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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
19/111

19 〜冒険者実技試験~

──────前回までのあらすじ─────


冒険者を夢見る元賢者のユリウスと、人間の幼女にしか見えないチタニウム・ゴーレムのメナス、道中知り合った冒険者志願の家出娘フィオナの一行。 冒険者ギルドで適性検査を受けそれぞれの職業の研修を受けた三人は、いよいよ最終実技試験当日の朝を迎える……


相変わらず、あらすじがほとんど進まない…⁈


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 彼女は暗闇の中でふと気が付いた。

そうか、これはいつもの……

遠くから微かに呻くような声が聞こえる。

 聞きたくない。

聞きたくないが、聞かずにはいられない。

その声は自分の名を呼んでいるのだ。


「ルシオラ…… ルシオラたすけて…… ここは暗いの…… ひとりでとってもさみしいの……」

「シャウア⁈ シャウアなの⁈」


 ルシオラは自分の喉から出る声を、どこか遠くに聞いていた。 声のする方に歩いていく。 暗闇の中を手探りで。


「ルシオラ…… ルシオラ…… ここよ……」


 だんだん声が近づいてきた。

もう少し…… あと少し。


 しかし彼女は、この幻の結末を何度も見て知っていた。 やがて何もない暗闇の中から、いきなり目の前に小さな白骨が現れて──


 彼女は悲鳴とともに目を覚ました。


 ここはギルド本部の3階にある、単身者職員用の個室のひとつだった。 彼女はここで6年ほど前から暮らしている。


 全身が汗でずぶ濡れだ。 最近はあまり見ないようになっていたのに、こんな日の朝だからだろうか、久しぶりにシャウアの夢を見てしまった。


 彼女は夜着を脱ぎ捨て寝台から降りた。 見事に実った乳房が重たそうに揺れる。 水を溜めたていた桶で手拭いを絞り身体をていねいに拭いて行く。 そのまま鏡台の前に立つと、クローゼットから取り出した純白の衣装を身体に当ててみた。


 この服を着るのも随分久しぶりだ。


「シャウア…… 待っててね…… いつか必ず」


 ルシオラは鏡に映る己の瞳をまっすぐに見つめ改めて誓った。


──────────


 冒険者実技試験当日。

三人は、指定の時間にギルド本部の受付ロビーの壁際に仲良く並んで立っていた。 受付係に尋ねたところ、付き添いの試験官がすぐにもやってくると言うのでそれを待っている所だ。


 ここにくる途中、ドワーフ店主ブライの防具屋に寄って、約束のメナスの籠手とフィオナの革の胸当てを受け取って来た。 メナスの籠手には手袋を二重にはめただけではなく、ちゃんと指の関節ごとに補強がしてあって、ずれたり指を痛めたりしないように工夫がされていた。

 鋼鉄製だと言う籠手も、そこそこいい物らしく【強化(ストレングス)】と【腐蝕耐性(レジスト・アシッド)】の呪文がかかっているという。 これで加工費込み大銀貨6枚なら安過ぎるくらいだろう。


 メナスが腕に嵌めると不釣り合いに大きく見えるが、ちょうどボクシングのグローブみたいな印象だろうか。


挿絵(By みてみん)


「これなら安心して何でも殴れるなー」


 メナスが握った拳をガシン! と合わせながら澄ました顔で物騒な感想をのたまった。


 フィオナの胸当てはと言うと、こちらもちゃんと彼女の胸がぴったり収まった。 バストトップとアンダーを採寸しただけで微妙な形状やカーブは目分量の筈だった。 流石に職人の技と言うべきか。 最初は少し窮屈に感じるかも知れないが、これ位でないと動いているうちにズレてきてしまうそうだ。


 徹夜明けなのか少し疲れた様子の店主は、改めて三人の合格を祈り送り出してくれた。


 三人が手持ち無沙汰に装備の点検などをしていると、ロビーの階段を降りてくる人影があった。 それは三人もよく見知った顔── 眼鏡の美人受付こと、ルシオラ・スキエンティア嬢だった。


「おはようございます、みなさん」


 ルシオラはウェーブのかかった見事な金髪を揺らしながら碧い目で微笑んだ。


「おはよう」

「あれ、ルシオラさんその格好?」


 彼女は先日のぴっちりした制服姿ではなく、ゆったりとした純白のローブを着て山高のつばなし帽子を被っていた。 手に握っているのは、40cmくらいの短い戦鎚(メイス)だ。


 それは冒険者スタイルの僧侶(プリースト)の衣装だった。


「はい、私が貴方たちに同行する試験官です」


ルシオラはにっこりと微笑んだ。


「え〜ほんと〜⁈ びっくりした〜」

「貴方たちには魔法使い── 特に治癒魔法が足りないと思いまして、ちょうど担当の私がたまたま僧侶でしたので」

「それは有り難いな」

「うん、ボクもまだ僧侶魔法は使えないしね」

「でもお助けするのはあくまで命に関わる時だけですからね」

「よろしくお願いしま〜す」


「ではこれからすぐに出発しましょう。 いいですか──」


 ちょうどその時、入り口から入ってきた冒険者のグループがこちらに気付いて近付いて来た。


「ひのっとして、お前らか? 噂の【SSS+】判定を出した冒険志願者ってのは?」


 グループのリーダーらしき禿頭(とくとう)の大男が訊いてきた。


(おい、メナス…… こいつらって……)


 ユリウスが【念話(テレパシー)】でメナスに確認を取る。


(はい、マスター。 こいつらです)

「デ…… デスペラード…… の…… みなさん……」


 いつも冷静なイメージのルシオラが珍しく動揺を見せた。


「ルシオラさん、知ってる人たち── って、ギルドの受付嬢なんだから当然か」


 フィオナが呑気に呟く。


「この方たちは…… 【Aランク】の冒険者パーティー【デスペラード】のみなさんよ」

「どうした? ルーシー。 そんな格好(なり)して…… まさかお前がこいつらの試験官ってワケか?」

「いけませんか? なにか問題が?」


 ルシオラは明らかに少々怯えているように見えた。


「いや別に問題なんかねぇよ! それにしてもお前、7年前に比べたら、だいぶ乳が垂れてきたんじゃねぇか⁈」

「ちげえねぇ! 尻もダルンダルンだ!」


 それにつられて後ろの男たちも下品な笑い声を上げた。 ルシオラの頬が羞恥と怒りで紅潮する。 流石のフィオナも、これにはムッと頬を膨らませた。


「用がないならどいて下さい! これから大切な実技試験なんですから!」

「いや、用ならあるぜぇ…… だからどいつが【SSS+】判定だって聞いてんだよ?」

「そういうコトにはお答えする義務はありません! 試験に合格し実績を積んでいけば自ずと衆目の知る所となるのですから」

「なんだよ、ケチケチすんなよ」

「あのさー」


 メナスが呆れた顔で口を開きかけたのを、ユリウスが手で制した。 その視線はじっと禿頭の大男を見据えている。


「あんたたち…… オレたちに見覚えはないか?」

「なんだぁ? 冒険志願者風情が大先輩にナマイキな──」


禿頭の大男がユリウスに視線を移し凄んだ。


「オレたちは、コーレさんの馬車に乗っていた者だ」


 男たちの顔色が変わる。


「お前らがあの馬車に…… そうか確かシュテッペ村の辺りで何人か拾ってたな…… あの時の……」

「確かにいましたね。 ひょろっとした男とちんまい小娘、それに若い娘が一人」

「あれ、おかしいな。 彼女を拾ったのは森であんたたちの馬車とはぐれたずっと後のコトだったけど?」

「……っ⁈」


 しまった! という表情で男たちが顔を見合わせた。


「まぁ、商人の馬車の護衛もロクに務まらない【Aランク】冒険者が先輩風を吹かしてきてもね。 ちゃんちゃらおかしいって言うか……」

「それは言い過ぎだ」


 ユリウスが僧兵(モンク)の少女をたしなめる。


「なんだと貴様ら…… この【純白のヴァイス】様に向かって……」


 怒気を孕んだ低い声と共に、男が背中の大剣に手を掛けた。


「そこまでです!」


ルシオラが手の平を向けて男を制した。


「それが【Aランク】パーティーの者が冒険志願者に対する態度ですか⁉︎ もしギルド本部のロビーで剣を抜いたとあれば貴方たちもタダではすみませんよ‼︎」

「くっ…… ぐぅぅ……」


 禿頭の大男は顔を真っ赤にして歯をむき出した。 やがて剣の柄からゆっくりと手を離す。


「覚えておけよ……」

「それは脅迫ですか⁉︎」

「……」


「では行きましょう! 余計な時間を浪費してしまいましたから」


 ルシオラの後を追って三人はギルド本部の扉を出た。 その後ろ姿を【デスペラード】の面々が昏い視線で見送っていた。


「この時期の実技試験と言やぁ、多分あすこ(・・・)だな……」

「まさか、やるのか? リーダー……」

「あぁ…… あの小生意気でお高くとまったクソ(あま)…… いつか思い知らせてやろうと思ってたんだ!」

「でも【SSS+】判定の志願者も一緒なんですぜ?」

「馬鹿野郎! そんなもんマジのワケねぇだろ! それに俺は【S-クラス】のベテラン冒険者だぞ! もしホントでも、そんな新人に負けやしねぇよ!」

「分かりました。 本気なんですね?」

「あぁ、ブラウ…… 今から先回りして、あの仕掛けを解除してこい!」

「わかった!」


 ブラウと呼ばれた痩せた革鎧の男は、足音も立てずに扉へ消えていった。


「楽しみだな。 久々に日頃の鬱憤(うっぷん)が晴らせそうだ」

「しかし…… 何だったんでしょうね? 先日の──」

「黙れ! 思い出させんなっ!」


 禿頭の大男が長弓(ロングボウ)を持った男を(たしな)める。


 突然背後から襲撃してきて全員を気絶させ命も金目の物も奪わずに去った謎の襲撃者── もっとも、何故か武器と馬車はことごとく破壊されていて結果彼らは大きな出費を余儀なくされたが…… 目的が分からないだけに余計に不気味な存在と言えた。


 その後もちろん、彼らは表と裏(・・・)の情報網をあたり襲撃者の正体を突き止めようとした。 しかし、資金と時間をさらに浪費した挙句、いまだその尻尾の影すら全く掴めない状況だった。


「臨時収入でこないだの埋め合わせも出来て一石二鳥ってもんよ!」

「いや、一石三鳥か……」


 禿頭の大男は不気味にほくそ笑んだ。



いよいよ冒険者になるための最終実技試験に出発した一行。 事件現場に向かう道すがらしかし何やら不穏な気配が忍び寄り……


ようやく予告の内容が少し進みそう…!


─────次回予告─────


第20話 〜ヴェルトラウム大陸の三賢人~


 乞う御期待!


──────────

 皆さまお気付きでしょうが、イラストレーターのコウ@tengu7さんに、チタニウム・ゴーレムのメナスちゃんを描いて頂きました! ありがとうございました‼︎

うれしいです‼︎ めっちゃ可愛いです! 可憐です!

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