12 〜冒険者ギルドの職業適性検査~
※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
──────前回までのあらすじ─────
冒険者を夢見る元賢者のユリウスと、人間の美少女にしか見えないチタニウム・ゴーレムのメナスは、王都へと向かう途中、同じく冒険者志願の家出娘フィオナと知り合う。 ようやく王都に辿り着いた一行は、憧れの冒険者ギルドの門を叩いた。
冒険者ギルドの一階受付ホールは大勢の人で賑わっていた。
もちろんほとんどが冒険者たちである。 掲示板に張り出された『クエスト』に目を通したり、仲間の冒険者と待ち合わせをしたりと目的は様々だが、3つある受付窓口は(少なくともこの時間は)そんなに混雑しているわけではないようだった。
流石のユリウスも緊張が高まってくるのを自覚した。
「すみません、冒険者の登録受付はこちらでよろしいでしょうか?」
三カ所の内、1番空いていた受付を選んで声をかける。 20代くらいの眼鏡の美人受付嬢が顔を上げた。
「はい、こちらでも承ります…… よ」
何故だか三人の風体を見るなり、尻すぼみに声のトーンが落ちて行く。
「えぇと…… どなたがご登録ですか?」
受付嬢は丸い銀縁眼鏡を人差し指で押し上げた。
気持ちは分からないでもない。
20代半ばから後半に見える痩せ型で生っ白い青年に、やっと14歳目前になる田舎の健康娘…… もう一人はと言えば、どう見ても10歳くらいの幼女にしか見えない。
「一応、三人ともですが」
会話が聞こえたらしい何人かの冒険者たちが好奇の視線を向けているのが分かった。
「そうですか…… 冒険者の登録には一応年齢に上限はありませんが、14歳以上が最低条件になっております。 そちらのお二方は……?」
メナスは仕方ないとして子供扱いされた
フィオナがあからさまに不機嫌になる。 もっとも、どちらかと言えば彼女も小柄で童顔の方だし、念のために確認したいのも無理もない。
「二人とも今月中で…… 14歳になります」
「ほんとですか⁈ それならば実技試験が終了した月の内に14歳になっていれば問題ありませんが── ほんとうに?」
最後の一言はメナスに向けての物だった。
「ほんとほんと」
どこで覚えてきたのかメナスが真顔でピースサインをする。
周囲の冒険者たちがざわつき始めた。 あまり目立ちたくはなかったユリウスは、少し困惑した。
「わ、わかりました…… いずれにせよ適性検査用の【魔道具】で調べれば分かるコトですので」
美人受付嬢はタブレット型の【魔道具】を取り出した。
「それで…… 登録料なんですが適性検査で大銀貨一枚、実技試験で試験官などに支払う報酬の実費として大銀貨三枚、晴れて合格なさって本登録して頂くと、入会費・年会費・登録事務手数料として大銀貨十一枚が必要ですが構いませんか?」
「そんなにかかるのっ⁈」
フィオナが素っ頓狂な声を上げた。 これでさらに注目が集まってしまう。
「年会費はクエスト報酬から天引きという形を取る事も出来ますし、適性検査だけならとりあえず大銀貨一枚で構いませんので」
「フィオナ、お前どれくらい持ってんだ?」
少女はユリウスだけに聞こえるよう背伸びして耳打ちする。
「そっか、まぁいざとなったら少しは貸してやるよ」
「ほんとっ⁈ シン……」
「あぁ、今さら独りで村へ帰るわけにも行かないだろ?」
「うん、ありがと。 シン…… 大好き」
最後にさらっと何か聞こえたが、今は聞き流すしかなかった。
「では適性検査は、三名さまと言うコトでよろしいですね?」
「あの…… ここでやるんですか?」
「はい、何か問題が?」
「いえ、問題ないです……」
出来れば別室で検査を受けたいところだが、そういうワケにはいかないようだ。 ユリウスは大銀貨3枚を受付嬢に支払った。
「それではこれから、こちらのタブレットに手を置いて頂きます」
「ふむふむ」
フィオナは興味津々だ。
「そうすると皆さんのお名前・年齢・血液型などの他、様々なパラメータが数値化して表示されます。 それを基準にそもそも冒険者に向いているか、どんな職業に向いているかを判断して頂きます」
「へぇ〜 こんな板っ切れでねぇ」
「パラメータを総合的に判断して、ABC方式のランク判定が表示されます。 D判定以上が一応合格で、E判定以下は残念ながら不合格となります。 希望すれば一応実技試験も受けられますが、その場合よほどの加点がない限りは合格しないと思っておいて下さい」
「へぇ〜 それってAが最高なの?」
「いいえ、Aの上は【 S 】になりますね。 もっともそんな冒険者は一年に一人もやって来ませんが……」
「それじゃあ、オレから──」
「待って! わたしこういうの緊張しちゃってダメだから…… 最初にやりたい最初にやらせて!」
フィオナが前に割り込んできた。
「別にいいよ」
年長だし唯一の男性だし見栄を張って前に出たが、ユリウスはどちらか言うと緊張したら最後の方にしたいタイプなので都合がよかった。
受付嬢がフィオナの方を向けてタブレットを机に置いた。
「それではこのタブレットに手のひらを置いて下さい。 良いと言うまでですよ。 そう、そこです」
緊張した面持ちでフィオナが右手のひらを石板に押し付ける。 しばらく手を置いていると石板の中央部分が鈍く明滅し始めた。 やがて光が大きくなり、パッと広がって消えた。
「はい、もう良いですよ」
「ふう〜 ドキドキしたぁ……」
受付嬢は石板を自分の方に向けて羽根ペンと羊皮紙を用意する。
石板の表面に何やら薄っすらと文字が浮かんできた。 眼鏡の美人受付嬢がそれをゆっくりと読み上げる。
「フィオナ・フィアナさん… 13歳と349日── 年齢はほんとでしたね。 確認いたしました」
フィオナの苗字はフィアナと言うらしい。 フィオナというのは『白』という意味で、フィアナというのは確か『兵士』という意味だった筈だ。 もしかしたら農民になる前の先祖は兵士だったのかも知れない。 覚えやすいような、紛らわしいような…… だが響きは彼女の雰囲気に合っている、とユリウスは思った。
受付嬢は淡々と続きを読み上げてゆく。
「生命力19!、魔力5、腕力17! あらすごい! 人は見かけによらないわね
」
フィオナは小柄だが筋肉質で足腰も強い。
14年間毎日畑仕事をしてきたのだ。 そもそもユリウスなんかとは比較にならないほどの体力の筈だ。
「念のため説明しておきますと、人間そのものにこのような数字があるわけではありません。 このタブレットは多くの人間から集めたビッグデータを基準に、その人の適性の目安を分かりやすく導く目的で作られた物なんです」
念のための補足としてだろう、受付嬢が説明を始めた。
「これが導入されたコトにより、自分に向いてない職業に就いて無駄に時間を浪費したり、命を落としたりする冒険者が激減したと確信しております」
「へぇ〜 よくわかんないけど、すごいんだねぇこれ」
褒められたせいか、フィオナは上機嫌に頷いた。
「はい、私ども冒険者ギルドの要望で、かの三賢人がひとり宮廷錬金術師のミュラー・フォン・ライヒシュタインさまがお造りになった【魔道具】なんです! すごいんですよ、これ!」
なぜか受付嬢が自慢げにまくし立てる。
よっぽど誇らしいのかも知れない。
「このギルドには5枚、この世の中にも30枚ほどしか存在しないんです!」
そこで受付嬢は少しトーンダウンした。
「もう…… ミュラーさまがおられないので、新しく作るコトも出来ないんです」
(へぇー、そうなんだー)
ミュラーの名前を聞いて興味を持ったのか、メナスがわざわざ【念話】を使って話しかけてきた。
(うん知ってる。 オレも作るの手伝ったもん)
(あー だからズルする道具とかも作れちゃうわけなんですねー)
(そういうコト)
どんどん続きを読み上げる受付嬢。
「知力9、体力18!、信仰心11、頑強さ16…… すごいすごい!」
遠巻きに様子を伺っていた周りの冒険者たちが近くに集まり始めた。
「器用さ9、敏捷性7、運気12…… すごいですねぇ、魔力以外のほとんどのパラメータが平均以上かさらに高い数値になっています。 えぇと、総合評価は…… 【A+】ですって!」
フィオナ・フィアナ
13歳 冒険者志願中 農家の娘 血液型B
身長146.5cm 体重48.6kg
生命力 : 19
魔力 : 5
腕力 : 17
知力 : 9
体力 : 18
信仰心 : 11
頑強さ : 16
器用さ : 9
敏捷性 : 7
運気 : 12
総合判定 : 【A+】
「すごいです! 魔法系以外のほとんどの初期職業が選べますし、最初からいくつかの上級職にも就く事が出来ます!」
「ええと守護戦士、侍、狂戦士、あとは僧兵が選べるみたいです!」
周囲の冒険者たちからどよめきが起こった。
「そんなにすごいの…… それって?」
フィオナはますます上機嫌だ。
「そうですね…… 統計によると冒険者ギルドに登録に来る志願者の内、A判定が出るのは3〜40人に一人。 A+は100人に一人もいませんね」
そう言う事ではなく、フィオナは上級職について聞きたかったのだが、何にせよ褒められたみたいでさらに機嫌が良くなった。
「いかがなさいますか? すぐに職業を選んでも構いませんが」
「う〜ん、よくわかんないから説明を聞いてから考えたい。 説明してくれるんだよね?」
「もちろんです」
「それなら三人とも終わってからまとめて説明してもらえるかな? もしパーティーを組むならパーティーバランスとかもあるしな」
「わかりました。 それでは次の方」
「じゃあボクが」
手を上げかけたユリウスの背後から、すっとメナスが割り込んできた。
(おい、いまオレが……)
(まあまあ、ほんとにあのチョーカーが機能してるか、ボクが実験台になってあげますよ)
(そうか。 いや待てよ、もし失敗した場合、より問題になるのはお前の方じゃないか⁈)
(あっそうか、ふふふふ…… もう手遅れですねー)
メナスの小さな手が石板の上に置かれた。
「あの…… 念のために言いますけど、このタブレットは年齢とかも表示されますからね…… やめるんなら今のうち── えっ⁈」
石板の明滅がいきなり強い光に変わった。
「これは……っ⁈」
受付嬢は息を呑んだ。
「メナス・イグレアムさん…… 13歳と337日…… ほんとに13歳なんだ…… そんなコトより──」
「生命力24、魔力24、腕力48… 48っ……⁈ ありえ得ないわっ…… こんな数値っ……」
周囲の冒険者たちが息を呑む音が聞こえた。
「知力24、体力24、信仰心24、頑強さ30…… なんなの…… なんなのこの数値」
「器用さ18、敏捷性18、運気18…… あり得ない…… こんなの見たコトない…… パラメータの最低値が18って…… 19以上が一つでもあればA判定なのに…… えぇと、総合評価は…… 【SSS+】ですってっ⁈」
メナス・イグレアム
13歳 冒険者志願中 家事手伝 血液型O
身長138cm 体重29.5kg
生命力 : 24
魔力 : 24
腕力 : 48
知力 : 24
体力 : 24
信仰心 : 24
頑強さ : 30
器用さ : 18
敏捷性 : 18
運気 : 18
総合判定 : 【SSS+】
受付嬢は魂の抜け殻のように呆けていた。
銀縁の丸眼鏡が斜めにずり落ち、さっきまでのクールな雰囲気はすっかり消し飛んでしまったようだ。
念のため人間の肉体が出し得る限界値を超えないよう細工しておいたつもりだったが…… まだまだ配慮が(全然)足りていなかったようだ。
メナスがその気になれば、伝説級の【古竜】でさえ、おそらく一撃で沈められるだろう。
「もう一度、言いますが…… 言いましたっけ……? この魔道具は三賢人のひとり宮廷錬金術師のミュラー・フォン・ライヒシュタインさまがお造りになった物で、故障や間違え…… ましてやパラメータの偽装など絶対に出来ません」
(出来るんだなぁ…… コレが)
実は基盤となる魔法回路の大部分はユリウス自身の手によるものだった。
(こんな時のために…… なんて考えてなかったけど、念のためバックドアを作っておいて良かった)
「こんな数値は私がギルドに加入してから7年、もちろん一度も見たコトがありません…… いえ、ギルド史を紐解いてもおそらく史上最高値だと思います」
いつの間にかギャラリーの数は倍以上に増え、どよめきとざわめきが止まらなかった。
「上級職を含め全ての職業に最初から就くコトが出来ます! あの伝説の【忍者】でさえ」
「忍者! カッコいいー」
メナスがさして興味もなさそうに答える。
「ぜひ特別待遇で当ギルドに加入して頂きたいと思いますそれとすぐ上に報告させて下さい」
たぶん素はこちらの、どこか抜けた愛嬌のある性格なのだろう…… ユリウスはこの美人受付嬢が気に入り始めていた。
「それじゃあオレの審査が終わったらでいいですかね?」
満を持してユリウスが右手を掲げると、受付嬢ははっと我に帰りタブレットの向きを変えた。
「あっ どうぞどうぞ」
立て続けに稀有な才を持つ志願者が現れた後、一緒に訪れた最後の男性だ。 彼もまた非凡な才を秘めていても不思議はないと、誰もが固唾を呑んで見守った……
想定外の検査結果に、ギルド職員も、ギャラリーの冒険者も、当のユリウスたちも、戸惑いを隠せない。 そしてユリウス本人の検査結果は……?
─────次回予告─────
第13話 〜ギルドマスター~
乞うご期待!
※明日からは通常運転の、1日1回、0時頃の投稿になる予定です。




