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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
17/111

17 〜研修期間~

──────前回までのあらすじ─────


冒険者を夢見る元賢者のユリウスと、人間の幼女にしか見えないチタニウム・ゴーレムのメナス、道中知り合った冒険者志願の家出娘フィオナの一行。 冒険者ギルドで適性検査を受けそれぞれの職業を決めた三人は、いよいよ最終実技試験へと向けた研修へと入る……


やばい、あらすじが後退してる…⁈

あらすじなのに…⁈


──────────

※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。


 職業研修には各々が指定されたギルドの訓練所に通う事になっていた。

 ギルド本部に併設されている訓練場で受けられる所もあれば、専用の広い施設が別にある職業もあるらしい。


 ユリウスの研修場所はギルド本部内の一室から始まった。 担当したのは引退した元冒険者の盗賊(シーフ)で、猫背でくたびれた風貌の中年男だった。


 受付で案内してくれた男性職員が小さな声で「外れを引いたね……」と呟いたのが気になったが、その意味はすぐに分かった。


 素っ気なく熱意の感じられない彼の物腰に、最初は嫌々この仕事をやっているのかという印象を持ってしまったが、実はそうでも無いと途中から気付いた。 話の端々に「仲間の命を預かる重要な仕事」という彼自身のプライドが感じられた。 そして冒険に夢見がちな若者を一人でも多く死なせないために夢のない話を言い聞かせ、その結果彼らに煙たがられたであろう事も容易に想像できた──


 彼には基本的な身のこなし、罠を避けつつ音を立てずに歩く足運び、盗賊としてのパーティー内での立ち位置や心得などから…… 初歩的な鍵の開け方、罠の種類や発見法、解除法などを教わった。


 実践的な技術としては、短剣(ダガー)を用いた格闘術や短剣投げ…… 気配を消して敵の背後に忍び寄り、そのまま不意を突いて致命的な一撃(クリティカル・ヒット)を加える【バック・スタビング】という技術(スキル)などを教わった。


 研修の途中、彼はユリウスにこんな話をしてくれた。


「いいか、あんちゃん? 大それた事は考えねぇで小金を貯めたら直ぐにも引退して身を固めるんだ。 人間、地位や名誉やお宝なんかよりな…… 嫁さんと子供がいる幸せの方がよっぽど満たされるんだぜ」


 それは、ほとんどの冒険者志願の若者には余計な説教だったろう。 だが今のユリウスには何となく共感出来るものがあった。


 研修の最終日、彼はユリウスに一本の銀色の短剣を手渡した。


「持って行けよ。 どうせ金ねぇんだろ? こう見えてもこの短剣はな【強化(ストレングス)】と【腐蝕耐性(レジスト・アシッド)】の呪文がかかってんだ。 いざって時あんちゃんを護ってくれるかも知んねえよ?」


 その頃のユリウスはもう、彼の事が好きになっている自分に気が付いていた。


──────────


 フィオナの研修も初日はギルド本部内の一室から始まった。


(サムライ)はそんなに数が多く無い。 彼女の教官は現役の冒険者が務めた。 その初老の男性は【S-クラス】の冒険者だと言う。 痩せ型で長身、無口で無愛想な男だった。 長い髪を頭の後ろで束ねている。

 どこかシンに雰囲気が似ているな、と…… フィオナは思った。


 実は【Sクラス】以上の冒険者は王都のギルドにも10人といない。 それはつまり、彼もまたギルドマスターに匹敵する恐ろしい手練れだという事である。


 彼が冒険者に登録した頃には、適性検査用の【魔道具(アーティファクト)】なんて物はまだなかったので、当時の測定値は知る由もない。 年に数回、希望すれば現在の実力を再判定して貰えるが、それとは別にギルドへの貢献度なども加味して決定されるのが【クラス】と言うものだ。 もっとも── 再判定は評価が下がる可能性も少なからずあるので、受けたがらない冒険者も多いと言う。


 だから【A+】の判定を受けたフィオナが直ちに【A+クラス】の冒険者と呼ばれるわけでは無い。 それは【SSS+】のメナスも同じ事だった。


 初日はまず床に足を組んで座らされ、ひたすら瞑想をさせられた。 『禅』という東方の国の思想について説明を受けたが、何の事やらちんぷんかんぷんだった。


 二日目は、(カタナ)という武器について、構造や扱い方はおろか思想や心得── それを振るう時の心構えまで徹底的に教え込まれた。 それは武器と言うより、祭具に近い物だという印象を少女に与えた。


 どうせ彼も、三日ごときでフィオナにそれを理解して貰えるとは思っていない。 無事に実技試験に合格し晴れて冒険者になった時、それでも『侍の道』に興味があれば改めて教えを乞いに来ればいい…… そう考えていた。


 三日目はやっと木刀を持たせて貰った。

それを握ってひたすら教官の剣をマネて素振りをさせられた。

 最後に試合のような事をしたが、当然勝負にもならなかった。 フィオナには彼の太刀筋が全く見えなかったのだ。


(どうせもう、ここに来る事はあるまい。 実技試験に落ちても、受かっても)


 事実そう言う志願者は多かった。 侍とは名ばかりの、刀を持った剣士(ソードマン)たち……


 だが研修の最終日、帰り際に彼女が言ったのは意外な言葉だった。


「お師匠、さっぱり分かんなかったからまた来ますね! よろしくっ!」


 その時の自分は、どんなマヌケな表情をしていただろうと時々彼は考える。


餞別(せんべつ)だ。 持って行け」


 気が付くと彼はその時持っていた『無銘の刀』を少女に差し出していた。 何本も持っている刀の一振りに過ぎないが、そこそこお気に入りで決して安いものではなかった。


 少女はそれを受け取ると、大輪のヒマワリのような笑顔を見せた。


「ありがとうございますっ!」


 初老の侍は、この少女の無事を心から祈らずにはいられなかった。


──────────


 一方メナスはというと、研修初日からギルド本部より少し離れた武闘家系の訓練施設に案内された。


 指導にあたった師範の男性は、引退後ギルド職員になった元冒険者だ。 適性検査で【SSS+】判定の出たという少女のウワサは一部でかなり話題になっており、道場にはいつもより多くの者が訓練に集まっていた。


 その少女が、思ったよりも線が細く幼い容姿をしている事に誰しもが驚いた。


 少女は師範の見せる『型』をその場でことごとく完璧にコピーして見せた。


 世界最高峰の【A・Iアーティフィシャル・インテリジェンス】であるメナスにとっては、師範の演舞を映像のように記憶しそのまま正確に再現する事など造作もない事だった。 その奇跡のような光景に、その場にいた全ての者たちが息を呑んだ。


「なるほど大したもんだな。 【SSS+】判定ってのも、あながち嘘じゃあなさそうだ」


 人垣の後ろから、ひときわ体格のいい背の高い男が声を出した。 それはギルドマスターのエルツ・シュタールだった。 伝説の元【SSクラス】冒険者、剣聖(ソードマスター)【鋼の剣エルツ】その人だ。 その場にいた者たちが一斉に色めき立つ。


 彼が訓練場によく姿を見せるのは知られていたが、それでも武闘家系の訓練場に顔を出すのは滅多にない事だった。


「気になって見に来ちまったが、確かに言われているだけのこたぁあるわな」

「あ、えーと…… 確か、ギルマスのお爺ちゃん」

「こらっ! ギルドマスターに何て口を……」


 師範の男が卒倒しそうになって叫んだ。


「うはははっ! 良いって良いって! 怖いもの知らずは若者の特権だ! 俺だって新人の頃はアレコレやらかしたもんよ!」


「どうだ小僧、俺と今から手合わせしてみんか?」

「だからボク、女の子だって!」


「【SSS+】判定つっても直ちに【SSS+クラス】冒険者ってわけじゃねぇ。 俺らの頃はそもそも【判定機(あのおもちゃ)】自体がなかったからなぁ」


「俺の【SS】判定だって、最盛期をだいぶ過ぎてから出た結果だ。 どっちが上かやってみるのが一番だろう?」

「そんなコト言われてもなー」


 その場にいる全員が息を呑む。

そこで僧兵(モンク)の師範が慌てて割って入った。


「ギルドマスター! それは困ります! 仮にもギルドの長── 全冒険者の頂点に立つお方が、実技試験前の志願者と試合など……」

「そうか? そうだな…… じゃあこう言うのはどうだ? お前が実技試験に合格して晴れて冒険者になったら、その時はこの俺とここで練習試合をしてくれるか?」


「うん、ボクは別にいいよ」

「はぁっはっはっはっはっ 気に入ったぜ! それじゃあ約束だぞ!」


 そう言って高らかに笑いながら、ギルドの【生きる伝説】は去って言った。


「余計な約束しちゃった気もするけど…… ま、いっか。 マスターには黙っとこ」


 チタニウム・ゴーレムの少女は悪びれもせずペロリと舌を出した。



 ──こうして、三日間にわたる三人の職業研修は無事に終了した。



三日間の職業研修も無事終わり、明後日はいよいよ冒険者になるための最終実技試験を受ける事になる…

明日一日で英気を養いつつ装備などの準備を整えなければならない。


やばい、予告の内容がまた大して進んでない…!


─────次回予告─────


第18話 〜装備を揃えよう!~


 乞う御期待!

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