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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
31/111

31 〜漂う暗雲〜

──────前回までのあらすじ─────


冒険者志願のユリウス、メナス、フィオナたち一行は最終試験を無事に合格し、そのまま最近王国領を騒がす異変の報告会に当事者として参加する事となった…… 


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 ルシオラは研究調査員のハイメルから羊皮紙の束を受け取り、上の数枚に目を通した。


「それではまず、北の湧水泉に出没したと言う【タイラント・アリゲーター】の件から」

「それ、わたしたちが遭遇したヤツ!」

「はい、商人コーレ・ディアマント氏の依頼で冒険者パーティーが護衛をしていた案件でしたが、肝心の彼らと馬車ごとはぐれてしまった翌日の出来事でした」


「間が悪いというか、何と言うか」

「【デスペラード】…… か」


 マルモアとエルツは顔を見合わせて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「実はこの案件は、早速ギルドからクエストを発注し昨日解決いたしました」

「へぇ〜 そぉなんだ! はやい〜 のかな?」

「かなり早かったと思います。【王都北の湧水泉『タイラントアリゲーター』の確認及び可能ならば討伐】── 【Aランク】以上推奨のクエストで、冒険者パーティー【エンジェル・ファング】が請け負ってくれました」

「【エンジェル・ファング】か。 あいつらは中々見所がある」


 エルツが小さく頷いた。


「結果彼らは同湧水泉にて【タイラント・アリゲーター】を発見、そのまま討伐に成功し屍体をギルドまで持ち帰りました」

「昨日のお昼頃は、目抜き通りがちょっとしたお祭り騒ぎになったんだよ」


 マルモアがアゴの下に手を当てて満足そうに何度も頷いた。 ギルドの威信を国民に見せつけられた事がよほど嬉しいらしい。


「へぇ〜っ ちょっと見てみたかったね、それ」

「それで、何かわかったコトがあるんですか?」


 ユリウスが質問する。


「いえ、昨日の今日ですから。 今のところ何故あそこにいたのか、誰かが運んできたのか、全く見当もつかない状態です」


 ルシオラは少し大きめの羊皮紙を机の引き出しから取り出しテーブルの上に広げた。 それはヴェルトラウム大陸の地図だった。


「ご存知のように【タイラント・アリゲーター】も【ジャイアント・グラストード】もこの付近に生息する魔獣ではありません。 もっと大陸南端の密林や湿地帯にのみ生息する魔獣です」

「へぇ〜 こんな風になってるんだねぇ〜 シュテッペ村はどこ? あっ、こんな北の方にあるんだ〜」


 フィオナはこんな広範囲にわたる精細な地図を見るのは初めてだった。 この時代、正確な地図はそれぞれの国で国家機密なのが普通だ。 物珍しそうに隅々まで観察していた。


「この魔物たちが徐々に生息域を移動もしくは拡大させているのなら、もっと各地に目撃情報がある筈なんです。 しかしこの魔獣は突然ここに連れてこられたとしか思えないような現れ方をしているんです」

「しかもそう言う例が近年増加している?」

「そうですね、急増しています」

「だから護衛を雇ったって、コーレさんも言ってたよね〜」


「ねぇその屍体って、もしかしてまだここにあったりする?」


 今まで黙って話を聞いていたメナスが、突然そんな質問をした。 それに応えたのは研究調査員のハイメルだった。


「流石に大きいので原型は留めていませんが、ほとんどまだ地下の保冷室にありますよ。 何か気になる点でも?」

「うん、出来たら見せて欲しいかなって」


 ハイメルは、チーフ・オフィサーのマルモアの顔を伺った。


「まぁ、いいんじゃないかな。 帰りにでも案内してあげなさい」

「……分かりました」

「なんだお前? 屍体なんかに興味があるのか」


 エルツがメナスの行動に興味を示した。 そう言えば彼は【SSS+】判定のメナスに注目している節がある。


「うん、その冒険者パーティーがどうやって闘ったか分かるかなぁ、って」

「なるほどなぁ…… 俺ぁ若い頃そんなコト考えたコトもなかったなぁ」


 エルツは納得したようだった。


「それでは次に、実技試験用の洞窟(ダンジョン)入り口付近にある、これまた湧水泉で【ジャイアント・グラストード】三体と遭遇した件── これは実際に試験官である私が目撃、討伐を確認していますので事実関係は省略させて頂きます」

「気持ち悪かったね〜 あのカエルたち」

「初クエストで【ジャイアント・グラストード】を倒すとは、さすがは【SSS+】判定ですなぁ」

「そぉかぁ…… あんなん大したコトねぇだろ?」

「いやいや、あれは3体もいれば【Aランク】のクエスト案件ですぞ? 誰もが自分と同じだと思われては困りますなぁ」


 どうも元冒険者の頂点だったエルツと、未経験者のマルモアは、いつもこんな調子らしい。


「今朝あの場所に人を送りましたので、屍体があれば運んでくる手筈になっています」

「うわぁ…… かわいそうな仕事だね〜」


 フィオナは自分の両肩を抱いてぶるっと震えた。


「最後は── これは一連の異変と関係があるのか何なのか…… 例のゴーレムの件です」

「あぁ、あれ」


「私たちが持ち帰ったのは頭と腕の一部だけですが、まぁおおよその正体は掴めました」

「正体って?」


 よほど気になるのかフィオナがソファーから身を乗り出した。 それに応じたのは研究調査員のハイメルだった。


「あれは確かにゴーレムの一種ですが、10年以上前に作られた【自律思考型自動人形インテリジェント・オートマータ】で間違いないです」

「【自律思考型自動人形】⁈ あんなゴリラみたいなのがっ……⁈」


 予想外の答えにフィオナは驚いていた。 その答えには、実はユリウスも少なからず驚いていた。 確かにゴーレムの知識が少しでもあれば、魔力だけで動いている金属(メタル)ゴーレムでない事はすぐに分かるだろう。 内部に【絡繰り仕掛け(オートマキナ)】を仕込んだ【自動人形(オートマータ)】は構造を見れば一目瞭然だ。


 しかし【A・Iアーティフィシャル・インテリジェンス】により独自の判断で動く【自律思考型自動人形】である事は、あの砕かれた頭から半日で割り出すのは容易い事ではない筈だ。 さすがはギルドの誇る研究調査部門と言ったところか。


「おそらくはどこかの貴族か大商人などが使役していた物が、最初期型という事もあり経年によって【A・I】に異常をきたし暴走したのではないでしょうか」

「それではすぐにも持ち主を特定しなければなりませんな」


 マルモアが言った。


「しかし持ち主は名乗り出たがらないでしょうね。 暴走して逃げ出し、街に被害を及ぼしたかも知れないゴーレムを使役していたとは」


「せめてこの頭部が、もう少し完全な形であったなら…… この周りに何か落ちていませんでしたか?」


 ハイメルは三人に向かって問いかけた。 その場にいたルシオラも顔を上げる。


『集積回路』の事を言っているのだと、ユリウスはすぐに気付いた。 メナスの顔を見る。


「いえ、とくには気が付きませんでした」


 メナスもまた、気付いていてすっとぼける事にしたようだ。 それならユリウスからも言う気は無かった。 なにせあれは彼女の倒した獲物で、彼女の考えで『集積回路』を回収した。 そしてなにより、彼女の遠い『兄弟』でもあったのだから──


「そうですか。 まぁ残った残骸もギルド職員が回収してくる手筈になってますから、それを待つしかないでしょう」


「しかしよく倒せたな、そんなの。 武装してるタイプだったんだろ?」


 ギルドマスターのエルツの興味は、やはりそこに行き着くようだ。


「だいぶガタがきてたみたいだしねー」

「まぁ、ほとんど動かなかったよね〜 ゆっくり歩いて来たみたいだし」

「ふぅん、まさに木偶(デク)の坊だったってワケか…… つまんねぇな」


 エルツはもう興味をなくしたようだった。


 あれはそんな生易しい相手ではなかった。 ルシオラの脳裏に、眼前に突如現れたクロスボウの矢が鮮烈に浮かび上がった。 思わず身がすくみ、背中を冷たい汗が流れる。 もしシンがいなかったら間違いなく自分は死んでいた筈だ。 そう考えるだけで胸の奥に、何故だか奇妙な感情が溢れ出てくる。


 10歳で修道院に入り、友達と三賢人を探すため17歳で冒険者になった。 それからと言うもの毎日が友人の行方を── シャウアの消息とその真実を探す日々だったのだ。


 つい昨日までは。


 ルシオラは── それが『恋』と呼ばれる感情かも知れないと、まだ気付いていなかった。


 最近王国領を騒がす異変の報告会に参加する事となった一行…… 次の報告は、疑惑の冒険者パーティ、デスペラードの話題へと移り…… 


─────次回予告─────


第32話 〜もしも願いが叶うなら〜


 乞う御期待!

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