4 〜A・Iと青春の旅立ち~
一日一話投稿する予定ですと前回だったかお知らせしたんですが、それは0時過ぎ頃にしようかなぁと思うんですよ… でもそれだと9月10日の更新が無かったことになってしまうので、今日はこの時間に投稿してみますね… もう何時間かしたら11日分の5話目を投稿したいと思います。
旅支度は割とすんなりまとまった。
普通の村人が、30歳を手前にして冒険者への夢を再燃させ王都へ上京する── ユリウス自身は、そういう設定でいくつもりだ。 装備も荷物も必要最低限のモノだけでいい。
普通の農民が普段着るような服に、冒険用の背嚢と旅行用の鞄。 着替えが数着。 水筒、石鹸、歯磨き、火打ち石などの日用品。 ランタンやロープ、マチェットやナイフなどの野営必需品。 かさばらない程度の寝袋とブランケット。 数日分の保存食と、旅人が持っていても不自然ではないくらいの貨幣。
それから、どこにでもある普通の剣に【腐蝕耐性】と【強化】の呪文をかけた片手剣。 これならば一応【不死生物】や【獣人族】とも渡り合えるだろう。
メナスの準備はもっと簡単だった。
一応一通りの装備と衣類を用意したがそれは冒険者としての物ではなく、しかも重い物や共用の物はほとんどユリウスの旅行鞄に叩き込まれた。 ただひとつの例外は彼女の下着で── 彼女なりのこだわりがあるのか、バリエーション豊かな十数枚を用意しているようだった。
「さて、行くか」
旅行鞄を背負いユリウスは呟いた。
「ちょっと待って下さい」
「ん、どうした? 忘れ物か?」
「いえ…… そうではないんですけど」
少女の姿をした自動人形は、ふたりが過ごした隠れ家を振り返りしばらく無言で見つめていた。
ここで過ごした時間はせいぜい7年余りの筈だったが、彼女にとってはそれなりに感慨深い何かが芽生えていたのかも知れない。
もしくは【A・I】が、そういう演技をすべきだと判断しただけなのかも知れないが。
「一応、必要最低限のセキュリティ魔法もかけてあるからな…… 大丈夫だろう」
「……うん」
「ニワトリの餌やりなら自動餌やり機があるから2〜3年は心配ないだろ?」
「……うん」
「そもそもこんな岩山に誰が登ってくるってんだ?」
「……うん」
「また戻ってこなくちゃですね。 餌の補充とか、お掃除とか」
そう言うと、少女は勢いよく振り返り主人を置いて山道を下り始めた。
(とても演技には見えないな)
その背中を見つめながら、男はそう考えていた。
「ところでマスター、取り敢えずどこを目指すんですか?」
少し遅れて追い付いてきたユリウスに少女が問いかける。
「そうだな…… まずは麓の村まで降りて、そこから商人の馬車にでも乗せてもらって王都を目指すかな」
「王都で冒険者ギルドに登録して…… 確か試験があるんだっけか?」
「合格したら晴れて冒険者人生の始まりって訳だ」
「そうですか…… それって【転移門】とか使ったらマズいんです?」
「当たり前だろう! オレはそういうのに頼らないで、この身ひとつで己を試してみたいんだよ!」
「そうですか…… それはすみません」
「ところでマスター、ボクも冒険者として登録していいんですかね?」
少女の問いに戦慄が走る。
「マスター…… また、そこまで考えてなかったなって言う顔してますよ」
「うるさい」
「でもなぁ…… 確か冒険者登録って、14歳からじゃなかったか?」
「どうせマスターも年齢詐称するんですよね? いいんじゃないんですか、ボクも14歳ってコトで」
「う〜ん、ちょっと無理がないかぁ?」
少女の身体を頭のてっぺんからつま先まで眺めるジェスチャーをしながら男が言う。
「だいじょうぶでしょ。 発育の良し悪しは個人差があるっていいますし」
「まぁボクはどっちでもいいですけどね。 いずれにせよマスターから離れるつもりはありませんから」
「それじゃあ冒険者じゃない方がなんか不自然だろう?」
「ふふふふっ それもそうですね♪」
鈴の音を転がすような声で少女が笑い、彼は息を呑んだ。
(こんな風に笑うのは、初めて見た気がするな)
これが【A・I】の成長なのか…… 何故だか彼は背筋に冷たい物が流れるのを感じた。
「ところでメナス、お前料理とか出来たんだな?」
「勉強したんですよー マスターが目を覚ましたらお腹が空いてるだろうと思って」
「なにせ時間はたっぷりありましたから♪」
あの隠れ家には、大量の蔵書を収めた書庫がある。 7年の歳月、そこで彼女が過ごした時間は決して少なくはなかったろう。
(そうか…… オレのために)
「味付けとかも自分でやったんだよな?」
「逆にボクじゃなきゃ誰だと?」
食事は人間にとって重要な情緒の部分でもある。 彼女の【A・I】を担当したウィリアム司教は食の部分にもこだわっていたようだった。 根気強く彼女に食事を与え、好ましい味とそうでない物の機微を教え込んでいたのだ。
「そういやお前、食事も出来たんだっけ」
自分に必要がなくなってからは、食事全般に興味を失っていた事に改めて気付く。
「そうですね。 食べなくても平気だけど、お腹の中にちゃんと消化用の機関があって、分解してから栄養や魔素を取り出して動力にする事も出来ますよ」
メナスが自分のお腹をさすりながら説明してくれる。
「余りはちゃんとおしっこや便みたいにして排泄も出来ますし──」
「わかったわかった、もういいから」
【自動人形】相手に年甲斐もなく照れてしまった自分に驚きつつ、少女の表情を横目で伺う。
可憐なゴーレムの少女は、じっとユリウスの目を見つめていた。
「ずっとボク…… 考えてたんですよね」
「何をだ?」
照れ隠しに慌てて目線を外す。
「生物の基本的な三大欲求ですよー」
「……?」
「睡眠欲はもう充分。 それこそ 7年分も満たしたでしょう? マスターにはもっと、食欲と性欲が必要なんじゃないかって……」
「……⁈」
「ボクが思うに…… マスターは今、精神の安定を欠いた状態にあると思うんです」
【A・I】の診断は客観的かつ的確だった。
「だからもっと外に出て色んな景色に触れて色んな美味しい物をいっぱい食べて、可愛い女の子といちゃいちゃしたらいいと思うんですよー」
「たとえば── ボクとか?」
「冗談はよせ」
「冗談じゃありませんよー」
少女は彼の正面に周り込むと振り返って真正面からその瞳を見つめた。 心なしかその瞳は潤んでいるように見える。
「ボクにはちゃんと男性の性欲を発散させる機能が付いてるんですよ…… 知ってるでしょう?」
「……⁈」
「もちろんまだ使ったコトないですけど 」
「つまり処女ですけど」
「……」
「どんな風だか、一度ボクも試してみたい…… 出来ればマスターと」
それは事実だった。
より人間に近付ける必要があるからと、ユリウスの反対を押し切り錬金術師のミュラーが取り付けたのだ。
意外な事に司教であるウィリアムもこれには反対しなかった。
それは恐らく、彼もまた完全な人間の再現を目指していた故に。
ユリウスは正面からメナスを見据えた。
「いいか、よく聞け! 今後二度とその話題に触れるな」
「え……? でも……」
ユリウスは目を閉じて大きく息を吸った。
「【チタニウム・ゴーレムのメナスよ! 汝の創造主たる三賢人、ウィリアム・グレゴールとミュラー・フォン・ライヒェンシュタイン、及びユリウス・ハインリヒ・クラプロスの名に於いて命ずる!】【二度とその話題に触れるな!】」
「【わ、わかりました…… マスター】」
少女の華奢な体が小刻みに震えていた。
それは【創造主権限】による【制約】だった。
この形式で命じられた事は【被造物】たる彼女には絶対に逆らえない。
そうプログラムされていた。
少女の顔は今にも泣き出しそうに見えた。
それはユリウスも同じだ。
出来ればこんな事はしたくない。
例えば子供に『何故人を殺してはいけないか』を教えるとして、強制的にその行為を禁じるのは正しい行為だろうか?
本人が心の底から納得しなければ意味はない筈だ。 では何故、自分は今これを使ってしまったのか? 恐らく理性より感情が勝ってしまったせいなのだろう。
メナスは悪くない。
自分が勝手に、彼女に対して娘や妹のような感情を抱いていただけの話なのだ。
(情けない…… 何が【この世の真理】に到達した大賢者…… だ)
ふたりは沈黙したまま険しい山道を降りて行った。
──────────
「なぁ…… メナス」
「はい、マスター?」
「この道…… ちょっと険し過ぎないか?」
「いえいえ、まだ序の口ですが?」
「嘘だろ? この下ほとんど垂直の崖なんだけど……」
「マスターが選んだ場所ですよね? 簡単に人が侵入できないようにって」
「そりゃあ探す時も家を建てる時も空を飛んで来たからな」
「自業自得ですね」
「……」
「お前、いつもこんなトコ通って麓に降りてんのか?」
「はぁ…… まぁ」
「……」
「メナス……」
「はい、マスター?」
「今回だけ【転移門】とか…… 使ってもいいか?」
それは、ふたりが小屋を出立してから、わずか10数分後の出来事だった。
こんな感じでサクサクとは進まず、だらだらと続いていく感じです… 派手な冒険活劇とかはあまり期待しないで頂けると幸いです…(汗)
途中のシーンを丸ごと削ればコンパクトになるのは分かっているんですが…やはり他愛のない会話とか風景とかを書きたくなってしまいます…
それではまた5話で。 よろしければ是非。