないのかも知れない。


 (サムライ)の鎧の胸当ては、フィオナのふくよかな胸の膨らみに合わせて見事な流線形に打ち直されていた。 ただし、身体をひねる時邪魔にならないように乳房と腹部で二枚のプレートに分割されていて、少しだけ防御力は落ちるらしい。 もっとも、当のフィオナは着心地的にもデザイン的にも大満足のようだった。


 街中でフルアーマー装備は中々に目立つ格好なので、フィオナはとりあえず革の服の上から胸当てと籠手と膝当てだけを装備していた。

 それでも中々サマになっている。


 ユリウスはと言うと、あれから特に収入もないので前回と同じ革の上下やグローブを購入ししただけだ。 礼を言って店を去ろうとすると、ブライはさっさと閉店の準備を始めてしまった。 どうやら本当に眠っていないようだった。


 掲示板を眺めていて気が付いたのは【クエスト】には冒険者ギルドの指定した推奨ランクが設定されていて、そのランクに満たない冒険者パーティーは基本その仕事を受注出来ないようになっているらしい。 当然と言えば当然だ。 しかし、ユリウスたちは自分のパーティーが何クラスなのかまだ知らなかった。


 だから仕方なく、こうしてぼ〜っと掲示板を眺めているのだった。


「一番低いのは【Dランク】だからやっぱりその辺から始めないといけないのかなぁ〜」


 フィオナが素朴な疑問を口にする。


「まぁそうかも知れないけど…… メナスは【SSS+】判定だし、フィオナも【A+】確かルシオラさんは【A-】だろ? いくら何でも【Dランク】パーティーってコトはないんじゃないか」


 自分が【D-】判定なのは敢えて口にはしない。


「そっかぁ〜 そうだよね〜 それにしても多くない? このスズメバチの駆除ってヤツ。 ひいふうみい…… 六つくらいあるよ」


「あー あるねー」


 メナスが棒読みで相槌を打つ。 もちろん気付いてはいたが、敢えて触れないようにしていたのだ。


(なぁ、メナス…… これってやっぱり)


 ユリウスがたまらず【念話(テレパシー)】で語りかける。


(たぶん間違いないでしょうねー あの超小型【自律思考型自動人形インテリジェンス・オートマータ】でしょう)

(これは放置したら不味いんじゃないか? こんな広範囲に拡散しているなんて)


(でもボクたちだけじゃ、どうしようもない気もしますよねー こんだけ多いと)

(やっぱりあのサンプル…… ギルドに提出して説明した方がいいんじゃないか?)

(でも気付いてて今まで黙ってたのを怪しまれませんかねー ボクがワニの屍体に興味を持ったのも覚えてるだろうし)

(それなんだよなぁ……)


 ユリウスとメナスは、スズメバチ型の超小型【自律思考型自動人形】が【タイラント・アリゲーター】や【ジャイアント・グラストード】の脳に取り憑き、その行動をある程度操っている事を突き止めていた。 しかし、そんな専門的且つ突拍子のない話をいきなり新人冒険者がギルドに説明しても、逆にこちらが怪しまれかねない。


(これはもう少し様子を見るしかないですかねー)

(お前…… そんな他人事みたいに)


 その時、ようやくルシオラが階段から降りて来て三人を呼んだ。


「お待たせしてすみません、皆さんも三階に来て頂けませんか?」


 何が起こっているのか見当もつかず、三人は顔を見合わせる。 一行はルシオラに連れられて三階の応接室に通された。 冒険者適性検査を受けた後に特別に通されたあの応接室だった。


 応接室には、チーフ・オフィサーのマルモア・エルフェンバインと、屈強そうな中年の男性が座っていた。 ユリウスたちは初めて見る顔だ。


「ようこそいらっしゃいました、皆さん」


 マルモアが立ち上がって歓迎してくれた。 まだ一度もクエストを受けた事もない新人パーティーに対するチーフ・オフィサーの対応ではない。 それ程までに彼は【SSS+】判定の新人冒険者に期待しているという事なのだろう。

 マルモアにつられて立ち上がった男性が怪訝(けげん)な表情を浮かべたのをユリウスは見逃さなかった。


「本当に彼らが……?」

「はい、彼らです」


 本人たちを目の前に思わずとってしまった確認に、マルモアが苦笑いで返した。


「失礼しました。 私はプルプレウス辺境伯配下の王国兵士で兵士長を任されております、ヴェルデ・トレラントという者です」


 ユリウスたちも相手に合わせてお辞儀をした。


「まぁ取り敢えず、みなさん席に座りましょうか」


 マルモアの声に一同は革張りのソファーに腰を下ろした。 ギルド職員時代のクセが抜けないのか、ルシオラは全員分の珈琲を淹れに席を立った。


 最初に口を開いたのはマルモアだった。


「実はみなさんに、是非お受けして欲しい『依頼』があるのです」

「それってつまり【クエスト】ってコトですか?」


 フィオナが食い気味に身を乗り出す。 どうやら場の空気を読めていないようだが、それは彼女の長所でもあった。 まだ一度もクエストを受けていない新人冒険者に、ギルドから指名が入るのは異例中の異例だろう…… ユリウスは、この話には何か裏があるのだと身構えた。

 

「ここからは、私が……」


 屈強な中年男性がマルモアに声をかける。


「今から話す事は…… 他言無用で願いたい」

(……ほらきた)


 ユリウスは心の中で舌打ちをした。 どういう話にしろ、初仕事で面倒事に巻き込まれるのは何だか幸先が悪いような気がする。


「実は現在、この王都ミッテ・ツェントルムに…… アウレウス帝国の貴人が非公式で滞在なさっている」

「へぇ〜 何かすごい大きな依頼みたい〜」


 事の重要性が理解出来ていないフィオナは、無邪気に喜んでいるようだった。


「非公式とは言え、貴人には変わりない…… もし彼女が── いや、もしその身に何かあれば、帝国との戦争が始まる可能性すらあるのだ」


 そこで男は一呼吸ついた。


「実は現に…… 王都へ向かう際にも我らプルプレウス辺境伯配下の王国兵士が大型馬車一台で護衛に就いたのだが、何者かの襲撃を受けてしまったのだ」


 彼は口にしなかったが、その護衛していた王国兵士の生き残りが皇女の馬車に乗っていた彼自身だったのだ。 流石のフィオナも戦争と聞いて、少し戸惑っているようだった。


 そこにルシオラが珈琲の載ったトレイを持って帰ってくる。 彼女はもう、話のあらましを聞いているのだろう。


「君たちには是非…… この方の乗る馬車を護衛して、無事に国境付近にある我が国の砦まで送り届けて欲しい」

「えぇ〜〜〜っ そんな重要な任務、なんでわたしたちみたいな新人に〜⁈」


 フィオナの叫びはもっともだ。 副兵士長は、珈琲を一口啜ると深く静かに息を吐いた。


「それにはいくつかの理由がある…… まず第一に、その方はお忍びで訪問なさっているので騎士団や大勢の王国兵で護衛する事が難しい」


「何故なら大規模な兵力が国境に向けて移動していると国民に要らぬ不安を与え、または帝国に進軍する意図があると誤解させる懸念がある」


「第二に、君たちに頼みたいのはその貴人の馬車そのものの護衛ではない。 その前後に出発させる目眩(めくらま)しの馬車を護衛して欲しいのだ」


「それってつまり(おとり)って事ですよね? やはり安全とは言えない任務なんですね?」

「それは否定しない…… しかし君たちには商人の馬車を護衛する形でのんびりと目的地に向かって欲しいと思っている」


「第三に…… これは蛇足かも知れないが、その貴人が女性なので女性主体の冒険者チームの方が良いのではと言う考えもあった」


 そこでマルモアが補足を入れた。


「現に本命の馬車の護衛は【エンジェル・ファング】という女性冒険者のパーティーに依頼しております」

「あ〜〜っ それ聞いたことある〜! 確かわたしたちが出会った【タイラント・アリゲーター】を退治してくれたパーティーだよね〜っ!」

「その通りです」


 ユリウスは腕を組んで考え込んだ。 この件にはもっと注意しなければならない何かが隠されているように思えたのだ。 兵士長の男は言わなかったが、メナスが【SSS+】判定の冒険者というのも大きな理由の一つだろう。 という事は、これは必ずしも安全な囮役ではないとギルドが考えている証左でもある。


「その襲撃者たちは何者だったんですか……?」


 突然の質問に兵士長は言葉を詰まらせた。


「分からない…… 全員が見慣れない黒装束に身を包んでいた」

「それは…… 山賊の類だと思いますか?」

「いや…… 恐らくは違うだろう…… もっと特殊な訓練を受けた…… 統率された……」


 ユリウスは確信を突いた。


「それで、王国兵士側の被害は?」


 兵士長の顔が見る見るうちに青ざめていく。 呻くようにようやく声を絞り出した。


「わ、私…… 私以外は…… 全滅した……」


 ユリウスたちは…… メナスとフィオナとルシオラは、当惑を隠せないままにお互いの顔を見合わせた。


 ようやく本編が始動(?)します。 『赤銅色の奴隷姫』と合流しつつ冒険者初クエストの始まりです! え~~ 帝国編とか面倒くさい~~ とか思ってる貴方…… 大丈夫です、私も思ってますから(汗)


─────次回予告─────


第54話 ~作戦会議~

 乞う御期待!

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