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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
23/111

23 〜闇を這い寄るもの〜

──────前回までのあらすじ─────


冒険者志願のユリウス、メナス、フィオナたち一行は、ギルドの試験官ルシオラと共にいよいよ最終試験現場となる『試練の洞窟』に足を踏み入れた。


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 先頭を盗賊(シーフ)のユリウスが松明を片手に進み、二列目に(サムライ)のフィオナと僧兵(モンク)のメナスが横に並んで控える。 そして最後尾を試験官ではあるが僧侶(プリースト)のルシオラがしんがり(・・・・)を務めるという『ひし形』の陣形だ。


 明かりが足りないと判断したのか最初からそうする予定だったのかは知らないが、ルシオラはランタンを灯して手にしていた。


 最初に一行が受けた洗礼はコウモリたちだった。 しかも襲いかかってきたのではなく、彼らはただ洞窟の外へ逃げていっただけだった。


 案の定と言うべきか、フィオナは悲鳴をあげて先頭のユリウスの背中に抱きついた。 せっかくの【A+判定】でも、これで前衛が務まるのかユリウスは一抹の不安を覚える。


 もし魔獣に遭遇したら、二列目に控える二人が前衛に飛び出し、ユリウスは後退する手筈になっているのだが……


 最初の数十mは、ほぼ何も無い細い一本道だった。 古いとはいえ人の手の加わった【洞窟(ダンジョン)】なので、壁は平らで何者かが身を隠したり見えにくい分かれ道があるような死角もなさそうだった。

 しかし、山賊の類が根城にしていた頃の罠は入り口付近にあっても不思議はない。 気を抜かず慎重に歩を進める。


 もっとも、踏破し尽くされて冒険者ギルドの実技試験に使われるようになったくらいの【洞窟】だ。 あえて残している罠なら大した事は無い筈だ。


(どうだ、メナス? ヤツらの動きは?)


ユリウスが【念話(テレパシー)】で問いかける。


(動きませんね。 入り口付近で様子を伺っているようです。 中の一人も動きは無いです)

(そうか、やはり探索が終わって消耗し油断したトコロを狙うつもりか…… いや待てよ、だとしたら中のヤツは何してるんだ?)

(両方の可能性を想定してるんじゃないですか? どっちにしろ挟み討ちに出来ますし)

(そうだな…… こちらもそのつもりでいよう)

(了解でーす)


 予想通りとくに何もないまま少し広めの空間に出た。 ここで一旦立ち止まる。


「ここは炭鉱だった頃の最初の中継ポイントですね」


 ルシオラが必要もないのについ解説してしまう。 どうも根っからの世話焼き気質のようだ。


「左右にも細い脇道があるみたい」


 フィオナが暗い室内を見回して指を指す。


「みんな、しっ──」


 その時のメナスが警告を発した。 一同に緊張が走る。


 どこからともなく、カサカサと擦れ合うような乾いた音が聞こえてくる。 狭い洞窟では音が反響し音源の方向が掴みにくい。


 次の瞬間、少し先の脇道から数匹の大型昆虫が姿を現した。 5〜60cmくらいの大きさで光沢のある暗緑色の外皮を持つ甲虫のようだ。 それが4匹いる。


「【腐肉喰らい(スカベンジャー)】です! 普段はその名の通り屍肉を漁っていますが、空腹時やナワバリに侵入された場合には生きている者も襲ってきます!」


ルシオラが叫ぶ。


「大した魔獣ではありませんが、とても硬い外皮に覆われていて剣や刺突武器には耐性があります! 侮らないで下さい!」

「ボクにまかせといて」

「わ、わたしだって……!」


 メナスとフィオナが前に出る。

その時、先頭の虫が一番近くにいたフィオナに飛びかかった。 甲虫には羽根があるのだ。 折りたたんでいた羽根を広げると、甲虫の大きさは体感で倍以上になる。


 驚いたフィオナが小さな悲鳴とともに尻もちをつくと、その頭上で甲虫が弾けた。 どうやらメナスが空中で飛び蹴りを放ったらしい。 着地と同時に流れるような淀みのない動作で目の前の虫を蹴り飛ばす。 そいつは反対側の壁に激突してから地面に落ち、そのまま動かなくなった。


「わ、わたしも……」


 フィオナは起き上がると手前の甲虫に刀を振り下ろした。


キン! 硬質な音が響き、刃が弾かれる。


「だからっ 剣には耐性が……っ」


ルシオラが叫んだ。


「まだまだ〜っ‼︎」


 そのまま飛び上がり襲いかかる虫にフィオナは両手で大上段に構えた刀を渾身の力で振り下ろした。 ユリウスは咄嗟に剣を抜きフィオナの前に躍り出ようとしたが──


 次の刹那【腐肉喰らい】は空中で真っ二つに両断されていた。


「やったぁ〜! ねぇ見た? 見てた、シン?」


 フィオナがぴょんぴょん跳ねて喜びを全身で表現する。 その横では最後の虫をメナスが無表情で踏み潰していた。 ユリウスは、ゆっくりと息を吐き出した。


「あぁ、見てたよ」

「最初に弾かれたのは、刃が斜めにあたったから── ちゃんと垂直に当たれば、この【ヒマワリ丸】に斬れないモノはないわ!」

「あー、その刀…… 名前付けたんだ」


メナスがどうでも良さそうに言った。


「うんっ【名刀】には名前が付いてるもんだって防具屋の店主さんが言ってたから。 なんかおかしいかな?」

「おかしいと言うか、フィオナらしいと言うか」


「さっ、流石に【SSS+判定】と【A+判定】の志願者ですね。 心配する必要はなかったようです」


 眼鏡を人差し指で持ち上げながらルシオラが言った。 暗闇の中、微かにその指が震えているような気もする。


「ですがフィオナさん、気を抜くのは敵を全て退けた後にして下さい。 それも確実に無力化したか確認した後です!」

「そう言えば教わったっけね…… 『残心』だっけ? 敵をたおしても敵の屍からけっして意識そらさない── だっけ?」

「今度から必ずお願いしますよ」

「はぁ〜い」


【腐肉喰らい】は比較的珍しい魔物ではないので収穫としては微妙だ。 甲皮は硬く美しい光沢があり加工して防具や工芸品にする事もできるが、腐肉喰いと言うそのイメージからあまり需要はなかった。


 その後広間を軽く探索すると、隅の方に【第二層】に降りる穴が開いていた。


「もう下に降りれるんだね」

「どうする? このまま真っ直ぐ奥へ進む?」

「う〜ん、どうするか」


(メナス、中のヤツはどっちの層にいるんだ?)

(ちょっと待って下さい。 あんまり動かないんで…… あっ下ですね。 下の層にいます。 結構イライラしてるみたいです)

(そりゃあ、何時間も独りで待ってりゃあ……な)


(どうする気ですか?)

(独りでオレたちと遭遇したらどうするのか興味があるな。 ひとつ、こっちから出向いて行ってやるか)

(いいんですか? 下の層だと逃げるのが難しくなりますけど)


 メナスは、フィオナとルシオラをの方を見ながら言った。


(それはヤツらも同じだろう。 今回は一人も逃す気は無いからな)

(なるほどー 了解でーす)


「どうせ目的は無いんだし、ここらでちょっと降りて見ましょうか?」


ユリウスは提案した。


「さんせー どうせ奥まで行ってもこんな感じなんでしょ? どうせなら色々見て回りたいし」

「う〜ん、わたしはどっちでもいいかな〜」


 試験官であるルシオラは、何か言いたげな表情をしていたが、結局何も口にする事はなかった。


 一同は、第二層に降りるための準備に取り掛かった。


『試練の洞窟』に足を踏み入れ最初の戦闘を無事に乗り切った一行…… 下の層へ降りた彼らを待つものとは……


─────次回予告─────


第24話 〜洞窟(ダンジョン) 第二層〜


 乞う御期待!

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