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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『赤銅色の奴隷姫』
50/111

50  ~赤備え板金甲冑〜

──────前回までのあらすじ─────


 晴れて冒険者試験に合格して一週間。 帝国の不穏な動きが王国に影を落とす中、そんな事は露ほども知らないユリウスたちは、次のクエストに向け冒険の準備を進めていた。


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 ユリウスたちがそれぞれの用事を済ませてから初めて一堂に会したのは、冒険者になったあの日から約一週間後の事だった。


 ユリウスが一人で泊まる部屋に朝方メナスが迎えに来て廊下に出てみると、既にそこにはルシオラとシャウアも待っていた。


「おはよう。 えぇと、これは…… どういうアレなんだ?」

「あっ…… おはようございます、シンさん」


 シャウアが慌てたようにお辞儀をする。 修道院暮らしから冒険者になってすぐ例の事故にあった彼女は、男性にあまり免疫がないのかも知れない。 その横のルシオラも表情は訝しげだ。


「おはようございます。 さあ? 私たちもメナスちゃんに呼ばれて何のことやら」

「まあまあ、少し待っててよ。 いいもの見せてあげるから」


 ──と、これはメナスだ。 その時ドアが少しだけ開いてフィオナが顔を出した。


「ごめん、一人じゃムリみたい…… やっぱメナスちゃん、手伝って?」

「しょーがないなー」


 それから待つ事数分、再びドアが開きメナスが顔を出した。


「それじゃあいくよー 拍手拍手ぅー」

「やめてよ恥ずかしいじゃない……」


 そこでメナスがドアを大きく開いて廊下に出る。 そこには見事な赤い甲冑を全身に纏ったフィオナの姿があった。 黒い革に赤い金属板が重ね合わせられ、美しい組紐で編み込まれている。 それが籠手も、脛当ても、兜までも揃っていた。 腰には彼女の愛刀『ヒマワリ丸』も差してある。


 どこからどう見ても立派な鎧武者の姿だ。

フィオナは得意げに胸を張って、ふんすと鼻息をたてる。


「わぁ〜 すご〜い!」


 真っ先に歓声を上げたのは、意外にもシャウアもだった。


「馬子にも衣装だよねー」


 これはメナスだ。


「なにそれどういう意味?」

「まー、いいからいいから」


「へぇ、これは見事な甲冑だなぁ…… 美術品としての価値も相当ありそうだぞ。 どうしたんだこれ?」

「えへへ〜 あのね、この刀と一緒。 お師匠さんに貰っちゃったの♪」


「お師匠って、ダン・アウゲンブリックさんですよね? あの方に貰ったって事は…… 本物の(サムライ)の甲冑ってコトじゃないですか⁈」

「うん、東方の国の本物の侍の甲冑だって言ってたよ」


(おいおい…… そんなモン、買ったらいくらするか見当もつかないぞ)

「よっぽど気に入られたんですね、フィオナさんは」

「そうなのかな〜 わたしも受け取れないって言ったんだけど、どうせもう着ないからって」


 ユリウスはそっと【鑑定(アプレイザル)】の呪文を唱えてみた。


 対象の品物の簡単な名前や素材、もしかかっていれば魔法の効果なども表示される低レベルながら便利な呪文だ。 ただし付与されている魔法の効果は【鑑定】を唱えた術者の魔力を下回る物しか表示されないので、意外なお宝を見逃す事もままありイマイチ信用されていない呪文でもある。


 もっともそれは、ユリウスには関係ない心配だったが。


【赤(ぞな)え板金甲冑】

【素材・玉鋼(タマハガネ)、牛革、他】

付与効果

【防御力強化】

【硬化】

【軽量化】

【魔法耐性】

【腐蝕耐性】

【炎耐性】

【雷耐性】

【精神耐性】

【呪殺耐性】

【防音効果】

【防水効果】

【防汚効果】


(おいおいおいおい…… とんでもないぞコレは…… どんだけ気に入られたんだ、こいつは?)


 それとも、ダン自身がこの鎧の真価を知らないという可能性もあるのだろうか?


「それで胸当てだけは合わないから、防具屋のブライさんに直してもらえって言われてさ〜」


 確かに…… 胸当てだけはフィオナの豊かなバストにフィットせず、紐で何とか固定してある状態だった。


「これから防具屋さんに行こうと思うんだけど、みんなも一緒に行かない?」

「そうだな、みんな溶かされちまったしな」

「ボクは溶かされてないし何も要らないけどねー」

「私は、僧侶(プリースト)の衣装だけなんで予備もありますけど……」


「いいじゃんいいじゃん、みんなで行こうよ! そしてみんなでお昼食べようよ!」


 勇ましい鎧武者の出で立ちで駄々をこねるフィオナの姿が何とも微笑ましく、みんなが笑顔になった。


「そうね、シャウアも一緒に行きましょうか」

「うん、私も行きたい!」

「じゃあ決定ね〜♪」


 出かけるために各々の部屋に一旦戻る事になったが、結局またみんなでフィオナの着替えを扉の前で待つ事となった。


──────────


 大きな葛籠(つづら)を担いでドワーフの防具屋を訪れると、今度は店主のブライが仰天する番だった。 ユリウスたちがした一通りのリアクションを繰り返して、ようやく胸当ての直しの話にたどり着く。


「なるほど確かに、こりゃあ直さんといかんな…… しかし──」


 そのまま初老のドワーフは考え込んでしまった。 それはそうだろう…… 相手は製法も加工法も謎とされる、東方の島国の希少素材【玉鋼(タマハガネ)】だ。 刀鍛冶ならいざ知らず、防具屋の彼には手に余る代物だ。


「けっこう時間かかりそうな感じ? 費用とかもだいぶかかっちゃいそう?」


 そんな事をつゆとも知らないフィオナが無邪気に尋ねる。


「時間はどれくらいあるんじゃ?」

「そりゃ早いほど良いけど、出来れば普通料金でお願いね」


 ドワーフは再び静かに考え込む。


「分かった、二日くれ。 それで何とかしてみよう」

「よかった、ありがと〜!」


 予想よりもずっと早い仕上がり予定でユリウスは驚いた。 もしかしたら、このドワーフの職人魂に火を点けてしまったのかも知れない。


「それにしても── お前さん方が噂の【SSS+】判定の冒険志願者だったとはのぅ」

「あー こないだの試合、応援してくれてたよねー」

「おう、お前さんが対戦相手と聞いてビックリして賭け直したんだが…… 惜しいトコでダメじゃったのぅ」

「それは悪いコトしたねー」

「いいんじゃいいんじゃ、どうせ余りの金で遊んでるだけなんじゃから。 あの程度の小銭なら充分元が取れるくらい楽しませてもらったよ!」


 そう言いながらドワーフは樽のような身体を揺らして豪快に笑った。


「それで…… 鎧の直しの代金なんだけど」


 フィオナが、おそるおそる尋ねた。


「うむ、今回はロハ(ただ)でいいぞ!」

「うそっ…… 何で⁈ 何か企んでるのっ⁈」

「はっはっはっはっ…… 実はな、あの試合で『あの籠手はワシが造ったんじゃ』と叫んでたらな…… あれから大勢、客が押し寄せて来たんじゃよ!」

「へぇ〜っ すごいね〜〜っ!」

「お陰でボロ儲けじゃ!」


 初老のドワーフは、ヒゲだらけの顔でウィンクをして見せた。


 確かフィオナの幸運値は『12』だった筈だが── どう考えても幸運値『29』の、ユリウス以上の値でないと割に合わない気がしないでもない。 それとも、たまたま星の巡りが良い時期なのか……


 一行がブライの店を後にした直後の事。


「ねぇ、そろそろお腹空かない?」


言い出したのは、やはりフィオナだった。


「だったら、パン屋さんに行かない? 小さいけどとっても美味しいお店を見つけたの」


 シャウアが満面の笑みで答える。


「実はね、シャウアはそこで働くコトに決まったのよ」

「あ〜っ お姉ちゃん、私が驚かせようと思ってたのに〜っ‼︎」

「ごめんごめん、そうだったのね……」

「え〜〜っ よかったねぇ〜 わたしも行ってみた〜い!」


 結局五人はあの小さなパン屋に繰り出して、店の前のテーブルと椅子で焼きたてのパンと紅茶の昼食を愉しんだ。


 人の良さそうな店主とその妻は、一気にお得意様が増えたと歓迎してくれた。 この様子なら、シャウアはもう安心だろう。 ルシオラの楽しげな笑顔は、今までユリウスたちの前では見せた事のない心からの笑顔だった。


 彼女を蘇らせる事で、この世の(ことわり)を曲げてしまったのではないかと内心危惧していたが…… ユリウスは自分の行いが間違っていなかったと改めて確信した。


「ねぇ、これからみんなどうするの?」


 鎧の直しも無事頼んだしお腹もいっぱいだしで満足げなフィオナが言った。


「そうだ…… オレはちょっと、ギルド本部へ寄ってみるよ」

「へぇ〜 どうして?」

「実はあれから盗賊(シーフ)の師範に会ってなかったからな。 挨拶しておこうと思って」

「シンさんの盗賊の師範というと、トラバントさんでしたっけ?」

「そうですね。 確かにそんなお名前でした」


 ユリウスは、猫背でくたびれた風貌の中年男の顔を思い浮かべた。


「そっか、合格の挨拶か…… それは大事なコトだよね」


 フィオナも、無愛想だが情深い侍のお師匠の顔を思い浮かべる。


「メナスはいいのか? 武闘家の師範に挨拶しなくて……」

「あー ボクはいいかなー 試合の時に会ったしねー」

「そう言えばそうだったな」


「じゃあさ、これから四人で女子会しないっ?」

「女子会……?」


 突然のフィオナの提案に、ルシオラとシャウアは面食らっていた。


「わたし実はね、ルシオラさんに報告しなくちゃならないコトがあるの…… メナスちゃんとシャウアちゃんにも一緒に聞いてて欲しい!」


 ユリウスと目が合うと、そう言いながらフィオナは片目を閉じた。 それはつまり、ユリウスとフィオナが婚約した事の報告だろう。 まさか自分の人生に、こんなシチュエーションがあるとは想像すらしていなかった。


「そうか…… じゃあオレは、これからギルドに行ってみるよ」


 少しだけ肩の荷が降りたと安堵する反面、心配な気持ちもないではない。 一抹の不安は拭えないモノの、ユリウスは四人娘と別れてギルド本部へと向かうのだった。


 次回、四人の乙女たちによる魅惑の女子会が開催されます…… さて、どうなります事やら(汗)


─────次回予告─────


第51話 ~魅惑の女子会〜

 乞う御期待!

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