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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
21/111

21 〜ルシオラ・スキエンティア~


──────前回までのあらすじ─────


冒険者志願のユリウス、メナス、フィオナたち一行は、ギルドの試験官ルシオラと共にいよいよ最終試験へと出発した。 その道すがら、ルシオラはフィオナに問われるままに身の上話を始めて……


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


「それで…… ルシオラさんは冒険者になったんだ〜?」


 しんみりとフィオナがと尋ねた。 しかしルシオラの答えは意外なものだった。


「いいえ、違うわ。 ううん、それも少しあるけど」


 ルシオラが軽く首を振ると、ウェーブのかかった見事な金髪がさらさらと揺れる。


「私にはね、特に仲の良かった修道女の後輩がいたの……  シャウアって言ってね、ふたつ歳下で平民の生まれだったけど妹みたいに可愛がってた」


「その娘が14歳になった頃に三賢人の事件があってね…… 彼女、ちょうどいい機会だから冒険者になるって」


「彼女、修道院に生涯を捧げるつもりは最初からなかったみたいで、冒険者も怖いけど少しお金を貯めたらパン屋さんでも開いて慎ましく生きて行きたいって」


 ルシオラは思い出すようにゆっくりと、呟くように言葉を紡いだ。


 シャウアは無事、僧侶(プリースト)として冒険者になって、しかし最初のクエストから帰ってくる事は無かった。

 彼女は【Aクラス】のベテランパーティーに臨時で参加したそうだ。 しかし洞窟(ダンジョン)の中でモンスターに遭遇した際、混乱した彼女は急にひとりで逃げ出して運悪く岩の地面の割れ目(クレヴァス)に落ちてしまったと言うのだ。


 新人の冒険者が、夢破れ志半ばにして倒れる。 遺体も見つからない。 よくある話である。


 しかし、ルシオラは納得出来なかった。


 彼女は自ら冒険者となって真相を確かめる決意をしたのだ。 彼女は17歳でギルドの冒険者適性検査を受け【A-】の判定結果を得て合格、当然職業は僧侶を選択した。


「7年前に17歳ってコトは、ルシオラさん今24歳?」


 メナスが突然流れを切って尋ねた。

A・Iアーティフィシャル・インテリジェンス】だから空気が読めないのか、それとも意図があってやっているのか…… ユリウスには判断がつかなかった。


「こら、女性に歳を聞くもんじゃない!」

「ううん、まだ23歳だけど」

「そうなんだ〜 もっと大人っぽく見えるかも〜」


 と、これはフィオナだ。


「そんなに老けて見える?」

「ううん! 悪い意味じゃなくって。 落ち着いた大人の女性の魅力って感じで憧れるって言うか〜」

「ふふふ、ありがとう」


 ルシオラは先ず、ギルド本部で情報収集を開始した。 シャウアが参加した【Aクラス】のベテランパーティーが【デスペラード】と言う名前だと突き止めた。 ベテランだが何か近寄り難い空気を纏った、男性四人組のパーティだった。 そんなパーティが何故新人の僧侶を? しかしその件についてギルドに尋ねても、パーティーに回復役が居なかった事と、新人の育成と言う目的で不自然ではないと言う回答だった。


 ルシオラはいくつかのクエストをこなしお金を貯め、経験を重ねていった。 行方不明の賢人を探すクエストにも何度か参加したと言う。 そして少し貯金が出来たところで、自ら【シャウアの捜索】のクエストをギルドに依頼したのだ。


 ここで乗って来たのが【デスペラード】だった。 実際それは好都合だった。 彼らは現場も知っているし当時の状況を現地で説明する事も出来るだろう。 と言うか、ルシオラ自身彼らが乗って来るのを期待して出した依頼でもあった。


 彼女は当時よく組んでいた信用できる男性の冒険者を伴い、彼と【デスペラード】の六人で、シャウアが行方不明になったと言う【死の谷の洞窟トートタール・ダンジョン】に向かった。


 結果── 進展は全くなかった。

彼女の遺体はおろか、彼女の遺留品、足跡など一切の痕跡すら見つからなかったのだ。 そして【デスペラード】の説明にも不自然なところは無かった。


 突然のモンスターとの遭遇。 パニックを起こして走り出す新人の冒険者。 暗い洞窟。岩の割れ目に落ちてしまった冒険者。 急速に下方へ遠のいていく悲鳴。 救助はおろか生死の確認さえ困難を極めた。


 しかしルシオラは確信を持った。 彼らは嘘を付いている!


 証拠はない…… しかし彼らの態度や表情、言葉の端々に時々垣間見える何かが『彼らが何かを知っている、隠している』と告げていた。


 王都に戻ったその日の夜だった、彼女の宿の寝室に侵入者があった。 深夜たまたま眠れないでいたルシオラは、廊下を歩く足音には全く気付かなかったが施錠された鍵を開ける物音に気が付いた。


 戦鎚(メイス)を両手で握りしめて身構え、ドアが開くと同時に『神聖魔法』の【神の拳(ゴットファウスト)】をお見舞いしてやった。 僧侶の魔法には珍しい高威力の単体攻撃呪文だ。 多少なりともダメージを受けてはいたものの、平然とそこに立っていたのは【デスペラード】のリーダー【純白のヴァイス】と盗賊(シーフ)の男だった。


「最低! それって夜這いをかけようとしてたってコトだよねっ⁈」

「夜這いって言うのは、本当は男女の合意のもとに行われるんだけどね。 これはただの……」


 ルシオラは言葉を飲み込んだ。


 騒ぎを聞きつけ、すぐに人が集まってきたと言う。 この事はすぐにギルドでも問題になり【デスペラード】は罰金と三ヶ月間の活動禁止処分になった。 もっとも、彼らは「知り合いの冒険者が心配で戸締りを確認に来ただけだ」と白々しくも最後まで言い張り続けた。


「月のない夜は夜道に気をつけろよ」


 禿頭(とくとう)の大男が、ルシオラに吐いた捨て台詞だった。


「それで私、狂戦士(バーサーカー)が大嫌いになったのよねぇ……」

「へぇ〜 そいつが狂戦士だったんだ」


 この一件の後、ルシオラは冒険者を辞めギルドの職員となった。 当初は仕方なく…… と言った選択にも思えたが、これには期待していた以上のメリットがあった。 職員の立場からシャウアを見つける手がかりを探し、また【デスペラード】の動向も調べることが出来た。


 思った通り彼らは、限りなく『黒に近い灰色』だった。


 一緒にクエストに行った冒険者、それも臨時参加者の死亡・行方不明率が他のパーティの二倍以上の数値だった。 また、依頼主と行動を共にしたり護衛するタイプのクエストも彼らは積極的に受けていて、依頼主とはぐれたり死亡させたりしたケースがやはり何件かあった。


 証拠はないが限りなく黒に近い疑惑の色。


ルシオラは誓った。


 いつか必ずシャウアの行方を突き止め、彼らに正当な裁きを加えてみせる、と!


「ごめんなさい…… 証拠もないのに…… こんな話するべきではなかったわね」

「ううん、聞いて良かった。 わたしも気を付けなきゃって思ったし…… ルシオラさんのコトが知れて嬉しかった」

「うん、ボクも」

「ありがとう、そう言って貰えたら私も嬉しいわ」


「それにしても酷い話だね。 そんなヤツらが【Aクラス】の冒険者だなんて夢も希望もないじゃない」

「ねえ、何度も言うけど証拠は無いんだからね?」

「わかってるけどぉ〜」


「でも、いつか必ずシッポを掴んでやるわ」


ルシオラが固い表情で遠くを見つめた。


「すぐに掴める気がするな、ボク……」


(マスター、気付いてます?)


メナスの【念話(テレパシー)】だった。


(あぁ、尾けられてるな。 それも門を出てからずっと)

(間違いなくあいつらですねー どうしましょうか?)

(動かぬ証拠を掴まなければ、いつまでも同じコトの繰り返しだろうな。 このまま泳がすか)

(了解しました。 あと念のため言っときますけど、マスターのせいではないですからね?)

(……? 何のことだ?)

(あ、気付いてないなら気にしないで忘れてください)

(そんな言い方したら余計気になるだろ! ……何だ?)

(7年前と言えば、マスターたちが失踪して一時的に王都の治安が悪くなった頃ですから……  気にしてるかなって)

(……)


(そうか、オレのせいかも知れないのか……)


 ユリウスの精神状態に安定を取り戻したいメナスとしては、この可能性は告げるべきではないだろう。 しかし彼女はあえて告げた。 この件でユリウスが責任を感じ、外部に目的意識を向けることで、逆に精神的に安定するのではないかと計算したのだ。


 そして、ルシオラに対する心の負い目や同情…… これらが恋愛感情に発展する可能性までもその計算には入っていた。


「あっ 見えてきましたよ。 あれが今回の【試練の洞窟(ダンジョン)】です」


 岩山の麓にある小さな林をルシオラは指差した。


いよいよ冒険者になるための最終試験現場に到着した一行。 道すがら、ギルド職員ルシオラの身の上に興味津々のフィオナだったが……


ようやく予告の内容が少し進みそう…!


─────次回予告─────


第22話 〜試練の洞窟~


 乞う御期待!

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