15 〜今後の予定と報告と~
──────前回までのあらすじ─────
冒険者を夢見る元賢者のユリウスと、人間の幼女にしか見えないチタニウム・ゴーレムのメナス、そして途中で知り合った冒険者志願の家出娘フィオナは、冒険者ギルドで念願の適性検査を受け、それぞれ予想外の結果を叩き出してしまった。 それぞれの職業を決めた三人は、研修を受けたのち最終実技試験へと臨むことになるのだが……
──────────
※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
「それじゃあ今後の予定について説明しますね」
眼鏡の美人受付嬢こと、ルシオラ・スキエンティア嬢は気を取り直し事務手続きを再開した。
「今後は各々三日間、訓練場でギルドの職員に各職業の研修を受けて頂きます。 これはあくまでも基本的なチュートリアルで、希望すれば実技試験合格後も先輩冒険者やギルド職員の指導を受けるコトが出来ますので」
「うん、それは親切だね〜」
「新人の生存率を高めるコトはギルドの評判や利益に直結するからな」
「……その通りです」
「それで実技試験なんですが、準備日も含めて5日後くらいでよろしいでしょうか?」
「実技試験試験かぁ〜 【SSS+】のメナスでも受けなきゃいけないの?」
「そうですね、実技試験は潜在能力よりむしろ現場での勘── 度胸や不測の事態への対応力、他者との連携みたいなものを重視しますからね」
(あとは、人となりや素行、倫理観なんかもね……)
「それは誰が見るんですか〜?」
「はい、ギルド職員がひとり同行させて頂きます。 助言くらいは許されていますが、基本命に関わらない限りは手を出さないコトになっています」
「そうなんだ〜 なんか緊張しちゃうね〜」
「ところで装備はもう用意されていますか? 実技試験の時だけは、最低限の装備を貸し出すコトも出来ますが……」
ルシオラが三人の身なりを眺めながら言う。
「いや〜 わたしはまだお金なくって」
「オレは、剣くらいは…… なんの職業に就くか決めてからでいいかと思って」
「ボクはいらないかな、そういうの」
「いやグローブくらいは付けろよ」
「まぁ、お店を眺めてみて…… どうしても足りなかったらお借りするかも知れません」
「わたし、もうシンにお金借りちゃってるからな〜」
「もう少しなら貸してやらないコトもないぞ?」
「ほんとに? いいの? でも返せるかな〜?」
「フィオナなら体で返してもいいんじゃない。 ね、お兄ちゃん?」
「ちょっとメナスちゃ…… やめてよねっ‼︎」
何故かフィオナとユリウスの二人が真っ赤になっていた。
「あのぉ〜 つかぬコトをお聞きしてよろしいでしょうか?」
眼鏡の受付嬢は好奇心が抑えきれずつい口を開いてしまった。
「シン…… さんと、メナスさんはご兄妹なんですよね? フィオナさんとはどういうご関係で?」
「いや、王都に向かう商人の馬車に偶然乗り合わせて──」
「それでお互い冒険者志望だってわかって意気投合したんだよね〜」
「そうだったんですか」
当初から抱いていた疑問が氷解するほどの期待していた答えではなかった。
「それで途中、おっきい【タイラント・アリゲーター】だっけ? に、わたしが襲われて…… シンが命がけで助けてくれたんだよね〜」
「え? ちょっと待って下さい! それってひょっとして──」
「あ、そう言えば報告きてます? 行商人のコーレ・ディアマントさんって方なんですけど」
「ちょっと待って下さい。 報告書を探してきますから」
しばらくして美人受付嬢は、丸めた羊皮紙をひとつ持って戻ってきた。
「ほんとについさっき報告が届いてギルド内でも少し話題になってたんです。 これですね」
彼女は一枚の羊皮紙をテーブルに広げて見せた。
「王都北、馬車で半日ほどの街道沿いにある湧水泉にて、およそ7m級の【タイラント・アリゲーター】と遭遇、被害なく撃退するも逃走される──」
「普通なら誰も信じないようなヨタ話の類として一笑に付されるところなんですが……」
「鱗── ですか?」
「はい、たまたま詳しい者が側にいたようで間違いなく【タイラント・アリゲーター】の鱗だと断言しました。 それも7〜10m級の」
「どこかから鱗を手に入れて虚偽の報告、なんて可能性も考えられなくはないですが…… 彼はそこそこ信用のある商人でしたし、そもそも何のためにそんな嘘をつくのか目的が分かりませんから」
「そりゃあ、ボクたちは間近で見ましたからねー」
「あの、最近魔獣の増加・凶悪化が噂になってるって……」
「確かに── 噂にはなっています。 でもまだ調査中の段階としかお答え出来ませんね」
ルシオラは真剣な表情で何か考えを巡らせているようだった。
「とりあえずこの件は、より信憑性が高まったと報告しておきます」
(それにしても、この男が【タイラント・アリゲーター】を撃退したですって⁈ 【SSS+】判定の少女でもなく【A+】判定の少女でもなく…… 【D-】のこの男が……)
「よろしければ、当事者としてその時の様子をお話し頂けませんか?」
「うんっ いいよ」
こうしてフィオナの長い武勇伝が始まった。
「──それでシンたら凄いんだよ! わたし岸に上がったところでちょうどワニに追いつかれそうだったんだけど、わたしの手を引っ張ってワニのアゴから間一髪守ってくれて── そのあと素手でワニの顔に服…… 布を巻きつけて、あのでっかいワニを無傷で追っ払っちゃったの! カッコよかった〜」
どさくさに紛れてまたフィオナはユリウスの腕に抱きついてきた。
ユリウスは今更ながらに気付いた。
適性検査での自分の低評価に、彼女の自分に対する好感度が下がっているのではないかと不安になっていた事に。
オレはいったい、この少女のコトをどう考えているのだろうか? もちろん好意的には思っているが、ひとりの女性として。
ユリウスには自分の心が分からなかった。
なるほど、全裸で水浴しているところを7m以上のワニに襲われて、それを素手で助けに来てくれる男なら田舎育ちの少女が惚れてしまっても仕方ないだろう。
ルシオラはとりあえず納得した。
(それにしても、襲い掛かる【タイラント・アリゲーター】の口に布を巻きつけるですって⁈ そんなコトが本当に出来るのかしら? この男の器用さと敏速性と幸運値ならあるいは……)
「あの、話のついでと言っては何ですが…… コーレさんの護衛を請け負った冒険者パーティーをご存知ですか?」
眼鏡の奥のルシオラの瞳が微かに揺れたのをユリウスは見逃さなかった。
「そういう個別の案件については、依頼主、冒険者双方のプライバシーに関わる問題なので本来はお答えするコトは出来ません」
そこで眼鏡の美人受付嬢は一呼吸ついた。
「でももし何か知っているのなら、勝手な言い分ですが教えて頂けると助かります」
その答えで充分だった。
ルシオラにも『思い当たる節』があるのだ。
「護衛の冒険者パーティーって?」
「そうか、フィオナは会ってないんだな。 実はフィオナを拾う直前に、コーレさんが雇っていた冒険者たちの馬車と森ではぐれたんだ」
「あ〜 なんかいってたね。 わたしが見かけたあの馬車か」
ルシオラが話の続きを促すよう目で合図を送ってくる。
「証拠はないんですが…… オレはあの冒険者たちが、充分売り上げの集まったところで依頼主を襲うつもりだったんじゃないかと考えています」
「うそ〜 そんなのただの追い剥ぎじゃん!」
「ギルドには、途中ではぐれてそのあと魔物に襲われたとでも報告するつもりだったんじゃないかなー」
「ひど〜い でもどうして今回は諦めたのかしら? わたしやシンたちがいたから?」
「証拠がないにしても…… もう少し何か具体的な事例があげられませんか?」
「そうですねぇ…… なんと言うか、不穏な雰囲気と言いましょうか…… その場にいた者の勘としか…… すみません……」
本当は本人たちの証言も聞いているのだがそんな報告は出来なかった。
「おそらく彼らは初めてはない筈です。 過去にそうした例がありませんでしたか?」
眼鏡の受付嬢は、しばらく黙ったまま空中のただ一点を見据えていた。
「正直私も…… 彼らには思うところがありました…… この件は充分留意しておきます」
ユリウスたちは気が付いた。 テーブルの上の彼女の拳が、強く握りしめられ震えている事に。
冒険者の適性検査も終わり、それぞれが望む職業を選んだ一行。 これから研修を受けたり装備を整えたり準備して… いよいよ冒険者になるための最終実技試験を受ける事になるのだが……
やばい、予告の内容が毎回大して進んでない…!
─────次回予告─────
第16話 〜今後の予定と報告と~
乞う御期待!




